私的50年のジャスベストアルバム コメントその④ | ジャワ・パンナコッタの雑記帳

ジャワ・パンナコッタの雑記帳

音楽(主にJazz)、書籍(主に歴史)、旅行などの感想を書きます。
2011年2月から約2年間、イギリスのリーズで派遣研究員として勉強したました。
イギリス生活のことや、旅行で訪れて撮りためた写真などを少しずつアップしていこうと思ってます。

コメントその④

 

Harbie Hancock/Directstep/1978

 

Directstep Directstep
900円
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Harbie Hancockの音楽には色気がある。が、70年代のHeadhuntersの公式アルバムは、ちょっと色気が勝ちすぎていてジャズとして聴くには今一つスリルに乏しい。一方で、この時期のBootleg(例えば、1974年10月16日のKansasでの演奏)を聴くとよりリズムが強調されていて、かなりスリリングな演奏の応酬が繰り広げられているので、要はスタジオアルバムが作られ過ぎているということなのだと思う。が、来日ツアー中にダイレクトカッットという直接レコードに溝を掘る方法で録音されたこのアルバムはどちらとも違う。やり直しの利かない緊張感、アルバム化前提の抑制感、一発撮り故の作りこまれない自然さなどが相まって、Harbieの色気とジャズのスリルが絶妙なバランスで楽しめる。

 

 

 

Joe Zawinul/My People/1996

 

My People My People
7,882円
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このアルバム辺りからJoe Zawinulの最後の黄金時代が始まった気がする。世界中の腕利きの、多くは無名だったミュージシャンを集めて繰り広げられる、どこか懐かしい、でもそれまで何処にも存在しなかった最高にヒューマンな音楽。私は特に冒頭から4曲目、”You Want Some tea,Grandpa?”までの流れが大好きで、この4曲目を聴いていると、何故か子供のころに一日中友達と遊び疲れて家路につく際に眺めた夕日を思い出す。

 

 

 

Kamasi Washington/Harmony Of Difference/2017

 

 

2015年にいきなり3枚組のCDでデビューした今を時めくサックス奏者、Kamasi Washingtonの2作目。これは前作とうって変わってトータル32分のミニアルバム。最初に3~4分の小曲5曲でモチーフが提示され、最後の6曲目でそれが複雑に組み合わされた13分半の組曲が演奏される。彼の音楽は70年代のスピリチュアルジャズとの関連で語られていることも多いが、音楽が圧倒的にポジティブな点はむしろRassahan Roland Kirkに近い。聴き終わった時に「あぁ~、幸せ」と心から思えるアルバムは多くはないが、これは何度聞いてもそう思わせてくれる一枚。

 

 

Keith Jarrett/The Survivors's Suite/1976

 

残氓 残氓
 
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あくまでも演奏や演奏姿勢からの想像ではあるが、ジャズ界一のロマンチスト&ナルシストKeith Jarrett。Standardsの演奏(特に初期)やピアノソロのアルバムも多くの名盤があるが、これらのアルバムで聴けるKeithはあくまでも彼の一面に過ぎない。特に70年の前半の彼は、民族音楽みたいなフリーみたいな演奏もするし、Electric時代のMilesのバンドでオルガン弾いてのたうち回っているし、とってもヤバイ奴だった。そんなヤバイKeithが作曲と演奏の両面で持てる才の全てを注ぎ込んだ作品。全部通して聴いた時のカタストロフィがたまらない。

 

 


Kip Hanrahan/Beautiful Scars/2008

 

 

己の才覚だけを頼りに、粋がって世の流れに逆らって、人知れず暗闇に刃を突き立て続けたミュージシャンというのが、私のKip Hanrahanに対するイメージ。そんな彼も歳を取り、ふと、闘い続けてきた自分をちょっとだけ、本当に少しだけ肯定してやりたい気持ちになった瞬間に作り上げた作品。それがこのアルバム。タイトルは「美しき傷跡」。このアルバムを初めて聴いた時、その憤りと安らぎの綯交ぜになった唯一無二の音楽に心底感動すると同時に思った。これが彼の生涯の最高傑作となるのではないかと。2018年にも彼は新譜を出しているが、残念ながらその予感は今現在、的中してしまっている。