中朝事實(乾)
大正元年 素行会 發行
その5.名詞の基礎知識
 
今では、日本の歴史を「神話」と一蹴して、学校で学ばない風潮が蔓延している。少し読み始めてみると、名前、地名、風習など、当時の固有名詞を知らなければ、文章の理解はサッパリできないと思いました。
 
読み方は中朝事実(乾)のルビが優先です。その他の単語は、中朝事実が参照した「古事記」、「日本書紀」にそって記述しました。フリガナは旧仮名遣いになっていますので、ご注意ください。
 

 
00天照大神
天照大神
中朝事実では「日本書紀」からの引用が多い。、以下、頻繁に登場する神々の呼び方を中朝事実から拾った。
 
伊弉諾尊と伊弉册尊が国造りをした日本誕生の神話から、天照大神と神々が高天原に天孫降臨する部分も引用されている。
 
天照太神は天照大御神とも呼ばれるが、初代の天皇となられる「神武天皇」の祖先にあたる。
 
天御中主尊アメノミナカヌシノミコト 古事記の中に最初に登場する神
國常立尊クニノトコタチノミコト 日本書紀においては、初めての神とされる
伊弉諾尊イザナギノミコト 日本国土を形づくる多数の子を儲ける
伊弉册尊イザナミノミコト 日本国土を形づくる多数の子を儲ける
天照太神アマテラスオオカミ 伊弉諾尊と伊弉册尊の間に生れ、神武天皇の祖先
髙皇産靈尊タカンミムスヒノミコト 天地開闢かいびゃくの時、高天原に現れた神のひとり
天稚彦アメワカヒコ 天津国玉神アマツクニタマノカミの子
天鈿女命アメノウスメノミコト 天の石窟イハヤに隠れた天照大神を誘い出した女神
手力雄神タシカラオノカミ 石窟の磐戸イハト開けた怪力の神
大國主神ヲホクニヌシノミコト 国津神の主宰神、神格:正一位
大物主神ヲホモノヌシノカミ 日本書紀では大国主神の別名
大巳貴命ヲホアナムチノミコト 大国主神の別名
事代主神コトシロヌシノカミ 大国主神の子、託宣の神、漁業の神、鰐神
天兒屋命アマノコヤネノミコト 祝詞、神事、中臣連等の祖
太玉命フトタマノミコト 髙皇産靈尊タカンミムスヒノミコトの子
少彦名命スクチヒコナノミコト 国造りの神、農業神、薬神、禁厭の神、温泉の神
石凝姥命イシコリドメノミコト 岩戸隠れの際に八咫鏡を作った神
中朝事実に登場する固有名詞の中で、「〇〇帝〇年」が出てくる。無論、〇〇帝はその時代の天皇陛下のことで、文中にも度々登場する。そこで国立国会図書館デジタルコレクションの中から昭和16年(1941年)に出版された「歴代天皇御尊影と御陵及二千六百年史錦繪輯」に掲載された御真影をダウンロードしてJPEG画像に変換調整した。
 
普段目にする天皇陛下の御真影と比べると、中々凛々しい面立ちの御真影です。失礼ながらゲームにでも登場しそうな面立ちですね。
 
01神武天皇
神武天皇
10崇神天皇
崇神天皇
11垂仁天皇
垂仁天皇
12景行天皇
景行天皇
13成務天皇
成務天皇
14仲哀天皇
仲哀天皇
15應神天皇
應神天皇
16仁徳天皇
仁徳天皇
25武烈天皇
武烈天皇
45聖武天皇
聖武天皇
50垣武天皇
垣武天皇
77後白河天皇
後白河天皇皇
中朝事実(乾)に登場するおもな皇族は以下の通り。元号のない時代は、日本書紀の「〇〇天皇〇年」で著してある。
 
神武帝ジンムテイ 神武天皇 初代紀元元年(BC660年)に御即位
崇神帝スジンテイ 崇神天皇 第10代開化天皇60年に御即位
渟名城入姫命ヌナキイリビメノミコト 渟名城入姫  第10代崇神天皇の皇女
豊鍬入姫命トヨスキイリヒメノミコト 豊鍬入姫  第10代崇神天皇の皇女
垂仁帝スイニンテイ 垂仁天皇 第11代崇神天皇68年に御即位
狹穂彦王サホヒコノヲホキミ 狹穂彦王  開化天皇の孫で垂仁天皇4年に反乱
景行帝ケイカウテイ 景行天皇 第12代垂仁天皇99年に御即位
日本武命ヤマトタケルノミコト 日本武命  第12代景行天皇の皇子、伝説的英雄
成務帝セイムテイ 成務天皇 第13代景行天皇60年に御即位
稚足彦尊ワカタラシヒコノミコト   皇太子時代のお名前
仲哀帝チユウアイテイ 仲哀天皇 第14代仲哀天皇元年に御即位
神功帝ジングウテイ 神功皇后  仲哀天皇后で応神天皇即位まで摂政
應神帝オウジンテイ 應神天皇 第15代仲哀天皇9年に御即位
仁徳帝ニントクテイ 仁徳天皇 第16代応神天皇41年に御即位
武烈帝ブレツテイ 武烈天皇 第25代仁賢天皇11年に御即位
聖武天皇シヤウムテンノウ 聖武天皇 第45代神亀元年(724年)に御即位
垣武帝クワンムテイ 垣武天皇 第50代天応元年(781年)に御即位
後白川帝ゴシラカハテイ 後白河天皇 第77代久寿2年(1155年)に御即位

 
次に中朝事実(乾)に書かれた地名や土地を表わす文字を拾ってみた。いよいよ「中朝」の意味も登場する。易姓革命を繰り返し朝廷が度々入替る「中華」は中国ナカツクニではなく、皇統不断(万世一系)の日本が中国ナカツクニで「中朝」というのが山鹿素行の考え方の ようです。
 
髙天原タカマノハラ 天照大神など天津神が住んでいるとされる場所
磤馭慮嶋ヲノコロシマ 伊弉諾尊と伊弉册尊が作った島々
中國ナカツクニ 中央に位置する国という意味
中朝チユウチヨウ 朝廷が入替る「中華」ではなく日本が中国ナカツクニという意味
大八洲國オホヤシマノクニ 多くの島からなる国の意で「日本」の異称
大八洲オホヤシマ 大八洲國の略称
耶麻騰ヤマト 日本書紀での日本の表記
大日本ヲホヤマト 中朝事実(乾)では「ヲホヤマト」とルビがある
日本ヤマト 中朝事実(乾)では「ヤマト」とルビがある
日本國ヤマトノクニ 中朝事実(乾)では「ヤマトノクニ」とルビがある
倭國ワコク 漢書などに書かれた「日本」の表記、今風にいえば「ヘイト」
倭奴國ワノナノクニ 後漢書などに書かれた「日本」の表記
秋津洲アキツシマ 主に本州を指す
畒傍山ウネヒヤマ 奈良盆地南部に位置する山で神武天皇の宮
橿原カシハラ 畝傍山の東麓で畝傍橿原宮があったとされる
豊葦原トヨアシハラ 豊かに葦の生い茂っている原の意で日本国の美称
秋瑞穂アキノミツホ之地ノクニ 豊葦原の千五百秋の瑞穂の国
日髙見國ヒタカミノクニ 大和または蝦夷の地を褒め讃えた語
内木綿ウツユフ真迮國マサキクニ コウゾの皮を茹でて打って作っ た白い布のように狭い國
細戈千足國ホソホコノチダルノクニ 精巧な武器が備わっている国
浦安國ウラヤスノクニ 心安うらやすの国
磯輪上秀真國シワカミノホツマノクニ 太龍寺縁起に「磯輪上の秀真の国は阿波国なり」とある
妍哉乎国アナニエヤカクニ 「ああなんてうれしい国」という国ほめの言葉

 
畝傍山
藤原宮跡から見た畝傍山
その他にも、場所やその状況を表わす名詞に次のような単語が頻繁に書かれている。
 
本朝ホンテウ わが国の朝廷
外朝ガイテウ 国の外の朝廷
神聖所アラタカトコロ 神を祀った場所
齋服殿ヰンハタデン 祭祀に召す衣を織る建物
千五百チイホ 限りなく遠い(長い)

 
漢文を読もうと単純に考えたのだが、いやはや大変なことになりました。無論、「3.漢文の訓点」や「4.よく見る旧字」を含めて、一度にすべて頭に叩き込むことは無理だろう。江戸時代の武士や町人が、朝な夕なに素読を欠かさなかった程だから、仕方ないかもしれない。
 
相変わらずですが、記述の間違い、誤字脱字があるかも知れませんので、お気づきの方はお手数でも「コメント欄」でご教授ください。但し、このシリーズでは、漢文、素読に関連するコメント以外はご容赦ください。特に歴史的解釈については、この「中朝事実」を含めて少しづつ理解しようと思っています。
 
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中朝事實(乾) 連載リスト
  1.きっかけ     2.リアリズム山鹿流     3.漢文の訓点
  4.よく見る旧字   5.名詞の基礎知識     6.印刷用原稿
  7.和綴じの準備