中朝事實(乾)
大正元年 素行会 發行
その1.きっかけ
 
乃木希典寄附
帝國圖書館に乃木希典が「中朝事實」を寄附
以前から「中朝事実」は、明治の乃木希典大将が愛読していたと聞いてはいたが、漢文書であることから、手を出すことをためらっていた。
 
そもそも「中朝事実」は、リアリストであった山鹿素行が、日本という国の成り立ちや統治について示した内容で、我が国の政治家や官僚が読んでおいて損はないだろう。しかしすべて漢文であるため、現代人にとって困難極まりないのも事実だ。
 
国の明日を左右する政治家や官僚または軍人(自衛隊)にとって、日本という国の有り様(国体)を真摯に考えるときに、この「中朝事実」の意義を欠かすことが出来ないだろう。幸いなことに数年前に致知出版社から荒井桂(著)「山鹿素行「中朝事実」を読む」が出版された。
 

 
山鹿素行
山鹿素行 元和8年(1622年)~貞享2年(1685年)
江戸時代の初期、寛文9年(1669年)に赤穂藩の兵学者であった山鹿素行によって著されたもので、後に赤穂藩家老になった大石内蔵助(良雄)も読んでいたようだ。但し、赤穂浪士討入で山鹿流陣太鼓「一打ち二打ち三流れ」は、史実にはないうようだ。
 
なにより明治維新の思想的な礎を築いた松下村塾吉田松陰が愛読したとある。門下生であった高杉晋作、久坂玄瑞をはじめ明治時代を支えた伊藤博文、山縣有朋、品川弥二郎、山田顕義、野村靖、松本鼎、岡部富太郎、正木退蔵らが「中朝事実」から強い影響を受けたといわれている。
 
また松下村塾の創設者であった玉木家に住み込んで学んだ乃木希典は、「中朝事実」を座右の銘としていた。明治天皇により乃木は学習院院長に任ぜられ、迪宮(みちのみや)親王(後の昭和天皇)の教育にあたられた。この時、迪宮親王殿下は「中朝事実」の素読されたとある。
 

 
中朝事実(乾)
中朝事実(乾)表紙
中朝事実は無点本(訓点がついていない漢文書)が多い中で、比較的読み易い点本である「乾」を選んだ。
 
ここで作成する「中朝事實(乾)」は、大正元年(1912年)に素行会が発行した国立国会図書館デジタルコレクション(info:ndljp/pid/1241530)を元に、読み易いように画像修正を行ったものだ。
 
文中で最初に登場する漢字には振り仮名が付いている点と、解り難い文には小さな文字で注釈が加えられている点など、現代人には理解しやすいのではないだろうか。
 
中朝事実(乾)に掲載されている目次は以下の通り。神谷宗平さんの幕末志士が学んだ日本の誇り~山鹿素行「中朝事実」を読む~【CGS】の中で関西師友協会の竹田元生講師の独創的な説明を租借して加えた。
 
《上巻》
自 序…日本人の素晴らしさを知ろう(中華思想に対する中朝思想)
天先章…天に与えられた日本人の使命(維新の本当の意味)
中國章…尖閣や竹島の問題で考えてみよう(地政学的な国土の優位性)
皇統章…日本は世界一の国(万世一系の歴史)
神器章…日本人が大切にすべき価値観
神敎章…わたる世間は〇ばかり(神の教えと家庭の円満)
神治章…明治維新の設計図は山鹿素行が描いた(施政の基本的条件)
神知章…素行の叫びが聞こえる章(人材登用は合議性)
 
《下巻》未公開
聖政章…歴代天皇ランキング(武力を備えた統治の重要性)
禮儀章…「皇室典範」が大切な理由(皇室の安定は国民の幸せ)
賞罰章…名字を大切にしましょう(祖先の善行を讃える)
武徳章…武士道は神武不殺(正しい武力を行使できる国)
祭祀章…政治の「政」の訓読みは?(政《まつりごと》は人の心を整える)
化功章…世界で一番人気がある国、日本(良い政治の結果は世界から尊敬を得る)
 
下巻にあたる「中朝事實(坤)」(info:ndljp/pid/1241537)は、現時点でデジタル公開未了のため公開待ちである。
 
中朝事実の概要を知るうえで、神谷宗平さんのYoutubeが興味深いと思います。ご参考まで…
 
 
 

 
文中で頻繁に使われる「一書曰」は、普通「イッショニイワク」と読むが、本文中では「アルフミニイワク」と振り仮名があり、意味は「図書の参照」を表わす。中朝事実では「古事記によると」を指すとのことだ。
 
2-05
中朝事實(乾)上巻 中國章 五ページ目
 
山鹿流の兵法が受け継がれ、多くの偉人に支持されたのは何故だろう。山鹿流兵法は、単なる戦術論(戦法学)でなく、広い構想で修身、治国の大道を強調、武経兵法、兵法戦法論を研究しながら、実学、教学に重点を置いた「士道教育」であったといわれる。
 
言換えれば高所から冷静に分析する戦略家…現代風にいえばリアリストであったとも言えよう。一方で山鹿素行を「尊王思想家」などと単純なレッテル貼りをする向きもある。しかし徳川家が盤石となった時代に、中華思想の朱子学を真向から否定した「中朝事実」を著したことは紛れもない。ここにも素行の魅力があるのだろう。
 
こうした歴史的書物は、現代語翻訳される場合にニュアンスが変わってしまう場合がある。できれば江戸時代の武士や幕末志士のように、原文を素読して少しずつ身に付ける方法もあると思う。
 
そこで現在、A4版印刷で和綴じ(四つ目綴じ製本)が可能な原稿を作成中です。完成サイズはA5版(148×210mm)前後になる予定です。和綴じ文庫本サイズといった趣で、これから計画します。
 
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中朝事實(乾) 連載リスト
1.きっかけ     2.リアリズム山鹿流     3.漢文の訓点
  4.よく見る旧字     5.名詞の基礎知識     6.印刷用原稿
  7.和綴じの準備