「非常識な判決だ」というような批判を時々耳にしますが、人の争いを裁くのは大変です。自分が裁判官になった気持ちで、次の問題の判決を考えてみてください。

 

ある狭い片側一車線の一般道路で、深夜、若いカップルがドライブを楽しんでいました。この二人は、ちかく結婚を約束していました。運転していたのは、免許取りたての男性の方で婚約者の女性は助手席に座っていました。カーブに差し掛かったところ、対向車線から時速140キロは出ているであろう車が走ってきました。この道路の制限速度は時速40キロでした。

男性は、すさまじい勢いでやってくる対向車に動揺して体が硬直し、カーブをうまく曲がることができず、対向車線にはみ出してしまいました。その結果、対向車線の車と衝突してしまい、車両は大破、二人とも亡くなってしまいました。

 

対向車線を猛スピードで走っていた男性は、仕事のストレスを忘れるために、しばしば、深夜に猛スピードで運転することがあったようです。この男性は、幸いにして軽傷で済みました。

 

亡くなったカップルの遺族は、この対向車線の男性に対して、損害賠償請求を起こしてきました。これに対し、対向車線の男性は、センターラインオーバーの点について、過失相殺を主張しました。

 

さて、どう考えればよいでしょうか。

なお、過失相殺というのは、被害者にも落ち度がある場合に、その落ち度の程度に応じて、損害賠償額を減ずるという考えで、一般的には、被害者側の落ち度が〇%という形で、判断されます。

 

両者の主張を整理します。

対向車側:

140キロ程度のスピードを出したのは認めるが、そうであってもセンターラインオーバーをした落ち度の方が大きく、70%~80%の過失相殺がされるべきだ。特に免許取りたてで運転技術が未熟であった点を慮してほしい。

 

カップル側:

一般道を140キロもの高速で走行するのは異常である。しかも、道路は狭く、夜間である。こちらには落ち度はない。

 

回答は、10行下から書きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、自動車事故の場合、一方的過失となる事案は、追突や逆突、センターラインオーバーなど限られた事案だけです。

今回は、一方的過失の類型に当てはまるセンターラインオーバーの事案ですから、カップル側が100%悪いというのが基本的過失割合で、対向車側の速度超過の過失を10~20パーセント程度斟酌して修正するというのが基本的発想になります。

 

…と思った人、法律に詳しいと思いますが、理論が先行してしまっており、常識と離れてしまっていると思います。

 

たしかに、交通事故の場合、各類型ごとの基本的過失割合が決まっており、スピード違反の事実は10~20パーセント程度の修正要素にすぎないと考えられています。

しかし、この理屈は、スピード違反といっても20キロ~30キロ程度の、いわば、ありがちな範囲でのスピード違反の場合を想定していて、100キロもオーバーしている場合には、同様に考えることなどできません。

 

私が裁判官であれば、思い切って、対向車の一方的過失であると判断します。なにしろ、一般道でプロ野球選手が投げる球ぐらいの速度で鉄の塊が飛んでくるわけですから。これをよけるなんて無理でしょう。

 

むかし、島田紳助さんが行列のできる法律相談所をやっていた時、複数の弁護士がそれぞれの見解を披露して面白かった記憶があります。

 

人情派の弁護士ならば、若いカップルに同情して、私と同じ見解を述べたことでしょう。他方、理論派の弁護士であれば、いうても、センターラインオーバーをしていますから、全くの無過失との見解は示さないと考えられます。といっても、対向車の過失の方を大きくとるのは変わらないと思います。

 

今日は、裁判官でも悩むであろう事案を扱いました。結論は、人それぞれでいいと思うのですが、常識力の問われる事案でした。

弁護士法人である東京ミネルヴァ法律事務所の破産手続きが開始されたとのニュース、驚きました。この事務所は、過払い金返還請求事件を多数手がけていたということです。

 

驚いた点が二つ、

一つ目が、弁護士会が破産を申し立てたという点、

二つ目が、負債総額がおよそ50億だという点。

 

破産手続きは、基本的に法人の場合は役員が、個人の場合は本人が、破産を申し立てます。しかし、あまり知られていない方法として、債権者も申し立てることができるのです。

破産を申し立てた弁護士会の説明によると、弁護士会費の滞納があり連絡が取れなくなったからであるとのことです。

 

ただ、一般的には、弁護士会費の滞納があり連絡が取れなくなるだけで、弁護士会が破産を申し立てることなどありません。

こういった会費滞納のケースでは、弁護士会は、その弁護士や弁護士法人を除名処分にしてしまうのが通例です。弁護士会は、強制加入団体なので、除名処分により弁護士として活動ができなくなります。

 

ではなぜ、破産を申し立てたのかということですが、報道によれば、弁護士会の会長が談話を出しています。すなわち、ミネルヴァ法律事務所は、過払い金返還請求で回収した「過払い金の保管状況に不明な点があり、依頼者に返還が困難な状況に陥っている疑いがある。」ということらしいです。要は、依頼者のお金を使い込んだ疑いがあるというわけです。

 

弁護士会は、お金の流れまでは調査できません。しかし、破産事件となれば、破産管財人には、財産調査の権限があります。弁護士会が、ミネルヴァ法律事務所の依頼者(被害者)救済のために動いたのではないかと思います。

 

二つ目に、負債総額が50億円と途方もない額になっていることです。弁護士業の経費は、家賃や人件費がメインで、材料費がかかるわけでもありません。この事務所は、広告費が高かったのだと思いますが、それにしても50億円はありえません。

 

この謎について、以下の報道がありました。

https://www.msn.com/ja-jp/news/money/過払い金cmの大手弁護士法人、「東京ミネルヴァ」破産の底知れぬ闇/ar-BB15YxDe?ocid=spartanntp

上記の記事をかいつまんで説明すると、弁護士業専門の広告代理店にこの事務所は支配されていて、依頼者の過払い金の大半が、その広告代理店に流れて行ってしまっていたとのことです。そして、負債総額50億円の大半は、本来、依頼者に渡すべき過払金を返していないという債務であるとのことでした。

 

この話の真偽はともかくとして、上記の弁護士会の会長の談話にもあるように、依頼者のお金の管理に不透明な点があり、依頼者に返還されていない疑いがあるようですので、今後は、破産管財人がお金の流れを徹底的に追っていくのだと思います。

その結果、その広告代理店等の第三者にお金が流れているという証拠をつかめば、破産管財人は、その第三者に対して返還請求をするでしょう。その結果、お金が集まれば、被害者であるミネルヴァ法律事務所の依頼者に配当されるという流れになるものと思います。

ただ、その証拠をつかむのは、かなり苦戦をすると予想されますし、証拠をつかめたとしても、その第三者に資力があるかはわかりません。マネーロンダリングとの戦いになると思います。

 

この法律事務所の代表弁護士は、登録番号が43000番台で弁護士になってからまだ数年の若手弁護士ですが、今後、横領罪に問われる可能性があります。今後、破産管財人の調査だけでなく警察の調査によって事実が明らかになるかもしれません。そして、この弁護士については、被害額が巨額であることから、けっこう長期の実刑になることが予想されます。

 

ところで、最近は、テレビやラジオ、インターネットで法律事務所の広告を見ない日がありません。郵便局や市役所、電車やバス、高速道路のサービスエリアでさえも法律事務所の広告を見ます。ほかのどの業態よりも際立っています。

 

弁護士がこんなことをいうのもなんですが、弁護士が広告をバンバンする時代は、異常だと思いませんか?弁護士というのは、基本的に苦しんでいる人を救済し、普通の日常に戻してあげる仕事です。弁護士が跋扈する時代に明るい世界を見出すことはできません。

 

世も末だと嘆いてしまったのでした。

 

殺人の被疑者についての勾留が認められないという珍事が富山県で起きたそうです。

 

刑事訴訟法には、被疑者の権利を守るために様々なルールが書かれています。その一つが、身体拘束の時間制限です。逮捕は72時間、勾留は最大20日です。

 

今回、殺人の被疑者に対して、逮捕前の数日間、捜査員が監視するホテルに宿泊させ、長時間にわたり取り調べをしていたことから、この期間が実質的な身体拘束であるとみなされて、時間制限を逸脱しているとして、勾留請求が認められなかったのです。

 

この勾留請求は、死体遺棄罪での勾留請求でした。捜査機関は、殺人罪がメインだと考えていても、勾留が通りやすい(証拠がそろえやすい)死体遺棄罪で勾留を請求することがあります。

 

この話には続きがあります。あろうことか、富山県警は、死体遺棄罪での勾留が認められなかったことから、裁判所の判断があった翌日に一度釈放したものの、直ちに、殺人罪で逮捕し、その後、殺人罪で勾留請求をしたのです。

 

別の罪だからいいではないかと思われるかもしれませんが、上述の通り、死体遺棄罪で逮捕、勾留されていたものの、その期間に実質的に殺人罪に関する取り調べが行われていたことから、裁判所は、違法な再逮捕であるとして、勾留請求を退けました。

 

刑事訴訟法のテストでよく出てくる論点ですから、検察はこのような再逮捕は認められないとわかりそうなものですが、最高裁まで争ったようです。ちょっと、首をかしげたくなります。

 

さて、とすれば、富山県にお住まいの方は、じゃあ、今、殺人犯が外に出てきているのか、と心配されるかもしれません。

 

実は、報道によれば、このような捜査機関の違法がありながら、現在は、死体遺棄罪で起訴され、起訴後の勾留がされているということなので、ずっとこの被疑者は身体拘束され続けています。

 

刑事事件では、逮捕、勾留の時間制限の範囲内で、検察官は事件を起訴するか判断します。起訴された事案では、保釈されない限りは、勾留が継続されます。

今回、逮捕、勾留はすべて違法とされましたが、起訴後に勾留する分には構いませんという判断を最高裁がしたということです。

あとは、違法な逮捕、勾留に対して、国家賠償請求ができるだけということになります。

 

この件については、富山県弁護士会が声明を出していますので、リンクを張っておきます。

http://tomiben.jp/archives/statement/2491

 

今後、裁判員裁判が行われることになると思いますが、逮捕、勾留中の被疑者の供述調書は、すべて、違法収集証拠として排除されるでしょう。

であれば、有罪にできないのかと言われれば、そういうわけではありません。

捜査機関の違法行為が切断されたうえでの供述であれば、証拠として採用されます。たとえば、裁判の被告人質問での被告人の供述は、証拠として採用されます。

また、違法な逮捕、勾留の影響を受けない独立した客観的証拠についても、排除されません。たとえば、第三者の証言や証拠物などは採用されます。

ただし、証拠物であったとしても、たとえば、違法な勾留中の取り調べで得られた供述に基づき発見された証拠物についても、違法収集証拠として排除される可能性があります。たとえば、供述によって凶器が発見された場合などです。

 

違法捜査で得られた証拠から派生した証拠(派生証拠)も排除するという理論を「毒樹の果実の理論」といいます。「毒のある果樹になった果実もやはり毒をもっている。」ということです。面白い表現で覚えやすいです。

 

被疑者がベトナム人で、出国されるリスクがあったとの報道もありますので、捜査機関も無理をしたのでしょうが、ルール違反はだめですね。成り行きを気にしてみていきたいと思います。

 

 

 

 

政府が、性犯罪対策を強化する一環として、性犯罪の有罪確定者に対し、GPS装置を付けることを検討するというニュースがありました。

 

海外では、実践されている例がありますが、日本では、憲法上難しいのではないかというのが通説かと思います。少なくとも私が学生の時に勉強した範囲では、プライバシーの侵害として許されないと考えるべきと習ったような記憶です。

 

とても素直で従順な考えを持っていた学生時代の私は、そのように習ったので、性犯罪にGPSというニュースを聞くと、まず、「だめでしょう。」と考えてしまうわけです。おそらく、多くの弁護士が学生時代にそのような学説に触れているため、このような動きが本格化すると、日弁連辺りが反対の声明を出すのではないかと予想します。

 

ただ、よくよく考えてみると、これは、かなり「あり」な再犯予防策です。性犯罪被害者は、当然、それくらいのことを望むでしょうし、性犯罪者といえどもいつまでも刑務所にいるわけではありませんから、出所後に再接触してくるのではないかという被害者の恐怖を考えると、私の考えは、かなり「あり」に傾くのです。

 

他方で、情報化社会は我々に、莫大な利便をもたらしています。いつでも、調べれば専門家の意見に触れることができます。私も弁護士として専門家の端くれですから、わたしのブログも、一応、そういうカテゴリーのつもりです。また、電子マネー決済やネット通販など挙げればきりがありません。

 

この便利さと、プライバシーのせめぎあいがさまざまな局面で表出してきています。

たとえば、最近では、韓国でコロナ感染者の行動調査がかなり話題になっていましたよね。日本で同じことをするには、憲法という壁が存在するので難しい感触です。

 

また、最近話題の特別定額給付金ですが、世帯主と関係が悪い人にとって給付金が手元に入らないという不具合があると先日のブログでも書きましたが、マイナンバーと個人個人の口座を紐づけて、一人一人に給付すれば、済む話です。また、そうしておけば、役所の莫大な事務作業が省略できたことでしょう。

しかし、ここにもプライシーの壁が立ちはだかります。個人の口座の情報は、プライバシー情報としては、高度なものと考えられるからです。実際、口座の情報がわかれば、税金滞納者への口座差押えが可能になることから、反対の声が根強いという側面もあります。

 

この線引きはとても難しいと思いますが、情報化社会が進み、管理できる情報が莫大になるにつれて、その使い方次第で、良い社会にも悪い社会にもなるといえます。

 

その一つとして、性犯罪者にGPSというのも、その制度設計次第で、世の中を良い方向に導く可能性がある手法であると、現在の私は考えています。

特別定額給付金10万円の申請がはじまり、すでに受け取ったという声がちらほらと聞こえてきます。

 

特別定額給付金は、世帯主が世帯全員分を申請することになっています。

つまり、この特別定額給付金の申請手続きは、世帯主とその世帯全員の関係が円満であることを前提としています。

 

しかし、この世の中、そのような世帯ばかりではありません。

たとえば、離婚協議中で別居している夫婦のケースで、世帯主の夫が、まだ世帯に入っている妻分を申請し、妻に渡さないということも、十分に考えられます。

逆に、妻が夫のマイナンバーカード等とキャッシュカードを持ち出していれば、世帯主の夫の知らないまに給付金をゲットするという芸当も不可能ではありません。

 

そういった場合、役所に問い合わせても、夫婦で話し合ってくださいと言われてしまうのです。

(なお、先日の記事でご紹介したように、DV被害や高齢者虐待の場合には、特別な措置があります。)

 

ところで、先日、住所不明の被疑者が、特別定額給付金を受け取るために、住所を役所に届け出たところ、逮捕されたというニュースがありました。

自身が勤務していた郵便局から、7万7000円を窃盗したとの被疑事実だったようです。

きっと、お金に困っているのでしょう。この被疑者は、逮捕されてもなお、10万円がうけとれるかということを心配していたそうです。

 

このニュースは、あたかも、特別定額給付金の副次的効果かのように受け取られるかもしれませんが、私は、やや白けました。この被疑者が経済的に困窮しているのは、犯罪を犯して逃げ隠れしているからであって、コロナで困窮しているわけではないと思うからです。

 

まあ、全員もらえるわけですから、この政策に批判的な声はあまり聞こえてきませんが、5年後、10年後に、日本が、この政策のために国力を弱めたといわれないか懸念しています。