long island sound -20ページ目

特別賞

「フィクションなんて何の価値がない。映画だって、皆同じようなものばっかりで、一作を観たら二度と映画館まで行く必要はない。」父親はいつもそう言っていた。ホストファミリーのリョウシンも、映画は殆ど観ない。テレビは、ニュース以外は観ないそうだ。


俺は、それが間違っていると思う。いや、言い換えれば、かわいそうではないかと思う。


漫画と小説と画は、或る歳を越えればくだらないもののように見えてくるのかな。なら、俺もそういう歳になれば嫌いになってしまうかもしれない。でも、空想にしか存在しない世界を描くものだが、価値は十分あると、今の俺は思う。それは漫画であっても映画であっても、それを堪能することによって感動するというのは、掛け替えのないものではないか、というような気がする。


今日は休日だった。バイトから帰ってきて、朝飯を食べてすぐに眠ってしまった。起きたのは午後3時頃で、外が曇っていた。夕飯までは「四日間の奇蹟」という、甘ちょろい駄作の映画を観ていた。それを観て、俺は母親の子供だということがはっきりと分かった。母親はいつもソファーで座って夕方のドラマを見ながら泣いていたのを、よく憶えている。「馬鹿だね、ママ」と、涙を抑えながら俺がいつも言っていた。映像と音楽がうまく組み合わせられ、涙腺が刺激されたら悲しいことを思い出し、つい泣いてしまうものだ。


夕飯を済ませたらまたDVDを借りに行ってきた。今度選んだ作品の一つは、「いま、会いにゆきます」という名作だった。深い感銘を受けさせてくれた逸品だ。最後まで観てから、何となくすっきりした。軽い頭痛と寂しい気分が残っているけど、今晩はぐっすり眠れそうだ。

ベイビー

「やっぱりね、キビキビしてないからいとも怒られるんだよ。遅いからじゃなくて、遅く見えるから店長が『おい、だらだらすんな』っつってんだよ。」


俺のホストファミリーのオトウサンが嫌いだ。いつも何でも知っているような喋り方をしていて、プライドが高い上に頑固な人で、人の言っていることを碌に聞かない。おまけに自分の声を聴くのがいかにも好きそうで、夕飯の間に同じ話を2,3回繰り返すのが極普通のことだ。彼に対する憎悪が日毎に増してきている。が、滋賀県での事件を省みて、内心憎みつつ、彼が小泉総理大臣の悪口に相槌を打つ。


ところが、今日はオトウサンに一つの礼を言わなければならない。俺の仕事振りを一度も見たことのない彼の説教が、俺の目を覚ましてくれた。

FREE


11.24 ゴミ捨て場


高校時代よく聴いていた曲を再生すると、二三年前忘れかけた光景が頭を横切る。高校3年、クラスメートで一杯の旅行バスの窓から眺めた、金色に見えた無名のビルの脇と、曇り空の下に目が届くまで延々と伸びていたオリエント・ポイントへの道路と、目を閉じれば今でもはっきりと見えそうな映像が脳裏に刻み込まれている。しかし、当時何を考え、何を感じていたのか、全然思い出せない。それは、とても残念なことだと思う。

ぱふぱふとか きょいきょいとか いんぐりもんぐりとか

11.15 蛇に噛まれた!


最近寝るのが怖くて仕様がない。最初は酷く憂鬱な気分で明日と向き合うのが嫌だったが、今は課題がまだ終わっていないから寝るわけにはいかないという理由で夜更かしをしている。それでもやる気が全然出なくて、今晩も漫画喫茶店に出かけた。


俺が通う漫画喫茶店は王子駅の前にあり、あそこまで歩くのに10分ぐらいかかる。歩いている間、退屈凌ぎに日本に留学している友達に電話することが多い。勿論そうではなくて、特に話したいから散歩に出かけて電話をかける時も少なくはないが、逆にその場合には、そもそも行くつもりがなかったのに何となく漫画喫茶店に寄ってしまうことが多い。友達との通話と、漫画喫茶店とは俺の頭の中で密接な関係で結ばれてきている。


ところが、今日11時頃俺がいつも電話する相棒の番号をかけてみたが、彼が電話に出ると、友達と一緒に飲んでいるところだそうで、長電話はできなかった。失敬して電話を切ったら、駅に着くまで後8分はかかるだろうと予測し、早速他の友人に電話してみた。彼はUMASSで大変親しくなった人で、久し振りに話を交換するのを楽しみにしていた。


留学している知人の中で様々なタイプの人がいて、皆は日本でどうしているかに対して好奇心を持っている。友達と通話とメールのやりとりは勿論、アメリカで嫌いだった人と、殆ど知らない知り合いのブログを時折伺ってみる。その中の一人がこの間ホストファミリーと早く別れ、学生寮に引っ越すことになったらしい。アメリカで知り合って以来性格が合わなくて仲が悪かったが、ホストファミリーとうまくやっていけなかったという話に同情した。


そのように皆それぞれ大変なようだが、その中に今晩友人から聴いた、こんな話もある。十数分話していったところ彼が軽々と落としたその爆弾発言とは、この間ソープランドに行ってしまったらしい。しかもそれは或る夜酔っ払って歩いて帰っていったところで、突然娼婦に誘われて怪しいクラブの2階に連れて行かれ、高価なソファに座らされて不適多数の女性と20分ほど話すまでそれはどういうことか彼が分からなかったらしい。やっと状況を把握した彼は相当驚いた、そして同時に大喜びだったという。棚から牡丹餅、ということであろうか。しかし次の日に起きたら、恐ろしい二日酔いと共に空っぽな財布が待っていた。


気の毒だ、と言いたいところだが、何ヶ月も女の人に触れていない俺は果たして彼のことを不憫に思えるのか。その疑問を抱いたまま、漫画喫茶店の席にもたれ、ドラゴン・ボールの全集を読み始めた。

マイ・ファースト・カルボナーラ


11.23 六本木一丁目駅

ライターと、数本の煙草が入っていたMarlboroの箱を見つけたのはL5のアップをしていた時だった。本当はお客様に取り残された物をぱくっちゃいけないけど、こっそりとその小さな箱をサフロンのポケットに押し込めて、シフトが終わったら吸ってみようと決心した。


実はずっと前から煙草に憧れていた。煙草の匂いが結構好きで、漫画喫茶店に行くと必ず喫煙席を頼んでいた。が、最近無駄遣いをしないように努力し始めたし、健康に対する悪影響を考えると絶対に吸ってはいけないと思っていたので、今朝まで一度も吸ったことがなかった。


しかしタダで煙草を手に入れたことで罪悪感が薄れ、今日お店から外に出たら早速一本を口に加え、手でライターを覆いながら白くて細長い円筒に火をつけた。午前6時でも六本木の街角に人が多くて、遠くからドラムの音が響き渡っている。


最初は平気だったが、吸い続けると一本の煙草が短くなるにつれ気分が悪くなった。ハンフリー・ボガートとかスパイク・スピーゲルとかに憧れて吸ってみたいと思ったが、実際に吸ってみると寧ろ安っぽい感じがした。一本を吸い終えるまでの時間で、自分の煙草に対する気持ちが一転し、結局吸殻を捨てて足で踏み潰してしまった。


煙草を吸うことには何か魅力があるとは思うけど、それは俺には、もっと正確に言うと今の俺には、とても似合わないものだ。