第264回 「新素材による産業革命」
今月は、11月6日の日経産業新聞BusinessDailyへ寄稿した記事を紹介させていただきます。
紙とプラスチックの代替となる革新的な新素材を開発した、株式会社TBMが起こした「新素材による産業革命」について書きました。
11月4日、日経新聞一面の「企業価値1兆円超す」タイトルで、未上場スタートアップ第二位にランクインしていましたが、当社もLIMEX名刺を使用しています。
「新素材による産業革命」
ザ・ランドマークスクエアトーキョーで「グローバル人財フォーラム2019」が開催され、「ニッポン新事業創出大賞グローバル部門・最優秀賞(経済産業大臣賞)」に、新素材メーカーの株式会社TBMが選出された。
このフォーラムは、加速度的に人口「激減」時代へと突入する日本企業が逆境に立ち向かうには「国際化」が重要ととらえ、世界市場に挑戦し活躍しているスタートアップを称賛する趣旨で日本ニュービジネス協議会連合会と東京ニュービジネス協議会が創立した。
TBMは世界で初めて石灰石から紙とプラスチック両方の代替となる革新的な新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発したグローバルスタートアップだ。原材料となる石灰石は、世界各地で埋蔵量が豊富で、日本でも100%自給自足できる。地球環境への負荷が少ないリサイクル可能な素材で、水を使わずに作ることが可能だ。
紙と同様に軽く安価なので16年の販売開始以降、ライメックス製の名刺など様々な製品が大企業からベンチャーまで導入されている。また高い耐水性を持つため浴室や水回り、屋外、水中でも利用でき、スポーツイベントなどの横断幕にも使用されている。現在は世界30カ国を超えて特許登録され、紙とプラスチックの代替素材としてビジネスとサステナビリティーを両立させている。
TBMは創業からわずか10年で資本金107億円(資本準備金含む)を超える企業となった。ライメックスの開発後に工場を建設して製品を量産化し、世界でも圧倒的なスピードで販路を拡げている。
地球環境問題が世界中の課題となり、企業にも積極的な姿勢が求められる時代背景や、石油樹脂を減らし開発に水や木を使わない素材特性があるとはいえ、これほど短期間に世界で成長するスタートアップは、日本では珍しい。
TBM創業の頃から同社は「サステナビリティー・ビジョン」を掲げ、共感した経験豊かな90代の会長から20代の若手まで幅広い年齢層のメンバーが集まった。そして若手とシニアが協力するダイバーシティ組織と、圧倒的なスピード意識を持つカルチャーをつくりあげた。この2つの要素がかみ合って「最強のチーム」が生まれ、世界で新たな市場を創り出す原動力になっている。
世界では今、地球の温暖化を始め様々な環境問題が噴出している。国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」は、政府の対応では限界があり、起業家の潜在力が期待されている。
TBMは「石油に頼らない未来」というビジョンを描き、日本の技術で生まれた新素材で、巨大市場に果敢に挑戦している。世界の水危機や森林問題解決の糸口となる「新素材による産業革命」がスタートした。
第263回 「共創が生む成功物語」
今月は、10月4日の日経産業新聞BusinessDailyへ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、週末よく行くコーヒー界のレジェンドが焙煎する名店「カフェ・バッハ」×「ツインバード」とのコラボヒット商品で、
私も愛用している、豆から挽ける全自動コーヒーメーカー「共創の物語」について書きました!
「共創が生む成功物語」
豆からひける全自動コーヒーメーカーが話題になっている。ツインバード工業が開発した高級コーヒーメーカーで2018年の発売から好調な売れ行きだ。
開発のきっかけは商品開発部の岡田剛さんの「自分だけの究極の1杯のコーヒーを自宅でゆったりとした時間に飲めたらどんなに幸せだろう」との思いだった。
16年に経営陣の後押しを得て、本物志向の全自動コーヒーメーカーの開発が始まる。開発コンセプトは「バリスタがいれる本格的なコーヒーの味を自宅で再現する」。しかし開発メンバー全員がコーヒーには素人で知識も技術もない。何をもっておいしいと言えるのか基準がなかった。
多方面から情報を収集し、東京・南千住の「カフェ・バッハ」が開店から50年たった今も愛され続ける名店だと知る。店主の田口衛氏は自家焙煎の第一人者であり、バリスタも使う本格的な書籍を数多く出版する「コーヒー界のレジェンド」と呼ばれる人物だ。
岡田さんは田口氏を訪ね「本物の豆からひける全自動コーヒーメーカーを作りたいが、何をどうしたらいいのか分からない。お店で味わるコーヒーを自宅で楽しめたら、多くの人が幸せな気分になる」と熱意を伝えた。断られる覚悟をしていたがピュアな開発魂が田口氏に伝わり、協力を仰げることになった。
しかし商品開発は困難を極めた。田口氏の店に足しげく通い、店と変わらないプロセスで豆量や粒度、水量、湯温、蒸らし時間、ドリッパーリブの高さなど、すべての工程を一つひとつ丁寧に再現することに取り組んだ。
最大の難関はバリスタが湯を注ぐ技術の再現だった。6か所から湯が出る仕組みをつくり、湯の出方を緻密に秒単位でコントロールする電気設計をした。湯がドリッパーリブに注がれるときに2cmの隙間を空けて外から見えるようにもした。チームメンバーは夜中まで試行錯誤しテイスティングを重ね、店の味を忠実に再現することに挑戦した。そして透明感のあるまろやかなおいしさを、2年の歳月をかけて実現した。
他に類のない「豆からひける高級全自動コーヒーメーカー」の成功は、分析的戦略アプローチではない。開発リーダーがコーヒー界のレジェンドと出会ったことから始まる「共創の物語」だ。物語にはプロット(筋書き)がある。
ツインバード工業では開発が壁にぶつかったとき、ネットワークでつくる共創の思想が行動規範となっている。同社が本社を置く新潟県の燕三条には地域企業とのエコシステム(相互協力関係)があり、このネットワーク資源が開発の成功要因となった。
共創による開発物語には必ず人との出会いがあり、行動規範がスクリプト(脚本)になる。プロットとスクリプトで難題を解決していけば、成功に至る。
第262回 「SDGsにビジネス機会」
今月は、8月21日の日経産業新聞BusinessDailyへ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、地方創生のモデルケースとして注目されている、長野県の「小布施松川小水力発電所」とSDGsにおける経済価値について書きました。
「SDGsにビジネス機会」
「小布施松川小水力発電所」に、全国の市町村から視察に訪れる人々が絶えない。昨年11月にスタートした、長野県小布施町初の「小水力発電所」だ。
東日本大震災の翌年2012年、小布施町エネルギー会議にて、「地域の資源を活かし、安心して暮らせる自然エネルギーを自分達で作りたい」との議論から、地産地消の電力会社設立に向けて調査がスタートした。
地域の環境や景観を守り、ローコストで持続可能な電力を求め、バイオマス、太陽光、水力、風力といった様々な可能性を調査した結果、川の水源を利用する小水力発電にたどり着いた。
しかし、日本には品質とコストに見合う小水力発電用水車と技術がなく、小水力発電所の開発は困難を極めた。開発チームは世界中から情報を集め、現地に出向き調査を行った。そして、オーストリアのGUGLER Water Turbines GmbHのフランシス型水車が条件を満たしていることを知る。GUGLER社との交渉は、開発チームの一社で、自然エネルギーのスタートアップ企業である自然電力株式会社が行い、GUGLER社にこの事業のパートナーになってもらうことができた。自然電力が100%出資して「長野自然電力合同会社」を設立し、「小布施松川小水力発電所」が完工した。
小布施松川小水力発電所は、小布施町に流れる松川の水源を活用した発電で、約190キロワット(町の10%の世帯に電力を供給できる発電出力量)を有している。地産地消の電気を住民に供給する「ながの電力株式会社」を、自然電力、北信地域でケーブルテレビ事業を展開する株式会社Goolight、および小布施町の三者が設立した。今年6月、軽井沢プリンスホテルで開催されたG20の会場に、ながの電力がCO2フリー電力を一部供給したことで、小布施町の小水力発電は地方創生のモデルケースとして注目された。また、7月には『長野県SDGs推進企業』にながの電力が登録された。
世界では今、SDGsの実現に向けた取り組みが高まっている。SDGsとは、2015年の国連サミットで150を超える加盟国首脳参加の下採択された、「持続可能な開発目標」のことだ。未来の地球のために達成すべき17のゴールが設定され、世界全体の社会課題が網羅されている。
世界的に加速する環境問題・社会課題を解決し、持続可能な社会を推進するためには、国や国際機関だけでなく、影響力を拡大している“企業”が重要であることが示された。17年の世界経済フォーラムでは「SDGsの達成により、2030年までに世界で年間12兆ドルの経済価値が生まれる」と発表された。
日本は「課題先進国」であり、人口減少や脱炭素社会へのエネルギー戦略を始め、問題が山積している。新規事業開発の要は、「不」の解消にある。SDGsに関わる事業開発は、世界中の人々の「不」を解消する、巨大なビジネスチャンスだ。
第261回 「人工肉に見る産学新時代」
今月は、7月15日の日経産業新聞BusinessDailyへ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、5月にニューヨークナスダック市場に上場したスタートアップのビヨンドミートが注目を集め、人工肉の市場が8千億になり、その背景にTLOがあることを書きました。
「人工肉に見る産学新時代」
私は、スタンフォード大学でインポッシブル・フーズのハンバーガーを食べたことがあるが、見た目や味、匂いも本物の肉そっくりで、植物を原料にした人工肉とはとても思えなかった。すでにロサンゼルスやニューヨークのレストランで販売が開始されていて、行列ができるほどの人気だ。抗生物質やコレステロールや人工調味料を用いず、水や小麦タンパク質、ジャガイモ、ココナッツオイルなどの素材で生産されている。牛肉と比べて使用する水は約75%減、温室効果ガスは約87%減、土地は約95%減で生産できる環境にやさしい食品だ。
この人工肉は、肉特有の風味を引き出すことができるので、様々なメニューで利用できる。人が永きにわたって摂取してきた食肉を、はるかに少ない資源で人々に提供する人工肉の出現は、世界の食流通を大きく変えるかもしれない。5月2日、ニューヨークナスダック市場で、「ビヨンド・ミート」が上場した。2009年にアメリカのシリコンバレーで生まれた、人工肉で知られるスタートアップ企業だ。株価が急騰し4000億を超え、市場の注目を集めた。植物性たんぱく質などを使った人工肉は、世界的に急速に売り上げを伸ばしていて、2025年までに8000億円を超える市場規模といわれている。
ビヨンド・ミートが上場する1か月前、競合のインポッシブル・フーズがバーガーキングと提携し、「ワッパー」に人工肉を提供することで話題になった。この企業は、スタンフォード大学の生化学教授で遺伝学者のパトリック・ブラウン氏が創業した大学発スタートアップ企業だ。
アメリカでのスタートアップ企業の多くは、大学から生まれ育っている。
その役割を、TLOが担っていることが多い。TLOとは、Technology Licensing Organization(技術移転機関)の略称で、大学の研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する組織のことをいう。アメリカでは、1930年頃から技術移転の歴史がある。近年では、スタンフォード大学からグーグルが、ハーバード大学からフェイスブックが生まれたように、大学から多くの事業が創生されてスケールしている。アメリカでは、大学がイノベーションのプラットホームになっている。
一方、日本では、味の素・帝人・荏原製作所・TDKといった企業が、大学発のスタートアップ企業だ。最近では、ユーグレナやペプチドリーム、サイバーダインを始め、大学発スタートアップ企業が上場し、時価総額が数千億となり話題になった。これまで日本は、大学での研究成果を起業に繋げる仕組みが弱かったが、大学発スタートアップ企業の環境が好転している。
知識社会が進化することで、産業の構造が変わった。富の源泉が大学で研究成果をあげた知識を活用した企業に移り、イノベーションの主役になり始めた。
産学の連携が、産業の枠組みを根底から変え、新たな経済の秩序をつくる時代が到来した。
第260回 「社内起業にも変革が必要」
今月は、6月3日の日経産業新聞BusinessDailyへ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、トリップアドバイザーで関東圏No.1の人気となり話題になっている、アパートメントホテル「MIMARU」について書きました。
「社内起業にも変革が必要」
「アパートメントホテルMIMARU」が訪日外国人ファミリーやグループに大変な人気だ。昨年に上野で1号店がオープンし、すでに東京や京都で10棟となった。来年までに30棟、1500室を目指すという。このホテルは訪日外国人が「暮らすように滞在する」をコンセプトにしたアパートメントホテルだ。
キッチンや調理器具などを常備し、出前もできる。リビング・ダイニングスペースを備え、4人を超える家族でも自宅にいるような気分になれる。フロントの多言語対応や通話かけ放題のスマートフォン貸し出しなど、安心して中長期の滞在ができる。
このアパートメントホテルはファミリータイプのマンションデベロッパー、コスモスイニシアの社内起業提案から誕生した。若手社員が2014年の社内起業塾に参加したことが発端となった。
「訪日外国人ファミリー向けの事業企画」を経営陣にプレゼンし承認を得て、15年に2人の若手社員による新規事業プロジェクトがスタートした。
初めは空き家の有効活用を考えていたが、居酒屋などで訪日外国人ファミリーの生の声を聞き、これまでにないホテル企画が出来上がった。
プロジェクトのメンバーは不動産有効活用の視点で宿泊施設を探したが、市場には存在していなかった。それを自分たちが手掛けるチャンスと捉え、住宅のリノベーションで培ったノウハウを最大限に活かして独自のホテルを開発すべきだと担当役員に提案した。
プロジェクトの担当役員は最終意思決定者の社長とボードメンバーの承認を得て、海外視察も経て検討を進めた。
17年には新会社のコスモスホテルマネジメントが設立され、プロジェクトの担当役員の藤岡英樹氏が社長に就任した。
その後は試行錯誤を経て、日本初の「アパートメントホテルMIMARU」が18年2月に開業した。スタート時はホテル業界の経験者はおらず、専門運営会社に委託しながら一緒に新たなオペレーションの仕組みやルールを策定した。
現在は自社運営で、フロントや清掃員などを含めて1店を5人ほどで運営している。異分野の社内起業家が立ち上げたホテルが業界の常識を覆し、新たなホテル市場が誕生した。
アパートメントホテルMIMARUの開発はデータから市場分析をするアプローチではなく、顧客の声に気づいたことに起因する。社長と経営陣が社員に起業機会を与え、リスクテイクする覚悟と決断から次世代事業が生まれ、会社や業界に変化を与え始めた。
平成が終わり、新しい時代が始まった。令和の経営者は内部留保資金を有効活用し、社内起業家にもっと機会を与えて、未来の扉を開くためにイノベーションする決断が必要だ。







