第269回 「循環型社会へ向けた投資」
5月29日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
コロナウィルスのような菌は人類に大きな災いをもたらしましたが、反面、人々の健康や環境を守る「コリネ菌」という菌がいます。この菌で「人々の健康と緑の地球を守ろう」と志すグローバルスタートアップ企業を、日経産業新聞へ寄稿しました。革新的なバイオファイナリー技術で、循環型社会の実現に向けた研究開発型テクノロジーカンパニー「Green Earth Institute」を、皆さんに是非知って欲しく書きました!
「循環型社会へ向けた投資」
東大キャンパスの一室に「Green Earth Institute」と言う企業がある。直訳すると「緑の地球研究所」。社員総勢31名のバイオスタートアップだ。
同社は「コリネ菌」という微生物を使った革新的バイオファイナリー技術を持つ。食べられずに捨てられる再生可能な茎や葉、木などの原料をもとにバイオ燃料やグリーン化学品を製造、事業化に成功した。新たな産業「バイオファイナリー」のリーダー的企業として世界から期待が寄せられている。
社長の伊原智人さんは、元経済産業省のエリート官僚という異色の経歴を持つ起業家だ。同省で幅広い分野のキャリアを歩み、米国留学で知的財産権を学んだ。官民人事交流の第1号としてリクルートに入り、大学発の特許を民間企業に移転するビジネスで経験を積んだ。
その後、資源エネルギー庁や内閣官房国家戦略室で重要な任を担い、政策を立案する傍ら、バイオスタートアップの起業家に転じた。「地球温暖化や化石燃料中心のエネルギー、人工増加に伴う食料不足といった課題をバイオファイナリーで解決したい」。こんな伊原さんの志に惹かれ、当社では投資や幹部の人材紹介、大手企業との提携などの支援をさせていただいている。
世界は今、新型コロナウィルスのパンデミックにより、歴史的な危機を迎えている。
地球温暖化がウィルス感染に影響を及ぼしているとの説もある。危機が示すのは、サステナビリティ社会に向け、人の命を守る分野での経済価値を高めることだ。
コロナ危機はIT企業群が活躍した時代から、循環型社会へ向けた研究開発型テクノロジーに人々の関心が向かう時かもしれない。
世界的に創業間もないスタートアップの資金調達に逆風が吹くなか、機関投資家たちが、ネット企業を爆発的に急成長させ短期間な利益を追求する考え方を転換。Green Earth Instituteのような、世界の課題に向き合うグローバルスタートアップに資金を着実に供給し、長期的な成長につなげようとしている。
財務省による日本法人企業統計で昨年、内部留保金が7年連続で過去最大を更新し463兆円に増大という発表があった。豊富な資金に加え、他にない製造技術ラインやグローバルな販路を持つ企業も多い。スタートアップ投資のためのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)もコロナ危機前まで数多く設立されている。足元で減速しているが、今こそ好機と捉え、「本当に大切で必要なもの」に取り組むべきだ。アフターコロナの時代、グローバルスタートアップと大手企業のオープンイノベーションをつなげ新事業を加速させることが、日本が世界で勝てる道筋だ。
第268回 「物作り 新興が海外開く」
4月22日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、世界で戦うモノづくりのメガスタートアップ「テラモーターズ」について書きました。テラモーターズは、電動バイクの製造・販売を行っており、バッテリーの遠隔管理やGPSなど「IoT」を活用した「環境に優しい交通インフラの構築」を目指しているSDGs企業です。
「物作り 新興が海外開く」
当社のエントランスに、電動バイクが飾ってある。
10年前、「アップルを超えるメガベンチャーを立ち上げたい」と語った起業家が開発した製品だ。電動化の進展でバイクや自動車のつくり方が変わり、大きな資金や工場を持たないスタートアップでも生産できるようになった。
この電動バイクを開発したテラモーターズは、設立当初から世界への挑戦を目指したモノづくりのメガスタートアップだ。日本では数少ない起業家のグローバルな心意気に惹かれ、創業時に投資させていただいた。渋谷のとあるビルの四畳半からスタートし、わずか2年で国内シェアトップの電動バイクメーカーとなった。
失敗を繰り返しながら、現在はインドを主軸に、アジア諸国に拠点を設け、電動バイクと「オートリキシャ」と呼ばれる20万円程の電動三輪タクシーを製造・販売している。
テラモーターズには、世界で戦うビジョンに引き寄せられた経験豊かな大手企業のOB、海外を志す異色の若いメンバーが集う。その姿はまるで「梁山泊」だ。
設立時、「若者をインスパイアして世界で勝負することや、リスクに挑戦することが当たり前の日本社会の実現を目指す」旗印を掲げた。このダイバーシティに満ちたチームは、驚くべきスピード感を持ち、圧倒的な量の仕事をこなす。
際立つのは徹底した権限委譲と、1人で複数の仕事をこなすマルチタスクだ。大手家電メーカーからテラモーターズに参加した上田晃裕史は2015年3月にバングラデシュへ赴任後、複数の仕事を見事にこなし、1年で10憶円規模の成果を出した。アジア4ヶ国の統轄を兼任する現地法人の責任者を経て、今年2月に代表取締役社長へ就任した。
アジアでは急激な都市化でガソリン車の交通渋滞による大気汚染が深刻化している。各地で気候変動が加速するなか、持続可能な社会へ向け国と企業の責任が問われている。インド政府は2025年までに150㏄以下のすべての二輪者をガソリン駆動から電動に切り替える目標を掲げる。
テラモーターズは電動バイクのバッテリーの遠隔管理のほか、走行データを全地球測位システム(GPS)で把握するなど「IOT」を活用した「環境に優しい交通インフラの構築」を目指している。「スピードこそ最大の経営資源」と世界を駆け回るテラモーターズの起業家集団の姿は見ていてハラハラするが頼もしい。
世界は今、新型コロナウィルス感染拡大で強制的に国が分断されている。コロナ後、グローバル化を推し進める日本のモノづくりスタートアップが、かつてのソニーやホンダのように海外市場を切り開けば後に続くグローバルスタートアップの道も開ける。
第267回 「社会支えるヘルステック」
3月9日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、病気の予防や健康管理、診療後のアフターサービスの概念である造語「ヘルステック」についてかきました。ICT化が進む医療業界において、オンライン診療やアプリ開発などのスタートアップ企業が増え、自らが健康情報を管理活用する社会へと姿を変え始めています。
「社会支えるヘルステック」
米マイアミのスタートアップ、Papaが話題を呼んでいる。高齢化が進み、孤独と日常生活の不便さを感じているシニア世代に大学生を派遣するサービスだ。シニアがアプリに登録すると、登録済の大学生とシニアをマッチングしてくれる。学生が車で買い物に同行したり、家事やパソコン操作などのサポートや話し相手になることで報酬を得るビジネスなのだ。
Papaを利用するシニアにとって利便性だけでなく、学生との交流が気持ちの若返りや健康につながっているのかもしれない。昨年10月には1000万ドルを調達し、複数の医療保険会社とパートナーシップを結び事業を拡大している。
高齢化が進む世界各国で、ヘルステックへの取り組みが進行している。ヘルステックとはヘルスケアとテクノロジーを掛けた造語で、病気の予防や健康管理、診療後のアフターサービスの概念だ。
医療情報の電子化が進み、電子カルテシステムによる医療機関同士の情報共有、医療ビックデータの利活用が可能になった。医療業界はICT(情報通信技術)が進展し、ヘルステック分野での様々なスタートアップが生まれている。病気を治療する医療から、ヘルステックによって健康予防やヘルスケアデータによる診断を拡大することで、医療費削減にもつながっている。
世界最速で高齢化が進む日本では、単身の高齢者が増大している。5年後、団塊の世代が75歳になり、医療や介護などの社会保障費が急増する「2025年問題」は先送りできない。後期高齢者が約2200万人で4人に1人が75歳以上となり、孤独や不便を感じる高齢者の生活を支える仕組みの再構築が急務だ。
日本のヘルステックは医師同士のコミュニティーや医師と患者のオンラインによる医療段階から「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード=個人健康記録)」を使い、自ら健康を向上する段階に入っている。
PHRとは個人の健康・医療情報を保管し利活用する仕組みのことだ。病院や行政、事業者ごとの散在している健康診断、医療情報や個人のライフログを集約できる。
2016年、京都大学でPHRの標準化および利活用促進について、産学連携で「京大データヘルス研究会」がスタートした。大学や行政、オムロンヘルスケア、キヤノンマーケティングジャパン、OKI、リクルートといった企業が参加し、PHRの事業化や連携に向けた取り組みが加速している。PHRが切り開くヘルステック分野への投資や、アプリ開発から関連機器やオンラインサービスに取り組むスタートアップ企業が増えている。
日本のヘルスケアの未来が医師から患者への図式から、自らが健康情報を管理活用する社会へと姿を変え始めた。
第266回 「アプリで進む未来の医療」
1月28日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、医師の伊藤さんが立上げた、いつでも、どこでもスマホで医師に相談できるドクターシェアアプリ「LEBER(リーバー)」について書きました。42兆円を超え増大している医療費や、混雑した医療現場といった医療課題解決のため、現在110人を超える医師が参加し、未来の医療現場へと姿を変えようとしています。
「アプリで進む未来の医療」
「24時間、365日スマートフォンで医師に相談できる」という医療相談アプリケーションがスタートした。医師の伊藤俊一郎さんが立ち上げたドクターシェアリングアプリ「LEBER(リーバー)」だ。
利用者はスマホで選択式の問診に答え、フリーテキスト記述や画像・動画での相談もできる。最速3分で医師が症状と疾患を絞り込み、疑いのある疾患についてコメントする。遠隔診療ではなく、症状に見合った大衆薬や全国の医療機関を推薦する。いつでも、どこでも医師に気軽に健康相談できるオンライン上のプラットフォームサービスだ。リリース以来、すでにユーザー数が8000人となって急拡大している。
リーバーの開発は高齢化を背景に医療費が増大し、このままだと医療崩壊するという伊藤さんの思いからスタートした。0歳から50歳までの基礎疾患のない人たちは、軽症でも自己負担が少ないので安易に医療機関に行くことが多い。
こういった人たちは、医師の「心配ない」の一声や、症状を和らげる薬を求めている。
伊藤さんは「軽症な症状ならスマホアプリで問診を受け、医師のアドバイスを得ることで、常に混雑している医療現場を改善できる」と語る。
そして「大衆薬を使うセルフメディケーション、セルフケアで、医療費は大きく削減できる。
本当に医療機関での治療を必要としている高齢者が適切な医療を受けられる世の中にしたい」と全国の医師に呼び掛けた。医療の課題解決を視野に入れた革新的なドクターシェアリングアプリ「リーバー」は、趣旨に賛同した医師の実名登録が110人を超え、日本最大級の実名医師による医療相談プラットフォームとなった。
病気やけがの治療で医療機関に支払われた「概算医療費」は毎年増大し、過去最高の42兆6000億円となっている。このまま医療費が増えていくと、財政破綻の一因になりかねない。
国民皆保険制度で当たり前のように安心して病院を受診することが、将来は成り立たなくなる可能性がある。医療費の増加に歯止めをかけるには、不必要な通院を減らさなければならないという状況だ。
近年は厚生労働省でオンラインによる適切な「遠隔医療」の検討が話題になっている。
2020年から次世代の高速通信規格「5G」が始まる。あらゆるものがデジタル化し、オールインターフェース時代が目前に迫ってきた。現在実施されている5Gを使った遠隔診療サービスの実証実験では、医師と患者とのやり取りが「フェース・ツー・フェースで診察している感覚」だという。5Gや人工知能(AI)、ICTテクノロジーへの適応で今後の診療のあり方や医師の働き方が変わり、病院での医療から社会を支える医療へと姿を変えようとしている。
第265回 「スプラウトのストーリー」
12月11日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
今回は、村上農園のがん予防の効果があると話題の「ブロッコリースプラウト」のストーリーについて書きました。
自給率が低くなった日本にとって、天候に左右されない生産と機能を持つ野菜の未来の扉が、大きく開いてきました。
私も、毎日「ブロッコリースプラウト」を食べています。
「スプラウトのストーリー」
最近はどこのスーパーの野菜売り場でも「ブロッコリースプラウト」を見かける。スプラウトとは発芽直後の野菜のことだ。日本のスプラウトというば「かいわれ大根」がある。過去には食中毒の感染源と疑われたことがあり、生産事業者は次々と倒産した。
国内シェア首位だった村上農園も危機を迎えたが、全社一丸となり、発芽栽培の技術を生かした新たな商品開発に取り組んだ。そして誕生したのがエンドウ豆の若葉「豆苗(とうみょう)」だ。安価で栄養豊富な野菜である豆苗はヒットし、倒産の危機を脱した。
村上農園は新たな商品の情報を求め、ブロッコリーのスプラウトが米国で注目されていることを知る。ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンという物質にがん予防効果があるという研究結果が、米国ジョンズ・ホプキンス大学から発表されたためだ。
日本での特許利用権を得るためのライセンスを持つポール・タラレー博士を訪ねるが、門前払いの日々が続いた。2年を超えて粘り強く交渉を続け、発芽野菜栽培のノウハウを持つことや、かいわれ大根の国内トップ企業であること、野菜を通じて人々の健康に役立ちたいという熱意を伝えた。これで独占的に生産販売する権利を獲得した。
村上農園はブロッコリースプラウトの販売にあたり「なんとなく体に良さそうな野菜」ではなく「がん予防のために摂る野菜」という機能性目的で野菜を買うという全く新しい消費パターンをつくり出した。
情報があふれるインターネット社会では、人の心を動かすブランドに育てることが肝要だ。村上農園は当時一般的でなかった英語の「Sprout」から「スプラウト」に名称を変え、人に伝えたくなる戦略的ストーリーで注目を集めた。
食中毒騒動による極限状態から活路を求め、ブロッコリースプラウトのがん予防効果を知り、生産販売に至るストーリーをメディアやホームページで伝えて興味と関心を呼んだ。この物語が多くのメディアで取り上げられて健康志向の人々が共感し、生産が追いつかないほどのブームを起こした。「ブロッコリースーパースプラウト」コーナーがスーパーの野菜売り場に設けられ、スプラウトというカテゴリーを確立した。
日本の食糧自給率は4割前後と、主要先進国で最低の水準にある。
近年の度重なる災害もあり、野菜の価値高騰への危機感は強い。
海外依存が強いほど、国際情勢によって輸入制限が起こり、食糧不足に陥るリスクは大きくなる。食糧問題はエネルギーや環境・医療課題とも、結びついている。
村上農園の植物工場は光や気温などの生育環境を制御し、災害や国際情勢に左右されずに安定した生産を実現している。通年変わらない価値で供給できる生産体制で、人々の健康に貢献している。









