第110回 「ヒーロー山田長政」」
2007年、バンコクで亥年を迎えた。
バンコクの街の景観は、近代的な建物が増えていたが、人々の微笑は変わることなく、タイの独自の文化が存続していた。
世界遺産アユタヤを訊ねると、燦然と残っている建造物もさることながら、いたるところに、昼寝やゆったりと闊歩している犬の楽園に目が止まった。
最近、狂犬病で話題になっているので、最初は鎖に繋がれていない多くの犬に戸惑ったが、開放されている犬達の表情は実に柔和で、タイの人々と共通したものを感じた。
中国をはじめ、アジア各国の「マネーがすべて物をいう」風潮の中で、国民の95%が仏教を信仰し、男子は一生に一度、仏門に入り修行するのが慣わしで、何か不幸なことがあると、汝がすべて至らないと考え、他人のせいにしない生き方がスタンダードになっている。
殺生はしないことが功徳をつむという人々に、犬達が信頼をしているように思えた。最近、多くの日本企業が、タイに新たな工場を設立している要因は、コストだけでなく国民への信頼感から来ているように思えた。
アユタヤ遺跡の入口に楠の大木があり、その下に、「山田長政」と筆文字で刻まれた大きな石碑に目が止まった。
初めは思い出せなかったが、幼少の頃、紙芝居で観たシャム王国(タイ)のヒーロー長政であった。
忘れかけていた記憶のヒーローに、思わぬところで出遭い興奮した。
山田長政が生きた時代は、戦国時代の終わりから鎖国までの50年、関ヶ原の合戦で生まれたリストラ浪人や大阪落城後亡命した浪人たちが、東南アジアに新たな新天地を求めて旅たっていった頃である。
朱印船に乗った貿易商人の1人が、長政であったと思われる。長政の実像の情報はあまり残っていないが、シャムの国で日本人町を創り、アユタヤ王朝の大臣にまでなり、国王の死後は王子を助け、地方の王国リゴール王にまでなった人物と言われている。ヒーロー長政は脚色された感もあるが、日本人が、初めて海外に進出して成功した開拓者だ。
今日のビジネスマンの、海外戦略の先駆け者として成功を納めた要因は、貿易を広めるために、アユタヤの内乱や外征に日本人義勇隊を率いて参戦し、つぎつぎと武勲を立て、その功績を国王ソンタムに認められ、信頼を獲得したところにあった。
自らの目先の利益だけを追求するのではなく、相手の立場になって問題解決して信頼を獲得し、時間をかけ事業インフラを不動のものにしてゆく長政の残した歴史は、今日の企業の短期的利益を追求する経営のあり方に、示唆を与えている。
オルセー美術館展
日曜、上野で開かれている世界屈指のパリ・オルセー美術館展に出かけた。
小学生の頃、教科書で見たゴッホの作品をはじめ、セザンヌ・マネ・ルノワール・モロー・モリゾ・ホイッスラー・バジール・モネといった画集で見慣れた作品が、いつも開かれる日展の開場に集い、身近で濃厚な時空を体感した。
19世紀、多彩な作品が創生された背景に、急激な産業化への変化の中で生きた芸術家たちが、それぞれの理想にかなう制作の場を探し求め、フランスのノルマンディーやブルターニュの村々が芸術家たちのコロニー(共同体)が形成されていたとのこと。そして、そこに集った若き画家達が競い合い、影響し合い、世界を代表する名作が生まれている。そして、背の高い「バジール」という、多くの画家達を集め議論を交わしていた中心的人物がいたことに興味を覚えた。
第109回 「自ら機会を創る決断」
新年新心
昨年のビジネス界は、市場成熟化の中で、生き残りをかけたM&A数2600件、そこに費やされた金額11兆、また、新興企業の株式公開134社と、これまでにない新旧交代の企業再編時代に突入した。そして、個人にいたっては、企業間での転職人材大異動の年だったように思える。
これからの企業の姿は、業界で圧倒的シェアN01企業と、狭域に根ざした唯一無二の企業群によって構成され、そこに向けての、自らのイノベーションが勝社の企業テーマとなってきた。
かつて、企業内新機軸イノベーションによって、成功に導いたホンダの創業者の本田さんが、人の役に立ちたいと日本中の自転車店主18000人に、誰にでも乗れる「カブバイク」を作って売る「本物の決断」をした。今や、ホンダブランドは、全世界で見かける素晴らしい成功をとげた。本物の決断が、企業に大きなパワーを与え、イノベーションへと繋がり、未来事業を育てていく。イノベーションを、自ら興した本田さんは、「何にフォーカスを当て、何が大切で、何をするのか」の決断を定めた。そして、自らの決断を「信じ」て、顧客との接点にすべてを集中し、定めた事業ドメインの中で、ひたすら、オンリーワンを目指し、愚直にやり抜きイノベーションが生まれた。
一方、今から40年前、リクルートの創業者江副さんは、起業家になる可能性のある人たちを集め、社訓として「自ら機会を創りだし機会によって自らを変えよ」と、語りかけた。そして、そこに共感したメンバーが新規事業イノベーションを興し、多くの事業を創生している。江副さんは、起業家集団組織を創ることを経営のコアにする「本気の決断」をした。 そして、今、一千億を超えるリクルートの利益の大半を、企業内起業イノベーション事業が創出している。 企業新規イノベーションの成否は、企業内起業家の存在が大きな要素となる。企業内起業活動を行うことのできる人材の才能は、有能な技術者や腕利きな営業マンとは違った、「新たな商品、ビジネスモデル、サービス」を創り出す価値を生む。そして、企業がゴーイングコンサーンを目指す限り、価値の創造を続けなければ経営は存続しない「確信」に、経営判断のプライオリティをおいた、江副経営の本質がここにある。
「自ら機会を創りだし機会によって自らを変えよ」という言葉の、「自ら機会を創る」ことは受身でなく、自らを積極的に会社に働きかける意味と、「機会によって自らを変えよ」は、出合った機会は、自身を変化させ成長させるチャンスであることを示している。
企業組織が、大きくなるほど受身の指示待ち人材や、オペレーションにたけている人材が多くなり、イノベーターが存在しない組織に陥ってしまう傾向にある。 江副さんの語った言葉は、各人に「強く主体性を持って、会社で自分の居場所を創れ、それが出来なければ去れ」という強烈なメッセージでもある。
今年は、ますます企業再編時代に拍車がかかり、それぞれの会社でイノベーションが求められる。
志を持って「自ら機会を創る決断」によって、2007年猪年を突進してゆきましょう!



