インキュベーター社長日記 | インターウォーズ株式会社 吉井信隆のブログ -19ページ目

第204回 「リクルート上場に想う」

10月16日、リクルートHDが東証一部に上場しました。
この日ニューヨーク株が続落し、その影響で日本の上場企業の株価も続落している中、公募価格を上回り、時価総額は2兆円を超える今年度最大の上場となりました。

私がリクルートにいた頃、江副さんに上場の意向を尋ねたことがあります。
「今の規模と株主構成で上場すると、大企業に買収される可能性があるよ。リクルートは情報産業なので、中立が担保されなければならないから上場はしない」と言っていました。

その後、江副さんが経営を離れ26年が経ち、デジタル情報革命によって経営環境は激変し、世界も日本も産業構造の転換期を迎えています。
1兆8000億の借入を返却し終え、一兆円を超える売り上げ規模となったリクルートが成長してゆくには、人材、販促ドメインでグローバルNo.1を目指してゆくことが求められます。
スピード成長を実現してゆくには、M&A等のために巨額の資金が必要であり、非上場を維持してゆく理由がなくなり上場に至りました。

資源を持たない日本の、明治維新以降の目覚ましい成長と豊かさは、世界でも類を見ないケースだといわれています。渋沢栄一を始めとする起業家精神旺盛な多くのベンチャー企業が勃興し、今日の日本経済を築きました。

昭和11年生まれの起業家江副さんの功績は、日本の人々に自由に仕事を選ぶ機会を提供し、様々な選択ができる世界を創り日本の成長に貢献したことだと思います。
そして、リクルートのDNAと「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という起業家精神は、色あせることなく生き続け、様々な分野で活躍している起業家を誕生させた稀代の経営者でした。

残念なことに昨年の2月、江副さんは上場を見届けず亡くなってしまいました。
リクルートのDNAが国境を超えて、一人でも多くの人々がもっと自由に職業や機会を選べる世界が実現することを願ってやみません。



安比高原・江副さんの記念碑にて

サイン


第203回 「経営=変化適応業」

 過日、九州の宮崎の繁華街にある百貨店や商店街、そして、イオンショッピングモールを訪ねました。

 宮崎の街では見かけなかった若者たちが、街の中心地から少し離れた巨大なイオンショッピングモールを楽しそうに闊歩している姿がありました。
最近、巷で「ヤンキー経済」や「ヤンキー消費」といった言葉をよく聞きます。「不良」ではなく、地元志向が強く友人や家族との絆を重視し、活動や関心の範囲はとても狭いが、幸福度は高く、消費意欲も旺盛な若者たちのことです。
 ITへの関心やスキルは高くなく、子供の頃からの友人達と永遠に続く日々を求めるマイルドなヤンキーたちは、地方都市に多く存在しているといわれています。
 都心で暮らしている高感度の若者たちは、スマホやSNSなどに生活時間の多くを費やし、人間関係を維持していくためにお金を使い、物を買わない傾向にあるようです。
 ところが、地方都市にいるマイルドヤンキー達は、クルマやショッピングモールで買い物にお金を使う物販の主役たちとして、注目を集めています。
 こういった宮崎のマイルドヤンキーたちが、頻繁に出入りして多くの時間を過ごしているのは、巨大なイオンショッピングモールでした。

 9月24日、消費者の夢を背負い日本の流通革命を起こした業界トップ企業だったダイエーが、イオンの完全子会社となるとの発表がありました。
東日本大震災が起こった2011年あたりから、ますます人々の意識もお金の流れも変わり、駅近くにある総合スーパーダイエーの大半が、生活者のライフスタイルには合わないビジネスモデルとなってしまいました。60年に渡って親しまれたダイエーブランドが、2018年に消えることになります。
 ダイエーを傘下に収めたイオングループは、四日市で1758年に創業し、今ではグループの従業員は40万人、8兆円を超える巨大グループに成長しています。イオングループは生活者の変化を捉え続け「イオンに行けば何でもあり、一日中楽しく過ごせる、マイルドヤンキーが集う街のコミュニティー」となって、都会にはない、地方独自の新しい経済圏と文化をもたらしています。
 一方、Eコマースの巨人、アマゾンの売上高は8兆1500億円となり、日本のネット販売額は、13兆円に達したといわれています。現在、アメリカ全体の小売りの30%がEコマースの売り上げとなっており、日本が現在の10%から、今後30%までシェアが拡大すると、28兆円がネット市場に流れることが予測されます。

 日本も世界中も、脅威を感じるスピードで人々の意識もお金の流れも変り、想定を超えた産業構造変化の動乱期に入ったのかもしれません。
 いつの時代も、強いものが生き残るのではなく、変化に適応した企業のみが生き残っています。
 巨大になったイオングループがダイエーの二の舞にならない為には、常に新しい小さな変化を捉え、挑戦を恐れず変革の物語を創っていく企業内起業家達の創生にかかっています。

サイン

第202回 「山古志の闘牛と復興」

夏休みに、日本の原風景と文化が継承されている、新潟の山古志を訪ねました。

里見八犬伝でも記された千年の歴史がある「闘牛大会」を、初めて観戦しました。
見たことのない1トンもの闘牛が激しく角を突き合い、頭と頭が「ゴツン」とぶつかる鈍い音が会場に響き、勇壮な大迫力の死闘に興奮しました。



隣に居合わせた年輩の牛持ちのオーナーから、「山古志の闘牛は、足腰が強く寒さや粗食に耐え、昔から棚田での農耕の働き手で、家族のような存在。“牛の角突き”は、村唯一の娯楽であり、伝統文化を受け継いだ郷土の誇り」との話しを伺いました。

今から10年前、山古志村は直下型の中越地震で崩壊し、存亡の危機を迎えた村です。
牛舎は倒壊し、牛持ちが大切に育てた角突き牛の半数は、命を落としてしまったとのこと。
長島村長(当時)の決断により全村避難指示が出たことで、生き残った牛たちも置いて行かなければならず、牛をつないでいたロープを切り、牛を残しヘリコプターで避難せざるを得ませんでした。
でも、どうしても牛を見殺しにできない、なんとしても助けたいと考えた牛持ちの人達が、避難所から抜け出し、余震の続く山古志に戻り、生き残った牛たちのすべてを、ヘリコプターまで使って無事に避難させたドラマがありました。こうした村民の努力が、今日の闘牛大会に繋がっています。

今、世界の人々のライフスタイルは、1998年に生まれたIT業界の巨人グーグルによって、一変しました。日本は、東京への一極集中が続き、企業や若者が地方から東京へ流出し続けた結果、地方は衰退の一途をたどっています。一方、東京では晩婚化、少子化が加速して、いびつな人口構成になっています。

地域の再生なくしてこの国の復活はないといわれていますが、山古志は震災から力強く復興し、土地の特性を活かし錦鯉や棚田、アルパカ牧場、スキー、観光などによって自立した経済を営んでいます。

山古志で見た夜空の星は身近で、人と宇宙が近づく限界のように思え、先人達が育んだ伝統文化を力強く継承し闘牛大会を盛り上げている若者達は輝いていました。



サイン

第201回 「お金の存在が変わってきた」

過日、IT業界の経営者の皆さんと飲みながら、日本の未来はお金の姿が変わるとの話になりました。IT社会が到来してから、「お金のポジションや存在感が弱まってきている」と、話が拡がりました。

デジタルマネーの存在が強まるにつれ、リアルの世界で目に触れ手にする紙幣・硬貨としての「お金そのもの」の価値が弱まってきているように感じます。収入を得て商品を購入するまで、一度もお金を目にすることなく完結することさえ違和感なく出来る世界が成立しています。

IT社会の到来により、お金そのものに価値があるのではなく、「情報」によって価値が変わる社会に変貌しました。
ネットで商品を購入する場合、まず価格ドットコムなどで価格を比較し、安いお店で購入します。ブランドを持つ商品であれば価格がどうであろうと品質には関係がありません。「情報」が商品の「価値」を変えたのです。

実際の店舗で商品を売買していた時代は、とにかく消費者の目に留まる場所に置くことや、CMを始めとする販促に投資できる会社が勝っていました。
対してネットビジネスは、消費者へダイレクトに商品を販売できるので、SNSなどの口コミが影響を与えます。高品質で評判の良い「商品」が生命線となり、「商品」の存在が大きくなってきました。今後、必要なものはますますネットで購入するようになり、個人の時間の使い方や働き方は変貌していくと予測され、今以上に「情報」が価値を生むようになると考えられます。
IT技術の進化による情報革命は、人々の脳の意識を変え、ライフスタイルを変え、社会の構造を変革しています。

情報革命により、「お金」を中心とした資本主義から、「商品価値」を中心とした社会に移りはじめ、お金を媒介しないパワーシフトが起きてくるのかもしれません。
何処でも誰でも情報を手にし、便利で合理的なライフスタイルになっていくと、お金の価値が変わってきます。
情報革命がもたらす「価値」を中心とした社会は、これまで私たちが目にしたことのない景色を見せてくれるのかもしれません。

サイン

第200回 「投資と人材紹介のインキュベーター」

IPO市場が、活況になっています。06年の155社には及びませんが、今年度70社を超えそうな勢いです。こういった流れから「起業時の投資リスクマネー」の動きが、着実に変わり始めています。
稀代の経営者スティーブ・ジョブズは、アップルの創業時、「投資がほしいなら、マーケティングと物流がわかり、事業計画がつくれる人をパートナーに迎えなさい」と、投資家のドン・バレンタイン氏に迫られたと伝記で語っています。
その後、「バレンタイン氏から、物流や財務のプロ人材のマイク・マークラを紹介され、その後20年、欠くことのできない存在だった」と、ドン・バレンタイン氏に賛辞を送っています。

企業内起業も、ベンチャー企業においても、起業家の才能とリスクマネーは必要です。しかし、それだけでは起業を成功に導くことはできません。起業時は、様々な課題に遭遇します。
起業のメッカ、シリコンバレーやサンフランシスコでの起業成功物語には、必ずインキュベーターの存在があります。
彼らは単にお金を投資するだけでなく、人材紹介やインキュベーションノウハウ、事業戦略、マーケティング支援などによって起業家をバックアップし、成長に導いています。

日本には明治維新の頃、王子製紙、東京海上火災保険、東京ガス、サッポロビールなどを始め日本を代表する企業を500社インキュベートし、資本主義の父といわれた渋沢栄一氏がいました。
渋沢氏は、庶民から集めたお金で第一国立銀行を創り、起業家に投資するだけでなく、その会社に必要な技師・商人・職工などの人を紹介していた史実があります。

日本は、失われた20年といわれていますが、「日本ほどお金のある国はない」ともいわれています。
デフレ経済からの脱却の道筋は起業立国にあり、リスクマネーの流れができつつある現在、ボトルネックとなる最大の要素は人にあります。
起業家と共に歩む人材を紹介するドン・バレンタイン氏や渋沢栄一氏のようなインキュベーターインターウォーズでありたいと思っています。

サイン