SS 未彼と未彼女の攻と受け◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 大変お待たせしまくりました。2023年蓮誕、締めくくりの最終話、お届けいたします、一葉です。

 あ、ちなみに。原作の二人とはかけ離れた内容となっておりますので、キョーコちゃんはこんなこと言わないでしょとか、そういうことは書いた本人が一番理解していることですので敢えて指摘しないでくださいませ。

 

 前話こちら⇒【5


■ 未彼と未彼女の攻と受け ◇6 ■

 

 

 

 

 彼氏と彼女ではないけれど、互いに向かいあう想いがある以上、俺たちが共に過ごせる時間を持つことは許容される範囲だと俺は常に思っていた。

 

 

「・・・罰として2月10日は俺と一緒に過ごすこと、なんてセリフを吐かずに済んで本当に良かった」

 

 

 あの子と約束をした自分の誕生日当日。最上さんが時間通りに鳴らしたチャイム音で即座にソファから立ち上がった俺は、玄関に向かいながらそうぼそりとつぶやいた。

 

 微笑で迎え入れた俺に彼女は開口一番おめでとうございます、と花丸な笑顔で祝辞。直後、大事そうに抱えていた大きなバッグに入れてきたという手作りのバースディケーキを冷蔵庫に入れたいという最上さんの希望に沿って二人でキッチンに向かった。

 繊細な手つきでソソソ・・・とテーブルに置かれたケーキボックスを見て先に俺が口を開いた。

 

「やけに大きいね?」

 

「そうですよね、すみません。二人きりで食べるのであまり大きいのは・・と思ってケーキ生地は薄めにしたんですけど、面積がないと22本もろうそくを立てられないじゃないですか。だから8号にしてみたんです」

 

「8号?」

 

「直径24センチです」

 

 

 俺を見上げながら2を意味するのだろう右手のピースと、4を意味するのだろう親指を折り曲げた左手を頬の近くに掲げた最上さんの顔にはいかがでしょうかと書いてあって、思わず頬がほころぶ。

 手作りをしてくれたというそれだけではなくて、初めから二人だけで食べる気でいてくれたという、彼女のそれが嬉しかった。

 

 

「ありがとう。嬉しい」

 

「えへへ」

 

 それからリビングに移動した。

 コートを脱いだ最上さんは上品なリブセーターを着用していた。胸元にリボンのあしらいがあってそれが女の子らしくて可愛らしい。

 

 俺が勧めるままに一度隣り合わせでソファに腰を下ろしたけれど、落ち着く間もなく今度は最上さんが口を開いた。

 

 

「敦賀さん、朝食はもう召し上がりました?」

 

「え?っと、まだだけど」

 

「ふふ。やっぱり、そうだと思いました!私、軽く何か作りますね。ご飯とパンとどっちがいいですか、敦賀さん」

 

 そう言ってせわしくまた立ち上がろうとした最上さんを引き止めた。

 

「・・え・・」

 

 

 あのね、君。

 俺、本当はまだちょっとだけ怒ってもいるんだよ。

 

 何にって?それは自分をストーカーしていた男に対して、俺から許可証をもらえたらチョコを渡してもいい、なんて言っていたこと。

 

 

 もちろん、俺がそんなことをするはずがないともしかしたら信じていたからこそそんなことを言ったのかもしれないけれども。

 

 それを見越して敢えて聞くけど

 もし万が一にもその許可証とやらを俺が発行していたとしたら、君はどうしていたんだろう。

 

 

「敦賀さん?」

 

 

 本当に聞いてしまおうか。

 でもそれが要因となって雰囲気が悪くなってしまっては意味がない気がした。

 

 俺の無言の行動を不思議に思ったのだろう彼女の瞳がゆらりと揺れる。

 

 中腰の姿勢が苦痛だったのか俺に腕を掴まれたままの状態で最上さんが再びソファに腰を下ろした。すかさず上体を反転させ、覆いかぶさらん勢いで距離を縮める。

 上から覗き込むように最上さんの顔を見下ろすと、俺と視線がかち合った最上さんが生まれた子猫のような声をもらした。

 

 

「うにゃぁっ」

 

「最上さん」

 

「・・うぅぅぅ、はい」

 

「君はご飯を食べてきたの?」

 

「はい、だるまやで一応食べてきました」

 

「そう。だとしたら朝食はいいかな。自分一人だけでご飯を食べるなんて嫌だから」

 

「えええー。でも私、今日はスペシャル家政婦になろうと張り切ってきたんですよ!?」

 

「スペシャル家政婦?」

 

「そうです。だって今日は敦賀さんのお誕生日じゃないですか。それに敦賀さんはこの日をお休みしたくて社さんにお年玉を要求したんですよね。だから今日はとにかく敦賀さんが休める日にしてあげなきゃって、そう思って来たんです」

 

 

 なるほど、君はそう取るんだ。

 まぁ予想はしてたけど。

 

 

「ありがとう。でも俺はこのまえ君に伝えた通り、二人で過ごす濃密な時間が欲しいんだけど?」

 

 

 これは本音だ。

 彼女の耳元に口を近づけて、囁きながら甘く強請ると最上さんは呼吸を失敗した蛙のような声を上げて真っ赤になった。

 

 

「ふぎゅっ」

 

「ぷふっ」

 

「むぅ、からかったんですね?!」

 

「からかってなんかいないよ。本当にそう思ってる。ごめんね、まだ俺、君の彼氏でも何でもないのに」

 

「・・・っ・・それは、私も同じです」

 

「ん?」

 

「私だってまだ敦賀さんの彼女じゃありません」

 

「うん、わかってる」

 

「だけど、喜んでもらいたいから」

 

「うん」

 

「正直、なぜ敦賀さんが私なんかを好きになってくださったのかが不明なんですけど」

 

「それは俺も同じだけど」

 

「そ、ですよね」

 

「君の気持ちを聞いてから、ふとした時にいつもこう考えてしまう。なぜ最上さんが俺なんかを好きになってくれたんだろうって」

 

「え?そっち?」

 

「だって実際不思議じゃないか。俺、だいぶ君に意地悪だったと思うし」

 

「ふふふ、分かっていたんですね、それ。まあ確かに最初の頃はそうでしたけど」

 

「でも、君と言葉を交わすたびに君の人となりを知って行って、そのたびに可愛いなって、いい子だなって、そしていつの間にか好きだなぁって、そう思うようになっていったんだよ」

 

 

 細い腕をつかんでいた手を徐々に滑らせ、膝の上で手をつないだ。

 もう一方の手で最上さんの頬を撫でると、めちゃくちゃ照れくさそうにしていながらも彼女の唇が幸せそうに弧を描いた。

 

 

「・・・・お誕生日、おめでとうございます」

 

「うん、ありがとう」

 

「プレゼント、どうしようか色々悩んだんですけど」

 

「本当に?嬉しい。でも物なんていらないよ。さっきも言ったけど、俺は今日この家で君と濃密な時間を過ごしたい。ただそれでいいんだ」

 

 

 ごめんん、俺、わがままで。でも許されると思うんだ。

 まだ彼氏でも彼女でもないけれど。

 

 互いに向かいあう想いがある以上、共に過ごせる時間を持つことは許容される範囲だと思うから。

 

 

「は、はい、それはもう、何度も聞きましたので・・・」

 

「何度も?まだ俺3回しか言っていないと思うけど」

 

「いえもう、それだけ聞かせていただければ十分ですので・・・」

 

「そう?」

 

「はい、それで、敦賀さんがおっしゃる濃密な時間というのがどういうものかをわたくしなりにいろいろ考えましてですねっ」

 

「え?」

 

「僭越ながら私、思いついたことがありまして・・」

 

「ん?」

 

 

 えっと、なにそれ。それは完全に予想外。

 まさか君がそんなことを言うなんて。

 

 

「何を思いついたの?」

 

 

 首をかしげてそう尋ねると、最上さんは見える場所全てを真っ赤に染めて瞼をぎゅっと固く閉じた。ついでに俺の手もぎゅっと握った。

 

 

「これから私、敦賀さんにこの世のものとは思えない地獄をプレゼントいたします」

 

「え」

 

 地獄?

 

「さあ、それでは心の準備は宜しいでしょうか?!」

 

「え、え、え?」

 

「第一の地獄は無限ハグ地獄です!!」

 

 

 言うなり最上さんがいきなり俺に抱き着いた。

 照れているのだろうことは耳まで真っ赤なのを見れば一目瞭然で

 

 どういう過程でこの地獄を思いついたのかは不明だけど

 

 とにかく確かに地獄だった。

 

 

「ど、ど、ど、どうですか?敦賀さんッ」

 

「なんていうか身体だけじゃなく心までぎゅっとされて苦しい、かも・・」

 

「ふふふふふ。そうです、そんな地獄なんです!このままスリスリ地獄をプラスします!」

 

「スリスリ地獄っ?!」

 

 

 俺に抱き着いたままの最上さんの頬が何度も俺の胸にスリスリ。

 そのたびに彼女の香りが打ち寄せる波のように何度も届いて、危うく別の場所にも波が到達しそうになった。←(笑)

 

 

 えっと、なんだ、このイチャイチャ地獄。

 予想外過ぎてむしろテンパる。

 

 あまりに甘い地獄すぎて口元のゆるみが戻らなかった。

 

 

 数時間後。

 

 

「・・・・すみませんでした」

 

「なんで謝る?」

 

「実は散歩中のワンちゃんと飼い主さんを見て思いついたことでして、飼い主さんがすっごく喜んでいたのを見てやってみようって思いつきまして・・・」

 

「俺のプレゼントになると思って?」

 

「う・・・なっていませんでした?私は、敦賀さんにこんなことされたら嬉しいかもって

 

 

 いや、なってた。思わず昇天しそうなほど恐ろしいプレゼントだったと思う。その中にあった確かな濃密・・・。

 だけど。

 

「なんで地獄?」

 

「あっと、それは・・・。もしかしたら嫌かもしれないとも考えたので。一応やんわりとそういうお断りを事前にさせていただいたというか」

 

「なるほど」

 

 その思考はある意味、君らしいかも。

 そう思った途端に口元がにやけてしまった。

 

 この世にこんな素晴らしい地獄があるとは思いもしなかったから。

 

 

「ありがとう。かなり嬉しかった」

 

「え・・・えへへへ。良かったです」

 

 

 まだ未彼と未彼女の俺達だから

 どんなに欲しいと思ったとしても、君の肌を求めるわけにはいかないけれど

 

 こんな風に少しだけ大げさに手を伸ばして、勇気をもって攻めて受け止めるのはアリだと思った。

 

 

 

 

 

 END


甘々な二人の姿が見たくなっちゃっての所業です。遅くなって大変失礼いたしました。

ちなみに、この地獄ネタは「いい夫婦の話」というマンガが元ネタです。かわいい奥さんと素敵な旦那様のお話で大好きです。

 

⇒未彼と未彼女の攻と受け◇6・拍手

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