超ーぅ絶お久しぶりでございます、一葉です。
いや、もう、本当にね。
さて本日お届けするのは原作沿いです。今さらですけど46巻のACT.281の派生。おい。
このところ暑いですからねー。こんな二人はいかがでしょう。
■ 夜気の心地 ■
敏腕マネージャーの計らいで、久しぶりに最上さんと二人で過ごしていた。
自分の家のリビングルーム。
並んでソファに座ってテレビを観ていたのは、遅い夕食を摂った後の名残だった。
「・・・っ・・」
時の経過とともに番組が切り替わり、彼女の視線が釘付けになった。
ちらりとも動かないその横顔を見つめながら、いまこの子は何を考えているんだろうと気になった。
なぜなら、ふいに頬が上気したのだ。
音楽番組をずっと凝視していただけのはずなのに。
「・・・っ」
いま、君の心を支配しているのは一体なに?
『・・・このあとも引き続き、先日完成お披露目されたアドミレーションホール・サンタ・ローザからお届けいたしまーす!』
CMに入ってきっと集中力が途切れたに違いない。
途端にふふふ、と微笑まし気に彼女が笑った。
笑った?
一体なぜ。
「最上さん?」
「うょっ?!」
「なに急に。なんでいま笑ったの?」
「あうっ。やだ、笑っちゃって・・・ましたよね、いま私」
「うん、確実に。・・・なに?」
俺の気のせいでなければ
さっき画面にいたのはセドリックだったんだけど。
アイツを凝視するだけにとどまらず
頬を染めて笑いをこぼすなんて
一体どんな理由があると?
「いえ、あの・・・・敦賀さん。そんなじっくりじーっと見られてもですね・・・・」
「なに?俺が君を見つめちゃいけないわけ?」
「いえ、いけないとかそういうことではなくて。ただそこまで目を見開かれた状態で凝視されるのはちょっと、居た堪れないっていうか・・・」
「そう?」
だったら理由を言いなさい、って言っていいのか考えた。
正直なことを言えば
俺から無理やり吐かせるのではなくて、君から理由を言って欲しい。
そうじゃないと、きっと俺は君を泣かせてしまうと思うから。
「・・・・・っ」
「・・・敦賀さん」
「ん」
「凝視するのやめてください」
「なぜ?俺はただ君を見つめていたいだけなのに」
「・・・っ!!」
やっぱり駄目か?
いっそ追い詰めて吐かせたほうが・・・?
「も・・・もう!!!」
「・・・・」
「別に特別な意味はないんですよ!」
「ん?」
「ただ、ちょっと思っただけで・・・」
「なにを?」
「だから・・・・。さっき、セドリックが出演していたんですけど、それは見てました?」
「うん、まあ・・・」
「前にテレビで見た時もそうでしたけど、あの人って誰からもプリンス・セディって呼ばれているじゃないですか。それでつい・・・笑っちゃっただけなんです」
うん、だから。
言っている意味がわからない。
「・・・その顔は意味がわからないって顔ですね」
「よく分かったね」
「わかりますよ。不思議なことに」
「うん、それで?それのどこに笑いにつながる要素が?」
俺が真顔でそう突っ込むと
最上さんは少しだけ声を張り上げながら両手で自分の顔を覆った。
顔を赤く染め上げて。
「・・・っ!!あーもー!!だ・か・ら!!!!」
「だから?」
「・・・っっ・・王子さまはここにいるのにな、って!!!」
うん?
「そう考えちゃったら笑いが漏れちゃっただけです!!!」
うん?
うん?
それってまさか・・・
「最上さんの言うここってどこ?」
「っっ!!!なんでそこまで言わせようとするんですかっ。ふつーそこは察して納得しちゃうところでしょうが」
「だって言って欲しいから?」
クスリと笑って目を細めると
最上さんは膝を折り曲げて体育座りで顔を伏せて隠してしまった。
その肩を抱き寄せる。
「言って?キョーコ・・・・」
耳元に唇を寄せて甘く小さく囁きかけると
相当恥ずかしくなってしまったのだろう彼女は片手で俺の肩を力いっぱい押し返した。
腕が外れた個所からのぞける彼女の顔はやっぱり真っ赤に染まっていて
俺は零れてしまう喜びのまま
宝物を掘り出すみたいに両手で彼女の顔を挟んで、可愛い告白をしてくれたその唇に3秒キスを5回贈った。
「・・・っっ・・・なに、するんですかぁぁぁ・・・」
「お姫様にお礼のキス」
「だっ、誰がオヒメサマですか・・・」
「君以外の誰がいる?」
「・・っ・・・」
王子の相手はお姫様と決まっている。
そんなことを知らない君じゃないだろう。
気分が浮上したところでテレビを消して、送って行くよと手を差し出した。
最上さんは恐ろしく仏頂面だったけど、そんな顔をしても可愛いだけだ。
「あ・・・あれ?」
エレベーターを降りて外に出ると、少し雨が降っていたのだろうか。
肌に触れる空気がいつの間にかひんやりしていた。
「なんだか昼間の暑さが嘘のように涼しくなっちゃっていますね」
「そうだね」
顔を見合わせて微笑みあって
少し上気していた体温をまるで甘やかすかのように
冷えた夜気がとても心地よく感じられた。
E N D
まだ5月なのに天気予報で「夏日」とか言われると本当にうぇ~ってなっちゃいますけど、夜はまだ涼しいな、っていうお話(笑)
■おまけ■
車に乗り込んで少しして、助手席の最上さんが微かな声で呟いた。
「不意打ちで5回キスとか、やめてほしい・・・」
聞こえるか、聞こえないかの本当に小さな声だったから、とりあえず俺は口を開くより先に彼女に視線を向けたのだけど。
最上さんは俺ではなく外の景色を眺めていた。
・・・ということは、それは独り言、ということだろうか。
なぜ5回もしたのか、理由を口にしようかとも思ったけれど、微笑を浮かべるにとどめて俺は敢えて口を開かずまた前を見た。
5回にしたのは歌詞にちなんでアイシテルのサインのつもりだったんだけど
君のつぶやきは不意打ちじゃなければしてもいい、という意味だと受け止めておくことにする。
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