いらっしゃいませ。一葉です。
事前告知しておりませんでしたがお気づきになったお嬢様もいらっしゃったと思います。前回、後編でお届けしたそれをごっそり内容変更して続き物に変更してしまいました。
蓮くんとキョーコちゃんを幸せに導くべく、練り直した蓮誕作。彼のお誕生日には絶対間に合いそうにありませんけど、完結までお付き合い頂けたら嬉しいです。
■ 未彼と未彼女の攻と受け ◇3 ■
『社さんからは何も言わないでください』
昼間、蓮から言われたセリフを反芻しながら乾いた笑いを浮かべた。
自宅のこたつに両腕もツッコミ、空になったコンビニ弁当の容器を避けてこたつテーブルに突っ伏す。
「簡単に言ってくれるよなー、あいつ。妙なところでヘタレのくせに」
本当に
キョーコちゃんが絡むと蓮はだいたいヘタレる。
自分の気持ちを自覚する前から独占欲丸出しにしていたし
ライバルが出現しそうになると牽制したり、ヤキモチ妬いたり大忙しで
そのくせキョーコちゃんにだけは甘い顔をしてみせたり。
そんなこんなでせっかく両想いになったくせに付き合ってはいないとか訳わからんこと言いだして・・。
けどそれもキョーコちゃんの安全を考えてのことだろうと、俺はすぐさま理解したけれど。
だったらおとなしくしているべきなのに
自分の誕生日はキョーコちゃんと過ごしたいとか・・・。
「どんだけなんだよ、お前は!!」
まぁ、でも分かるよ。
恋しちゃったらそんなもんだよな、誰だって。
その気持ちはもちろん理解できるけど。
「けどさ~。キョーコちゃんにそこんところを気付かれることなく、ピンポイントで2月10日の仕事だけ開けておくよう言い含めるとか、絶対無理があるだろが。どんな鈍くてもピンとくるって!」
いくら、いくら、いくらラブミー部員一号のキョーコちゃんでも。
「・・・・・・・いや、そんなことないかもしれない」
よく考えたらキョーコちゃんの思考って、ちょっとなんかアレだよな?
だったらヘタレの蓮のためにもむしろ・・・・。
「・・ふむ」
そうと決めたらサクっと連絡しておくか。
ビニール手袋を装着し、携帯電話を持ち上げる。
画面に表示されている時刻が23時40分なのを見て苦笑が浮かんだ。
こんな時間に俺が家にいられるのは、今日の仕事がだいぶ巻き気味に終わったからだった。
キョーコちゃんが逃げるように帰ってしまったあと、実は蓮のご機嫌が地に落ちた。
それまではただ顔面筋肉を引き締めているだけだった蓮に負のオーラが加わったことで、とにかく現場が緊迫し、揺らぐことが許されない緊張感がその場に発生。そのためだろう、たった一度のNGさえ出させることなく、すべてのシーンを撮り終えた。
恐るべし、魔王蓮の威力。
キョーコちゃんのナンバーをコールしながら、昼間見たキョーコちゃんの姿を思い出して今度は口元を緩める。
自分の言動が蓮にどんな影響を与えているのか、きっと知らないのだろうな、あの子は。
コール音が3回鳴ったところで電話がつながった。
『はい、最上です。お疲れ様です、社さん』
「お疲れ様。キョーコちゃん、夜遅くにごめんね。スケジュールの件で話しておきたいことがあるんだけど大丈夫?」
『はい、大丈夫ですよ』
「良かった。2月8日以降の仕事についてなんだけど、必ず俺に話を通してから返事をすることにして欲しいんだ。もちろんプライベートな予定を入れる場合も最初に俺に連絡をくれる?」
『はい、了解しました!』
「うん、それだけなんだ。それで、今の時点で入っている予定はある?」
『あ、いえ、いまのところは大丈夫です・・・・。あの、社さん』
「うん?」
『あの・・・あ、やっぱりいいです』
言い淀んだ・・・ってことは、ひょっとしたら昼間の件かな。もしかしたら。
「なに?遠慮せずに聞いて」
『いえ、大したことはないので』
いやいや。大した事あったからね?
キョーコちゃんが帰っちゃったあと、大魔神が目を覚まして大変だったんだから、本当に。
おかげで仕事は早く終わったけれども。
どうぞと先を促してもキョーコちゃんは大丈夫です、というだけでそこで会話が途切れてしまった。
けれどキョーコちゃんから電話を切る様子はなく。
こういうとき、キョーコちゃんは本当に出来る子だよな、と思う。
俺から電話をかけたから。
社会通念上、受けた側から電話を切るのは失礼にあたることを彼女は知っているのだろう。
キョーコちゃんは目上から可愛がられる良識を持っている。
だからこそ、大丈夫だと思うんだ。
蓮とキョーコちゃんのこと。
きっといい方向に向かうよ、きっと。
「そういえば、キョーコちゃん」
『はい?』
「今度会ったとき、キョーコちゃんにもお年玉をあげるね」
『へ?お年玉、ですか』
「そう。実はあのあと蓮に八つ当たり気味にお年玉を要求されてね。俺は蓮とキョーコちゃん、二人のマネージャーだから、蓮にあげるならキョーコちゃんにもあげないとと思って」
『え?あの、社さん、それって本当に敦賀さんにお年玉を上げたっていう話ですか?普通の?お年玉を?』
「フフフ、普通、とはちょっと違うかも。俺が何をあげたか知りたい?」
『知りたいです。かなり興味があっ!!いえ、すみません!そもそも私が聞いていい内容ではないですよね、そんなこと。忘れてください!』
「いやいや、別に平気だよ。2月8日以降に休みが欲しいって言われただけだから」
『え』
俺の言葉にキョーコちゃんは心底びっくりしたみたいな声だった。
ある意味、予想外だったのかもしれない。
『・・・・・やすみ、ですか』
「うん、そう」
『休み・・・だったんだ・・・・』
「うん?」
『それは確かに・・・』
確かに?
確かに、とつぶやいてのち、またキョーコちゃんは黙ってしまった。
ま、伝えることは伝えたから。
何故このネタでキョーコちゃんが思考の小部屋にこもってしまったのかはわからないけど、どうせなら一生懸命考えてもらって蓮が考えていることを自然に察してくれたら・・・。
たぶん、そううまくいかないだろうけど。
「俺が伝えたいことは以上だよ。ごめんね、キョーコちゃんこんな遅い時間に」
『は、いえ、大丈夫でしたので』
「それじゃあね。おやすみ」
『はい、おやすみなさい。失礼します』
電話を切って、手袋を取ってからゴロンと寝ころび、天井を見上げながらなんか変な手ごたえだったな、と思った。
それでなくともキョーコちゃんもまたそういう方面に鈍いから。
だから具体的に匂わせたつもりだったのだが。
果たして気づいてくれるだろうか。
2月10日に蓮が休もうとしていることを。
しかもあわよくばその日にキョーコちゃんと二人で過ごしたいと計画していることを、キョーコちゃんは察することが出来るだろうか。
「無理かもな。まあでもそこのところは蓮くんがちゃんとどうにかするんだろうし。いいか、別に」
もともと何も言うなと蓮から釘を刺されていた事だから。
気づかれても、気づかれなくても、どっちでも。
「けど、そうなると二人が付き合う日がいずれ本当に来るのかどうかに疑問しか浮かばないよな。はは・・・」
蓮といい、キョーコちゃんといい
なんて恋愛に疎いんだ。
想いが通じ合ったっていうのが奇跡のように思える。
この後日談。
結果として、この時の俺の親切心は全く功を奏さなかった。
しかし、事態は急転直下の様相を呈することになる。
⇒未彼と未彼女の攻と受け◇4に続く
もう蓮くんのお誕生日は目の前なのになんと次に続いちゃいます。絶対間に合わない気しかしない・・・。
そんな私ですが、今月、久しぶりに会える原作スキビが超楽しみです!
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