おつきあいいただきありがとうございます、一葉です。
お待たせしてすみません。前編をお届けしてからだいぶ間が開いてしまって我ながらびっくりです。
どうかちょびっとでも楽しんでいただけますようにー!!
前話こちら⇒前編もとい1
■ 未彼と未彼女の攻と受け◇2 ■
室内ドラマ撮影現場にて、ようやく休憩に入ることが出来て椅子に座った。
壁にかかっている時計に目をやり、もうすぐかも・・・と考えた途端に口元が緩みそうになり、ぎゅっと口角を引き締める。
耳にこだましたのはあの日の彼女の年始の挨拶で
あれからなぜか頻繁にあの子が自分の仕事場に顔を出してくれるようになっていて俺はずいぶんご機嫌だった。
「蓮。その真顔ちょっと怖いよ。もうちょっと和やかに」
「うるさいですよ、社さん」
そう。ご機嫌ではあったのだけど、最近とくにあの子のことを考えると顔が緩みやすくなっているらしく、そのことを社さんから指摘されてなるべく表情を崩さないように気を配っていた。
しかしそれを意識して表情筋を緊張させているとどうにも不機嫌に見えるらしい。
それで時々こんな風にぼそりと、俺は社さんから別の指摘を呟かれるようになっていた。
っていうかさ。
こう言っちゃなんだけど、俺だってね、以前通りにちゃんと敦賀蓮らしく振舞いたいとは思っているんだよ、本当に。
だけど仕方がないんだよ。
だって考えてもみて欲しい。
恋愛関連にはとにかく鈍いあの子が、わざわざ、意図的に、どういうわけか自分の時間を割いてまで俺に会いに来てくれるんだから。
それが嬉しくないわけがない。
「敦賀さん、お疲れ様です!」
「・・・やぁ、最上さん」
パタパタと軽快な足音を響かせて、予想通り俺の現場に顔を出してくれた最上さんに声をかけられ、意識的に表情を引き締めた。
なるべく顔が緩まないようにと気を付けているつもりだけど、目を細めて彼女を見つめてしまうぐらいはもう大目にみて欲しい。
「なんだか最近よく君に会うね?」
「あ、あはは、そうですか?実は偶然近くを通りかかったりしましたものですから、これは是非ともご挨拶をせねば、と思いまして伺った次第なのですけど」
そう言って慌てふためく最上さんの様子に俺は短く瞼を伏せた。
「・・・そう。ご挨拶ね」
偶然通りかかったって?
さすがにそれはもう無理があるんじゃないかな。
あれから3日に一度は言葉を交わしていて、もう2週間ぐらい過ぎている。
もしかしたら君、俺に何か言いたいことがあるんじゃないのかなって
そんな気がしている。
その割になかなか言い出さない彼女のそれを俺は甘んじて受け止めていた。
なぜなら、俺にとってこの状況はこの上もなく嬉しいものだから。
「そうだ、最上さん。ちょうどいま遅い昼食休憩に入ったから、一緒に俺の控室に移動しようか?」
「え・・・はい、よろこんで!」
今年の俺の誕生日はこの子と二人で過ごしたい。
それはいま俺がひそかに願っていることだった。
そう出来るように本当は自分から誘うつもりでいたけれど
敢えて言わないでいるのは、期待を抱いているからだ。
もしかしたらって思ってる。
今年に入ってこうも頻繁にこの子が俺の前に現れるのは、その件なんじゃないかって。
だとしたら人目があったら言いにくい。
何しろ俺たちは付き合ってはいないのだから。
きっと、たぶん。
人目のない控室に入って、後ろ手にドアを閉じた瞬間に期待が最高潮に高まった。
やっと聞くことが出来るかも。
敦賀さん、って少し控えめに俺の服をひっぱったりして、少々困り顔で俺を見上げた最上さんが、控えめな声で俺におねだりしてくれるそれを・・・。
『敦賀さん、あの、実は私、ずっと言おうと思っていたんですけど・・』
『うん、なにかな?』
『あの、今年の敦賀さんのお誕生日は、二人でお祝いするっていうのはダメでしょうか?』
あああ、それ!それだよ、それ。
全然ダメなんかじゃないよ!
もちろん大歓迎だから。
実は俺もそうしたいなって、ずっと考えていたんだよ。
控室のドアに手をかけた瞬間に頬の筋肉が弛緩しそうになって慌てて口元を抑えた。
俺のそれを見越したのだろう、社さんがため息を漏らしたのが聞こえた。
そういえば俺、まだ社さんにお年玉をもらっていないのだ。
手遅れになる前にちゃんと請求しておかないと。
2月10日は休みにしてくださいって。
まだ彼氏にも彼女にもなっていない俺達だけど
自分の誕生日だからこそ、せめてその日ぐらい愛をはぐくむ特別な日として密に過ごしたいから・・・。
「どうぞ、最上さん」
「ありがとうございます」
レディーファーストで先に最上さんを中に促し、仕方なく社さんも迎え入れてから控室のドアを閉じた。
最上さんは俺が予想した通り服こそひっぱってくれなかったけれど、消え入りそうな声音で俺の名を呟いてくれた。
「敦賀さん、あの・・・」
「うん、なにかな?」
「・・・っっ、なんで、怒りの波動は見えないのに・・・」
「うん?なに?」
「すみませんっ!!私、今日はやっぱり失礼します!!お忙しい中お邪魔して大変失礼いたしましたー!!!」
「え?最上さん?」
言うが早いか、最上さんはあっという間に消え去った。
彼女の手が物凄い勢いで控室の扉を開いて、脱兎のごとく逃げて行く最上さんの背中を俺は呆然と見送った。
「・・・なんで?」
「あーあ。だから言わんこっちゃない」
「はぁ?」
「たぶん、怖かったんじゃないか。お前の顔が」
「どういう意味ですかっ?!」
「そのままの意味だよ。あの真顔のあとで急にキュラキュラ笑顔なんて見せられたらそりゃ怖すぎるよ、ホラーだって」
「・・・っっ!!!」
なんでだよ!?
周囲に誰もいなくなったんだ。心のままに頬を緩めて彼女を見つめたっていいだろう?!
っていうか、そもそもなぜそこを誤解する?!
控室に入ったから
人の目がゼロになったから
素の自分を出しただけなのに。
やっと俺
とびきり甘い顔で君を見つめることが出来たのに。
「お前も曲がりなりにも役者なんだから、もうちょっと頑張れよ、蓮」
「曲りなり!?俺、正真正銘の役者ですけどっ。しかもLMEでもトップを誇る」
「まぁ、一応な」
「一応って何ですか」
「だってお前、キョーコちゃんが絡むと途端にヘタレるじゃんか」
「くっ!!」
ああ、もう、なんでこうなるんだよ!!
よし、もういい。
こうなったら先手を打つ!
「社さん!!」
「なんだ。弁当ならここにあるぞ」
「・・・俺は今年初めてあなたにお年玉を要求したく思います」
「はぁ?なんだ、お年玉って」
「お年玉というのは目上の者が目下の者に授ける正月特有の贈り物のことです」
「そんぐらいは知ってる。なぜ俺がお前にお年玉を要求されなきゃならないんだって聞いているんだ。お前の方がよっぽど稼いでいるのに」
「そうかもですね。でも俺が欲しているのは金品ではなく休みです。来月の10日を休みにしてください。出来ればその前後一日も。俺とあの子と二人とも」
「二人とも?別にそれは今からなら調整できると思うけど。でもそれってキョー・・」
「あの子の了承はこれから取ります。ので、社さんからは何も言わないでください」
「そんな無茶な」
無茶でも何でもそうしてください。
口にはせず、腹で何度も呟きながら無表情でじっと社さんを見つめたら、長い付き合いゆえか俺の言葉が聞こえたらしく、社さんは少々青い顔になって了解した、とつぶやいた。
よし!下準備は整った。
想像するだけで胸が高鳴る
あの子と過ごすバースディ
絶対実現させてやる!!
さて、いつどうやってあの子に了承させようか。
⇒未彼と未彼女の攻と受け◇3に続く
前編・後編としてお届けしたあとで、後編の内容をごっそり変えてしまいました。
しかも3に続きます。すみません。
↓後編のままにしていますがご愛敬としてお受け止めください。
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