お付き合いいただき、きききききき恐縮です、一葉です。
大遅刻をぶっこいております2023年蓮誕、続きをお届けいたします。しかも当初は5話完結の予定だったのに終わらなかったの。ひぃぃぃぃ。
ちょっとでもお楽しみいただけたら幸いです!
■ 未彼と未彼女の攻と受け ◇5 ■
敦賀さんの威光を借りてレイノを撃退してから二日後のこと。
その日もいつものように私は、敦賀さんの誕生日プレゼントをリサーチするため、社さんに教えてもらった敦賀さんの撮影現場に赴いた。
到着してあたりをせわしなく見回したのは、自分が予想していたより人数が少なかったからだった。
「あれ?スタッフさんしかいないみたい?」
この時間、情報通りならまだ外撮影のはずだった。けれど見渡す視界の中に敦賀さんの姿はなく、どころか主立つ役者さんすら見当たらない。
察するに休憩に入ったか、もしくは予定を巻いて撮り終えて移動してしまったか。あるいは撮影都合で予定が前後したかなどいろいろな理由が思いついたけれども、少なくともまだ敦賀さんは近くにいるものと思われた。
なぜなら、社さんから連絡が来ていないから。
「とりあえず社さんに電話を入れてみようかしら」
そう呟き、ショルダーバッグから携帯を取り出そうと視線を動かしたと同時に私は社さんの姿を視界の端で捉えることに成功していた。改めて社さんの方に顔を向けて、ほっと安堵の溜息をつく。
私と視線がかち合い、この場から定規を当てたらたぶん30センチほどの身長しかないだろう離れた場所から私を手招きし始めた社さんの表情はなぜか能面顔だった。
「社さん、お疲れ様です?」
「うん、お疲れ様。キョーコちゃん、こっち」
「あの、何かあったんですか?」
「まあね。想定外に早く外撮りが終わっちゃったんでスタジオ撮りに移行してね。俺は敢えてキョーコちゃんが到着するのを待っていたんだ。ちなみに蓮はいま控室」
「わぁ、すごい、外撮り終了?そうだったんですね。わざわざありがとうございます」
「うん、すごい、のはまぁ、確かに。いま凄いんだよ、もう、ちょっと」
「?」
言い淀む社さんの足取りは重かった。その理由が当然のごとく私にはまったくわからなくて。だから社さんがその件に関してメールで連絡せずに敢えて私の到着を待っていた理由も私は察することが出来ずにいた。
敦賀さんと話をするまでは。
「蓮。入るぞ」
軽いノックのあと敦賀さんの返事を待たずに社さんがドアを開いた。
中からどうぞと聞こえた時にはもうきっと敦賀さんは仁王立ちをしていたのだと思う。
社さんに続いて失礼しますと入室し、こんにちは敦賀さんと唱えながら顔を上げた私を待ち受けていたのは、燦然と輝く似非紳士スマイルを放った敦賀さんのまばゆさだった。
「一体どういうことなのか説明してもらえるかな?最上さん」
「・・・っっっ??!」
敦賀さんの怒りの波動に気圧され、一瞬で私の背筋は凍ってしまった。
「え?え?えと、あの、えっと?」
「つい二時間ほど前のこと。某バンドに所属している2名がなぜか俺のところにやってきた」
「某バンドの2名?」
って誰よ。
「そう。VIE GHOULだとか言ったかな」
「へっ???!」
それって、まさか??!
「ねぇ、社さん。確かそうでしたよね?」
「・・・確かにそう。ベースとギターの二人だった」
「はい?」
「その二人が俺にこう言ったんだ。出来れば2月14日当日、それが無理なら前倒しで2月10日。レイノのためのバレンタインチョコを君に持ってこさせて欲しいと。その許可を文章で示せと」
「はぁ?!!」
「なんでも、俺から許可が下りたら持っていく♡、と約束したらしいってことだったんだけど。合ってるかな?」
「・・っ・・・」
な、な、な、なんてことを、あいつ!!!
敦賀さんが怖いから、自分じゃなく仲間を使って許可を得ようとするなんて、信じられない!!
確かに私はそう言ったけどっ!
それはそういう意味じゃないでしょう?!!
だいたい私、今年は誰にもチョコを用意するつもりがないって言ったのにそこのところは頭に入らなかったってこと?!!
本当に何から何まで魔界人ねっ!!どうしてくれるのよ、この状況をっ!!
「合ってる?最上さん?」
「う・・・」
あああ、もう真実コワイ!!!!
絶対零度の冷気を感じる!悪魔も射殺せそうな怒りの波動がとめどなく溢れてきているぅ!!
あいつ、あいつ!!!今度会ったら息の根を止めてやる!!
「・・っ・・・た、確かにそう言いましたけど、でもそれはっ・・」
「へぇ、そう。それで?君はどっちを希望しているのかな?」
「え、どっち、って・・・」
「バレンタイン当日に渡しに行くのと、2月10日に渡しに行くの、どっち?」
「そんなの、どっちもお断りです!!」
「ふぅん、断るんだ?」
「当然じゃないですか!!っていうか、まさか敦賀さん、許可したわけじゃないですよね?!」
「・・・・・・した、って言ったら?」
「なんてことを!!いますぐ証書を取り返してきます!!そもそも私、今年は誰にもチョコを用意するつもりはありませんので!!」
言って鋭く踵を返した私の肩に、魔王の手がひやりと触れた。
「うぅぅん?誰にも?」
きゃあぁぁぁっ、いま真っ暗な顔から両目が光ったぁぁぁぁ・・っ!!ちびっちゃいそうなほど怖すぎるぅぅぅ。
「そそそそうです、誰にも!!!だって私はもう決めていたんです!今年は社さんへのお礼チョコと、敦賀さんへの・・っ・・。・・つ、敦賀さんへの本命チョコ以外、用意しない、って・・・」
「・・・・・・・」
「本当です・・・」
あああ、なんてことを告白させられてんの、私。
本当は内緒にしたかったのに。
あまりにもおまぬけな宣言をする羽目になってしまって、恥ずかしくて声が縮んで冷や汗が流れた。
敦賀さんの顔を見続けることが出来なくて、そらした目線を床に逃がす。
畏怖と羞恥がないまぜになっていた。
そこから無言の時間が続いた。
敦賀さんがあまりにもその状態を貫くから、私もそれ以上言葉を発することが出来なくて。
居心地が悪くて仕方なくて、たぶん、社さんはそれを察してくれたのだと思う。
社さんの落ち着いた声音が、敦賀さんに見下ろされて身動きすら取れずにいた私を助けるように静かに伝った。
「何か言ってあげれば?蓮。固まってないで」
「・・・・っ・・」
「れーんくーん?」
「・・・・っ、俺にだけ本命チョコをくれるって、本当?」
「もちろんです!!」
あ、思いっきり顔をあげちゃった。
「それはバレンタイン当日に?」
「え?えっと、はい、そうですね。もしご迷惑じゃなければ、出来れば当日に」
「ありがとう。絶対その日に受け取りたいよ。それで、じゃあ2月10日は?」
「え?」
「何の日だか覚えてる?」
「っ当然です!!尊き我が神がこの世に誕生した聖なる日ですから!!」
「ふ・・・尊き神って・・・」
あ、よかった。柔らかく笑ってくれた。
「その日って、何か予定が入ってる?」
「はい!朝から晩まで入ってます!!」
「・・・っっ!!それって、仕事?」
「いいえ、違います」
「じゃあ、なんの?って、聞いてもいいかな?」
「い、いいですけど・・・。えっと、その日は私にとって聖なる日ですから。当然、一日中敦賀さんをお祝いするという尊い予定が入っていまして・・・」
「そうなの?でも俺、君から何も聞いてないけど」
そうなのだ。
だって敦賀さんは忙しい人だから。そんな私の欲求を聞いてもらうなんておこがましいにもほどがあるでしょう?
でも祝うことはどこでだって出来るから。
それこそ、自分の部屋でも、ラブミー部の部室でも
夜中まで待ち伏せしちゃって、敦賀さんのマンション近くの植木の間に紛れてでも。
ああ、でもそれに関しては私、困っているんですよ。
だってプレゼントが全く決まっていないのだ。
去年は本当に楽だった。
割とすぐに思いついちゃったりしちゃったんです。
しかもそれを、あまつさえ無人島に持っていく荷物に挙げていただけるほど気に入ってもらえたのも嬉しくて。
だから余計に迷っているのかも。
何を用意したらいいんだろう。
なにを贈ったら敦賀さんは喜んでくれるだろう。
どんなものが正解なのか、私にはまったくわからないから。
「じゃあ、最上さん?」
「はいっ」
「そういうことなら、俺から君にお願いしてもいいだろうか?」
「え、何をですか?」
それはもしかして、プレゼントのリクエストをしてくださるとか?だとしたら心の底からありがたいですけど。
「は、はい!どんとこいです!どうぞ、どうぞ」
「そう?じゃあ、一つだけ。社さん」
「あ?」
「え?」
なぜに社さん?
「前に言った通り、最上さんも2月10日お休みってことにしてください」
「ウイ。予定通り、万事了解」
「え?え?え?」
「そして最上さん」
「はうっ」
いやだ、焦りすぎて嚙んじゃった。
「その日一日、俺と一緒に過ごしてくれる?それがプレゼントで構わないから。俺、君と二人で過ごす濃密な時間が欲しいんだ」
「あうっ?!のうみつ??」
その一瞬。
聞こえた言葉にそれだけで戸惑いでいっぱいになって目をぱちくりさせてしまっていたのに
敦賀さんは優雅にしゃがむと私の右手をするりと取り上げ、私の指に唇を寄せた。
「きっっっっ・・・っ!!」
「ね?」
私を見る敦賀さんの視線が今までになく濃く熱い。
その視線に絡めとられてしまった私は
怒りのオーラを壮絶な色気に変えた恋しい人からのおねだりに腰が砕けてしまって、黙って首を縦に振ると同時にその場にしゃがみ込んでしまった。
⇒未彼と未彼女の攻と受け◇6に続く
弊宅の蓮くん、まだ誕生日を迎えていません(笑)お話は次で終わります。
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