恋をするなら ◇5 | 有限実践組-skipbeat-

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 遠藤様からの弊宅訪問キリ番34000リクエストの続きをお届けです。


 前話はこちら⇒【



■ 恋をするなら ◇5 ■





 そんな社の案に異を唱えたのは、当の本人キョーコである。

 キョーコは今朝、社の指示に従い、朝一番で自分を迎えに来た蓮と一緒に外出し、社に指定されたマンションに赴いた。もちろん学校は自主休講。


 着いたマンションは蓮の家だった。



「 冗談じゃないわ!なんで私が初対面のイケメン男の家でお世話にならなきゃならないのっ?! 」



 スマホを握りしめながらキョーコの肩がわなわなと震えた。

 物凄い剣幕でそう叫んだ通話相手のキョーコに聞こえるよう、社はわざと大きなため息を吐きだした。



『 しばらくの間なんだし、それぐらいどうってことないだろ 』


「 どうってことあるわよ!もっとよく考えてよ、社さん!この男の人の家で、私がこの人と二人っきりになるのよ。一つ屋根の下なのよ?しかも学校にも行っちゃだめなんでしょ?それでもし間違いでもあったらどうしてくれるの!? 」


『 そんな心配は無用だ 』


「 なんでそう言い切れるのよ!ひょっとしたらこの人、ゲイだとかそういうやつ? 」


『 あ、それ、確認していなかったな。ちょっといま自分で聞いてみて。ゲイかどうか 』


「 なによ、それ 」



 ブチブチ言いながらキョーコの視線が蓮を捕らえると、目が合った瞬間に蓮はキョーコに微笑んだ。



「 俺はいたってノーマルだよ 」


「 ノーマルだって言ってるわよ、社さん!そんな男性と二人っきりにさせるなんて危険以外の何物でもないと思うでしょ?今すぐ私を迎えに来て!! 」


『 行かないよ。彼がゲイでもノーマルでも大丈夫なことに変わりはないんだから 』


「 どこにそんな根拠があるのよ! 」


『 キョーコちゃん。もう一度彼の顔をよく見てごらん。さっきキョーコちゃんが言った通り、彼はイケメンだろ。しかもかなりハイレベルな。つまり女性に不自由しているはずがない。ひいてはリスクを冒してまでキョーコちゃんに手を出すはずもない。分かった? 』


「 なっ・・・!! 」


『 とにかく、しばらくの間はそこで大人しくしていなさい。それが君の身を守る事にもなるんだから 』


「 だったら前みたいに社さんが、あっ?社さん、社さん!? 」



 キョーコの話が途中でも構わず社は通話をぶち切った。

 するとそれまで聞き耳を立てていた組員たちが、眉をハの字にしながら次々と口を開いた。



「 ・・・若頭。本当に大丈夫なんですか、その男? 」



 キョーコが組事務所に遊びに来ると、真っ先に顔を合わせるのは一番下っ端の光だ。

 男ばかりの組事務所の中で、最近やってくるようになったキョーコは唯一の花。

 その笑顔にかなり癒されていただけに、心配もひとしおだった。



「 大丈夫、だと思う。それに、俺の目から見ても本当にかなりのイケメンなんだよ、敦賀蓮は。だから間違いを起こすことはないと思う 」


「 けど若頭。それが万が一にも起きたら? 」



 石橋慎一の隣で石橋雄生も何度も首を縦に振った。どうやら慎一の意見に賛成らしい。


 石橋光、石橋慎一、石橋雄生は苗字こそ同じだが偶然揃った赤の他人である。

 組事務所での彼らのシノギはノミ行為。


 ノミ行為は、例えばプロ野球などの試合を対象として、どちらのチームが勝てるかを賭けるもの。

 しかし御園井組では簡単な勝敗予想だけではなく、何点差で勝つなかど、状況分けで配当を決めていた。


 配当はハンデ師と呼ばれる組員が最終的に決定するが、勝敗その他の根拠となる選手のクセや心理状態、傾向などを見極めるのは3人の仕事だ。

 現在、光は野球を、慎一は競輪とサッカーを、雄生はボートを担当している。

 その3人の面倒を見ているハンデ師の村雨泰が、社の後に質問をぶつけた。



「 たとえ起きても構わない。不破のせがれに何かされるより100万倍マシ。そう思って彼にキョーコちゃんを預けたんだ。なんてったって彼はカタギのビジネスマンだからな 」


「 そのカタギの奴に不破組のことも話したんですか? 」


「 ああ、話した 」


「 なのに引き受けてくれたのか?驚いたな 」


「 仕事も休むことになるでしょうに、よく了解してくれましたね 」



 村雨、松島の言葉を受けて地上げ担当の緒方も口を開いた。


 今日、組事務所には御園井組の組員全員が雁首を揃えている。


 手先が器用な貴島と語学堪能な豊川の二人が用意した、全員分の朝食を並べている所で、オムライスとスープのいい香りがみんなの食欲を刺激していた。



「 ああ、それについては二つ返事だった。お礼は5千万円を成功報酬で支払う。うち100万は支度金として先渡しすると言ったら、分かりましたって具合にな 」



 その5千万円は先日の賭博で不破組が置いていった金だ。

 結局、奴らの予想は外れ、用意出来ていた2億の払戻金は渡さずに済んでいた。


 不破組にしてみれば皮肉な結果と言えるだろう。

 御園井組に揺さぶりをかけるつもりで、そうしてキョーコを手に入れようとしていたのだろうが、その金がキョーコを守るのだから。



 5千万なんて惜しくない。

 それは組員全員の思いだった。


 それでキョーコの安全が守れるのなら、むしろ安いぐらいだ。


 唯一気がかりなことがあると言えば、社の言葉通り本当にキョーコが大人しくしてくれるかどうかだけ。それだけだった。




 そんな彼らの思いにキョーコが気づけるはずもなく。

 問答無用で通話をぶち切られたキョーコは蓮のマンションでかなり憤っていた。



「 しんっじらんない!!こっちが話してる途中で切る?!なんて心が狭いの、社さんってば。だいたい、私を見ず知らずの男の元に預けるなんて、心配じゃないの?心配じゃないの?心配にならないの?! 」



 もう知らない!

 そう言ってソファに携帯を放り投げたキョーコは、蓮に背中を向けて両腕で顔を隠しながらソファの座面に突っ伏した。



「 ・・・社さんの、ばか・・ 」



 小さな呟きが聞こえて

 いじけた様子のキョーコに蓮が声を掛ける。



「 心配、していないはずがないよ。でも、仕方がなかったんだと思う。彼にとってもこれは苦肉の策のはずなんだ。

 言っていたからね。これは一刻を争う緊急事態だって。キョーコちゃんを守るための手段がこれしか思いつかないんだ。だから協力してくれないか・・・って、そう言って俺に頭を下げたんだよ、社さん 」


「 キョーコちゃんなんて馴れ馴れしく呼ばないでください。私、ちゃん付けで呼ばれるほど子供じゃありません 」


「 そう。じゃあ俺は君をなんて呼べばいい? 」


「 当然、最上さん、じゃないですか 」


「 くす。分かった、それじゃ最上さん 」


「 なによ!なに、そのクス?なんでそこで笑うわけ?どうせ私のこと、子供っぽいなって思っているんでしょう?!そんなんだから社さんから相手にされないんだって思っているんでしょう!? 」


「 思ってないよ。だいたい、初対面の相手にそんなことが思いつくほど、君の事を知っている訳じゃないし 」


「 ・・・それもそうね 」


「 話を戻すけど、本当に頭を下げたんだよ、社さん。昨日の夜、突然ウチにやってきてね。正直、びっくりしたよ。だってあの人、全然そういう風には見えないけどヤクザの若頭なんだろう?そんな人が俺に頭を下げるなんて、本気で行き詰っているんだろうなって思った 」


「 社さんは、道理を通す人だから 」


「 そう。君は社さんのことを良く知っているんだ。恋人? 」


「 のはずないでしょ。・・・っていうか、さっきからの私の愚痴を聞いているのに敢えてそれを聞くのって性格悪いと思う。分かってるの、私だって。社さんが私を相手にするはずがないってことぐらい。だってお母さんが死んでからずっと社さんが私の面倒を見てくれていたんだから。6年前、確かに私は子供だった。だから。その頃の私を知っているからきっと私がどんなに大人になったとしても、社さんの目に映る私はきっとずっと子供のままなの。悔しいことに 」


「 そんなこと、ないと思うけどね 」


「 なんでそう思うの 」


「 だって昨日、社さんがこれを置いていったから 」



 キョーコから少し離れたダイニングテーブルに腰を下ろしていた蓮が、細長い包みを持ち上げた。それには簡単なラッピングが施されている。

 小首を傾げたキョーコが腰を上げて蓮に近づき、それを手に取ろうと腕を伸ばすと、反発する磁石のように蓮の腕が遠ざかった。



「 おっと、まだ駄目。今日ちゃんと勉強したら君にあげるよ 」


「 学校には行くなって言われたのに? 」


「 教室はここ、教師は俺。時間割表もちゃんともらってある 」


「 はぁ、嘘でしょ?だって敦賀さんってビジネスマンなんでしょ。もうそろそろ仕事に行かなくちゃでしょ? 」


「 仕事はしばらく休むことにしたんだ。ああ、だから君、大人しく引き下がったふりをしたんだ。俺がいなくなったら外に出られると考えて? 」


「 ・・・っっ!! 」


「 くす。ほら、図星だった。そうだと思ったんだよね。そこ、座って?朝ご飯は食べて来たんだよな?まだなら適当に何か出すけど 」


「 勉強なんて教えること出来るんですか?言っとくけど私、高校生ですけど 」


「 それぐらいまでなら範囲内だよ。いいから座って。終わったらこのご褒美あげるから 」



 ウインクを投げながら蓮が細長い包みを小刻みに揺らした。するとカタカタと小さな音が聞こえた。



「 それ、なに? 」


「 ペンダントだって言ってた。君に渡して欲しいってね。そばにいてあげられないお詫びの品らしいよ 」


「 うそ、ペンダント?!社さんから?なんで、だったら直接渡してくれたらいいのに 」


「 照れくさかったんだよ、きっと。どう?少しはやる気になった? 」


「 う・・・うん、ちょっとだけなったかも 」


「 よし、じゃあ頑張ってみようか 」



 頬を染めたキョーコが素直にハイと返事をすると、蓮は目を細めてクスリと笑った。



 本当に子供だな。

 社さんが心配になる気持ちがよく分かる。


 こんなもので簡単に騙されちゃうような子じゃ、誰だってそうなるだろう。






 ⇒ へ続く


御園井組の組員は、組長を除き社さんを筆頭に10名。社、松島、椹、村雨、緒方、貴島、3石橋と、豊川浩次郎です。豊川さん、原作にちゃんといる人ですよ。



⇒恋をするなら◇5・拍手

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