恋をするなら ◇1 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 いつもありがとうございます、一葉です。

 こちらは今は無き弊宅訪問者カウンターで、2017年1月22日に34000キリを踏まれた方からのリクエスト成就作です。

 もう4年も前のことですのでリクエスト者様は二次を卒業されてしまっているかもしれませんが・・・。


 遅くなりましてすみません、遠藤様。

 現代パラレル、お届けいたします。



■ 恋をするなら ◇1 ■





「 鬱陶しいハエですね 」



 車のハンドルを握っていた石橋光が、バックミラーを確認しながら忌々し気に呟いた。それまで後部座席で腕組みしながら黙って座っていた社が応じた。



「 ああ、確かに 」


 鬱陶しいハエだ。



 時間を確認すればもう1時間以上も彼らに煽られていることになる。


 後方から距離を詰め、過度なパッシングやハイビーム点灯をまるで決まりごとのように繰り返し、それらを一時間も続けている彼らの執拗な追跡は間違いなく妨害運転に該当している。



「 不破組のやつら、他にやることないんですかね 」


「 そうだな。もしかしたら俺たちの熱狂的なファンなのかもな 」


「 くす。それ、言えてます。社倖一と言えばこの業界ではちょっと名の知られたヤクザですからね。追っかけが居ても不思議はないかもですね 」


「 おっと。そうなのか。だとしたら憧れられるのも楽じゃないな 」



 軽口を叩きながら、社はさてどうしたものかと考えた。

 自分が所属している組の長である御園井一志のため、組長のお気に入りの車に乗り込み、彼の目的地とは別方向に撹乱すること一時間。もうそろそろいいだろうか。


 煽られ運転も飽きてきた事だし、このまま組長が所有する山まで引っ張って、連中には一泡吹かせてやるべきかも。



「 そうしたら光、このまま山に行ってくれないか 」


「 了解っす!組長所有の遊楽地にご招待って訳ですね! 」


「 そういうことだ。松島さんにはいま俺から連絡を入れておく 」


「 ひゅー!楽しみですぅぅ。松島さんの腕前、とくと拝見しちゃいます 」



 こんな状況なのにテンションが上がったのか、光のウキウキが手に取るように見て取れた。頼もしいな、と柔らかく口元を緩める。



 こんな状況を楽しめる肝っ玉があるとは、光はなかなか見どころある。

 どうせこのまま別荘に行くのなら、不破組を叩くついでに光にもそろそろ練習させてやってもいいかもしれない。



 住宅地がまばらになり、周囲はすっかり木々風景に代わっていた。東京都でありながらこんなのどかな景色が広がる地のことを、最近ではトカイナカと言うらしい。



 社はジャケットの胸ポケットからスマホを取り出した。これから不破組の連中を連れてそちらに向かうという内容を松島に伝えるためだ。

 社が画面に視線を注ぐ。と、なぜか不自然に車内が暗くなった気がした。すぐに視線を跳ね上げると、ふいに耳慣れない爆音が響いた。



「 なんの音だ? 」


「 バイクのエンジン音です 」


「 バイク? 」



 いま社が乗車しているのは特注の防弾ガラスをまとった組長お気に入りの外車である。もしバイクに乗り換えた不破組の誰かにチャカで襲われたとしても、命を取られる心配はなかった。

 窓外を確認すると確かにバイクが並走していた。一体いつの間に近づいて来ていたのかと社は眉をひそめた。



「 誰だ、こいつは 」


「 誰でしょう。不破組の新手・・・じゃない気がします。ちゃんとメットを被っていますし、第一こんなガタイがいい奴、不破組にはいなかったはずですから 」


「 そうなのか。だとしたらこいつは一体? 」



 車の真後ろを確認すると、確かに煽り運転を繰り返していた不破組の車はまだ自分たちを追跡していた。とするなら、このバイクは少なくとも不破車との交代要員ではないということだろうか。


 だとするならいったいどういうつもりだろう。

 光がそんなことを呟いたとき、それが聞こえたかのようにバイクの人物が社たちに向けて親指を立てた。

 まるで映画でよく見る、正義の味方のヒーローの様に。



「 あ?バイクのスピードが落ちて・・・なんだ?俺たちの間に入ったぞ?どうするつもりだ、アイツ。やっぱり不破組の奴なんですかね? 」


「 いや、それにしちゃ動きがおかしい。あの蛇行運転は明らかに不破組の進路を妨害している風だ 」



 リアウィンドウ越しに社は事の成り行きを見つめた。



 突如現れたバイクに進路妨害され、いら立ったのか向こうの車内が騒然としている。

 不破組の助手席で、いかにもいかついヤクザという風情の男が、胸ポケットから何かを取り出す仕草をした。



 まさかそれ、チャカじゃないだろうな?と社が訝しんだ。


 平日昼間のトカイナカ道。人通りはもとより車通りも少ないが、全く無いわけでは決してない。故にそこまでのバカはしないだろう。

 そう信じたかったのだが、残念なことに不破組の助手席に座っている構成員は、いささか短気な気質らしい。


 こちらを一時間以上もねちっこく煽って来た割にはこらえ性は無かったらしく、胸ポケットを探ったその手には間違いなく拳銃が握られていた。


 しかしさすがに運転席と後部座席から静止が入ったらしい。何やら車内で揉めている隙にバイクの男が更にスピードを落としてゆく。そのうちバイクが不破組車を追う形になった。



 何をするつもりだ?

 社が静観していると、バイクの前輪が持ち上がってウィリーを始めた。すると今度はあれよと言う間に距離を詰めてゆき車に乗り上げた。

 バイクの前輪がリアガラスにぶつかった瞬間には勢い良くガラスが弾けた。




「 おおおぉい、マジか?!何なんだよ、あのバイク 」



 まるで一昔前のアメリカ映画のアクションを見ているようだった。まさかそれをこんな所でリアルに目撃することになろうとは。



 バイクの動きはそれだけにとどまらなかった。

 なんとバイクは小さな山を走るかの如く、走っている車の屋根を乗り越えた。

 バイクの前輪がフロントガラスにぶつかるとまたもや勢いよくひびが入る。前が見えなくなったことで焦ったのだろうハンドルを切った車の進路が大きく蛇行した。


 助手席の男が銃の持ち手でひび入ったガラスを割りはずす。バイクは車が蛇行運転したことでバランスを崩したのか横転し、がけ崩れの斜面から投げ出されるように路上に放り出された。

 異様な形でタイヤが路面に着地するとスーパーボールの様に跳ね上がり、その反動で運転手の男が吹っ飛ばされた。

 投げ出された男性は何メートルも勢いよく路面をスライドしていった。


 不破組の車は転倒したバイクを避けることが出来ず、勢いよく乗りあげ完全にコントロールを失って、道路脇の雑木林に突っ込んでいた。



「 光!車を停めろ。バイクの奴のところまで戻れ! 」


「 りょーかいですっ! 」



 急ブレーキを踏んだ光が迷わず車をバック発進。太いワイヤーが荷物を持ち上げる時のような唸り音が車内に満ちる。

 道路に投げ出されたバイクの男は何メートルも滑って止まり、そのままピクリとも動かなくなった




 なんだ、何なんだ、あの男。

 一体どういうヤツなんだ。


 不破組に歯向かった所を見れば、少なくとも自分の敵ではないことが分かる。

 だからといって決して味方でもないだろう。

 だいたい、こちらは双方ヤクザ。よほどの事情が無い限り、普通の奴なら接触しようなどとはまず思わないだろうから。


 社が男に走り寄った。声を掛けても男の反応は皆無だった。



「 おい、大丈夫か?! 」


「 どうしますか若頭?!救急車を呼びますか? 」


「 呼んでくれ、光。ついでにお前はアイツらを助けて来い。それで恩を売って来い 」


「 ええ?不破組の連中を助けるんですか? 」


「 ああ、そうしとけ。俺たちの温情を全国区のヤクザ組織に報せてやれば奴らのメンツをつぶせるだろ。いいから行って来い。この辺は俺たちのシマだ。住民たちに迷惑がかかる前に奴らを撤収させるんだ 」


「 あー、なるほど、そういう恩。了解です。光、行きまーす 」


「 おい。救急車を呼んでからって言っただろうが、光。ま、いいけどな 」



 光の背中を見送ってから、社は道路に寝転んでいるバイクの青年をまじまじと見降ろした。


 フルフェイスのヘルメットとはいえ安心はできない。どこかを強打してる可能性は十分あり得るし、もしかしたら体のどこかを骨折しているかもしれない。

 衝撃で気を失っていてもおかしくない状況なだけに、体を揺らすのは得策ではないと思った。


 ヘルメットのシールドフリップを開けると、彼の瞼は両目とも閉ざされていた。



 どんな事情があるかは知らないが、少なくともこいつは俺たちを助けてくれた恩人、ということになる。だとすれば。



「 大丈夫だ、必ず助けてやるからな 」



 その心意気に報いるのは、御園井組の一員として、当然のことだから。



「 はい、救急車をお願いします。車とバイクの接触事故です。バイクの男性が投げ出され、何メートルも道路をスライドして・・・。え?意識?ないと思います。呼びかけても応答が無・・・ 」


「 ・・・・っ・・・ 」


「 なんだ、目が開いているじゃないか。おい、意識あるのか?どこか痛いところはあるか? 」


「 ・・・全身、なんとなく


「 はっ!なんとなくかよ。まぁ、そうか。ああ、すみません。意識はあるみたいです。でも当たり前のように全身が痛いそうで・・・。血が流れている様子はありません。ええ、大至急、お願いします 」



 バイクの男は社からの質問に正しく応じたが、目の開け方はどこか虚ろで不自然だった。当然と言えば当然か。あの状況ではそのままポックリ逝ってもおかしくないレベルなのだ。



 30センチほど離れた場所から社は彼を覗き込むように背中を丸めた。アスファルトに両膝を落とし、握りしめた両拳を膝より少し前に置き、頭を20センチほど下げる。



「 どこの誰だか知らないけど、こんな無茶をしてまで助けてくれてありがとう。俺は社倖一。君は? 」


「 ・・・社、さん?俺は、敦賀蓮 」


「 そう、敦賀くん。改めてお礼を言う。危険を顧みず俺を助けてくれてありがとう。治療費やバイクの修理費の心配はいらない。お礼も含めて全て俺が持つから 」


「 ・・・けたつもり、なくても? 」


「 うん? 」


「 俺は、誰かを助けたつもりは、ない 」


「 そうなのか?でも、あれは・・・ 」


「 俺は、悪を成敗しただけだ 」




 成敗?



 聞き間違いかと小首を傾げたが、力が尽きたのか蓮は再び瞼を閉ざした。


 救急車のサイレンが、微かに社の耳に届いた。






 ⇒ へ続く


このリクエストはずいぶん長いこと温めていたこともあって、色んな妄想を幾度ももわもわさせていた関係で、実は何話で終わるかが未知数です。

希望的観測では、15話前後で終われたらいいなーと思っています。



⇒恋をするなら◇1・拍手

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