恋をするなら ◇2 | 有限実践組-skipbeat-

有限実践組-skipbeat-

こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


※出版社様、著作者様とは一切関係がありません。
※無断での転載、二次加工、二次利用は拒断致します。
※二次創作に嫌悪感がある方はご遠慮ください。

 お付き合いくださりありがとうございます。

 遠藤様からの弊宅訪問キリ番34000リクエストの続きをお届けです。


 前話はこちら⇒【



■ 恋をするなら ◇2 ■





「 社さん、昨日は大変だったんですって?! 」


 勢いよくドアが開き、制服姿の女子高生がヤクザ事務所に乗り込んだ。

 最高級の革だと称されるペレ・フラウを使用したソファにやっと腰を落ち着けたところだった社は、顔半分と頭を抱えた。



「 なんでそんな堂々とここに来ているんだ、君は 」


「 え、なんでって、社さんがここに居るって光さんから教わったから? 」


「 やっぱり光か。かわいい盛りの女子高生が、放課後こんな所に足を運ぶなんて世も末だ 」


「 あら。かわいいって褒められちゃった。嬉しい 」


「 あ、ごめん。そこは脚色しすぎた 」


「 なにおぉぉぉぉっ!! 」


「 とにかく、ここはカタギの、しかも女子高校生が気軽に出入りしていい場所じゃないんだよ。Uターンして今すぐおうちに帰りなさい 」


「 なによぉ。組長は好きに出入りしていいって言ってくれたわよ 」


「 組長は組長、俺は俺。だいたいね、そう言われても遠慮するもんなんだよ、普通は 」



 腰を上げた社が女子高生の背中に手を添え、彼女を玄関方向に押し出した。

 押された彼女は思いっきり両足に力を込め、抵抗の意を示す。その様はまるで猫のじゃれ合いのようだった。


 自分の分を含めて3人分のお茶を用意した光が、そんな二人の様子を微笑ましく眺めた。



「 若頭、キョーコちゃん、お茶入りましたのでどうぞ 」


「 はーい、いただきます。光さん、ありがとう 」


「 こら、キョーコちゃん!! 」


「 なんですか、社さん。お茶ですって 」


「 何ですかじゃないだろう!帰れって言ってるだろ 」



 再び社の手がキョーコを追い出しにかかったとき、事務所奥の応接室のドアが開いた。途端に違う空気が事務所内に流れ込む。

 部屋から出てきたのは明らかにカタギの中年男性で、その男性が、続いて部屋から出てきた松島と椹に繰り返し頭を下げていた。


 どうやら彼は二人に心から感謝をしているらしかった。

 松島、椹の両名は、社よりずいぶん年かさの御園井組の幹部であるのに。



「 本当にお世話になりました。本当にありがとうございました 」


「 もういいって言ってるだろ。困ったときはお互い様だ 」


「 そうそう。何事もなく済んで本当に良かった。また気軽にな。何かあったらいつでも言って来てくれていいから 」


「 はい、本当にありがとうございました 」


「 だからもういいって 」



 そのやり取りはヤクザの事務所で見られるとは思えないほど和やかなムードだった。

 キョーコがホラ、という気持ちを込めて社の腹をジャブった。



「 なによ、出入りしているじゃない。カタギの人がここにも 」


「 っっ用事が全然違うだろ! 」


「 あら同じでしょ。この人は椹さんたちに用があって来たわけで、私は社さんに用があるから来ただけよ。ただそれだけの違いじゃない 」


「 全然違う。この人は松島さんたちにお礼を言いに来たんだよ 」


「 そっか。じゃ、私も社さんにお礼を言うわ。6年間も私の面倒を見てくれてありがとう。出来ればこれからもよろしくお願い 」


「 何がよろしくお願いだ。恋愛ごっこがしたいならクラスメイトの中から相手を選びなさい 」


「 えー、それ絶対無理。学校の男子たちなんてやんちゃが過ぎるバカばっかりよ?頼りがいなんてゼロだもん、ゼロ 」



 応接室から出てきたカタギの中年男性が、キョーコが出来の悪いウチワのように鼻先で手を振ったのを見て口元を緩めた。



「 おや、まさか御園井組の事務所で女子高生とばったり出くわすとは思いもしなかったよ。ひょっとしたらこの子は若頭のコレかい? 」


「 バカ言わないでくださいよ、大将。この子は組長のお願いで俺が面倒見てきた子ですよ 」


「 面倒?ってことは、将来的には若頭の・・・ 」


「 なりません。絶対、ない。なぜなら間違いなくそれだけの間柄ですから 」



 眼鏡の奥で目を細めた社が迷いなくそう言い切ると、それが面白くなかったのかキョーコが再びジャブを打った。現場を目撃した誰もがまた口元を緩める。


 自然とそうなってしまうぐらい、キョーコと社のやり取りは微笑ましいものだった。



「 意地悪 」


「 天邪鬼 」



 映画やドラマ、あるいはニュースなどの報道によって、ヤクザは怖い者、恐ろしい者というイメージが誰の頭にもあると思う。それは決して間違いとは言い切れない。


 だがヤクザも人の子だ。笑いもすれば怒りもするし、荒むこともあれば和むこともある。トイレにだって行くし、ご飯だってちゃんと食べるし、必ず夜とは限らないが絶対に眠りも必要だ。それは普通の人と同じ様に。




 そしてヤクザは一匹狼ではなく、必ずどこかに所属している。・・と一口に言ってもその規模は様々である。

 末端の組員まで入れると数万人という巨大組織もあれば、組長と組員を合わせても数人程度という小さな組も存在するから。


 御園井組は多い時でも20人。現在は組長を含めて10人程度の小さな組織だった。しかしそれなりの勢力を持っている。

 その理由はもしかしたら、地域密着型のヤクザ稼業だからかもしれなかった。



 社から大将と呼ばれた男性は、何度も感謝の意を述べてから、やがて御園井組の事務所を辞去していった。



「 ねぇ。あの人、何があったの?って聞いていい? 」



 せっかく光が淹れてくれたのにすっかり冷めてしまったお茶に口をつけてからキョーコがそう訊ねると、ソファに腰を下ろした椹と松島が交互に口を開いた。



「 あの人は自分の店を持っている腕のいい料理人でね、この前、仕入れの車を運転していたときに交通事故を起こしたんだ。それだけならまぁ、日常茶飯事と言えないこともなかったんだが、運が悪かったことにその事故相手がかなりクセのある人物でね 」


「 無理難題をふっかけられて困っていた、と。そういうわけ 」


「 えー、そうなの。とんだ災難 」


「 客商売あるあるだよ。小狡いやつは当たり前の様に人の足元を見て来るからな 」


「 かなり困っていたんだと思うよ。こちらに頭を下げてくるぐらいだからな。それで我々が示談交渉の仲介をしたんだ。良かったよな、スムーズにコトが済んで 」


「 そこは、当然と言えば当然だが? 」


「 違いない 」


「 そっか。それであんなに感謝していたんだ。すごい!カッコいい、さすが、お二人!そしてお疲れ様でした 」


「 キョーコちゃん。そんな親戚のおじさん相手に言うみたいに言うんじゃない 」


「 ・・・っっ!お嬢さん!ねぎらいの言葉をありがとうございます! 」


「 椹さん!お嬢さんなんて呼ばないでやってください。こいつはあくまでもカタギなんですから 」


「 でも、私が組長の娘ってことは事実なんでしょ。だから社さんは私の面倒を見てくれたんでしょ? 」


「 そうだね、そういう事になる。組長からお願いされなきゃ、絶対にそんなことしなかったからね 」


「 ・・・ってことは、私たちは運命に導かれて出会った二人って事になるのね! 」


「 こらこら。人の話をちゃんと聞いていたのかな、キョーコちゃん。こんな手近なところで手を打とうとしないで、恋愛ごっこがしたいならせめて相手は校内から選びなさい。もしくは片手で収まる年齢差の相手で 」


「 なによ、恋愛ごっこって!社さんこそ、私の話をちゃんと聞いてた?言っとくけど、うちの学校の生徒なんて全然興味ないわよ。だって本当にやんちゃが過ぎるバカばっかりなのよ。威張ればカッコいいと思ってる。頼りがいなんてゼロを通り越してマイナスよ 」


「 それ、なんか分かる気がするかも。その点、若頭はかなり頼りになりますからねー 」


「 違いない。26歳で大したやつだよ、お前は 」


「 そういやハタチの時だっけ?お前がお嬢さんの面倒を見始めたのは 」


「 そうですね。それからの6年間はほんとうに地獄の日々でした 」



 社がしみじみと瞼を伏せると、キョーコ以外がどっと笑った。


 若くてもヤクザはヤクザだ。己の意志でその稼業に就いたのに、いきなり子供の面倒を見る羽目になればそれは大変以外の何物でもないだろう。


 さらに泣き止まない子供が相手となれば、その苦労は格別なものだったに違いない。




 キョーコは世の中にいきなり一人ぼっちにされ、まるで泣くためだけに生まれてきた子供のように泣いてばかりだった。

 そんなキョーコを慰めるのは並大抵のことではなかった。





 ・・・・・いいか。涙が出るうちは泣いておけ。ただし、一週間だけだ。それが過ぎたらしゃんとすると約束しろ。

 でもそうだな、俺も鬼じゃないからな。

 お母さんの写真に手を合わせた時だけは泣いていい。なぜならそれが故人の弔いになるからだ。






 ヤクザは死と隣り合わせの稼業だ。

 故にヤクザの中には家庭に仕事を持ち込まないようにしている者がいるし、家族が自分の組織に関わることを由としない者もいる。



 組長もそうだった。


 御園井組の組長である御園井一志は、家族と仕事を完全に二分していた。

 一人娘であるキョーコの名前が最上キョーコなのもそのためだ。


 組長は、妻の最上冴菜とは籍を入れず、あくまでも内縁としていた。

 もっとも子供が生まれてからしばらく後に御園井がヤクザだと知ったらしい冴菜とは、音信不通になったとか。


 組長がその状況を黙って享受したのは、それならそれでいいと安心したからかもしれない。それで家族を守れると思ったのかも。



 無法者と言われているヤクザの中にも一応のルールがあって、たとえ組関係者の家族でも、一般人なら巻き込まないという不文律がちゃんとある。

 その中でも特に暗黙の了解となっていたのは、抗争で子供を狙うのは言語道断というものだった。



 しかしそれも絶対とは言い切れなかった。その証拠に、実際そのタガが外れてしまった時があったのだ。

 数年前、全国に関連組織を持つ巨大組織が内紛により分裂してしまった。それがそもそもの引き金だった。


 それまでも、暴力団同士の乱闘騒ぎが繁華街であったとか、住宅街で銃撃事件が発生したとかいう類の物騒な事件は頻発していた。その報復が報復を呼び、いつの間にか日本全土を二分するかつてない規模の抗争にまで発展してしまっていた。


 ヤクザ稼業は必ずどこかの組とつながりがある。火の粉は御園井組にも降りかかった。


 抗争はまさに血で血を洗う様な悲惨な有り様となっていて、それまで確かに存在していた一般人は狙わないという不文律さえ軽くなり、家族などの一般人までもが標的になるケースまで出ていた。


 その抗争も今は沈静化しているが、冴菜はそのときの被害者のうちの一人だ。



 ヤクザなら、誰もが死を身近なものと意識して常に覚悟を持っている。

 今日、自分が死ぬかもしれない。明日、組員の誰かが死ぬかもしれない。そんな突然やってくる今生の別れの時を、彼らは常に覚悟しているのだ。


 そういう意味で言えば、いや、そういう意味ではなくても。

 普通に生活していただけなのに、突如いきなり母親を奪われたキョーコもまた、間違いなくその抗争の被害者だったと言えるだろう。



 しかも彼女は母親から、父親に関しての一切を知らされていなかった。

 だから余計に組長は最初、出来ることならキョーコを組織に関わらせたくないと思った。


 だが結果として社に面倒を見させたのは、彼にも彼なりの親心があったということか。

 組長はこの世に一人ぼっちで放り出された娘が、施設に入ることを気軽に由とは出来なかったのだ。

 その頃はまだ、少女の身の安全についても安心できるとは言い難い時期だっただけに。



 昨日の不破組の一件は、沈静化したはずの数年前の抗争の火種に他ならないものだった。

 それが分かっているからこそ余計にキョーコを事務所から遠ざけたいという気持ちが社の中で働いていた。

 いつ、どこで、誰のタガが外れるのか全く予想がつかないからこそ。




「 ああ、くそ。こんな時になんで俺が子供の面倒なんて・・・ 」


 組長には申し訳ないけれど、当時の社はよくそんな愚痴を吐いていた。



「 あー・・・せめて。せめて、片手に収まるぐらいの年齢差だったらなー。ちょっとはやる気も違ったんだけど。それで俺が組長のお嬢さんをカッコよく守るんだよ。いいな、それ。想像するだけでワクワクするな。ま、現実はこんなもんだけど。

 しかしこうなって改めて思うけど、俺は当たり前顔で守られる子っていうのはあんまり好みじゃないかもな。多少はじゃじゃ馬な方が面白い。その方が色んな意味でドキドキ出来そうだよな。恋をするならやっぱりそういうのがないとなー 」



 なんて。



 恐らくキョーコは、このときの社のつぶやきを聞いていて、それを心のどこかで覚えているに違いない。そしてそれを自分の恋愛観だと勘違いしているに違いない。

 頼りがい・・・なんて言っているのがその証拠だと社は思った。




 そりゃあドキドキするだろう。

 一般的な立場の人間とは違って、ヤクザな男を前にすれば。

 誰だって間違いなく、色んな意味でドキドキだ。



 それは決して、恋と呼べるものではなく。






 ⇒ へ続く


弊宅の社さんはどこか苦労人(笑)



⇒恋をするなら◇2・拍手

Please do not redistribute without my permission.無断転載禁止



◇有限実践組・主要リンク◇


有限実践組・総目次案内   

有限実践組アメンバー申請要項