お付き合い頂きまして有難うございます。一葉です。
弊宅500記事を記念して、くりくり様からお与かり致しましたリクエストの続きをお届け致します。
こちらは現代パラレル蓮キョです。
お愉しみ頂けたら嬉しいです。
前のお話はこちらです⇒絵本の外の王子様<1
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■ 絵本の外の王子様 ◇6 ■
結局それから俺は、どんな顔でキョーコちゃんに声をかけたらいいのかが分からず、取り敢えず交換留学の手続きを済ませたあと、毎日のように家の中で呆けていた。
朝、いつもの様に学校へ出かけるキョーコちゃんをこっそりと見送り、示し合わせたように合流してくる光とやらの後姿を睨みつけ、期末試験で半ドンだと聞いた通りに昼過ぎには戻って来るキョーコちゃんを2階から見守る。
我ながら究極的非生産性満載な毎日だと思っていたから、3日目の夜に何の予告も無く、いきなりキョーコちゃんのお母さんが俺の家のベルを鳴らした時はさすがに動揺が広がった。
「 キョーコちゃんのお母さん… 」
「 こんばんは、蓮くん。突然だけどいまお邪魔しても大丈夫かしら? 」
「 え?……え、ええ……どうぞ? 」
当然ながら緊張した。何を言われるのかと身構えた。
アメリカに行く前の数日間に交わした数々の会話を思い出す限り、キョーコちゃんのお母さんはどこか俺達一家を疎んでいるような気がしたから。
不思議なことに、再会した彼女からその波動を感じたことはなかったけれど、それでもまだ俺はこのとき、自分が過去この人に対して抱いた心象と、再会してから感じ取れる印象のギャップに戸惑っていた。
もっとも、この人が持つ雰囲気がどこか柔らかい風に変化していたのは、再婚話の影響かも知れないことを俺は先日知ったばかりだったけど。
「 あ、でも、スリッパとか用意してなくて……すみません 」
「 いいの、私はここで大丈夫。ただ、藤道が絶対あなたに聞かせて欲しいって言うから… 」
「 ……っっ……藤道さん、ですか? 」
だからその名を聞いて急に鼓動が高鳴った。
どんな顔をしたらいいのか分からない。
キョーコちゃんのお母さんがこのタイミングで俺を尋ねて来た理由は藤道さんから先日の件を聞き及んだからかも知れないと思ったから。
完璧、孤立無援だな。
そう考えて一気に気持ちが暗くなった。
「 蓮くん 」
「 はい 」
俺の名を呼んだキョーコちゃんの母親が、薄く微笑みながら右手の人差し指を自分の口に押し当てる。
ほぼ同時に差し出された左手の平には小さな機械が乗っていた。
なんだろうと瞠目し、小首を傾げる。
するといきなりそこからキョーコちゃんの声が聞こえ始めた。
正確には、キョーコちゃんと藤道さんの会話が。
『 あれ?藤道さん。お母さん、まだ帰って来ていないですよ? 』
『 もちろん知ってるよ。最上から今日が期末試験の最終日だって聞いたからちょっと来てみたんだ 』
耳を澄ませたことですぐに気付いた。玄関ドアの向こうに同じ声があることを。
たぶんこれは受信機で、恐らく藤道さんが発信機を持っているのだろうと思われた。
でも、それはいったい何故…。
『 そうですよ。無事に終わりました。どうしますか?お母さんが戻って来るまで待ってますか? 』
『 うん、そうだね、お邪魔する。キョーコちゃんに聞きたいこともあったしね 』
『 私に?なんですか? 』
『 まぁ、立ち話もなんだから入って、入って 』
『 ちょっと、ここ私んち!! 』
玄関ドアを閉める音が聞こえて、二人が家の中に入ったのが判った。
戸惑いながら俺がキョーコちゃんのお母さんに視線を移すと、彼女は薄く笑って右手の人差し指を再び自分の口元に押し当てた。
『 キョーコちゃんのことだからあれから蓮くんと全然会っていないんじゃないかと思ってちょっと気になってね。どうしてる?彼は 』
『 なぜ藤道さんがそんなことを気にするんですか。この前、あんなに蓮くんをいじめたくせに。あれから会っていないから判りません 』
『 やっぱり… 』
『 やっぱりじゃないですよ!だいたい、蓮くんが帰ってきたら誰よりも早く紹介しろって言っていたから会わせたのにそれを… 』
『 おや、人聞きが悪いな。それはこの前お昼を一緒に食べた時に説明しただろう。
キョーコちゃんがこんな小さかった頃から僕はずーっと彼の話を君から聞かされていたから蓮くんとは初めて会った気がしなかったって。それで単純に蓮くんと会話を楽しもうと思っただけだって。
僕から言わせれば彼に意地悪しているのはキョーコちゃんの方だと思うよ 』
『 どうして私?私は意地悪しているんじゃなくて怒っているんです! 』
『 ……か、八つ当たり 』
『 なん… 』
『 だってそうじゃないか。彼は何も知らないんだ。
英語の弁論大会で、優勝出来たら交換留学の切符を手にすることが出来たのにそれをあっさりかっさらわれて、悔しくて泣き出しちゃった君を懸命に慰めてくれた友人や後輩たちに向かって英語でからかった蓮くんのそれを怒る気持ちは判らなくはないけどね 』
『 それだけじゃないもん! 』
『 うん、そうだね。今年やっと優勝出来て、いざ手続きを…って思ったもののアメリカは広いから。なんとか蓮くんの居場所を探そうとしたのにそれより前に蓮くんが日本に来ちゃったものだからイラついているんだよな。だからそれを八つ当たりって言うと思うんだけど? 』
『 そうじゃない!だって私、蓮くんがどこの州にいるのかは引っ越す前に蓮くんから教えてもらっていましたから! 』
『 おや、初耳。じゃあ何が気に食わない? 』
『 ……だって蓮くん、ぜんぜん判ってないから!私が皆の前で蓮くんを敦賀さんって呼んだ理由も、私が…私がどれだけ……っ…… 』
『 だからそれもね。僕は言っただろう、ダメだよ、キョーコちゃん。僕の前でだけ素直に涙を見せたって問題は何も解決しない。
その話もね、聞いたあとでよくよく考えてみたんだけど、僕は蓮くんの気持ちが分かるだけに彼の味方かなって 』
『 どうして!! 』
『 男はね、自分が好きな子とはいつだって親密でありたいんだ。
キョーコちゃんが蓮くんを蓮くんと呼んだら、周りにいた子達もそう呼ぶだろうって考えて、わざと名字を口にした君の気持ちはいじらしいとは思うけど、でも男は基本、他の子なんかどうでもいいんだ。何て呼ばれようが関係ないんだよ。
だからキョーコちゃんもそういう気構えでいればいいじゃないか 』
『 ………無理。私はイヤ。だって、蓮くんを蓮くんって呼んでいいのは私だけだもん 』
『 ふっ。だから、そういうの。僕に言っても仕方ないだろう。蓮くんに直接言えばいいんだ。どうしてだろうね、この子は。僕には素直に話すのに 』
『 そんなの…藤道さんに隠そうとしたって言葉巧みに操られて根掘り葉掘り聞かれるのが目に見えているから。無駄な抵抗はしないの 』
『 お、長きに渡る学習の賜物。なるほど、納得。そうだよね。だいたい、言えているならとっくに言っているな、君は。
そういう変な意地を張ってしまう所とか、最上そっくりだよ。さすが親子 』
『 だって親子だもん 』
『 それで?どうするつもりなのかな、キョーコちゃんは。
16歳になったら別の家の子になるって小さい頃からずっとそう僕に言い続けて来たくせに、いざ迎えが来たら怖気づいちゃった? 』
『 ……私だって、なんど蓮くんの腕の中に飛び込む夢を見たか分からない。でも…… 』
『 でも? 』
『 でも藤道さん。蓮くんは……私を迎えに来たわけじゃないから 』
『 ……驚くな。どこをどう受け止めたらそういう答えが出るのかな、この子は 』
『 だってそうとしか思えない!!蓮くん、再会したとき私にこう言ったもの!!……戻って来たんだ…って。
迎えに来たじゃなくて、日本に戻って来たって…… 』
『 ははぁ…。自分が欲しい言葉じゃなかったから、それで意固地になっちゃったんだ? 』
『 意固地じゃないもん…… 』
『 意固地じゃなかったらいじけてる、だ。そんな風にしか聞こえないよ。
だって彼はちゃんと僕の目を見て言ったよ。君もそれを聞いただろう 』
――――――― キョーコちゃんが名字を変えるのは俺と結婚する時だけだ!彼女が敦賀以外の性を名乗るなんて俺は絶対許さない!!
『 蓮くんにはキョーコちゃんと結婚したいっていう明確な意思がある。交換留学という波に乗って彼が日本に戻って来たのは、キョーコちゃんを迎えに来たから以外の理由を僕は探せないよ 』
『 16歳で結婚なんて早すぎるって蓮くん言っていたのに? 』
『 それは売り言葉に買い言葉ってやつだ。僕がキョーコちゃんと結婚すると勘違いして言ってしまったんだ。気付いているくせに、そういうのには蓋をするんだ。ずるいな僕の未来の娘は 』
『 違う……ズルいのは蓮くんの方だもん。だって、だって…… 』
『 どうした?まだ何かあるのかな?いいよ、どうせなら全部言った方がいい。心にわだかまっていることを全部 』
『 だって藤道さん、蓮くん、ずるい!!………だって……っ… 』
無情にも音声はそこでカチリと途切れ、俺は慌てて顔をあげた。
受信機のスイッチを切ったキョーコちゃんのお母さんは儚い笑みを浮かべたままだった。
「 ……あなたたち一家がキョーコの前から居なくなってから、キョーコは毎日死に物狂いだった 」
「 ……っ… 」
「 私にはなんにも言わなかったけど、なぜか藤道には言ったみたい。英語を勉強したいって。それを聞いた藤道が… 」
――――――― すごいよ!まだ小学校に上がったばかりだっていうのにキョーコちゃんは無知が罪ってことを知っているよ。素晴らしい向上心だ!
「 …とか嬉しそうに言っちゃって。それから忙しい合間を縫ってキョーコの面倒を見てくれるようになって、毎日、毎日、英語、英語… 」
その三年後、あの大きな空き地に、日本とアメリカの文化交流を目的としてローリィ宝田という人がLME大付属高等学校を開校。
その学校が、アメリカにあるLMEハイスクールと兄弟校と知った途端、キョーコちゃんは絶対その学校に入る…とかなり頑張ったらしい。
「 英語の弁論大会で優勝出来れば海外留学の切符が手に入る。だから去年、キョーコはかなり頑張っていた。でも結局、あの子は自力でそれを手にすることが出来なくて……。
よっぽど悔しかったんでしょうね。16歳の誕生日を迎えたときは泣いていたわ。そんなことがあったから、あなたを前にしても素直になれなくなっているのよ。分かってあげて? 」
「 …っっっ!! 」
これだ、と思った。
俺はこのギャップに戸惑っているのだ。
9年前、あんなに連絡してくるなって言ったのはこの人なのに。
「 伺ってもいいですか。キョーコちゃんのお母さん…は…… 」
「 はい? 」
「 俺がキョーコちゃんと……その……結婚しても? 」
「 ふふ。実は私、あなたたち一家が引っ越す前にあなたのお母さんと約束したことがあるの。いえ、正確にはさせられた…かしら? 」
「 え? 」
「 もし子供たちが会えないブランクを乗り越えて…。
もし蓮くんがキョーコを迎えに来たときは…。そしてもしキョーコが蓮くんと結婚したいと言ったなら。その時は決してそれを反対しないこと。
それを約束すると言うのなら、仰る通り、こちらからは一切連絡をいたしません…って言われたの。つまりそれ、約束するしかないでしょう? 」
「 まさか。そんなこと初耳です。俺なにも聞いてないですよ 」
「 そりゃあそうでしょうね。だったらその事を子供たちには言わないで下さい、それを約束して頂けるのなら私も約束します…って言ったから。
そう口にした時、少なくとも私はいつか二人は自然と忘れていくだろうと予想していたわ。だって二人ともまだ本当に子供だったもの。
だから、まさかこんな日が本当に来るなんて…… 」
「 ……思っていませんでした? 」
「 蓮くん。いまだから正直に言ってしまうけど、私、あなたのお母さんのことが羨ましかったの。だってキョーコは私が生んだ娘なのに、私なんかよりよっぽどあなたのお母さんに懐いていたから 」
「 でも、その頃だってキョーコちゃんはちゃんと… 」
「 やぁね、判っているわ。いまはもう判っているのよ。でも当時は無理だった。
だから私、職場の所長の言葉に甘えて、キョーコには学校が終わったら事務所に来るようにって言って、毎日あの子を自分のそばに置いたわ。
なぜ急にそんなことをし出した?…って藤道に問われたときは、迷惑をかけていることは判っていたからそれを許してもらうためにも包み隠さず全て話した。そのとき藤道からこう言われてね 」
…へぇ、それは良かったじゃないか。その方がよっぽど君も安心できるだろう。
「 最初は何を言い出したって思ったけど、すぐ気付いたの 」
弁護士の仕事をしていると離婚調停の話なんて嫌ってほど耳に入る。
離婚は夫婦間の問題だけとは限らない。
「 そんなに蓮くんのお母さんに懐いているのなら、少なくともキョーコが嫁姑問題で悩むことはないだろうから安心だろって言われて、それはそうかもって。
だけどそれでも気持ちは複雑で、心の整理をつけるのにかなりの時間を要したわ。
それから9年間、私はずっと、いつかそんな日が来るかもしれないと考えながら過ごして来て、同じようにその間ずっとキョーコの頑張りを見て来た。
母親だもの。やっぱり考えるわ。娘が一番倖せになれる道はなんだろうって…… 」
キョーコちゃんのお母さんはどこか寂しそうに
けれど少しだけ誇らしげに頬を緩めた。
柔らかい、はにかみ顔。
面影が重なる笑顔を見て、二人は親子なのだと強く思った。
俺は、何を勘違いしていたんだろう。
孤立無援だなんてとんでもない。
大人たちの都合で、互いのそばに居られなくなってしまう俺達を想い、俺の母さんはちゃんと確かな道を作ってくれていて
それだけじゃなくて、キョーコちゃんの周りにいる人たちもみんな色々な事を考えながら、けれどいつの間にか俺は、そんな見知らぬ人たちからもエールを貰っていたんだ。
――――――― だって藤道さん、蓮くん、ずるい!!
キョーコちゃんが何を言おうとしていたのかは判らないけど、確かに俺、ズルかったかも知れない。
心のどこかで俺は、キョーコちゃんから否定されるのを恐れていた。
だから迎えに来たよって言えずにいたんだ。
こんなんじゃ、意味ないよな。俺が日本に来た意味が……。
「 ……俺、キョーコちゃんにプロポーズしてもいいですか? 」
俺の言葉に彼女の母親は何も言ってはくれなかったけれど
ただ複雑そうな笑顔を浮かべ
目に少しの涙を滲ませ
キョーコちゃんのお母さんは深く深く、俺に頭を下げてくれた。
⇒◇7 へ続く
予定通り7話で完結出来そう!!それがいま一番の驚き(笑)
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