絵本の外の王子様 ◇5 | 有限実践組-skipbeat-

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 弊宅500記事を記念して、くりくり様からお与かり致しましたリクエストの続きをお届け致します。


 こちらは現代パラレル蓮キョです。

 お愉しみ頂けたら嬉しいです。


 前のお話はこちらです⇒絵本の外の王子様<1 4>  



■ 絵本の外の王子様 ◇5 ■





 とはいえ俺の頭の中が真っ白状態だった時間は恐らく数秒程度のことだった。

 結んだ握手を無理矢理ほどいてキョーコちゃんへ向き直る。



「 キョーコちゃん!!!本当に??!!まさか君はこの男と?!?! 」


「 え? 」



 もちろん、このとき自分が冷静に現状を把握しようと試みる余裕さえあれば、そうじゃない可能性があったことなどすぐに思いついたかも知れない。


 藤道さん…と呼ばれた人は、キョーコちゃんのお母さんとほぼ同じ年のように見えるし、俺の記憶が正しければ二人は同じ職場の同僚同士のはずなのだから。



 それに、俺は気付いていた。昨日再会してすぐに。


 キョーコちゃんのお母さんの佇まいや言葉遣いが、9年前よりずいぶん柔らかくなっていたことに俺は気付いていたのだ。




 だけどこの時の俺には泰然さなど皆無だった。




 キョーコちゃんと結婚するつもりで戻って来た日本で、9年ぶりに再会した幼なじみの彼女は妙に俺に冷たくて



 だからもしかしたら自分が離れていた間にキョーコちゃんには好きな男が出来たのかも…という思惟に支配されていた。




 そんな不安定思考の中で迎えた今朝、偶然目撃したあれ。



 やけに親し気な雰囲気でキョーコちゃんに話しかける男子学生の存在を目にしたばかりでなく、今より少し前の下校のとき、続々と校舎から解き放たれる学生たちに紛れながら二人が今朝と全く同じ様に会話し始めたのを見て、俺は疑惑を深めていたのだ。



 キョーコちゃんが英語部の部長をしていて、しかも関東地区英語弁論大会の覇者だと聞いて嬉しさのあまりに確認するのを忘れていたけど、俺の中には変わらずキョーコちゃんには好きな男がいるのかも知れないという疑心があって、それは少しも払拭されていなかった。



 だから。

 先ほど紹介されたばかりの藤道さんという人が、たとえキョーコちゃんと親子ほど年が離れているように見えたとしても安心なんて出来なかった。


 なのに彼女と家族になる予定…だなんて言われてしまったのだ。

 俺がそういうことかも知れないと短絡的な答えを導いてしまったとしてもそれは仕方がないと俺は思う。


 分かってる。これが完璧自己擁護の域でしかないことは。



 そう。このとき俺は完全に勘違いをしていたのだ。

 キョーコちゃんの本命はこの藤道さんなのかと俺は思ってしまっていた。



「 キョーコちゃんはこの男と家族になるの!? 」


「 ……そう、だけど? 」


「 なんでだよ!?どうしてそんなことに?! 」


「 どうしてって……英語の先生をやって貰ったのがきっかけで? 」


「 …っっっ!!? 」


「 うん、そうだね。もともと僕はキョーコちゃんが生まれたときから知っていたけど、毎日話すようになったのは英語を教え始めた9年前からだからね 」


「 はっ!?そう言えばそうですね!そんなに長い間、少しも面倒がらずにご指導くださってありがとうございます! 」


「 いやいや。可愛い君からのお願いだったんだ。いくらだって時間の融通ぐらいきかせるよ 」



 微笑まし気に交わされる会話に苛立って


 俺だって9年もの間ずっと君を忘れずいたとか

 英語を勉強したいならこれからいくらだって俺がネイティブを教えてあげるから、とか。


 そんな対抗心を露わにした思いが俺の中で一気に溢れて、ここが街中であることなどひとつも構わず俺はキョーコちゃんを抱き寄せた。



「 キョーコちゃん!!! 」


「 ふにっ?!な……なにぃ、蓮くん?!急にどうし…… 」


「 俺がいるじゃないか!! 」


「 へ? 」


「 こら、ちょっと待て、敦賀くん。

 いくら何でも僕の目の前でキョーコちゃんを抱きしめるなんていい度胸すぎる。離れなさい 」


「 あ!何する… 」


「 言っておくけどね、キョーコちゃんを抱きしめるなんて10年早い。…って言うのは大袈裟だけど、せめて社会人になってからにしなさい 」


「 …っっっ!!! 」



 そりゃ、弁護士をしているあなたと比べたら成人になって数ヶ月の俺は子供に見えるかもしれない。でも!!!



「 キョーコちゃん!どうしてこんなおじさんを君の家族に選ぶんだ!? 」


「 うん?いま何か言ったかな? 」



 俺の言葉にカチンと来るところはなかったのか、藤道さんは面白そうに目を細めた。


 この時点でたぶん彼は、俺が勘違いをしていることに気付いていたのだろうと思う。だから俺をここぞとばかりに手玉に取って楽しもうとしたのかも。


 けれど俺は、藤道さんの余裕然としたそれに不安を覚えてしまって、余計に焦ってしまっていた。




 結局このあと俺は

 後悔してもしきれないほどの失言を連発することになる。



「 キョーコちゃん、考え直して!俺の方が若くて将来性があるから!! 」


「 はい? 」


「 将来性?そんな不確かなもの、何の約束になるんだ。若さだって同じだ。誰にでも平等に明日がやって来るなんて思わない方がいいぞ 」


「 英語以外の勉強だって俺は君に教えられるよ!? 」


「 必要ない。勉強は自分でやってなんぼ。人から教えられたことなど頭の中に入らない。だからこそ解らない時にだけ解き方のヒントを聞きに来ればいいんだ。教えられる?君だって学生の身分じゃないか。

 少しぐらいキョーコちゃんより年上だからって人に何かを教えられると思い込むなどおこがましいにもほどがある 」


「 ……っっ……俺は……俺は…… 」


「 いまのを聞き及ぶ限り、もしかしたら敦賀くんは僕とキョーコちゃんが家族になるのが嫌なのかな 」


「 その通りです!! 」


「 それは残念だな。けど僕はキョーコちゃんともうじき家族になる。そう。彼女の今度のバースディに籍を入れる予定なんだ。

 つまりその日からキョーコちゃんは僕の名字を名乗るってこと。藤道キョーコってね 」



 この瞬間、俺は激しく噴火した。

 もしかしなくても機関銃より激しくまくしたてたかもしれない。



 だって信じられなかった。

 キョーコちゃんはずっと俺を待っていてくれると俺は信じていたから。



 なのに!

 よりによってこんな年上過ぎるおっさんと!!!!




「 絶対反対!!!断固反対!!!だってキョーコちゃんはまだ16歳じゃないですか!! 」


「 そうだね。16歳。

 16歳ともなれば結婚も出来る国が認めた立派なレディだ 」


「 だからって反対です!だいいち16歳で結婚なんて早すぎる!!

 それに、キョーコちゃんが名字を変えるのは俺と結婚する時だけだ!彼女が敦賀以外の性を名乗るなんて俺は絶対許さない!! 」


「 そう、赦さないね。ふ…別に僕は君に許しを貰えなくても痛くもかゆくもないけど。……で?20歳になったばかりの君に一体なにが出来るんだ?

 確かに僕もね、16歳で結婚はさすがに早いと思うから君の意見には僕も大賛成だけど、それでも僕は籍を入れるよ。そしてキョーコちゃんと家族になる。

 ああ、そうなったらキョーコちゃんの英語の指導、今以上にしやすくなるかも知れないね。ね、キョーコちゃん 」


「 ……藤道さん…… 」


「 キョーコちゃん。さすがにこの流れになったら僕を藤道さんと呼んだらダメだろ?せめて奨さんって呼んでくれなきゃ 」


「 えー?さすがにそれはぁ~ 」


「 反対!!反対!!断固反対!!

 だってキョーコちゃんは俺とっっっ!!!! 」




 この時にはもう目に涙が滲みそうになっていた。

 キョーコちゃんは俺の家族になる約束をしていたのだと言ってやるつもりだった。



「 うるさいよ、敦賀くん。往来なのに人目をはばからずに大声を出すのはやめてもらえるかな 」


「 ふぐっ!! 」



 たかが口を塞がれたぐらいで俺が大人しく引き下がると思うなよ?

 いま大声を出すことで後々後悔しなくて済むなら俺はいくらだって叫んでやる。



 キョーコちゃんは俺のだ!


 たとえ神に背いてでもこの意思と信念だけは貫き通してやる!!!



「 …っ……手を離…… 」


「 それにしても寂しいよ、敦賀くん。僕はね、君からも祝福して欲しかった。けど、仕方が無いのかも知れないね。何て言ったって考え方は人それぞれだから 」



 祝福なんて出来るはずが無いだろう。

 幼なじみだからって、おめでとうなんて言えるはずが無い!



「 出会って数秒で君と敵対するのは胸が痛いけど、それも致し方のない事だ。弁護士の仕事をしているとね、こういうことには自然と慣れて来るものなんだよ 」


「 あの、藤道さん? 」


「 こら、キョーコちゃん。藤道さんじゃないだろ?半年以上先とはいえ、今度のキョーコちゃんの誕生日に君は藤道キョーコになるんだから。

 ここは空気をきちんと読んで、僕のことは奨さん、もしくはお父さんって呼んでくれなきゃ 」






 …………―――――――― はい?

 いまなんて?




「 でも藤道さん。お母さん、まだ籍を入れるかどうか決めてないって言ってましたよ?昨日 」


「 ちっ!この期に及んで最上…まだイジイジなにか考えているのか。いい加減、往生際が悪いな 」


「 ……おとうさん? 」


「 なに、敦賀くん。僕は君からお父さんと呼ばれる覚えはないよ 」


「 え?もしかして、キョーコちゃんのお母さんと……? 」



 ……ということは、この人はキョーコちゃんの未来の父親ってこと?

 ひいては俺にとっての義理の父に……?



「 そうだけど。君は反対なんだろ?断固反対、絶対反対ってまくしたてられたからね 」


「 あっ!!!あの、すみませんでした!!俺、てっきり…… 」


「 しっし!近寄って来ないでくれるか?あれほど反対論を唱えた奴に今さら頭を下げられた所で信用できるはずが無いだろう? 」


「 …っ……藤道さん!! 」


「 おいで、キョーコちゃん。だいぶ時間過ぎちゃったな。お昼まだだろ?僕と一緒に食べに行こう 」


「 でも……あ…… 」


「 ……キョーコちゃん…… 」



 一度は俺に振り向いてくれたけど、結局キョーコちゃんは何も言わず、藤道さんと一緒に歩いてどこかに行ってしまった。


 呆然と立ち尽くしてしまった俺は、彼女の後ろ姿がやがて見えなくなった頃、血の気が引いた貧血患者のように頭を抱えてしゃがみ込んだ。





 ――――――― 一生の不覚。

 なんて失態をしでかしたのか自分は……。




 よりにも寄ってキョーコちゃんの未来の父親になんてことを言ったんだ。





 ――――――― 16歳で結婚なんて早すぎる!!





 自分はそのつもりで帰国したくせに

 彼女を奪われたくなくてつい口走ってしまった言葉。


 結局それが自分の首を絞めることになるとも知らず。





『 確かに僕もね、16歳で結婚はさすがに早いと思うから君の意見には僕も大賛成だけど 』






 まだキョーコちゃんに好きな男がいるのかどうかも確認出来ていないのに、更に追い打ちをかける様に自ら結婚までの道のりを険しくすることはないだろう。


 どうしてこんな

 ハードルを上げるような真似を……。



 なにしてるんだよ、俺は……。




 このあとどうやって帰宅したのか

 俺の記憶には何も残っていなかった。






 ⇒◇6 へ続く


そしてこの蓮くんvs藤道さんシーンが書きたかったのです。


分かっていて敢えて言うように誘うなんて藤道さんは悪い大人ですね(笑)でも本当はいい人なんですよ。



⇒絵本の外の王子様◇5・拍手

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