恋する生徒会長番外編3・恋する前の生徒会長 | 有限実践組-skipbeat-

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 一葉です。いつもありがとうございます。(。-人-。)

 このお話は魔人sei様のリク罠№160 をお題としてスタートさせた現代設定パラレル蓮キョの本編に織り込むことが出来なかった内容を含んだ完結後のお話です。


 少々長めですがこちらで完全完結となります。

 キョーコちゃんsideでお届けです。お愉しみ頂けたら幸いです。


 本編を含む前話はこちら↓

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 おまけ【その真実】

 番外編【同窓交遊】

 おまけ2【最初のギフト】

 番外編2【彙類の友】



恋する生徒会長・番外編3

■ 恋する前の生徒会長 ■





 LME女学園の卒業式を終えて、モー子さん、天宮さんと私を含んだ元生徒会役員5名で連れ立ち、楽しかった女子高生活の名残を惜しんで私たちはお気に入りのカフェへ向かった。


 ミューズという名前のカフェにはその名にふさわしき美魔女な店主。

 テンさんの愛称で親しまれているエプロン姿の女神さまは、私たちを見るなり卒業おめでとうと祝辞をくれた。


 意外にも、店内にはまばらにしかお客様がいなかった。



「 ありがとうございます。三年間お世話になりました。ここで勉強をしたり打ち合わせをしたりして楽しく長居させていただいたことは一生忘れません 」


「 最後だから来ちゃいました。なんて、卒業しても時々は来る気でいますけどね 」


「 でも制服姿はラストでしょ。存分に楽しんで行って♪ 」


「「「「「 はい、ありがとうございます! 」」」」」



 毎日のように顔を合わせていたのに沈黙なんて一秒たりとも存在せず、けれど手にした卒業証書が在りし日を彷彿とさせて涙を誘いそうな気がして、私たちは意識的にそれを見ないようにしていた。



「 今日って男子校も卒業式でしょ?キョーコ、敦賀さんは大丈夫なの? 」


「 うん。敦賀さんは敦賀さんでみんなと卒業を祝うって言っていたから。私たちは夜に会う約束をしたから大丈夫 」


「 いいよね~!!生徒会長の彼氏!!お付き合い始めちゃうなんて羨ましすぎ! 」


「 ちょっと、生徒会長はやめてよ。もう卒業したんだから 」


「 つい癖で。でもほんと、素敵な彼氏で羨ましい~! 」


「 まぁ、長い片想いだったけど、成就して良かったわよね、キョーコ 」


「 えへへ。うん、ありがとうモー子さん。本当に付き合えるようになるなんて今だって夢みたいだけど、でも思い切って生徒会長をやって本当に良かったって思ってる 」



 私の言葉に二人の元役員がキョトンとした顔をした。



「 ……え?なんか、その言い方だとなんか…… 」


「 うん、なんとなく?敦賀さんと付き合いたいから生徒会長をやったって風に聞こえるんだけど? 」



 ええ、そりゃそうでしょうとも。だってそう言ったのだから。



 私がLME女学園に入学した目的は、ショーちゃんと私はレベルが違うのだということを見せつける為だったけれど、私が生徒会長になったそもそもの目的は敦賀さんに近づきたかったからだった。





 私が敦賀さんを知ったのは、入学して一ヶ月ほど経った頃だった。


 ショーちゃんから紹介された友人から申し込まれた交際を断ったあと、やたらと男子に追われるようになっていた私は、その日も通学途中で追いかけられて一時的に身をひそめようと通学路の道を逸れた。


 女学園はその名の通り女子高だから、学校の敷地内に入ってしまえば安全だと判っていたけど、追って来る男子の中には足の速い人もいて、学校に着く前に肩を掴まれたり手を握られたりして引き止められたこともあったのだ。



 その際、面倒なのはどうして逃げたのかと問われること。


 何を言っても納得してくれないし、とにかく聞く耳すらまともにもってくれず、ひたすら面倒なことこの上ないと判っているので誰にも捕まらないようにすることが自分にとっては一番重要なことだった。



 その日は確か、5月の終わり頃だったと思う。


 やたらと天気が良くて

 朝っぱらから陽射しがきつくて…。


 走ったから喉が渇いて冷たいものが欲しくなった。


 だから私は公園に聳えている数々の大木の後ろに隠れつつ、忍者のように木々の後ろを渡り歩いて自販機の前まで移動したのだ。



 ホッと溜息をついたのも束の間。次の瞬間、自販機の茂みから舌打ちが聞こえて私は息をひそめて背筋を伸ばした。



「 …チッ…… 」


 正直、ゾッとしながら身構えた。まいたつもりでいたのに誰かが追って来ていたのかと…。



 けれど違ったのだ。

 その声の主は私を追って来た人ではなかった。


 それはすぐに判った。



「 ……気のせいか?くそ。休まる時が無いな。

 それでも学校に着けば安心だっていうのに…… 」



 学校に着けば…なんて、私が考えたのと全く同じ。

 もしかしたら自分と同じように誰かに追われた人が居るのかなってほんの少し覚えた親近感。



 隣接校に背の高い超絶イケメンが入学したって噂は自分の耳にも届いていたけど、その時の私は自分のことで精一杯で敦賀さんの事を知らなかったのだ。



 ひょっとしたらこの人も喉が渇いて自販機の近くまでたどり着いたのかも知れない。

 出て来たらどうしよう…とも思ったけど、その姿を見たいとも思った。



 そのとき。



「 なんでだよ。いいじゃないか、少しぐらい休ませてくれても 」


 誰かと話しているようなセリフ。

 小首を傾げた私の耳に、少々怒り気味の猫の威嚇声が届く。


 姿こそ見えないその人は、自販機の向こう側で少しだけ息を荒くしていた。



「 分かった!あとで場所代払いに来てやるから! 」



 まさかネコと会話をしている?



 それだけで凄く心が和んで、一体どんな人なんだろうって興味が沸いた。


 自販機に寄りかかって茂みを覗こうとそっと私が態勢を変えたとき、カバンに付いていた定期付きのICカードに自販機が反応して缶コーヒーが落ちてしまった。



「「 ……っっっ!!! 」」


 私も息を飲んだけど、その人は私以上に驚いたに違いない。



「 くそっ!! 」


 たぶん、学校に行った方が安全だと思ったのだろう。

 彼は私に後姿だけを晒し、あっという間にその場から走り去って行ってしまった。



「 ……ごめんなさい。せっかく休んでいたのに… 」



 悪いことをしたなと思ったけど、でも同じタイミングで自分と同じことを考えた人が居たことが嬉しかった。



 覚えた親近感はなかなか薄れず、それどころか自分の意識を簡単に傾ける。


 誰かに追われていたのなら…もしかしてと考えてクラスメイトに噂の敦賀さんが誰なのかを教えてもらったこともあったけど、正直、本人を見てもあの時の彼が敦賀さんだったのかどうかは判断のしようがなかった。



 だけど、思えばこのとき私はもう顔も知らないその人に恋をしていたに違いない。


 誰から告白されてもあの時の彼の後姿が自分の脳裏を何度も過ぎり、その度に私は思っていた。



 初めて付き合う人は絶対にあの人が良いと。




 その人が敦賀さんだったと気付いたのは私が2年生になった時だった。



 実は、隣接校であるLME高等学校の生徒会役員は、立候補や推薦で決まるのではなく、全国統一テストの順位順に選抜される事が知られていた。


 それもただ成績順に名を連ねるだけじゃない。

 歴史あるLME高等学校は文武両道をモットーとしていることから、成績だけではなく武道にも長けている必要があって、その両方を兼ね備えた人でないと生徒会役員にはなれないのだ。


 もちろん名前が挙がっても務めるかどうかは本人の意思に委ねられ、辞退することも可能だと聞くけれど、そのステータスを放棄する人は稀だった。



 ちなみにこれは後で聞いた話。

 敦賀さんは会長職を務める気が無かったらしい。だけど、それを強引に推したのは副会長の社さんだったと聞いた。


 恋人として正式に付き合うようになってからふと敦賀さんが教えてくれたのだけど、どういう経緯でそうなったのかを聞いても詳細はなぜか教えてもらえなかった。




 新生徒会長が誕生し、就任の挨拶がマイクを通して女学園にも届いた。その声を聞いたとき私は初めてあの時の彼が敦賀さんだったことを知ったのだ。



「 この声……。あの時の彼が新生徒会長? 」



 敦賀さんの話は毎日耳にタコが出来そうなほど女学園内を飛び交っていて、彼が女嫌いという噂話ももちろん聞いていた。


 あの時の後姿の彼が敦賀さんだと知ってから、自然と私の意識も彼に向きはしたけれど、外見がどうとかではなく、私はネコと真剣に会話をしていた敦賀さんの人柄に惹かれたのだと思った。




 小さな小川を挟んで隣接しているLME女学園とLME高等学校は兄妹校という間柄。

 そしてこの兄妹校には合同学園祭という行事がある。


 女嫌いと噂の彼に近づくにはこれが最良の方法だと思ったし

 むしろこれ以外に道はないと思った。



 男子校と違って女学園の生徒会役員は自薦他薦によって候補者が立ち、投票によって選ばれる。

 もし選ばれたらまたショーちゃんとの差も開いて自分は高みに登れると思った。


 そして女学園の生徒会長となった暁には、合同学園祭を通じて敦賀さんと顔見知りとなり、いずれは敦賀さんに振り向いてもらおう計画を秘かに立てた私に迷いはなかった。


 あとは知っての通り、思わぬ展開になった訳だけど。



「 LMEは大学付属なのが一番有難いわよね 」


「 ねー!!女学園は卒業しちゃったけど大学構内でまた会えるのが嬉しい 」


「 それぞれ学部が違うけどね 」


「 キョーコ 」


「 ん? 」


「 冬休み、アンタ、彼氏と卒業旅行に行くんでしょ?ふふ…。いいわね、ラブラブ 」


「 う…ん。もういまから緊張する!! 」


「 えー、いいじゃない。宿泊先はタダなんでしょ?でも大丈夫なの?彼氏のご両親の家に泊まるなんて、まるで結婚前の挨拶に行くみたい 」


「 うっ!!考えないようにしているのに、お願いだから妙なプレッシャーかけないでよぉぉ!!! 」


「「「「 あはははは 」」」」


「 でも日本とアメリカの往復じゃ交通費だけだって結構したんじゃない?いくらバイトしていたからって大丈夫なの?奨学金とかって卒業後に返済しなきゃいけないんでしょ? 」


「 やだ、違うわよ。キョーコのは払う義務ないの 」


「 え?そうなの?奨学金っていうと借金ってイメージがあるから… 」


「 うん。平気なの。私のは特待奨学金だから 」



 奨学金にはいくつか種類があるのを知っているだろうか。



 卒業後に学費の返還義務がある貸与奨学金。

 働きながら進学することが出来る新聞奨学金。※以前、朝日新聞にあったのですが現在この制度はなくなっています。


 それから、今回私に適用された、返済不要な給付型の特待奨学金がある。



 給付型の奨学金は卒業後の返済は不要なのだが、審査の基準が厳しい上に募集枠が少なく、一部の成績優秀者のみが利用できるという狭き門。


 それが、LME女学園には学園自体にその制度が導入されていて、私がLME女学園を選択した理由の一つにそれもあったのだ。


 私は特待生としてLME女学園に入学した。

 特待生とは、入学試験や在学中の成績優秀者に対して学費の一部、または全部が免除されたり、奨学金の支給などの特別待遇を受けられたりする生徒のこと。



 母に負担をかけたくなかった。

 けれど自ら借金を背負いたくも無かった。


 将来の事を考えたらバイトも必要不可欠で、けれど特待生としての待遇を受け続けるために成績を落とすことも許されなかった。

 でも、自分で努力をすればいいことだから。とにかくひたすら頑張った。



 そういえば、LME高等学校のレベルがどれぐらいなのかを知りたくて、敦賀さんと似非恋人契約を結んですぐ、全国統一テストの順位を敦賀さんに聞いたことがあった。


 自分としてはかなり頑張っていたつもりでいたのに、彼が自分より20番も上だと知ったときは本気で悔しいと思った。



「 ……キョーコ 」


「 え? 」



 私の両隣に座っていたモー子さんと天宮さんが、申し合わせていたかのように同時に私に近づいた。

 二人は私を中心にして、まるでシンメトリーになって私の耳に口を寄せた。



「「 戻って来たら報告して。どんな婚前旅行だったのかを 」」


「 もう!!お願いだからプレッシャーかけないで!!! 」



 私たちが入店する前は静かだったでしょうに、ミューズ・カフェに笑い声が溢れる。


 冬休みに敦賀さんと一緒にアメリカへ行き、そしてまた戻って来たら、今度は制服を脱いだ私たちがまたここで笑い合うのだろう。





 敦賀さんと約束をしたのは卒業旅行。



 彼と一緒に彼の両親の元を訪れ

 久しぶりに再会するという家族に紛れて共に同じ時を過ごし、楽しい時間を共有してから帰国した私たちの左手薬指には




 それぞれで輝くペア・エンゲージ。






  END


蓮くんが生徒会長となった理由。キョーコちゃんが生徒会長となった理由。そしてキョーコちゃんが蓮くんに惹かれた理由と、二人がその後どうなったのか、までお届け出来て大変満足です。


間を空け随分お待たせしてしまったこともありましたが、ラストのラストまでお付き合い頂きましたことに心から感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。


ちなみにですが、蓮くんより社さんの方が成績が上でして、役員候補で一番に名前が挙がったのはヤッシーでした。

一歳年上のヤッシーの内申を少しでも良くしたいと考えた蓮くんは、当然、ヤッシー兄ちゃんに会長職を推奨したのですが、その蓮くんにヤッシーはこう言いました。


「お前が生徒会長をやるなら俺が副会長をやってもいいけど、お前がやらないなら俺は生徒会役員にすらならない」

曰く、これが鶴の一声。



⇒恋する生徒会長番外編3・恋する前の生徒会長◇拍手

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