場面かんもく相談室「いちりづか」

場面かんもく相談室「いちりづか」

場面緘黙専門のオンライン相談室

場面緘黙の症状がすぐに治せるケース

場面緘黙の症状がある子の中には、すぐに治せるケースもあります。

 

□ 本人が「話せるようになりたい」と強く思っている
□ 家や家族の他にも話せる場面がいくつかある
□ 緘黙症状以外の問題がほとんどない

 

この3条件にすべて当てはまる子の場合、そもそも緘黙症状は簡単に治ってしまう可能性が高いです。この条件が揃っているのにまだ治っていないとすれば、その理由は次のいずれか(または両方)であることがほとんどです。

 

1.緘黙症状を改善させるための取り組みが行われていない

2.周りの「話さない子」という見方が強かったり、話さなくても学校生活が送れる配慮がされすぎている

 

こういう子の場合は、計画的に取り組めば緘黙症状はすぐに改善させることができます。状況にもよりますが、数週間から数ヶ月程度で治せてしまうケースも少なくありません。本人と話せるようになるための方法を相談してみましょう。

 

場面緘黙の治療というと「スモールステップ」ということばをよく聞きます。

ですが実際には、緘黙症状の改善はずっとスモールステップで進むわけではありません。
あるとき一気に症状が改善するケースの方が圧倒的に多いです。

 

正しいイメージをもつことが症状の改善の近道です。

 

 

スモールステップではなく「一気に治る」こともある

「スモールステップ」という考え方

場面緘黙について調べると、「スモールステップ」ということばをよく目にすると思います。

インターネットの記事や本にも「スモールステップ」と書かれていることが多いです。

 

スモールステップは、治療方法・心理療法というよりも「考え方」の一つです。

治療計画を立てる際には、治療のゴールや練習方法を考えます。

その際に考慮すべき考え方の一つが「スモールステップ」です。

ではスモールステップとはどういう「考え方」なのでしょうか。

それは、「少しずつやる」ということです。

緘黙症状のある子に、いきなり学校でみんなの前で話すことを求めても上手くいきません。

「急にはできないから、少しずつやりましょうね」ということです。

 

ずっと「スモールステップ」で改善するわけではない

ところが、緘黙症状の改善は実際にはずっと「スモールステップ」で進むわけではありません。

少しずつ改善する時期もありますが、あるとき急激に症状が改善することが多いです。

私の感覚では、一気に階段を駆け上がっていくようなイメージがぴったりきます。

 

この図はあくまで模式的なイメージです。

(全員がこうだというわけではありません)

 

「少しずつ改善する時期」もありますが、「大きく症状が改善する時期」もあります

そしてあるとき一気に症状が改善して、みんなの前で話せるようになっていきます。

 

スモールステップで練習する時期と、大きなステップアップをする時期を考える

練習の計画を考える際も、このような改善の仕方の違いを意識してみましょう。

スモールステップで練習を進めていると、あるとき一気に症状が改善できそうな時期がきます。

 

その時を見計らって大きなステップアップに挑戦してみましょう

 

症状が一気に改善するのはどんなときか

改善させやすいのは「進学」「進級」のタイミング

緘黙症状の改善が最も急激に進むのは、進学や進級など環境が変わるタイミングです。

小学校や中学校に進学したタイミングで緘黙症状が治るケースはとても多いです。

 

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こういった大きな環境の変化は緘黙症状の改善のチャンスです。

時間をかけてしっかり準備して、話せる状態を目指しましょう。

 

小さな環境の変化やきっかけでもうまくいくことがある

もっと小さな環境の変化が大きく影響することもあります。

・引っ越しや転校

・席替え

・担任が産休などで交替した

・転校生がきた

・塾や習いごとを始めた

・発表会や参観日

・長期休み明け など

 

こういった小さな環境の変化で、「ちょっと大きいステップ」に挑戦することもできます。

 

本人が「できそうだ」と思う時がチャンス

環境の変化でなくても、本人自身が「できそうだ」と思えばチャンス到来です。

 

例えば次のようなケースでも、短期間での大幅なステップアップが期待できます。

・練習が順調にいっていて、他の友だちとも話せそうな気がしてきている

・1つの目標が達成できて、「話せそう」という自信がついた

・本人が休み明けからみんなと話せるようにがんばりたいと言っている など

 

こういう時はスモールステップにこだわる必要はありません。

できそうなことにどんどん挑戦してみてもいいでしょう。

 

「スモールステップ」ではなく、一気に症状が改善したケース

 

 

 

大事なのは「スモールステップ」ではなく、「適切なステップ」

「スモールステップで進める」という誤解

そもそも、練習はスモールステップで進めなければならない、ということが大きな誤解です。

基本的には焦らずゆっくり進めていくことが大事ですが、そうではないときもあります。


ときには大幅なステップアップも大切です

 

私の経験では緘黙症状の改善が最後までスモールステップで進むことはありません

必ずどこかで、一気に改善する時期がやってきます。

 

「適切なステップ」を考えることが大切

「スモールステップ」というのは、ある意味で練習の条件を制約していることにもなります。

大事なのは「スモールであること」ではなく、「適切な大きさであること」です。

 

その適切な大きさのステップが、スモールなこともあれば、特大なこともあります。

その時々に応じた「適切なステップ」を考えることが大切なのです。

 

 

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【質問】

小学5年生の緘黙症状のある子の保護者からの質問です。

 

お店など出かけた先でのコミュニケーションについての質問です。

親と一緒にいると甘えてしまうのか、外出先では知らない人と話すことはありません。

学校での練習は進んでいるので外でもしゃべってくれたらと思うのですが、難しいでしょうか。

 

歯医者などで聞かれたときや挨拶が必要なときも、まだ言えません。

外で何か聞かれたときなどに、本人の気持ちを親が代わりに言ってあげてもいいでしょうか。

無理をさせてはいけないとは思うのですが、甘やかしていることにならないか心配です。

 

 

【回答】

計画した練習がしっかり行っていけば大丈夫です。

それ以外のことは親が代わりに言ってあげても問題ありません。

 

学校での話す練習は順調にいっているようですね。でしたら他の場面では親が代わりに言ってあげても問題ありません。

 

私がそう考える理由は2つあります。

 

1つ目は「支援99%、治療1%」でいいからです。

話すことが求められる場面は無数にありますので、全部で練習しようとすると本人にとって負担が大きくなりすぎます。お子様の場合はすでに学校での練習を計画的に行っていますので、他のところでは練習しなくて構いません。

 

2つ目は、「無計画にやっても上手くいかない」からです。

学校での練習メニューは、目標や難易度などをしっかり考えて作ったものですので、ほとんど失敗することはありません。ですがお店や病院などで無計画にやろうとすると、上手くいかないこともあります。またその時上手くいっても、そこから先につながっていかないので、結果的にあまり効果的な練習になりません。

 

ですので、計画した練習を着実に進められていれば、他は親が代弁してあげても結構です。

 

 

この記事では「いちりづか」に相談した場合、場面緘黙の症状が治るまでにだいたいいくらくらいかかるのかについて解説します。本人の症状などによって大きく異なりますが、大まかな目安として参考にしていただければ幸いです。
 

 基本は「1回6,500円」 

「いちりづか」では、1回の相談は通常のオンライン相談(60分~90分)は6,500円です。

 

・割引料金

次の場合は割引料金(4,500円)になります。

1.ショートタイムセッション割引:2回目以降、30分以内で終了した場合
2.きょうだい割引:兄弟姉妹で緘黙症状があり複数回の面談をする場合(2人目の料金を割引)
3.再相談割引:次回の面談が2週間後の同じ曜日までの間に実施される場合

 

 

 

 1回の相談でできること 

1回の相談は60分(~90分)の枠が確保してあります。十分な時間がありますので、詳細なところまで計画を立てたり、本人へのカウンセリングを行ったりすることができます。

・緘黙症状を治すための最適な計画

「いちりづか」では「緘黙症状や関連する問題を解決するための最適な計画」をご提案します。

・園や学校で話せるようになるために、どのような練習に取り組んだらよいか

・園や学校には何をどのようにお願いすればよいか

・話せるようになるまでに、概ねどのくらいの期間がかかりそうか

・家庭ではどのような対応をしたらよいか

・入学・進学までの期間にどんな準備をしたらよいか

・した方がいいこと、しない方がいいことは何か

・緘黙症状以外の問題への対応(不登校、不安症状、など) など

 

1回の相談では、時間をかけてお話を伺った上で、こういった点について詳しくご説明します。

 

・メール相談は無料

また上記の料金には無料の「メール相談」も含まれています。相談時にお話ししたことがすべて計画通りに進むわけではありませんので、進捗状況に応じてメールでご報告いただいたり、疑問点をメールでお問い合わせいただいたりしても結構です。例えば次のような内容のメールをいただくことが多いです。

・計画した練習が上手くいったので、次のステップアップはどうしたらよいか

・計画した練習が上手くいかなかったが、どうしたらよいか

・相手(先生など)が協力してくれなかったが、どうしたらよいか

・子どもが学校に行きたくないと言いだしたが、休ませてもいいのか

・〇〇の方法が効果があると聞いたが、試してみてもいいか

・病院には連れて行った方がいいか、知能検査は受けさせた方がいいか など。

 

こういったご質問にもすべて無料でお答えしています。

※その他よくあるメールでの質問については【質問コーナー】の記事でも紹介しています。

 

・本人へのカウンセリングや話す練習

もちろん保護者の相談だけでなく、本人への直接のカウンセリングも行っています。

・本人との話す練習

・本人への認知行動療法

・マインクラフトなどを使ったオンラインでの個別活動

・その他、色々な問題についての相談 など

 

相談はチャットやメタバースなど様々な手段を使いますので、声で話せなくても大丈夫です。

 

 相談終了までの期間や回数の目安 

終了までにかかる回数によってトータルの金額は変わってきます。「いちりづか」で相談を受けたケースのデータから、大まかな期間や回数の目安をご説明します。

 

・緘黙症状が解消するまでの期間

いつもブログで説明しているように、場面緘黙の症状は適切なアプローチをすれば比較的短期間で改善します。ほとんどの場合は数ヶ月から長くても2、3年程度で緘黙症状は治せます。「いちりづか」に相談があったケースの記録を見ると、相談開始から緘黙症状解消までの平均は8.8か月(約1年半)でした。

もちろん緘黙症状以外の要素があったりすると長くかかる場合もあります。こういった症状が重いケースは比較的稀で、相談件数全体の数%がこれに相当します。

非常に短期間で緘黙症状が解消することもあります。1回で終了することも珍しくなく、25%のケースでは3か月以内に問題が改善して相談終了になっています。

 

・「入学」「進学」のタイミングで改善するケースは多い

特に症状が改善しやすいのは、小学校への入学や中学高校への進学のタイミングです。環境が変わるときを狙って丁寧に準備を行えば、新しい環境で話せる状態でスタートできるケースが多いです。

どのくらいの準備期間が必要かはケースバイケースですが、概ね1年あれば十分だと思います。ですので年長に上がったタイミングや小学6年生の1学期から準備をしていけば、1年後には緘黙症状が改善できている可能性が高いです。

 

・終了までの相談の回数

「いちりづか」での相談の頻度は、3、4か月に1回程度のペースで行うことが多いです。

1回の相談で具体的な練習の計画を立てたら、そこから3か月程度は学校等で練習を続けてもらうことになります。練習の頻度は多くても週1回くらいで、実際には練習できない週もありますので3か月くらい練習を続けていただいてからお話を伺うようにしています。

学校の場合は「学期」にも左右されますので、だいたい「1学期に1回くらい」の相談となることが多いです。

 

「いちりづか」に相談があったケースでは、相談開始から終了までの相談回数は平均で4.1回でした。稀に長くかかるケースもありますが、10回を超えることはほとんどないようです。

 

・実際にかかる費用の目安

以上のデータを基に、緘黙症状改善までに実際にはどのくらいの費用がかかるかを考えてみましょう。いくつかのモデルケースでご説明します。

 

①平均:4回の相談で1年半で改善した場合

6,500円(割引の場合は4,500円)×4回 = 2万円~2万6千円

 

②年3回程度の相談で、1年半で改善した場合(相談回数は5回程度)

6,500円(〃)×5回 = 3万円程度

 

③3年程度で改善した場合(相談回数は10回程度)

6,500円(〃)×10回 = 6万円程度

 

④1回で改善して終了した場合 6,500円

 

もちろん相談終了までの期間も相談回数もケースバイケースです。短期集中で月1回ペースで相談する方もいますし、半年に1回くらいの割合で相談を受けるケースもあります。頻度や期間についても、個々の状況に応じて最適な時期をご提案しています。

 

 「いくらかかるか」よりも大事なこと 

ここまで「治るまでにいくらかかるか」を考えてきましたが、それよりも大事なことがあります。それは言うまでもなく「場面緘黙の症状が治るか」です。

 

・治らなければ意味がない

どんなに安くても、症状が治らなければ意味がないと私は思います。

 

例えば自治体の相談機関(発達相談センターや教育相談センターなど)は無料ですので、最初の相談先としてはお勧めです。こういった地域の相談機関にかかって症状が解消するケースもたくさんありますので、まずは身近なところにご相談いただくのがよいと思います。ですがこういった機関にかかっても症状の改善につながらないケースもあります。いくら安くても、症状が改善しないのに通い続けていたら、それは無駄な時間を過ごすことになってしまいます。

放課後等デイサービスや病院でのカウンセリングも同様です。これらは比較的安価で利用することができますが、やはりいくら安くても効果がなければ無駄な出費です。

 

・費用は無料でも、「コスト」は0ではない

費用が安くても、そこに通う時間や労力といった「コスト」がかかります。

子どもを病院に連れて行くのがいかに大変なことかは、子を持つ親なら誰でも分かることだと思います。その時間や労力は、本来なら他のこと(買い物や掃除、ご飯を作る、子どもとゆっくり過ごす、親が息抜きをするなど)に費やすことができたものです。

実際、放課後デイや病院に長い期間通わせていても、緘黙症状は全然改善していないというケースは多いです。金銭的には大した出費ではなくても、そこに費やした時間や労力は莫大なものになります。効果のないカウンセリングを受けるくらいなら、家でゴロゴロしていた方がマシではないでしょうか。

 

ですので大事なのは、安いかどうかではなくそれに見合った効果があるかではないでしょうか。

 

・無駄な「コスト」がかからないオンライン相談のメリット

「いちりづか」は完全予約制のオンライン相談です。

待ち時間も送迎もないので、無駄なコスト(時間や労力)がかかりません

 

また、その他の「無駄」も一緒に削減できるというメリットがあります。

代表的な例は「病院のカウンセリングをつづけようか迷ってる」「放課後デイには行った方がいいか」といった問題です。放課後デイや病院のカウンセリングは効果が出ないと感じていても辞め時が難しいものです。そういったものを適切に取捨選択できれば、もっと大事なところに時間や労力を費やすことができます。

 

場面緘黙の症状を治したい、効果的な方法を知りたい、という方はご連絡ください。

 

【質問】

小学3年生の緘黙症状のある子の保護者からの質問です。

 

教えていただた方法で学校での練習ができるように、担任の先生に相談しました。

今日はもう一つ別件で相談があります。

 

ご相談の際に受診についてもお話ししましたが、その病院でプレイセラピーを勧められました。

2週間に1回ほどのペースで通って、心理士の先生とセラピーを行うそうです。

 

学校での練習もあるので負担が大きいかと思う一方、親としてできることはしてあげたいです。

他機関のことなのでお答えしづらいかもしれないですが、いかがでしょうか。

 

 

【回答】

大事なのは「効果があるか」です。「プレイセラピーを受けることで緘黙症状が改善するか」を直接聞いてみてはいかがでしょうか。

 

プレイセラピーは、緘黙症状のある子のカウンセリングでは確かによく行われます。

ただ、「よく行われる=効果がある」ではありません。プレイセラピーでは全然効果がないケースも多いのも事実です。この点については過去の記事に書きましたので、よかったら見てみてください。

 

 お勧めは「プレイセラピーで改善するのか」を直接聞いてみる 

ご紹介したブログの記事の説明はあくまで一般論ですので、お嬢様の緘黙症状に効果があるかはまた別の問題です。そこで改めてご質問の件についてお答えします。

 

まず、私は(オンラインのため)直接お嬢様の姿を見てはいませんので、病院でお嬢様を直接観察した医師や心理師の方が多くの情報を持っていると思います。そういった専門職がプレイセラピーを提案している訳ですから、症状が改善するという明確な見込みや期待があるのかもしれません。

 

そこで私のお勧めは、「プレイセラピーをすることで緘黙症状が治る(=学校などで話せるようになる)ことが期待できるのか」を担当の医師や心理師に聞いてみることです。その説明を聞いてお母様が納得できるようでしたら、通ってみるのがよいのではないでしょうか。

もし「なんとなく」「とりあえず」で提案しているなど、納得のできる説明がなかった場合は、通うだけ時間の無駄になるかもしれません。専門職は治療の見通しを明確に伝える義務がありますので、遠慮せず聞いてみてください。

 

 

 

 

 

 

「インクルーシブ教育」によって

「安全な居場所」「個別の対応」が奪われる

 

 暴走する「インクルーシブ教育」 

以前の記事でも書きましたが、大阪府のいくつかの自治体では「インクルーシブ教育」を過度に推進していることによって、子どもたちが必要としている支援や配慮、治療が受けられない状態が生じています。私がこれまで相談を受けたケースでは、次のような困りごとがありました。

 

・「インクルーシブ教育だから」という理由で過度に「みんなと同じ」ことを要求される

・本人は辛くて参加できない状態であっても、行事や学級での活動への参加を促される

・「特別支援学級」に在籍しているのに、「教室で過ごすのが原則だから」と特別支援学級の教室を利用させてもらえない

・「通級による指導」の対象になっているのに、教室での「支援」と称して教師が寄り添うばかりで、個別の指導がまったく行われない

・お願いしても「個別の対応」自体を拒否される など

 

場面緘黙や強い不安症状のある子たちの中には、そもそも集団の中で過ごすことが難しい子もいます。そういった子が「特別支援学級で過ごす」ことを希望しても、「インクルーシブ教育」を理由に認められない学校があるのです。

「特別支援学級」は、特別支援学級を基本的な居場所にしながら通常の学級と「交流」の時間を確保するのが通常の運用方法です。特別支援学級が本来の居場所になっているので、その利用が制限されるようなことがあってはなりません。これは「差別」や「区別」ではなく、その子にとって必要不可欠な資源なのです。

 

上記のような行き過ぎた「インクルーシブ教育」は、学校独自の取り組みとしてだけではなく、市町村単位で推進している自治体もあります。大阪府のある小学校に通う子(特別支援学級に在籍している児童)の場合、教育委員会の教育相談センターに相談しても学校と同じ意見とのことで、特別支援学級の利用時間を増やしてもらうことができませんでした。これでは、集団の中で過ごすことが難しい子は学校にいられなくなってしまいます。

 

 「インクルーシブ教育」とは何か 

この問題を考えるために、まずは文部科学省による「インクルーシブ教育」の定義を引用しておきます。

 

○障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。
(略)
○インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。

(「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」2012年、文部科学省より)

 

インクルーシブ教育とは、多様性を尊重し、障害の有無やその他の特性・属性に関係なく共に学ぶ仕組みであると言えます。ここで大事なのは、ただ「同じ場で学ぶ」だけが目的なのではないという点です。

上記の引用の中の次の部分に注目してください。

・障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下

・その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組み

 

機械的に同じ場での学びだけを保障するのではなく、個々の状態に応じた対応が必要であるということがここいは示されています。

 

 行き過ぎた「インクルーシブ教育」の問題 

上記のような一部の自治体で起きている「インクルーシブ教育」の問題は、この「個別の対応」という視点の欠如から生じています。インクルーシブ教育には、個々の障害や疾患、子どもの状態などへの深い理解が必要となります。それを抜きにして「学びの場」だけを一緒にしようとすれば、それはただの「多数派への統合」になってしまいます。

 

この「インクルーシブ教育」の問題の根本は「多様性への理解の欠如」だと私は考えています。

 

障害の種類によっては、支援や配慮や指導方法の工夫さえあれば集団に十分に参加できるものもあります。例えば視覚障害や聴覚障害はその典型例と言えるでしょう。学校や教室の環境、授業の方法などを配慮すれば、視覚障害や聴覚障害があってもみんなと同じ場で十分に学ぶことができます。これは、視覚障害や聴覚障害という障害の本質が「集団への参加」「人との関わり」にある訳ではないからです。

しかし、社交不安や視線恐怖、分離不安等の「不安症」の場合は問題が異なります。「集団への参加」「人との関わり」そのものに苦手さがあるのです。人の多いところやザワザワした場所、不安の強くなる環境では安心して過ごすことができない子にとっては、どんなに環境を整えても「みんなと同じ場で学ぶ」ことができないことがあります。だからこそ、特別支援学級という「居場所」が必要になるのです。教育に携わる大人がこういった子たちの「多様性」を正しく理解することができていれば、こういった問題は生じないはずです。

 

この「多様性」を無視して、すべての子に機械的に同じ場で学ぶことを求めるのは、インクルーシブ教育とは呼べません。それは共生社会の実現からはほど遠い、単なる「多数派への統合」です。多数派への統合というのは、「インクルーシブ教育」に名を借りた「暴力」だと私は考えています
 

 「インクルーシブ教育」を進めるなら 

以前の記事にも書きましたが、私はインクルーシブ教育の理念や考え方には賛成です。障害の有無や重症度に関わらず同じ場で学べることは、理念としては素晴らしいです。ですが機械的に「同じ場で学ぶ」だけを採り入れるのは、インクルーシブ教育とは呼べません。インクルーシブ教育を進めるなら、個々の障害や疾患などへのより深い理解が不可欠です。

文部科学省の上記の説明にもある通り、インクルーシブ教育の理念の基でも特別支援学校や特別支援学級は必要です。個々の状態に応じて、居場所としての「特別支援学級」の利用や抽出による個別の指導を行うべきだと私は考えています。

中学校入学で緘黙症状が解消し、

相談開始から半年で話せるようになった子

 

【対象】

あきこさん(仮名)女性

小学6年生~中学校入学(相談終了時)

 

【概要】

緘黙症状が現れたのは小学2年生の頃で、相談開始時は小学6年生でした。1年生の頃は学校でも話していましたが、コロナでの休校が明けたらの話さなくなっていました。学校では全く話すことができませんが、習いごとのうちオンラインの英会話だけでは話すことができていました。本人は「話せるようになりたい」という意思があったため、私立中学校入学で話せることを目指しました。そこで「知らない人と話す」「初対面の人と話す」練習をするため、買い物のときに声を出す練習から取り組みました。受験後は中学校との相談も進め、入学後は無事に自己紹介などをすることができました。その後も緘黙症状は出ていないことを確認し、相談終結としました。

 

 

【相談開始時の状態】

・小さい頃から強い人見知りがあったが、緘黙症状はなかった

・小学1年生の終わりにコロナによる休校があり、休校が明けたら学校で話せなくなっていた

・学校では一言も声が出せないが、授業などは困ることなく受けることができている

・学校以外でもほとんど話せないものの、オンラインの英会話だけは声を出すことができる

・自分のことを知らない環境に行きたいため中学受験をして私立中学校に進学を希望している

 

【緘黙症状改善の経過】

【初回の聴き取り】(小学6年生10月)

小学6年生の10月に母親・本人とオンラインで面談し、現在の状態を確認しました。本人は「話せるようになりたい」という意思が強く、「誰も自分のことを知らない中学校に行って、生まれ変わりたい」と話しているとのことです。ただ、学校以外でも話せる場面がほとんどないので、母親は中学に行っても話せるかは分からないと心配していました。本人も中学でどのくらい話せるかは「30%くらい」とのことでした。

小学校で話すことは目指さず、中学校入学に焦点を当てて計画を立てました。中学校入学時に話せるようになるためには、初対面の人や知らない人と話せるようになることが必須なため、学校以外で話す練習を行うことにしました。母親・本人と相談の上、お店で声を出す練習に取り組むことにしました。

お店で声を出すことはこの時点ではできていませんでしたが、「お店が空いている時間で店員が女性の年配の方であれば、母親とコンビニのレジに並んで唐揚げなどを注文することができそう」ということが分かりました。試したことがないのでできるかは分からないため、さっそく試してみることにしました。

 

【メールでの報告①】(翌日)お店で声を出すことができた

・面談の翌日母親からメールがあり、上記の方法で声を出すことができたとのことでした。お店に入って注文するまでに30分以上かかったものの、できてしまったら本人は達成感があった様子だったとのことです。

・私からのアドバイスとして、まずはあまりステップアップさせすぎず、しばらくはこの方法で週に1、2回練習を続けてみることを伝えました。

 

【メールでの報告②】(2か月後)練習内容のステップアップ

・2か月後の12月中旬に再び母親からメールでの報告がありました。コンビニでの買い物の練習は順調に続けられており、現在は母親が見守っていれば一人で買い物をすることができるようになったとのことです。

・普段はこういう場合、「少しずつステップアップしながら練習を継続してください」といったアドバイスをメールですることが多いのですが、あきこさんの場合は3か月後に迫った卒業・中学校入学に間に合わせる必要があります。そこで冬休みに再度面談をして、ここからのステップアップを一緒に考えることにしました。

 

【2回目の面談】(小学6年生の冬休み)中学校で話せることを目指す計画の相談

・お店で話す練習が上手くいったので、「中学校で話す」が現実味を帯びてきました。本人にどのくらいできそうかを聞いたところ、「65%」とのことでした。前回より35%高くなっていますが、まだまだ安心圏には到達していないといったところです。そこでここからの練習について考えました。

・こういう場合の練習のステップアップは色々な方法があります。「お店での練習をステップアップ」「お店以外(習いごとや近所の人など)で練習」「小学校で練習」「中学校で練習」など、状況によって様々なやり方があります。あきこさんの場合は「中学校で練習」はまだ受験が終わっていないのでできません。また「小学校で練習」は「絶対にやりたくない」とのことでした。そこで「お店での練習をステップアップ」をメインに練習を続けていくことにしました。具体的には「ファストフードのお店でセットなどを注文する」「病院や美容院、飲食店などの機会で声を出すことを意識してがんばる」にしました。

・また2月に中学校合格が決まったら、中学校との相談・連携も開始することにしました。中学校に緘黙症状のことを伝えた方がいいか、それとも中学には伝えずにスタートするかは本人も悩んだところですが、まだ不安要素もあり伝えた上で練習の機会を作ってもらった方がいいだろうということになりました。

・面談の最後に「おそらくこれで症状は改善するでしょうから、実質的にはこれで相談終了になると思います」と伝え、あとはメールで報告していただくことにしました。

 

【メールでの報告③】(1月)年末年始に色々な場面で話せた

・1月に入って、報告のメールがありました。冬休みや年末年始は、塾の冬期講習や親戚と会う機会、家族で出かける機会なども多く、思ったよりも多くの場面で声を出すことができたそうです。話せないことを心配していたおばあちゃんが声が聞けて感激して泣いてしまった、というエピソードもありました。

 

【メールでの報告④】(2月)合格~中学校との相談

・2月中旬に「中学校に合格しました」とメールがありました。中学校との相談については、やはりしておいた方がいいだろうということになりました。そこで中学校の先生に事情を話して、入学までに何度か話す練習の機会を作ってもらうことを伝えました。

・どのくらい話せそうかは「95%」とのことでした。残り5%は、実は同じ小学校から行く子が1人いることが分かったためです。これについては、中学校に事情を伝え「別のクラスにしてもらう(できれば教室が離れている方がいい)」という対応をしてもらうことにしました。

 

【メールでの報告⑤】(4月)中学校入学で緘黙症状が解消

・4月に母親から「中学校で自己紹介ができました」「近くの席の子とも話せたそうです」との報告がありました。中学には楽しく通っており、問題なく話せそうだとのことでした。上記の同じ小学校からの子についても、要望通り1組と6組にしてくれたそうです。緘黙症状が完全に解消していることが確認できたため相談終結としました。

・筆者への相談期間は半年(実質的には2ヶ月半)、面談回数は2回だけでした。5年間緘黙症状が続いており相談開始時はほぼ家庭以外では話せない状態から、短期間で大幅に改善したと言えます。本人に「話せるようになりたい」という意思が強かったのが改善に寄与した大きな要因だと思います。

 

 【注意点】

事例の紹介にあたっては、本人・保護者の同意を得ています。

ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください

また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。

 

この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。

同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。

【質問】

小学5年生の緘黙症状のある子の保護者からの質問です。

 

4月に考えていただいた練習メニューで、1学期のうちに何度か先生と練習しました。

放課後、教室で教科書の音読を担任の先生に聞いてもらう練習にとりくみました。

これまで学校では一言も話せなかったが、はじめて先生に声を出せたときは感激しました。

 

ただ2学期になってなかなか練習の機会が作ってもらえません。

行事などもあってお忙しいとは思うのですが、せっかく成果が出ているのに残念です。

私も連絡帳などで何度かお願いしたりはしましたが、これ以上は心苦しくてお願いできません。

 

今は何もできていなくて焦る気持ちでいっぱいです。

お店で声を出す練習などをさせた方がいいのかもしれないですが、本人が嫌がります。

どうしたらよいでしょうか…。

 

 

【回答】

まずは「なぜ練習の機会が作れないのか」を明らかにしましょう。

聞きづらかったら担任以外に聞いてみても構いません。

 

「先生が練習に協力してくれない」は、実はとてもよく聞く「場面緘黙あるある」です。

緘黙症状の改善は学校でないと行うことができません。

ですが肝心の先生に協力してもらえないと、先に進めなくなってしまいます。

 

こういう場合の解決方法は、大きく分けて2つあります。

「先生に協力してもらう方法を考える」か「練習の計画を変えるか」です。

「お店で声を出す練習」は後者にあたりますね。

 

 安易に計画を変更しても、上手くいかないことが多い 

とは言え、安易に練習方法を変更するのはお勧めできません。

この練習方法は年度の初めに本人と一緒に時間をかけて考えたものです。

もし方法を変えるなら、改めて本人と相談しながらしっかりと計画を立て直す必要があります。

思い付きで「お店で声を出す練習」などをさせようと思っても、上手くいかないと思います。

 

また、そもそも「担任の先生と話せるようになる」は緘黙症状の改善には不可欠な要素です。

機会が作れないからといって他の場面で練習をしても、学校で話せるようにはなりません。

 

ですので、計画変更の前にまずは担任に協力してもらう余地がないか考えるのがお勧めです。

 

 練習の機会を作れない理由はなぜか?を明らかにする 

そもそも、なぜ先生は練習の機会が作れなくなってしまったのでしょうか。

担任の先生が練習の機会を作れない理由には、色々なものが考えられます。

・担任が忙しくて時間がとれない

・担任がうっかりして忘れてしまっている

・担任が練習のステップアップの方法が分からない

・担任がもう練習は必要がない(このくらいで十分だ)と思っている

・「個別の対応」に関して何らかのストップが校長や学年主任などからかかっている など

 

これらの理由は、どれも十分あり得ます。

同じような質問や相談を受けることはとても多いですが、上記のどれのパターンもありました。

そして、機会が作れない理由によって対応の仕方は大きく変わってきます。

 

例えば「練習の方法が分からない」だったら、練習の方法を明確にすれば解決します

その場合は具体的な練習のステップアップの方法を考えて、担任に教えてあげればいいのです。

 

「担任が必要ないと思っている」場合は、練習の必要性を認識してもらわなければなりません

まだまだ緘黙症状は治っていないので、本人が困っているということを伝えましょう。

 

もちろん状況によっては、どうしても担任が練習の時間を作れないこともあります

その場合は担任以外にターゲットを変える必要があるでしょう。

 

このように練習の機会が作れない理由によって対応が異なります。

ですのでまずはそれを明らかにしましょう。

 

 担任に聞きづらければ、他の窓口に相談してみる 

では、練習の機会が作れない理由を聞くにはどうしたらよいでしょうか。

 

これまで「連絡帳などで何度かお願い」してきたとあります。

これは先生と話したわけではない、ということでしょうか?

連絡帳だと一方向になってしまうこともあるので、まずは直接聞いてみることがお勧めです。

電話でもいいですし個別懇談などでも構いませんので、聞けそうなら聞いてみてください。

 

とは言え、これまで何度かお願いしてきたのを、改めて聞くのは聞きづらいかもしれません。

こういう場合には、担任以外の窓口を通じて聞いてみるのがお勧めです。

・スクールカウンセラーに相談する

・特別支援教育コーディネーターに相談する

・養護教諭に相談する

・その他の校内の先生に相談する

・教育委員会の窓口(教育相談所等)に相談する など

 

学校で困ったことがあったときの相談先は、担任の先生だけではありません。

必ず複数の相談先が用意されていますので、どこに相談しても全然問題ありません。

相談しやすそうなところに相談してみましょう。

 

 担任以外に相談する際に気を付けること 

担任以外に相談する際に気を付けてほしいことが2つあります。

 

気を付けること①「クレーム」にならないようにする

相談の目的は批判やクレームではありません。

もし担任の先生との関係が悪くなってしまうと、練習自体が難しくなってしまいます。

あくまで「困っているので相談したい」という姿勢で話すようにしてください。

 

気を付けること②話を聞いてもらって終わり、にならないようにする

スクールカウンセラー等に相談した際「話を聞いてもらっただけ」になることがよくあります。

これでは全く意味がありませんので、具体的な解決策につなげることを意識しましょう。

今回の場合は、「練習の機会を作れない理由はなぜか?」を明らかにすることが目的です。

何らかの方法で担任に確認してもらい、その結果がどうだったのかを教えてもらいましょう。

もちろん、直接担任に練習への協力を促してもらえそうなら、それでも結構です。

 

こういった方法で、まずは担任との練習が継続できないか検討してみてください。

毎日新聞(2025年12月1日)のスクープで、「文部科学省の学校基本調査で、大学進学率などに使用される18歳人口の集計から、障害のある児童・生徒が通う特別支援学校の卒業者が除外されていること」が明らかになりました。正確に言うと、「18歳人口」という統計の分母として「3年前の中学校卒業者数」を用いており、その中に「特別支援学校中学部の卒業生」を含めなかった、ということだそうです。

 

初めに確認しておく必要があるのは「特別支援学校中学部の卒業生が高校卒業後に大学等に進学することがあるか?」です。もし特別支援学校の卒業生が大学等に進学する道が閉ざされているなら、18歳人口の統計の分母から排除するのはある意味では合理的とも言えます。しかし事実は異なり、特別支援学校の卒業生が大学等に進学することは十分にあり得ます。

正確な数値は文科省の「学校基本調査」を見れば分かります。この統計を見ると、2023年度の特別支援学校高等部卒業者のうち計116名が大学・短大に進学していることが分かります。つまり特別支援学校卒業者を統計から除外するのは、明らかに合理性を欠くということです。

 

 

「18歳人口」は大学や短大等の進学率の算出にも使われており、国の教育政策を左右する重要な統計指標の1つであります。日本の官公庁における統計の不正はこれまでも話題になってきました(2018年の厚労省の毎月勤労統計の不正、2021年の国交省の建設工事受注動態統計の不正、など)。統計の不正は、公文書の改竄とともに国家の根幹を揺るがす重大な問題です。

しかし今回の文科省の統計操作は、そういった「単なる統計の不正」をはるかに超える問題があると私は感じました。それは曲がりなりにも「インクルーシブ教育」を推進している文科省に存在している「冷酷な差別意識」です。

 

統計の分母に誤りが生じるのは、「意図的な操作」か「うっかりミス」のどちらかしかありません。しかし文科省の役人が20年以上にわたってこんな単純なうっかりミスを続けるというのは、まず考えられません(もしそうなら別の意味で深刻な問題ですが)。ですので「文科省の役人が20年以上にわたって18歳人口の分母から特別支援学校卒業者を意図的に排除してきた」としか考えられません。

おそらくその排除の作業は、統計を担う関係者間で連綿と引き継がれてきたはずです。マニュアルがなければ担当者間で作業の一貫性は保たれません。ですので学校基本調査のマニュアルには、「18歳人口の分母から特別支援学校卒業者を排除する」ということが何らかの形で明記されていたのだと思います。

もちろん、文科省の役人にはまっとうな思考力・判断力のある方が多く存在するはずです。同じ「学校基本調査」の別のページには特別支援学校卒業者が大学等に進学していることがデータで示されている訳ですから、まともな文書を作成する力のある大人なら問題に気づくはずです。「18歳人口から特別支援学校卒業者を除外してもいいのか?」という疑問が生じないはずがありません。ではこの疑問を誰かが口にしたとき、どのようなやりとりが交わされたのでしょうか。

 

「特別支援学校卒業者は18歳人口から除外してもいいでしょうか?」

「特別支援学校卒業者は18歳人口の分母から排除してください」

「わかりました」

 

こういったやりとりは、文科省の中では繰り返し繰り返し行われてきたに違いありません。この「特別支援学校卒業者を統計上存在しないものとして扱う」という行為は、あたかも工場の生産ラインから不良品を取り除くかのように、あくまで事務的に行われてきたのでしょう。

こういう時、まっとうな人間は「認知的不協和」(人が自身の認知とは異なる矛盾する認知を抱えた状態やそのときに抱く不快感)に陥ります。認知的不協和を解消するには、矛盾を解消するか、自分の認知を変える(=矛盾を受け容れる)かしかありません。毎日新聞がこのことを報道するまで事実が表に出ることはなかったのですから、これまで文科省の役人はすべて「特別支援学校卒業者を統計上存在しないものとして扱う」という行為を受け容れてきたと言えます。

 

この冷徹さに、私は戦慄しました。これが先に私が述べた文科省に存在している「冷酷な差別意識」です。曲がりなりにも「インクルーシブ教育」を推進している文部科学省において、こういった「排除」がマニュアルとして存在することに空恐ろしくなります。

 

このような差別意識は、日本社会にまだまだ根強く、幅広く存在すると私は感じています。この出来事の根底には、2016年に神奈川県相模原市で起きた津久井やまゆり園事件と共通する差別意識がある、と言ったら言い過ぎでしょうか。そして昨今日本社会に広がりつつある排外主義とも、どこか深いところでつながってはいないでしょうか。

文科省の「特別支援学校卒業生の18歳人口統計除外」に、私は日本社会に広がる差別意識の根源を見た気がするのです。