第7章 韓国ドラマ映画
231.ドラマムーブ・トゥ・ヘブン〜私は遺品整理士です
以前からずっと観たかったイ・ジェフン主演ドラマ『模範タクシー』を観る機会を得ました。
CSのLa La(ララ)TVで一挙放送が始まったのです。
単体で入っても700円プラス程度とコスパが良いので、まずは1〜2カ月契約してみる事にしました。
ドラマを見終わったら退会するつもりでしたが、敵もさるモノ、これまた観たかったイ・ハヌィの『ワン・ザ・ウーマン』を次回作でリリースして来ました(笑)から、さて、私が La La(ララ)TVを解約出来る日は果たしていつ来るでしょうか?
『模範タクシー』、現在12話と佳境に入って来ましたが、観ていてイ・ジェフンが渋くカッコいいので彼の他のドラマが観たくなって来ました。
『シグナル』『秘密の門』などは見ましたが、思い返すと未視聴の格好のドラマが有ります。
それが今回のドラマ『ムーブ・トゥ・ヘブン〜私は遺品整理士です』で、『模範タクシー』と同時期に制作されたNetflixのオリジナルドラマです。
リリース開始当時観ようと思いはしたモノの何だか近づけず、放って置いてしまって居ました。
それはタイトルからして重苦しそうで、大体ストーリーが想像出来るからです。
死んだ人の遺品整理をしながら、生前の彼らの声や訴えを知ると言う趣旨であろう事が容易に想像出来、市井の人々の様々な人生をドラマに託して或る時は感動を、或る時は彼らの「ハン恨」を晴らすカタルシスを感じる事必至です。
一方で「死」を全面に扱う事による言葉に出来ない哀しさ・儚(はかな)さも付き纏います。
ドラマを観て決して明るい気持ちにはなれません。
それらが煩わしかったのと、おおよその見当としてドラマの展開にあざとさや感動の押し売りに近いモノを感じ、近寄り難かったのです。
『模範タクシー』を視聴しなければ私も観ないまま終わって居たかも知れません。
その意味で『模範タクシー』にも感謝です。
『模範タクシー』についてはシーズン1を全話視聴完了後、レビュー記事を書かせて頂きます。
このドラマ『ムーブ・トゥ・ヘブン〜私は遺品整理士です』はキム・セビョル氏のノンフィクションエッセイ集「去った後に残されたもの」を原作に脚色されたそうです。
シナリオ作家ユン・ジリョン氏が「天国への最後の引越し」という言葉を即座に思い浮かべたと述べて居る様に、故人を最後に見送る職業人たちを描いた作品です。
Netfliで制作された刺激タップリの他のドラマと異なり、極めて優しいドラマです。主な登場人物の中、悪役も無く、葛藤も他のドラマに比べると少ない方です。
なので、この手のドラマは好き嫌いがハッキリ分かれる事でしょう。
現にこの私でさえ「食わず嫌い」でほったらかしにした位ですから。
「死について他人よりも少し興味を持っていたし、突然の死についても集中してしまって逃れられなかった時期がありました。
ドラマを書き続けることができるか悩んでいる渦中でもありました。
急に愛する人を失った人々の心はどうか、癒される過程を知りたくて調査をしていたところ、特殊清掃業者バイオハザードキム・セビョル代表のエッセイを印象深く読みました。
重要なのはその本に込められた視線で、こんな視線でこの様な話をしている方々のお話をドラマで伝えたいという気がし始めました。」
ユン・ジリョン作家はインタビューでこう述べて居ます。
しかしながら、この様な斬新で微妙な題材をドラマ化出来たのはやはり他ならぬネットフリックスのパワーでしょう。
地上波で扱うには素材が重く実現には至らなかったであろう事が容易に想像出来ます。
このドラマを韓国ドラマ特有の「ジャンル物」所謂キワモノ風に描く事はなるだけ避けたと言います。
あくまで「ヒューマンドラマ」を目指したそうですが、遺品整理の多様なケースを散りばめることによってその様相を強めて居ます。
ドラマの概要を。
遺品には生前の生活が宿っている。
小さな跡も丁寧に手に入れる遺品整理士。彼に、居ることも知らなかったおじさんが現れる。
一緒に働き始める二人。
故人のいない話をお届けします。
(引用 公式サイト)
ドラマのメイン主人公はイ・ジェフン扮するチョ・サングですが、本当の主人公はタン・ジュンサン演じるアスペルガー障害を持つハン・グルです。
最近の韓国ドラマでは『ウヨンウ』然り、障がい者を主人公に据えたり、重要な役割に持って来る事が多く、私も見始めて(またか?)と少々食傷気味でしたが、作家によるとこの設定が重要だったとの事。
ドラマの中で「現実的には居ない伝達者、顧客が拒否してもトコトン終わりまでこなす人が必要だった事、それが傲慢やひとりよがりではなく悪く見えない人、理想的に遺品整理ができる人物が必要だった」と述べて居て、最も純粋で、かつ頭脳明晰なクル(タン・ジュンサン)のキャラクターが生まれたとの事でした。
それを聞き、私も(なるほど!)と膝を打ちました。
確かに彼のキャラクターがこのドラマのテーマに効果的に作用して居ます。
彼に刺激されて、トラブルを起こし厭世観に陥って居た叔父チョ・サング(イ・ジェフン)も最初はハン・グルに脅威的な人物でしたが、段々と変化、人間らしさを取り戻して行きます。
こうして中盤まではクル(タン・ジュンサン)がメイン主人公ですが、次第にサングの比重が大きくなります。
劇中イ・ジェフンはボクサーとして身体を張ってプレーして居て、その為に作り上げたボディーも見どころと言えそうです。
どうあれ韓国俳優の役作りの徹底さは日本のそれの追従を許しません。
ハン・グルと世界をつなげてくれる通訳者のような役割のナム(ホン・スンヒ)も良い味を出して居ます。
エピソード的には労働災害問題、認知症の孤独死老人問題、ストーカー殺人、同性愛、老人虐待と介護問題、海外養子縁組問題など、現在韓国で深刻な社会問題になって居る様々な題材が描かれ、韓国社会を鋭く抉(えぐ)り取ったドラマになりました。
一見のバイアスを取り除いてピュアな姿勢で臨めば感慨深いドラマである事この上有りません。
スタッフも役者もシーズン2を望んでいるそうで、今回ドラマのシナリオを見て即決したと言う主役のイ・ジェフンも前向きなコメントが有りました。
興業的に派手な成績では無かった為、実現するかどうかは微妙ですが、この様に地味でも地上波では躊躇(ちゅうちょ)しがちな社会派的なドラマを敢えてリリースする姿勢を、ネットフリックスは忘れないで欲しいと強く感じながら視聴を終えました。
未だ視聴されて無い方、1話50分の10回と比較的観やすいので是非一度ご覧下さい。
<参考文献>
서울경제 [인터뷰] 윤지련 작가마저 치유받게 한 '무브 투 헤븐'의 힘