潮谷験さんの小説は初読み。 本作は、2021年メフィスト賞受賞のデビュー作です。

 

夏休み、大学生達に風変わりなアルバイトが持ちかけられた。スポンサーは売れっ子心理コンサルタント。 彼は「純粋な悪」を研究課題にしており、アルバイトは実験の協力だという。

 

集まった大学生達のスマホには、自分達とはなんの関わりもなく幸せに暮らしている家族を破滅させるスイッチのアプリがインストールされる。 スイッチ押しても押さなくても1ヵ月後に100万円が手に入り、押すメリットはない。 「誰も押すわけがない」皆がそう思っていた。 しかし……。 (出版書誌DBより)

 

上記紹介文にある「純粋な悪」というキーワードが魅力的でした。

 

伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』や伊岡瞬さんの『代償』など「純粋な悪」の登場人物によって面白さがパワーアップしていますし、貴志祐介さんの『悪の教典』になると純粋悪が主人公の傑作でした。

 

本作も、何の恨みもない家族を破滅させるというスイッチが登場し、これを押す人間がいるとすれば、それは「他者を傷つけたい」「他者を害したい」という「純粋な悪」だという論理です。

 

このスイッチ、実際に押されてしまいます。 ここから「純粋な悪」とは何か?という議論に発展するかと思ったら・・・残念ながらそうはなりませんでした。

 

スイッチを押したのは誰か? 何故スイッチが押されたのか? というミステリ的興味に切り替わってストーリーが展開します。

 

ストーリーの背後には、解散した新興宗教が見え隠れしていて、後半は特に精神のカスタマイズとか、悟りを開くとか、宗教的・哲学的味わいが濃くなっていました。

 

ミステリとしても構図の転換によるどんでん返しがありますが、私的にはむしろ宗教的・哲学的部分が面白かったです。

 

ちょっと毛色の変わったミステリを読みたいという方にはお勧めです。