【ロマン派の叢林】ベルンハルト・モーリク:弦楽四重奏曲 第7番 変ロ長調 作品42 | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Bernhard Molique : String Quartet No.7 in B♭major, Op.42

 自分がダルマさんになったような日常…。連日の猛暑で汗まみれになるので外出を控え、熱中症を恐れて運動を中止し、地震が起きそうだから遠出をやめ、台風が来るからと家に閉じこもる。これが今年8月から続いている生活行動だ。リハビリ散歩がてらの音楽鑑賞もほとんど無かった。だからという言い訳でもあるのだが、聴いた曲について感じたことを書こうという気持にまったくなれなかった。
 まもなくやって来るだろう人生の最終末期も、これと同じようにまったく手も足も出せない状態になるのだろうなと思いながら覚悟する。
 

 

 ベートーヴェンの生年から四半世紀経過したロマン派初期の筆頭格はシューベルト(1797~1828)なのだが、彼は早世したため、その膨大な遺作の評価は19世紀後半に入ってからになった。従って彼とほぼ同世代の19世紀初頭に生れた作曲家たちには、あまり影響を及ぼさなかった。しかもこの世代はベートーヴェンの巨像に圧倒されてあまり注目されてこなかった。ドイツ圏だけでも、マルシュナー(Marschner), クンマー(Kummer), レーヴェ(Loewe), ライシガー(Reissiger), カリヴォダ(Kalliwoda), モーリク(Molique), ラハナー兄弟(Lachner)などがいて、群小ながらもそれぞれの魅力を秘めていたように思う。(クンマー、レーヴェ、モーリク、ラハナーについては下掲の過去記事も参照されたい。)
 

 今回2回目に取り上げるベルンハルト・モーリク (Bernhard Molique, 1802~1869) は苗字がフランス系の先祖を思わせるが、れっきとしたドイツ人として生まれている。幼時からヴァイオリンの才能を発揮し、20代でシュトットガルトの宮廷に抱えられ、楽長の職を得た。作曲は自身の演奏のためと思われるヴァイオリン協奏曲6曲をはじめ、室内楽曲も少なくない。40代後半からロンドンに移住し、演奏家、作曲家、音楽教授として活躍した。この弦楽四重奏曲第7番もその頃の作品で、2年前に急死したメンデルスゾーンを思わせる明快さとロマン派的心情が感じられる。
 

楽譜は IMSLP にロンドンの出版社の初版パート譜が収納されている。
String Quartet No.7, Op.42 (Molique, Bernhard)
初出版 1849 ca.? – London: Jullien
London: Ewer & Co., n.d.[1854].
 

 

第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ
String Quartet in B-Flat Major, Op. 42: I. Allegro vivace

       Mannheimer Streichquartett

 冒頭からいきなり明るい光に満ちた第1ヴァイオリンのテーマが始まる。音階で言うと「ドレミラソ〜」と、上昇する勢いを持っている。これが中心のモティーフとしてこの楽章の各所に現われる。伴奏和声の内声部はシンコペーションで動くので、そよ風のような揺れが快く聞こえる。メンデルスゾーンのような肯定感を感じる。


 第2主題はヴィオラから提示されるが、やや内省的な陰りが感じられる。


第2楽章:メヌエット
String Quartet in B-Flat Major, Op. 42: II. Menuetto

       Mannheimer Streichquartett

4小節区切りのメヌエットのテーマ。3拍子の2拍目の裏から入る弱起のリズムがウィーン風の憂いを感じさせる。


中間部は伝統的なトリオというよりもスケルツォ風の各声部の戯れが面白い。ト長調に転じている。


第3楽章:アンダンテ
String Quartet in B-Flat Major, Op. 42: III. Andante

       Mannheimer Streichquartett

変ホ長調、8分の9拍子。感覚的には8分音符3つずつの3拍子カウントになる。この弦楽四重奏曲の要となる楽章。憧憬とロマン派的甘美さに満ちている。冒頭は序奏部で、2拍目の裏から始まる第1ヴァイオリンの独白がせつない。そのモティーフがこの楽章の中心的な役割を果たす。


序奏部に続いてチェロが美しいメロディを歌う。ドイツ的な青春の青臭さを感じる。他のパートは刻みで合わせるが、チェロよりも低い音域の弦を使っている。チェロのメロディの中に冒頭の第1ヴァイオリンのモティーフが含まれている。


第4楽章:ロンド
String Quartet in B-Flat Major, Op. 42: IV. Rondo

       Mannheimer Streichquartett

変ロ長調に戻って、フィナーレ向きの4分の2拍子の軽快なロンド楽章。細かい音符の動きのモティーフが無窮動のように飛び回る。ヴァイオリンとヴィオラの間の受け渡しも愉快に感じられる。この屈託のなさは魅力だと思う。


※参考過去記事:

【黄昏の】ベルンハルト・モーリク:フルート五重奏曲 ニ長調 作品35
https://ameblo.jp/humas8893/entry-12668600720.html


カール・レーヴェ:弦楽四重奏曲 第1番 ト長調 作品24の1
https://ameblo.jp/humas8893/entry-12656208367.html


【ギター入り】クンマー:五重奏曲 ハ長調 作品75
https://ameblo.jp/humas8893/entry-12691145583.html


【ラハナー兄弟2】イグナツ・ラハナー:弦楽四重奏曲 第4番 イ長調 作品74
https://ameblo.jp/humas8893/entry-12666846235.html


 

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ にほんブログ村 クラシックブログ 室内楽・アンサンブルへ