【ギター入り】クンマー:五重奏曲 ハ長調 作品75 | 室内楽の聴譜奏ノート

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室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Caspar Kummer : Quintet in C-major, Op.75

 メールやSNSが全盛の世の中で、昨日珍しくも暑中見舞のハガキが届いた。室内楽の仲間のA氏からで、もう一年以上顔を合わせていないのだが、その手書きの文字を見て、一気にその人の面影が湧き上がり、懐かしく思えた。内容は、今月末に参加予定の会で「クンマーの五重奏をやりたいのでよろしく」とのことだった。A氏は多才な方で、フルート、ヴァイオリン、ギターなど幅広く楽器をこなしている。今回はギターの入る珍しい編成の室内楽になる。隅っこに「パソコン修理中のため、葉書にて」とあった。当方からも「了解」の旨のハガキを送った。これだけでも普段メールでは味わえない印象的なやり取りになった。


 ということで、今月末から恐る恐るながらも室内楽活動再開の手始めになるだろうと思っている。


 クンマーの五重奏の編成は非常に珍しく、フルート2本、ヴィオラ、チェロ、ギターとなっている。以前にギターとフルートの組合せを希望するC夫妻から「何かいい曲を見つけて」と頼まれて、偶然見つけたのがこの曲だった。カスパー・クンマー(Caspar Kummer, 1795-1870) はロマン派初期のドイツの作曲家、フルート奏者で、生涯のほとんどをドイツ中部のザクセン=コーブルク=ゴータ公国内で過ごした。フルート演奏家として、あるいは礼拝堂楽長の職務のほか、作曲家としてフルートを主とした協奏曲や室内楽作品を130曲余り残している。ギターが入る曲は普通、スペイン、イタリアなどラテン系の作曲家によるものがほとんどなので、ゲルマン系のクンマーの曲はかなり珍しい。この五重奏曲は、どの楽器が主役というのではなく、それぞれ機能や音色の異なる楽器のアンサンブルを、聞く方も演奏する方も楽しめる作りになっていると思う。

 同姓で、同時代に生きたフリードリヒ・アウグスト・クンマー(Friedrich August Kummer, 1797-1879)という有名なチェロ奏者がいるが、全くの別人である。チェロ奏きにとっては、こちらの人物のほうが練習曲や合奏曲で馴じみがある。

 この五重奏曲の楽譜はアマデウス社(Amadeus)から出版されている。下記URLのKMSA譜面倉庫でも各パート譜を参照できる。
https://onedrive.live.com/?authkey=%21AHISkNtSGYXnlUY&id=2C898DB920FC5C30%219453&cid=2C898DB920FC5C30
KMSA譜面倉庫別館(管+弦) https://goo.gl/ybXFQX


 またIMSLPには、この曲と同一の作品番号(Op.75)のピアノ三重奏曲(編成は、ピアノ、フルート、ヴィオラ)で作曲年代がほぼ同じ1834年頃の出版譜が収容されている。曲の内容は全く同じであり、五重奏曲からの編曲ではないかと考えられている。(五重奏のうち、第2フルート、チェロ、ギターをピアノに圧縮したように思える)Youtubeではこの形での演奏例も見つかる。
IMSLP : Trio for Piano, Flute and Viola, Op.75 (Kummer, Kaspar)


第1楽章:アレグロ・ノン・タント
Kummer: Quintetto Op 75 / Allegro non tanto — for the British Flute Society — period instruments.

                                    Red Cedar Chamber Music

 明るくのどかな始まりだ。演奏しているレッドチェダー室内楽団はこの曲のために編成されたらしく、息の合ったアンサンブルで、英国各地での演奏動画が Youtube にアップされている。2本のフルートを舞台の左右に対置させ、ギターを中心にはさんでチェロとヴィオラが固めている。全員がピリオド楽器ということで、音色は柔らかい。特にヴィオラは上にヴァイオリンがいないためか、弦の高音部までカバーするので、縦横な動きも多く、重要な役割を果たしている。


第2楽章:アンダンテ・ポコ・アダージォ~ポコ・アレグレット・スケルツァンド
Flute Quintet in C Major, Op. 75: II. Andante poco adagio

                                               Red Cedar Chamber Music

 ホ短調、4/4拍子。ヴィオラの哀歌にギターの分散和音が寄り添って、フルートに受け継がれる。セレナード風な雰囲気である。


 中間部はホ長調、2/4拍子に転じ、活発なフルートの愉楽の場となる。


第3楽章:メヌエット、アレグロ・ノン・タント
Flute Quintet in C Major, Op. 75: III. Minuetto allegro non tanto

                                                Red Cedar Chamber Music

 ハ長調に戻って、明るいメヌエットになる。ギターは音量こそ出せないが、アルペジオの下支えで忙しい。


第4楽章:アレグレット・コン・モート
Kummer: Quintetto Op 75 / Allegretto — for the British Flute Society — on period instruments

                                               Red Cedar Chamber Music

 あまり速くない3/4拍子。撥弦楽器のギターに同調するようにヴィオラとチェロも時々ピチカートでハジキの仲間に加わる。最初の2小節のモティーフが各パートに無造作にまき散らされたかのように、あちらこちらから頭を飛び出す様は聴いてても、見ていても、そして演奏していても愉快になる。その間にフルートやチェロに半音下降の寂しげな長音を交えたり、新たなリズムの伴奏形が加わったりと多様性に満ちているのは見事だ。

 

 


 室内楽にギターが加わる機会はまれであるためか、今思い出してもその日が特別なイベントであったかのような鮮明な印象が記憶されている。弦楽器の仲間ではあっても撥弦楽器という異業種の人と一つの場で交わる緊張感と新鮮な感覚を覚えるからなのだろうと思う。今月末も今から楽しみだ。