今日の朝は5時に起き上がり、何年振りかでジョギングを試みた。少し走っただけでハーハーと、肩と背中で苦しい息を吐けば吸い、吸っては吐く。足の速さと言えばウオーキングより遅いような気がする。こんな筈ではと思い道路を挟んだ遠く反対側を見ると、女性が1人ウオーキングで私と並進している。それを見ても遅いのはよく分かる。
鈍った体を前に進めようと必死だった。ここまで錆び付いていたとは。
7年前に2年位続けたジョギングで10kgは落ちていた体重も、最早その跡形もない。一念発起したものの4kmには足りない同じコースであっても、遅過ぎて半分走ったか歩いたか分からない辺りで、本当に歩き出した。明日からジョギングで走り通す自信はない。7年も経つと心まで腐っていた。
見慣れた雑草が道端に咲いている。それでもセイバンモロコシ、ナガミヒナゲシ、ヒメジョオン、ヨモギは、よく目に入る常連だ。その雑草の中でも、特にコバンソウはよく目を惹く。ずっと「水戸黄門」を見続けている所為か、悪代官が悪商人から懐に入れる大量の小判に見えて仕様がない。
昨日の事を思い出しながら、大木になった合歓の木の花の横を通り抜け、汗だくになった体が玄関の戸を開けた。
昨日は、随分前から依頼された演奏の為に、先ずは北神急行の鈴蘭台駅に向かった。シマさんと半分ずつの演奏で、2時から開演。彼とは1時にこの沿線伝いに歩き、踏切を渡った所にある、会場のすずらんホールで落ち合う事になっていた。だが、私は11時過ぎには鈴蘭台駅に着いてしまっていた。
シマさんに電話をすると、まだ家にいた。だが、12時35分頃には駅に着くと言う。私は以前ハンキーパンキーと言う食堂で、何人もの音楽好きが1曲ずつ演奏して2度回る音会(おとかい)に来ていた事がある。懐かしく、工事中の所を大回りして、このハンキー食堂でカレーを食べた。ココナッツの入ったグリーンカレーを注文した。かなり辛いと言われたが、私は自信あり気に大丈夫を気取った。
軈て出来上がり、ご飯の上にルーを全部掛けてスプーンで口に入れた。急に辛さが喉元に達し噎びそうになった。大丈夫と言った手前、気付かれないように、咳返すのを我慢した。慣れて行くもので、その辛さが快感となった。また来た時は、グリーンカレーのリピーターだ。
1時前頃だったかシマさんが覗き込んで手招きした。コーヒーの残りを素早く飲んで、2人の女性経営者の笑顔が優しく背中を押してくれたこの店を出た。この2人は姉妹で、姉はプロの声楽家、妹はピアノを始め何某かの楽器を奏でる。
彼の他に相方のMuさんがいた。着物を着ていた。「暑くないですか」と、ピンぼけな問いを発した。「暑いわよ」、案の定の答えが返って来た。私は重い荷物を始め4つ抱えている。雨だったらどうしようもなかった。重いのはどうしようもないが、曇天で本当に良かった。
すずらんホールの大ホールは500人は入るが、そんな所で演奏するのではなく、1階にある多目的ホールなのだ。椅子を70も並べれば一杯になるが、大体55人が集まった。神戸北ふれあい活動「ミニコンサート」と言う訳で、それまではなかったものをシマさんが去年から係になって発案したものだった。よく集まったと思う。
2時になり、Maさんが司会をし私のプロフィールを話した。そうして私から始まった。何が何でもきちんと45分で終えようと決心し公言した。余り代わり映えのしない選曲だが、喋った内容は外して、演奏曲を並べて置こうと思う。
1.故郷の原風景
2.千の風になって
3.崖の上のポニョ
4.津軽海峡・冬景色
5.かあさんの歌
6.クレオパトラの夢
7.剣の舞
8.My memory
ジャスト45分で終え、シマさんにバトンタッチをした。その前に10分間の休憩だった。同期の仲間も数人来てくれていて良かった。
シマさんは、三線を鳴らし、唄い始めた。相方のMuさんもシマさんが唄い終わると呼応して唄い出すし相方の役目を十分に発揮している。シマさんの声も艶があり、裏声にしてもよく出るものだと感心して聴いていた。Muさんは女性だから、彼の裏声を更に高く発声する。その違いが引き立っていた。
彼のプログラムもここに書いて置きたい。
1.朝顔節
2.黒だんど節
3.犬田布節
4.井之川ぬ いぶぃガナシ
5.ワイド節
私は極力話は避けて笑わせただけだったが、彼は十分に奄美や徳之島の唄の解説をした。初めて聴く人も多かっただろう。彼の説明を食い入るように聴いていた。2人で休憩を挟んで100分間の演奏だった。
さて、愈々飲み会。これを私は待っていた。鈴蘭台でと言えば白木屋がある。やっていなかったら三宮に行こうと言う事になっていた。私とシマさんとMuさんが鈴蘭台駅の側の白木屋を見たが、どうもやっているようである。だが、そこは止めにして、三宮で飲む事になった。所謂反省会と言うやつである。
もう1人、この会の担当をしていて、しかも週に数時間はFMラジオのパーソナリティをしている女性も、仕事を終えたらすぐに来る手筈になっていた。シマさんに紹介されて私は2度目のその店に入った。まだ了解を得ていないので、店名や場所は明かしていないが、彼の知り過ぎた店なのであった。
先に着いた3人は、早速生ビールで乾杯した。「うまい、うまいと、しんからうまそうにしてそれをのんだ」。えっ、何だか木下順二の「あとかくしの雪」の1節に似ているなあ。そのように飲んだ。先付も一緒に。
そうこうしている内にパーソナリティのKuさんが到着した。彼女は赤ワインを注文。再び乾杯をした。それからは、話が止まらない。4人が喋くり通した。しかし、流石に人の関心を逸らさずに聴いたり機転の利いた問い返しをする。また、話題を切り替えたり、仕事柄とは言え、私は感心して聞いていた。いや、聞いたり喋ったりした。
ビールの後はワインにした。私は白ワインに。Kuさんは、やっぱりワインがいいと言ったので、白ワインを勧めた。そして飲んでいたが、やっぱり赤が好きなようだった。無理強いではなかったが、これで好みははっきりした。
此方も飲んでいるし、好きな事を喋っている。シマさんもMuさんも私もその上に開放感を感じていたから、尚更の事だった。話は止まる所を知らず、シマさんがお開きにしようと言わなかったら、無限に話していたかも知れなかった。そのとき9時を回っていた。3時間半を越えていたのだ。楽しい反省会だったから、仕方のない事だった。
鈴蘭も可憐で綺麗だが、小判草は雑草と言われながらも逞しく、あんな姿で私を魅了する。悪代官にでもなってみるか。いや、あの小判草から小判を全部摘み取って、100均でプラスティックの千両箱を買って、小さすぎる小判を入るだけ入れて毎日眺めていようかと、「水戸黄門」は、私をそんな男にする。「わっはっはっはっ」、黄門様の高笑いが耳から離れない。