5時半には起き上がった。こんな日の過ぎる時間は速い。

 

多分、今年最後に私が見る宇宙ステーションになるだろう。流石に5時5分のISSは見られなかったが、6時40分に見え出すISSの6分間は長時間だ。

 

6時25分になると家を出た。携帯でいちいち時刻を見るのはまどろっこしい。しっかり腕時計を付けて、いざ。

 

何故か、スロープになっているカインズの駐車場に上がる左側半分、車に対しての障害物がなかった。車がやっと通り抜けられる幅がある。一瞬不審者と思われると思ったが、正直に話せば分かって貰えると思って、結界を通り抜けた。

 

そこには1台の車もなかった。空は雲1つない、絶好の観測日和である。車の中で時の来るのを待った。テレビの時間表示と睨めっこだ。本来ならもう外に出ているが、寒さには逆らえない。35分。まだ5分あるが、37分に車の外に出ると決めていた。時刻表示が変わった。

 

東の空は朝焼けの始まりを思わせていて、日本昔話に出て来る絵ような色合いだった。満天を見渡したが、雲の欠片もなかった。

 

定位置に小走りに向かうと、方位磁石で軌道の確認をした。頭で、その動きを想像した。後1分。ここからが勝負だ。星は1つも見えないから、ISSだけならすぐに目に入る。だが、そう思うのは驕りだ。地球の陰から突如現れるから、どのポイントかは分からない。その方向だけは確かな情報だ。西に現れる。

 

40分になった。この空の状況で見えない筈はない。だが、どんなに首を回しても、まだ見えない。何故だ? また空振りか。そう思った瞬間、針の穴のような、薄い光の点が見えた。

 

目が慣れない所為もあるだろう。見えはしたが、動いている感じはしない。ちょっと目を離し、もう1度ぐるっと天を見回した。そして再び目を戻すと、その6等星位にしか見えない光の点は動いている。確かに動いている。それからは、目を離さなかった。しっかり北西の方に目を動かした。

 

こんな歩みをする星は見た事もない。流れ星は一瞬だ。しかし、このISSと言う星は違った。人間が作った星は、地上400kmを秒速7.7kmで地球を回っている。それも、ゆっくり、飛行機のような速さに見える。体はがたがた震えている。寒いったらありゃしない。だがこれには、感動の震えも含まれる。そう思うと、耐えられない程ではない。車に表示された外気温は2℃だった。

 

何と長い時間目で追う事が出来ただろう。最初のロスを差し引いても、5分以上は見る事が出来た。この姿に、私は感動以外の言葉の使い方を知らない。心の中が波打ち、北北東の方角へと、ISSは地球の陰に静かに消えて行った。小さく小さくなって残像として残り、空にはもう姿はなかった。最高の条件での宇宙ステーションを観る事が出来た感動に、寒さと一緒になって震えていた。

 

 

今晩は、男ばかり10数人のマスク忘年会だ。小さな小さなコンサートをするように言われている。コンンサートと言われた限りは、プログラムも作らなければならない。練習もしなければならない。それでもアルコールが入った後だから、音楽にならないかも知れない。それでも、楽しんで貰う為に、数曲を考えた。アンコール? これも、こっそり4曲用意している。所望されないかも知れないが、準備が大切で、それでいいのだ。それより、アルコール。

 

今日は日没後から数時間で見られなくなるが、木星と土星のグレートコンジャンクションがある。昨日の夕方にもみたが、この2つの惑星の接近振りは凄く、親指と人差し指を広げるなら、感覚として5cm程の迫り様だった。今日は、約400年振りの超最接近で、肉眼では2つに見えるか重なって1つに見えるかも、楽しみの1つである。

 

日没後2つの惑星は南西に見え、それから約2時間で、西の地平線に消えてしまう。奇跡的な一大天体ショーも、瞬間的な速さと言える。

 

5時半からマスク宴会だから、途中で出て見なければならない。知っている人知らない人がいるだろうが、何人が一緒に出て見てくれるだろうか。私は、見る。それに、朝証明された絶好の天候でもある。上下関係にも柵のあった凡そ200年続いた「地」の時代から、まるでリセットされたかのような「風」の時代に入る。

 

これから200年間の「風」の時代。今までの常識が変わり、横に広がる1人ひとりが自分の世界を持てる平等な時代が来ると、その道の人達は異口同音に伝えている。確かに色んな事が起こり、変わって来た。爽やかな風に乗って歩めるように、またそんな時代に乗り遅れないように、自分の道を考えてみたい。

滅多にないが、昨夜は寝るのが遅かった所為か、ラジオ深夜便を聴くようにしていた所為か、6時15分に携帯が鳴るようにしていたその音に起こされた。殆どそれを聞く前に起きている。

 

飛び起きて、カインズの駐車場に向かった。まだ屋上に車を侵入させる事は出来なかった。近くに車を置き定位置に立つと、6時38分までに後2分と言う時だった。布団を上げ、顔を洗い、手袋を付け、車を飛ばし、休む事は一時たりともなかった。

 

方位磁石で、宇宙ステーションが来る方向を確認した。南西の方向だが、そこにはやや厚い雲が横に連なり立ちはだかっていた。北東に抜ける軌道だった。時計は、既に38分を過ぎている。いつその雲を抜け出すか、しっかり見ていた。他の星は見られなかった。

 

雲のない真上も見たが、ISSの星のような姿はなかった。再び雲のある方を見たが、まだそれを抜ける兆しはないと、信じている。

 

42分を過ぎた頃、絶望を感じた。45分まで見えて、地球の陰に隠れて消える予定だった。後3分もない。こんな時は今までに何度もあったから、仕方なく諦めて上空を見た。

 

星だ。

 

東は明るくなっていたが、小さなゴマ粒のような星が動いていた。

 

これだ、

 

と歓喜した。が、30秒もしない前に、進路を妨げる雲に入って行った。もう見る事は出来ない。だが、見えた。北東にもう少し気を配っていたら、数分間は見られたと思う。ああ、今日も見られなかったかと思っている私の頭上を、宇宙飛行士は笑みを浮かべながら見下ろしていた事だろう。

 

十数秒の時間が、私の気持ちを和らげてくれた。いつでも簡単に見られると高を括っていたら駄目だと思う。その時その時が勝負の時だ。見えるか見えないかは、自分に掛かっていると思えた。

 

次は明後日だ。21日は、5:05に西に見えて5:09に東北東に消える。そして、6:40に又見えて6:46に北北東に消えるとある。2度見えるのはそんなにないが、この幅109メートルの宇宙ステーションが1日に約16回地球を回り、1周に要する時間は約1時間30分である事からすれば、それは当然の事だろう。上のデータを計算しても納得である。

 

5:09はパスして、6:40分にまたカインズの定位置に来たいものだと思う。因みに、ここは私の観測基地なのだ。

 

今日は見えていなかったら悲しみとなり、見えていたら喜びとなる。今日は占いで言う、「吉と出た」のである。自分の不注意から、落胆にもなり歓喜にもなる。今は、見方の学習をしているようだ。

 

悲喜は交交か、それとも表裏か。どう見ても、今日は落ち度は私にある。大概生きている内で、自分に責任がある事が私には多いようだ。

多分、こんなタイトルを付けたら読みかけてくれる人も増えると思うが、それは読み手には何の成績か分からないので、分かるまでは気になるだろうから。そんな誘い水でタイトルを付けたのでは決してない。そこまで意地悪ではないと思っている。

 

「あんたは情けないねえ。ちゃんと脇を締めないと」

 

「あー、うー」

 

9時前のクリニックの待合室に響く声。80歳は越えていると思われる老夫婦だ。体温計を渡されて、体温をはかるのを指図しているのだ。まるで子供に感情をぶつけている母親のようだった。

 

「何、無い? 情けないねえ」

 

5人位の受診を待つ人が聞いている。私も、見ないようにしていたが顔を見てしまった。

 

「上を脱ぎなさい」

 

推測では、高齢で喋り難くなっていたり、その他の原因があったりしているのだろう。老婦人は、暑いと思って脱ぐのを促していたのだろう。何度言っても分からないようだ。

 

「これ。これを脱ぎなさい」

 

とうとうその服に掴みかからん程の勢いだった。大きな声だから、誰もがそちらを見た。

 

「体温計がない? あるでしょう。情けない」

 

そう言って2つの体温計を持って受付まで歩いて行った。2つの体温計を重ねて。

 

「私はこっちで、これはあっちのです」

 

細身の婦人は、かなり腰を曲げて戻って来た。

 

私の近い将来と重ねてみた。好きでこのようになる者はいないと思う。家ではもっと凄い言動が行われているだろう。想像するに難くはない。誰しも昔からそうだった訳ではない筈だ。老婦人にしては堪らない日々だろう。それが昂じて、もう人目を憚らない行動パターンが出来てしまっているのだろう。

 

2人の関係性までは分からないし、分かろうとも思っていない。この逆だってあるかも知れない。ただただ私には、この言葉が溜まらなく突き刺さる。

 

「あんたは、情けないねえ」

 

診察室からマイクで名前が呼ばれた。このマイク、ちょっと聴き辛い。私の前の元気そうな老婦人が、

 

「名前呼ばれませんでした。〇〇子さんて言ってましたよ」

 

「わたしじゃないでしょう。あんたでしょう」

 

ありがとうとも言わず、

 

「早くしなさい。あんたを呼んだんでしょう」

 

「こ」が付いているから女性だと思ったのだろうが、連れ合いに転嫁した。

 

また診察室から呼び返された。元気そうなこの老婦人と仲良く話していた目の前の痩せた男性の名前だったのだ。苗字の最後の文字が「こ」だったのか。その人が診察室に入ると、この元気そうな老婦人は誰に言うともなく言った。

 

「歳を取ると耳も聞こえ難くなるし、何を言ってるかわからない時もあるし、体も言う事をきかなくなるし」

 

情けなく、気も落ち込んで行く待合室。言葉から、マイナーな雰囲気が漂う。気分や運気は言葉や思いによって上下するものだと実感した。私は1ケ月に1度、薬の処方箋を貰う為に来ているが、戸が開く8時半には来た。既に1人の婦人が座っていた。

 

薬局で薬を貰って出たのが9時30分頃だったから、1時間で終わったのは早い方だった。

 

ああ、成績表の話。こんな所まで引っ張ってと思わないで欲しい。9月末に検査して貰った結果を、今日聞く事にしていた。

 

「神戸市国保(後期高齢者健診)成績表」

 

無料の検査の成績表を貰った。血液検査で分かる範囲ではあるが、無料なのは有り難い。オプションは受けなかった。

 

その簡易な結果ではあるが、よく分からない「平均赤血球血色素量」の測定値が34.1だった。基準値が28.0~34.0だから、これは0.1だけ高い事になる。それだけでマークが基準値の横の高い方になっている。

 

もう1つある。これは十分な自覚がある。中性脂肪だ。大分正常値に近くはなっているが、今までその数値が高くてもどこ吹く風と思っていた。有る時から。

 

30年は昔、同僚の女性が私の結果を見て他の人に言っている言葉を、今でもはっきり覚えている。

 

「あの人、死ぬよ」

 

今思えば、とてつもない結果だったと思う。それから、少しずつは気を付けるようにしての今である。「中世死亡」とはよく言った高脂肪には気を付けないといけない。

 

他にこの結果からは悪い所はないそうだが、自覚症状も結構ある。この検査で全てが大丈夫だと言う事はない。目安として、少なくともこの結果からだけでも気を付けなけれればならないと思う。氷山の一角の「成績表」だ。

 

こんな言葉、久し振りに見た。実際の体は、ガタガタと軋んだ音を立てている。

少し、空から離れてみようと思った。公けなカインズ秘密基地から空を眺めているのは、どう見ても私しかいない。不審者ではないにしても、変人か世捨て人か何かに思われているに違いない。上り下りする車の中ははっきり見えないが、中からは丸見えのように見えているのだろう。

 

今日は、昨日の宇宙ステーションが余りにも大きく見えて、まるで飛ぶ鳥のように見えたから嘘ではないかとの疑惑から、本物だと実証したい為にカインズの駐車場に車でやって来た。

 

5時22分に現れる宇宙ステーションを確実に見るのに10分前に西の景色や空がすっかり見える隅っこに立った。昨日のように大きな雲が西に立ちはだかってはいなかったが、北の方向に雲が固まっていた。

 

方位磁石でしっかりと方向を確認した。北西の低い空に見える情報があり、その辺りをしっかり見定めて待った。角度は14.2度だから、昨日の53.6度とはだいぶ違う。

 

今日は25分に北の低空に消える事になっていた。22分になり、銀色の動く星を探した。何処にも見えない。あっと言う間に1分は過ぎ、後2分かと思いながらあちこちを探した。何とこの3分は速く過ぎる事だろう。何も見ない内に、全てが終わった。

 

昨日は眩い夕日が西の空にあったが、今日は1時間遅れて見える計算で夕陽は既になく、山の稜線に日本昔話のような薄いオレンジのくすんだ夕焼け色が漂っているだけだった。

 

いい天気であったが故に残念な思いに駆られたが、余りにも昨日の宇宙ステーションが素晴らし過ぎたから満足度も本物度も99%だった。満足度の足らない1%は、感動して夢見心地だった部分だ。

 

これ以上どうしようと言うのだ。ここまでのめり込むのはよそうと思った。空や宇宙の事しかブログに出来ないのかと思われるのもどうかと思うので、最小限に止めたい。

 

宇宙ステーションは地上400kmの所を飛んでいる事は分かった。また、1日に地球を16周する事も分かった。90分で1周する事も。秒速が約8kmで、オリンピック級の速い人でも10mだから、どだい比較するのも無理がある。時速は約28,000kmだから、新幹線の340kmも比べ物にならない。

 

そんな宇宙ステーションも、晴れていたら同じ様に見えると言うのも間違っている。今度11月は7日から殆ど毎日23日まで見られる。ただ勉強になったのは、低い位置や高い位置に、見え方が違うと言う事。方向も今日のように北西から北に消えるような事もあり、見える時間も短かったり長かったりする。短いと言っても2分。長いと言っても6分位だ。晴れていても雲が邪魔をしていたら見られない事もある。曇っていたら見られない事が多い。雨が降っていたら推して知るべしであろう。

 

今度好条件の時があればカインズ秘密基地へ出向くかも知れないが、昨日のように感動的な見え方を体験出来たら、見なくても満足出来る。愈々寒くなっていくだろうから、そこまでして見なければならない理由は見つからない。

 

観測の時間が1時間もずれていた所為か、昨日の半月は白く、今日の辛うじて膨らんだ半月は黄色になって、見えたかもしれない宇宙ステーションの反対側の目の上に、美しく貼りついているのを見た。

 

縦が約80m、横が約108mの宇宙ステーションには、最初の頃は2人乗っていたが、今は6人が乗っていると言う。そのISSの名を、「きぼう」と言う。

溜息を吐いたが、それは公式通りのものではなかった。失望ではなく、疑念の残る首を傾げる感動のようだった。

 

2020年10月25日の、これが宇宙ステーションなのか。私は車を、宇宙観測基地にしているカインズの2階目線の駐車場に乗り入れた。西側の太陽は大きく眩く、とても対峙出来るものではなかった。

 

車を降りると西端の角に立ち、空を一通り眺めた。見え始める4時55分までには7、8分はある。見える方向は北北東である。方位磁石で確認した。この軌道なら、太陽を見つめながら追いかける事はなく、寧ろ背に受けながら見る事になる。

 

車が上って来たリ、下りて行ったりした。こんな事をしているのは、少なくてもここでは私だけのようだ。余り関心がないのだろうか。あっても、特に知ろうとはしないのだろうか。

 

空は青く晴れて雲もなく、絶好の日和だ。今日は4時37分には消えると言うから、見えるのは2分位だろう。昨日は雲量が多く、今日よりは1時間遅かった。それは西に見える筈だったが、大きな雲が立ちはだかっていた。雲の切れ目に見えるか、それを過ぎると雲から顔を覗かせるかで、何とか見えると考えた。しかし、全く観る事は出来なかった。

 

愈々35分に後1分となった。北北東の中ほどの高さにいきなり地球の陰から現れると言う。あっ、これだ。その方向に突然現れて進んで行く。やっと見えた思いに何故か溜息が漏れた。今まで観たものより、随分大きかった。それに、羽がキラキラと黒く光りながら飛んで行く。だが、どうしてもそれは鳥なんかではなかった。しかし、高度がこんなに低く見える時もあるのだろうか。これが疑念だったが、真っすぐに同じ速さで飛んで行く。

 

消え行く方角が、白い月の辺りだったから、北東ではないような気もする。私は、ずっと目で追っていたが、両端がキラキラと反射しながら飛んで行った。遂に消えたが、勿論飛行機なんかではない。同じ時間に、よく似たものが軌道まで同じ様に飛ぶのだろうか。しかも、こんなにはっきり見える空のキャンバスを背に。

 

キラキラ輝いたのは、後の強い太陽光によるものだったとは思える。余程条件が良かったのだろう。そう思う事にしたが、普通宇宙ステーションは400kmの高さを飛んでいる。それが、パネルまで見えるのだろうか。1つの星のように、それが線となって見えると解説されているから、この物体は一体何だろうと思ってしまった。条件が余りにもよく、ここまで見えたのだろうと思わずにはいられない。明日見たら、また暫くは見られないが、明日は兵庫では北西に午後5時22分から25分まで見える。

 

それが、今日の宇宙ステーションを確信させるカギを握っているかも知れないと思った。それにしても、心の中では信じようとしている。そのはっきりしない状況が、それでも私に感動を与え、疑念を齎した溜息となって吐き出されたのだった。

 

明日、天気になあれ。