絶縁被覆付圧着端子を100Vの電源回路に使用して良いのか? | 音響・映像・電気設備が好き

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圧着端子には裸圧着端子と絶縁被覆付圧着端子があります。現場によっては、「絶縁被覆付圧着端子を100Vの電源回路に使ってはならない」と指導しているところがあり、筆者が昔いた現場でも同様でした。※100Vの電源回路に使用する場合は裸圧着端子に絶縁キャップを取り付ける

Twitterでこの話題に触れた時、うちもそうでした、や、普通は使わないですよね、といった意見が見られました。そこで絶縁被覆付圧着端子を100Vの電源回路に使用して良いのか?を調べる事にしました。

 

絶縁被覆付圧着端子(左)と裸圧着端子(右)



まず、内線規程を参照します。内線規程は東京電燈が作ったとされる電気施工の教本です。参照したものは内線規程 (東京電力) 第13版: JEAC 8001-2016です。※Webでは閲覧することが出来ません。購入が必要です。

 

東京電燈とは?・・・参考リンク:

東京電燈株式会社のプレートがあったので調べた話

 

内線規程 3102-6 電線と器具端子との接続、の項目が該当しますが、ここに書かれているターミナルラグ(つまり圧着端子)には絶縁被覆付圧着端子についての使用制限の記載はありません。
ただ、内線規程は電気工事において絶対に守らなくてはならない基準ではありません。あくまでも標準的な施工の指針を示すものです。

次に、日本産業規格のJIS C2805:2010 銅線用圧着端子を見てみます。すると冒頭の適応範囲に「注記 この規格で規定する絶縁付端子は,制御回路などの配線に用いる。」とあります。
制御回路の定義は・・・・まで掘り下げるとキリがありませんが、制御を行う回路の事で電源回路そのものを指す用語ではありません。

 

参考リンク:

日本産業標準調査会:データベース検索-JIS検索

https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html

こちらの検索窓に「C2805」と入力すると閲覧が可能です。

 

 

となると、主回路配線には使えないのだろうか?という疑問があります。ただ、適応範囲に書いてある以外では具体的には裸圧着端子と絶縁被覆付圧着端子に差異は認められません。

次に、公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)平成31年版を見てみます。

こちらは下記から無料でダウンロードが出来ます。

 

国土交通省大臣官房 官庁営繕 公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)平成31年版

 

するとこちらには以下の事が書かれていました。

 


ターミナルラグは、JIS C 2805「銅線用圧着端子」による。なお、主回路配線に用いるものは、裸圧着端子とする。

 

この文面を読む限りは、主回路(100Vの電源回路)に絶縁被覆付圧着端子は使用できない、という解釈が得られます。
この公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)平成31年版を元にした、東京都電気設備工事標準仕様書と言うものがあり、こちらは勤務先での電気工事の指針となる仕様書です。

こちらは下記から無料でダウンロードが出来ます。

 

東京都財務局 東京都工事標準仕様書

https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/kentikuhozen/eizen/siyousho_enasi.htm

 

引用元は公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)の為、同様の事が書かれています。

 

 

ターミナルラグは、JIS C 2805「銅線用圧着端子」による。なお、主回路配線に用いるものは、裸圧着端子とする。

 

本件の解釈について東京都財務局建築保全部技術管理課に問い合わせを行いました。

すると、本工事仕様書の大前提に、設計図書間に相違がある場合の優先順位があり、標準仕様書は最下位の優先順位であると教えて頂きました。

※解釈については、公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)に準じている、との事です

 

 

標準仕様書より設計説明書・特記仕様書の方が優先順位が上

※想像ですが、未来技術の電材が出た時にそれらを使用できるようにしているのでは、と思いました。


つまり、特記仕様があれば「主回路配線に用いるものは、裸圧着端子とする。」これを厳守しなくても良いと言う事です。


そこで株式会社ニチフ端子工業に裸圧着端子・絶縁被覆付圧着端子と性能に差異があるかを問い合わせました。すると、性能として絶縁被覆付圧着端子は100Vで使用してもなんら問題はありません、と明確な回答と共に端子の仕様書を頂きました。ここには「絶縁付端子は,制御回路などの配線に用いる」との記述はありません。

※仕様書は問い合わせをすれば発行していただけます。

※書くまでもありませんが、ニチフ端子工業が保証するのは指定の圧着工具を使用した場合のみです。

 

Blog内参考リンク:

絶縁被覆付圧着端子の工具別圧着形状比較

裸・絶縁被覆付圧着端子の適正圧着について

 

 

繰り返しますが、ニチフ端子工業の製品仕様書があるので、公共建築設備工事標準図(電気設備工事編)にある「主回路配線に用いるものは、裸圧着端子とする」は厳守しなくても良い事になります。裸圧着端子・絶縁被覆付圧着端子共に100Vの電源回路に使用する限りは両者の性能に変わりがないことがメーカより証明されているので当然と言えます。

では、そもそもJIS C2805:2010 銅線用圧着端子に「注記 この規格で規定する絶縁付端子は,制御回路などの配線に用いる。」とあるのはなぜなのでしょうか?

日本規格協会標準化業務管理チームに問い合わせを行い、JIS規格原案作成関係者様より回答を頂きました。下記に要点をまとめます。
 

回答の要約

圧着端子における絶縁被覆付きはその構造上10AWGまでとなっており、裸圧着端子のすべてのサイズをカバーしていません。(※注1)このため、10AWG程度までの主な用途として「制御回路などの配線に用いる」として使用例をあげています。
制御回路「など」としているとおり、仕様の条件を満たせば、小容量の電源回路等に用いることを制限するものではありません。
圧着端子自体には、定格はありません。使われる線材の定格で決まります。
ただし、添付された(※注2)被覆付圧着端子の定格は600Vとなっています。これは、圧着端子に対する定格ではなく、被覆絶縁の定格を示しています。よって、600V以下であれば、100Vの配線に使うことは問題ありません。


※注1 JIS C2805:2010 銅線用圧着端子で定義されている圧着端子は、裸端子は1.25m㎡~325m㎡、絶縁付端子は1.25m㎡~5.5m㎡となっている

※注2 株式会社ニチフ端子工業の端子仕様書の事

明確な回答が返ってきました。
絶縁被覆付圧着端子は100Vに使用しても問題はない、という結論です。

 

・・・ 一言いわせてもらうと、「注記この規格で規定する絶縁付端子は,制御回路などの配線に用いる。」の一文がJIS C2805 銅線用圧着端子になければ、派生の解釈であろう工事仕様に「主回路配線に用いるものは、裸圧着端子とする。」とは書かれなかったのではないでしょうか・・・?難しいですね。

 


回答してくださいました、東京都財務局 建築保全部 技術管理課様、株式会社ニチフ端子工業様、日本規格協会 標準化業務管理チーム様、本当にありがとうございました。