世界初のヘッドフォンは何か? | 音響・映像・電気設備が好き

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はじめに
本記事は110号プラグの歴史を調べてみたの本来の目標である「現行の形状のフォンプラグはいつだれが作ったのか?」を調査するうちに溜まっていった資料をKOSSのヘッドフォンを主軸にまとめたものです。別個にまとめられるくらいに資料が揃いましたのでここに記します。

 

参考リンク:
110号プラグの歴史を調べてみた

世界初のヘッドフォンはどこのメーカが作ったのか?調べたことはありますでしょうか。Googleで調べても良いのですが、解釈が違う記事ばかり目に付くので独自に調べた内容をまとめます。

世界初のヘッドフォンを自称するメーカは2社あります。ドイツのbeyerdynamic、アメリカのKOSSです。
まず、beyerdynamicですが、1937年に世界で初めてのヘッドフォンDT48を発売したとあります。

beyerdynamicの歴史
https://north-america.beyerdynamic.com/company/company-portrait

続いて、KOSSですが1958年に世界で初めてのヘッドフォンSP/3を発売したとあります。

※SP-3という名称が一般的

KOSSの歴史
https://www.koss.com/history

ちなみに、KOSSのヘッドフォンはUS3053944A(出願1960年)です。

 

 


US3053944A Headset mounting bracket (1962 KOSS).
https://patents.google.com/patent/US3053944


米国の特許を調べてみると、オーバヘッド型ヘッドフォンの特許(US1560718A)が申請されたのが1922年であることが分かります。
※正確にはヘッドバンド部分

 

 


US1560718A Receiver headband 1925.
https://patents.google.com/patent/US1560718A


レシーバ部分がスライドする機構の特許はUS2149341Aで出願はベル電話研究所です。

 

 


US2149341A Earphone support 1939.
https://patents.google.com/patent/US2149341A

 

 

オーバーヘッドで頭の上から両耳にかぶせる形で明確に特許が取られたのがUS2924672Aです。出願はRoanwell Corporationです。こちらは1948年創業の軍用・商用ヘッドセットメーカの様です。

 

参考リンク:

Roanwell Corporation

https://www.roanwell.com/

 



US2924672A Headset 1960. Roanwell Corporation.
https://patents.google.com/patent/US2924672A


ここで疑問なのが、「ヘッドフォン」とは何か?と言う事です。
今、私たちが想像する「音楽を聴くためのヘッドフォン」よりもずっと歴史が古いものがあります。それが通信機器としてのヘッドフォン(ヘッドセット)です

参考になったのは例のアメリカの電話の歴史のアーカイブです。

Telephone Collectors International Library
https://www.telephonecollectors.info/

ウェスタンエレクトリックのカタログ(1934_RAILWAY TRAIN DISPATCHING Western Electric)
https://www.telephonecollectors.info/index.php/browse/document-repository/catalogs-manuals/western-electric-bell-system/publications-and-educational-documents-by-date/railway-telephones/5377-railway-train-dispatching-telephone-systems-1934-alt-large-file

 


1934年のウェスタンエレクトリックのカタログ。ヘッドセットという名称で現行品に似たようなヘッドフォンが掲載されている。※現在の定義ではヘッドセットとは呼ばない

 

 

片耳ヘッドフォンも掲載されている

 

 

なんと、1934年のウェスタンエレクトリックのカタログでNo.1010Aとしてオーバーヘッド・ヘッドフォンが掲載されています。(鉄道用電話機器としては騒音対策の都合上、発展が早かったと推測します)
これはbeyerdynamicの1937年発売のDT48よりも前の製品となります。

補足:現在では厳密には世界初の「ダイナミックヘッドフォン」がbeyerdynamic、「ステレオヘッドフォン」がKOSS、と言う説明の様です。ウェスタンエレクトリックの製品がピエゾタイプなのかダイナミックタイプなのかはカタログからでは分かりません。

 

1934年以前で、この形状のヘッドフォンは見つけられていないので、だいたいこのあたりの時代にオーバーヘッドタイプの両耳ヘッドフォンが作られたと考えて良いかと思います。

※恐らく、世界で同時多発したのではないでしょうか?

 

一件落着かと思いきや、そもそもの疑問が残りました・・・それは、通信機器用のヘッドフォンが存在しても、音楽を聴くために再生機器と繋げないという事実です。ヘッドフォン端子(フォンプラグ・ジャック)は古い真空管アンプには搭載されていないのです。
音楽用ヘッドフォンを売るためには、プリメインアンプや再生機器にヘッドフォンジャックが搭載されていないとならないという根本的な問題点があるのでした・・・卵が先か鶏が先か・・・似た話です。
調べるうちに、KOSSのSP-3X販売の歴史に一つの答えがありました。

KOSS SP-3Xの話
https://www.koss.com/blog/profile-sp3x/

 

 

KOSS SP-3X 筆者が調べる中、現行形状のフォンプラグが採用されている最古の製品です

※宣伝写真としてフォンプラグが映りこんでいるのはSP-3Xから

 

 

KOSS T-2アダプタプレート

 


こちらに、1964年、SP-3Xと一緒に、アンプのスピーカ出力をヘッドフォンジャックに改造するT-2アダプタプレートを売った、と言う話が出てきます。
1958年発売のSP-3の時は・・・?と言う疑問にはebayに答えがありました。
 

 

SP-3用KOSS T-2アダプタプレートの資料(ebayより拝借)

 


なんと、SP-3販売時にもT-2アダプタプレートが存在していたと言う資料がありました。KOSSのBlogには1958年から、という記載がないので確証が持てませんが、SP-3が販売されていた時期には現在の形状のフォンプラグが存在していたと見て間違いないでしょう。

探してみると、ebayでKOSS T-2アダプタプレートが出品されていたので、Ninjasoundさん経由で購入してもらいました。※日本への発送不可でした


こちらがKOSS T-2アダプタプレートです。

 

 

背面写真

 

 

現在、筆者が調べる中では、現行の形状のフォンプラグの最初期の製品です。

「最古」という形容は今後の調査で覆るかも知れませんが、ヘッドフォンの歴史に名を刻む製品であることは間違いありません。

 

 

左がカナレ、右がスイッチクラフト。カッチリ嵌るのはスイッチクラフト・・・その訳は・・・

 

参考リンク:

フォンプラグのJIS規格とEIA/IEC規格

 

 

スイッチクラフトの現行品と形状が同じ

 

 

よく見ると、スイッチクラフト製

 

 

写真に撮っている時に気が付きましたが、このKOSS T-2はスイッチクラフトのフォンジャックが使用されていました。最近発見した昔のプロオーディオ機器のカタログアーカイブサイトで1966年のスイッチクラフトカタログがありましたので引用します。

昔のプロオーディオ機器のカタログアーカイブサイト
http://www.technicalaudio.com/pdf/

※このアーカイブも凄まじい情報量です


上記サイトから1966年のカタログ
http://www.technicalaudio.com/pdf/Electronics_Catalogs/Harvey_Radio_-_Federal_Electronics_1966_fullcat.pdf

 

1966年 SWITCHCRAFT Phone Jacks

 

 

購入したKOSS T-2について来た冊子のスキャンデータ

 

 

購入したKOSS T-2について来た冊子のラインナップから、このT-2は1970年代のものと想像します。

資料公開と言う意味で本記事を書いているので途中過剰な情報が含まれますが、世界で初めてプラグまで考えて音楽用ヘッドフォンを販売したのはKOSSである、と言うのが結論です。その他の世界初のヘッドフォンは恐らくは通信機器用途、あるいは延長上にあるのではないでしょうか?接続方法の提示無くして、世界初の(音楽鑑賞用)ヘッドフォンとは言えませんよね。

 

KOSSのヘッドフォン接続用機器はラインナップが多く、上記のカタログから抜粋してみます。

 

 

T-10A CHAIRSIDE LISTENING STATION 個別ボリューム付き2出力ヘッドフォンスピーカ切替器

T-4A CONNECTOR BOX 5人用分配器

T-3 SPEAKER/HEADPHONE/TRANSFER SWITCH スピーカとヘッドフォンの切り替えスイッチ

T-2 CONNECTOR PLATE スピーカ出力をヘッドフォン出力に変換するプレート

T-1 MONITORING ADAPTER インピーダンスマッチングを行うトランス

 

これら以外に、T-5、T-10という据え置き型のスピーカ出力変換器があります。ebayで製品写真を見ることが出来ますので検索してみてください。

KOSSのこの商売戦略は素晴らしいです。現在のヘッドフォンでも使用されている「ヘッドフォン端子/フォンプラグ・ジャック」の普及に一役かっていたというわけです。

 

 

大変長くなりましたが、ここでおしまいです。

冒頭に書きました通り、本筋は「現行の形状のフォンプラグはいつだれが作ったのか?」の調査です。ここまで調べて、1958年発売のKOSS SP-3に採用された、というのが最古の情報でこれより以前を見つけられていません。本当はそれら全てが判明してから記事にしたかったのですが、あまりにも道中で拾う情報が多すぎ、別の形でまとめる形式を取りました。調査は継続していますので、気になる方は気長にお待ちください・・・。