こんにちは、内科医ひとちゃんですウインク

 

2月も半ば(なかば)を過ぎ、少しずつですが春の気配も感じられるようになっていますね。今朝は、鳥の鳴き声も聞こえていました。

 

アメリカの作家、テリ・ギルメットの言葉に

 

My favorite weather is bird chirping weather.

私のお気に入りの天気は鳥のさえずりだ。

 

というものがありますが、それを思い出しました。

皆さまの体調は、いかがでしょうか?    

 

(AIを用いて画像を作成)

 

今回は「iPS細胞」のエクソソームについてのお話をしてみたいと思います。

「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」のお話は、以前のブログ内でもお話をしたことがあるのですが、2006年8月に京都大学の山中伸弥教授らは世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞しましたことは、以前にもブログ内でご紹介させていただきました。

 

「iPS細胞」は、あらゆる生体組織に成長できる「万能細胞(万能細胞」ということになりますね。

当初は「iPS細胞」は「癌化」するリスクがあるのが問題でしたが、

いろいろな改良が行われ、現在では「癌化」する可能性が極めて小さいとされる「iPS細胞」が作成できるようになっています。

 

どのような改良が行われたかと言いますと•・•

 

山中先生が発見した「iPS細胞」を作成する4つの遺伝子は、「Oct3/4(オクトスリーフォー)」,「Sox2(ソックスツー)」,「Klf4(ケーエルエフフォー)」,「c-Myc(シーミック)」というものでした。

 

これらの4つの遺伝子は「山中因子」と呼ばれています。

 

ただし、「c-Myc」は、細胞の活発な細胞増殖因子や,嫌気的代謝促進因子としてがん細胞の特質に大いにかかわっている遺伝子であり、

癌化するリスクが考えられていたわけです。

 

その後、この問題は、中川誠人先生(当時、京都大学iPS細胞研究所講師、現在大阪大学 ヒューマン・メタバース疾患研究拠点 特任准教授を兼任)と山中先生らの研究グループは、Mycファミリーのひとつである「L-Myc」が、「c-Myc」よりも効率よくiPS細胞を誘導することを見出しまし、かつ、L-Mycを用いて作製したiPS細胞由来のキメラマウスではほとんど腫瘍形成が起こらないことを見いだしています。

 

(AIを用いて画像を作成)

 

前置きが長くなりましたが・・・今回、お話をしたい話題は「iPS細胞」から放出される「エクソソーム」となります。

 

「エクソソーム(Exosome)」とは、細胞から分泌される直径50-150 nm(ナノメートル:10億分の1メートル)の顆粒状の物質ですね。 

 

その表面は「細胞膜」由来の脂質、タンパク質を含み、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含んでいるとされていましたね。

 

「エクソソーム」は、あらゆる細胞から放出されていて、細胞間のコミュニケーションツールと考えられています。

癌細胞もその例外ではなく、「エクソソーム」が放出されていることが知られており、癌細胞が転移する際の「足場(あしば)」を作っている可能性も指摘されています。

 

「iPS細胞」(かんようけいかんさいぼう)(MSC)」から「エクソソーム」が放出されていることは以前のブログ内でもご紹介をしました。「間葉系幹細胞」は、骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などに存在する多能性幹細胞で、さまざまな細胞に分化できる能力を持っていましたね。

 

そして、「iPS細胞」からも「エクソソーム」が放出されているのですね。

 

では、「iPS細胞由来エクソソーム」と「間葉系幹細胞由来エクソソーム」では、その内容物質に違いはあるのでしょうか?

 

これは、以下のような特徴的な違いがあるとされています。

 

1.マイクロRNA (miRNA)の発現パターン

 

1) iPS細胞由来エクソソーム

  • 多能性維持に関わるmiR-290-295クラスター
  • 細胞増殖・分化制御に関わるmiR-302/367クラスター
  • 初期発生に重要なlet-7ファミリー

 

2) 間葉系幹細胞エクソソーム

 

  • 血管新生促進に関わるmiR-210、miR-126
  • 抗炎症作用を持つmiR-146a、miR-155
  • 組織修復に関与するmiR-21、miR-23a

2.タンパク質の違い

 

1) iPS細胞由来エクソソーム

  • 多能性維持因子(Oct4、Sox2、Nanog関連タンパク質)
  • 細胞増殖因子(TGF-β、FGFファミリー)
  • 細胞分化制御因子

2)間葉系幹細胞エクソソーム

  • 抗炎症性サイトカイン(IL-10、TGF-β)
  • 成長因子(VEGF、HGF、IGF-1)
  • 組織修復関連タンパク質(MMPs、TIMPs)

 

 

3.機能的な違い

 

1)iPS細胞由来エクソソーム

  • 組織の再生能力が高い
  • 細胞の初期化・リプログラミング能力を持つ
  • 強い増殖促進効果がある

 

2)間葉系幹細胞エクソソーム

  • 免疫調節作用が強い
  • 組織修復・瘢痕形成抑制効果が高い
  • 血管新生促進効果が顕著

これらの違いにより、それぞれのエクソソームは異なる治療用途に適していると考えられているそうです。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>2月18日

 

ちょうど、本日の「読売新聞」で次のような記事を読みました。
      ーーーーーーーーーーーーーーーー
患者一人ひとりの血液からオーダーメイドのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を全自動で作る京都大iPS細胞研究財団(理事長=山中伸弥・京都大教授)のプロジェクトが4月、大阪市北区にある最先端医療の国際拠点「中之島クロス」で始動する。年内にも大学や企業に試験的に細胞の提供を始め、将来は年間1000人分の作製を目指す。

       ーーーーーーーーーーーーーーーー
ドイツの文豪(ぶんごう)である「ゲーテ」は


He who moves not forward, goes backward.
現状維持(げんじょういじ)は、後退(こうたい)と同じである

という言葉を残していますが・・・山中伸弥先生方のご活躍とiPS細胞の発展を示す記事を目にする度に、ある種の反省とともに

このゲーテの言葉を思い出します。

 

私たちは、例え(たとえ)現状が、かつて思い描いて(おもいえがいて)いた未来に遠く及ばないとしても・・•

環境が良くないから仕方がない・・・とか、運が悪かったから仕方がない •・•とりあえず、「現状維持」で・・・などと思ってしまいがちです•・・もちろん、この考え方では目標を達成(たっせい)することは不可能であることは無理であるわけです。

 

 

山中先生の研究から、作り上げられた「iPS細胞」の研究は、驚異的なスピードで発展し、真の「再生医療」を今、実現させようとしているわけですね。

もちろん、これを成し遂げる(なしとげる)ことができたのは、山中伸弥先生をはじめとする多くの研究者や大阪市北区にある最先端医療の国際拠点「中之島クロス」を作り上げた方々のお力によると思うのでですが・・・「現状維持」をよしとせず

 

「1歩前へ、そして、さらに1歩前へ」という情熱と、弛まぬ(たゆまぬ)努力があったのではないかと想像します。

 

さて、話を「iPS細胞」に戻しますと•・・

 

「IPS細胞」は、以前は「癌」が発生させるリスクもあると考えられていたわけですが、癌関連遺伝子「c-Myc」を「L-myc」に変えることにより、癌の発生リスクを減少させることが可能になったわけです。しかしながら、まだ、もうひとつの問題が残っていたのですね。

それは、当初、4つの因子(Oct4、Sox2、Klf4、L-Myc)を「ウイルスベクター」を用いて導入していたわけですが、
「ウイルスベクター」を用いることで、安定的に遺伝子を導入することが可能になった反面(はんめん)、この「ウイルスベクター」が「癌」の発生やDNAの異常などを起こすリスクも指摘されていたわけです。

 この状況が変化したのは、2010年になってからでして、RNAを用いた「リプログラミング法」という方法が海外の論文で報告されまして、この方法を用いることで「ウイルスベクター」を用いる必要がなくなったのですね。

この「RNAリプログラミング」では、導入因子を「RNA」として細胞に導入し、細胞質に留まった(とどまった)RNAから各種の初期化因子が翻訳されることにより、細胞が初期化され、「iPS細胞」に変化させることができるわけです。

この方法により、「iPS細胞」を作成しているのが『株式会社 リプロセル(本社:神奈川県』」でして、JTKクリニックの「IPS細胞のエクソソーム」は、これを用いています。

同社の技術は2025年2月に

同社が提供する「臨床用iPS細胞」を活用したある臨床試験において、米国食品医薬品局(FDA)からIND(治験届出)クリアランスを取得しています。この成果は、iPS細胞ベースの治療として米国で初めて第3相臨床試験に進み、このことは、「iPS細胞」の臨床応用に向けた画期的な出来事のひとつとされているわけですね。

前置きが長くなりましたが・・・「iPS細胞由来のエクソソーム」の効果ですが、「ヒトiPS細胞由来のエクソソーム」が老化した「皮膚線維芽細胞」に与える影響を調査した論文がありまして、その報告によりますと 「ヒトiPS細胞由来のエクソソーム」が線維芽細胞の増殖と移動を促進し、コラーゲンIの発現を増加させることが報告されています。



(図はお借りしました)

 

また、老化した「皮膚線維芽細胞」に対して、「ヒトiPS細胞由来のエクソソーム(iPS-Exo)」を投与した場合に
老化マーカー(SA-β-Gal)の発現を低下させ、コラーゲンIの発現を回復することが示されています。これらの結果から、i「ヒトiPS細胞由来のエクソソーム」は、皮膚老化の治療に応用可能なのではないかと考えられています。

さらに「iPS細胞由来のエクソソーム」が皮膚創傷治癒に与える影響を動物モデルで調査した研究があります。この研究では、「線維芽細胞」の移動能力が向上することが示されています。
また、糖尿病性潰瘍モデルでは、「iPS細胞由来のエクソソーム」の投与により、創傷閉鎖が加速することが示されています。
糖尿病に伴う下肢の創傷は治りにくく、「皮膚潰瘍」を形成し、治りにくいとされていますが、「iPS細胞由来のエクソソーム」が有効であれば、治療しやすい可能性もあるかもしれません。

上記に示したように「iPS細胞由来のエクソソーム」は、維線芽細胞の移動・増殖を促進し、創傷治癒や皮膚老化の改善に取り組む可能性が示されています。特に、コラーゲン合成の促進やMMPの発現抑制を介して、皮膚の若返りや治癒を助けることが示唆されています。


ところで、「iPS細胞由来のエクソソーム」の安全性ですが・・・現時点までの研究では、iPS細胞由来のエクソソームが正常な細胞を癌化させる直接的な証拠は見つかっていません。細胞から放出される「エクソソーム」の内容物は、親細胞の病的状態を反映することが知られています。iPS細胞は、ES細胞と同じように健全な各種臓器を作り出すことができる細胞で、「癌化」や「遺伝子異常」が存在する可能性は少ないと言えます。

これに加えて、「リプロセル」では、ウイルスベクターを用いての遺伝子導入はしていない次世代型のリプログラミング方法(mRNA法)でiPS細胞を作製しているため、ほぼ、リスクがないと言えます。

また、iPSエクソソームの製造に使用する細胞は、日米欧の再生医療の規制を満たすウイルス・菌の検査を実施しています。製造は、特定細胞加工物の製造許可を受けた施設で実施しています。また、精製・濃縮工程を繰り返し行うことで不純物を徹底的に排除し、高純度の再生医療グレードの「iPSエクソソーム」を実現しています。

よって、さらなる研究は必要ですが、現時点ではリプロセル社の「iPS細胞由来のエクソソーム」が癌化に寄与する可能性は極めて低いと考えられているのですね。

 

だいぶ、話が長くなってしまいましたね。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

参考)
1.Int J Mol Sci. 2018 Jun 9;19(6):1715. 
Exosomes Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells Ameliorate the Aging of Skin Fibroblasts
Myeongsik Oh ら

2.Nagoya Journal of Medical Science.May.2018
Effects of exosomes derived from the induced pluripotent stem cells on skin wound healing
Hitoshi Kobayashiら

3. Int J Cardiol. 2015 May 8;192:61–69. 
Exosomes/microvesicles from induced pluripotent stem cells deliver cardioprotective miRNAs and prevent cardiomyocyte apoptosis in the ischemic myocardium
Yingjie Wang ら
 

 

 

(銀座 和光時計台)

(筆者撮影)

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 理事長、院長  

小笠原  均  (Hitoshi Ogasawara)   

医学博士, 内科医

(総合内科、リウマチ専門医)

(新潟大医学部卒)

 

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