こんにちは、内科医 ひとちゃんです
9月も半ばであるというのに
気温の高い日が続いていますね。
青空に浮かぶ(うかぶ)雲は、ハケで薄く掃いたような雲などもみられ、秋にみられるものであるわけですが・・・ね。
昔から「暑さ寒さも彼岸(ひがん)までという言葉のとおりに
夏の暑さ(残暑)は秋の彼岸の入りの頃(9月20日前後)までには和らぐことを期待したいと思います。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は「睡眠(すいみん)」に関連するお話をしてみたいと思います。
その前にちょっと余談(よだん)ですが・・・古代のギリシア神話に
「眠り」の神がいるのをご存知でしょうか?
その神は「ヒュプノス(Hypnos)」であるそうで、
ヒュプノスは穏やかで心優しい性格であるとされ、疲れた人間の額を木の枝で触れたり、角から液体を注いだりして人を眠らせるのだそうです。
さて、話を本題に戻しますと・・・ヒトが「睡眠」をとることのメリットとは、どのようなことになるのでしょうか?
その答えは、次のようになります。
「睡眠」は、学習、記憶、創造的な問題解決能力の向上に大きな役割を担っています。
特に、睡眠は「長期記憶」の形成が重要で、「海馬(かいば)」から記憶を他の脳の部分まで移動する役割を担っています。
「海馬」は、上の図に示しているように「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」という部分の一部を占めています。
この「海馬」の部分は、とても繊細(せんさい)な部分です。
例えば、虚血、つまり、血流が乏しくなると壊れやすくなりますし、アルツハイマー型認知症においても、早期に病変が出やすいことが知られています。
また、心理的ストレスを長期間受け続けますと、コルチゾールというものが分泌されるのですが、これにより「海馬」部分にあるの神経細胞が破壊され、「海馬」が萎縮してしまいます。
話を「睡眠」に戻しますと・・・睡眠中、特に深い「ノンレム睡眠」の間は、脳がこれらの記憶をより永続的なストレージである他の領域に移すプロセスが行われます。
これに対して「レム睡眠」は、創造的な問題の解決能力を高めることが示されています。
また、脳内の「アデノシン」という化学物質がクリアされます。このように、睡眠はエネルギーの節約や体内の重要な復旧機能の実行に向けて準備します。
これらの研究は、米国のペンシルバニア大学、ハーバード大学の睡眠に関する研究の内容ですが・・・
これらの研究は、睡眠が制限休息を提供する以上の役割を持っていることを示していると述べられています。
最後にこれまでの一般的に考えられている「睡眠」の意義(いぎ)として、考え方をご紹介しておきたいと思います。
睡眠は人間の健康と幸福のために重要な役割を果たしています。
以下に、睡眠の主な意味や機能をいくつか挙げてみたいと思います。
1)身体の回復
睡眠中に体は細胞の修復や成長ホルモンの分泌を行い、身体機能を回復させます。
2)脳の機能維持
睡眠は記憶の確保や不要な情報の整理を助け、脳の健康を保ちます。
3)精神的健康
十分な睡眠は気分・感情のバランスを整え、ストレス耐性を高めます。
4)免疫系の強化
質の良い睡眠は免疫システムを強化し、病気への抵抗力を高めます。
5)認知機能の向上
正しい睡眠は集中力、創造性、問題解決能力を向上させます。
6)エネルギー回復
睡眠中にエネルギーを蓄え、翌日の活動に備えます。
7)ホルモンのバランスの調整
睡眠は様々なホルモンの調整をします。
8)心血管系の健康
十分な睡眠は心臓病やその他の循環器系疾患のリスクを下げます。
質の良い睡眠を十分に取ることは、健康で生産的な生活を継続するのに重要であり、「睡眠不足」や「睡眠障害」は、短期的にも長期的にも深刻な健康問題を引き起こす可能性が高い・・・という結論となるわけです。
ところで、あなたは「質のよい睡眠」を、充分な時間取れていますか?
素敵な1週間をお過ごしください
それでは、また
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<ブログ後記 > 9月17日
今宵は「十五夜(じゅうごや)」となっていますね。
「十五夜」とは、1年で最も美しいとされている「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」を鑑賞しながら、収穫などに感謝をする行事なのだそうです。
その起源を調べてみますと・・・平安時代に貴族が、中国の風雅な
「観月(かんげつ)」を取り入れたのだとか。
今回は「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」に存在する「海馬(かいば)」という部分についてのお話をさせていただきました。
よく見てみますと・・・「海馬」は、「タツノオトシゴ」のような形をしています。
(ライブドアブログより)
この「海馬」の部分は、次のような重要な働きを持っていると考えられています。
なんらかの「記憶」は、脳の「海馬」で「短期記憶」として一時的に保存されたあとに、大脳皮質(側頭葉など)に送られ、その後、「長期記憶」として保存されることが知られています。
もちろん、「海馬」が正常に機能し、「大脳皮質」の機能が正常であれば・・・ということになるのですが・・・ね。
ただし、ここに「加齢」に伴う不都合(ふつごう)な真実があルのですね。
それは・・・「加齢」に伴って、「海馬」の部分が、徐々に萎縮(いしゅく)していくことが知られているのです。
「海馬」が萎縮してしまうと・・・「海馬」の機能が低下していきます。
そのような状態になりますと・・・新しいことが覚えられなくなってしまうのですね。
つまり、昔のことは覚えていても、新しいことはすぐに忘れてしまうという状態になってしまうわけです。
「海馬」はいわゆる「記憶の司令塔」とでもいえるとても大切な場所ですが、本文内でもお話をしたように・・・とても壊れやすい性質を持っています。そのうえに「加齢」により「海馬」が萎縮してしまうのでは・・・なんとなく、暗い気持ちになってしまいますよね。
では、どうしたらよいのか?・・・ということになります。
ひとつずつ、整理していきたいと思います。
まず、「海馬」と「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド )」や「サーチュイン遺伝子」との間には重要な関連があると考えられています。
特に、「NAD+」によって活性化されるという「サーチュイン遺伝子」は、細胞のストレス耐性やエネルギー代謝を改善することで、脳細胞の保護と機能の維持に寄与します。
この中でもとくに「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」は、神経発達と神経保護の両方に関与していることが知られており、「海馬」においても、類似の役割を果たしている可能性があることが指摘されています。
参考)
1.Front. Neurosci., 26 October 2018
Sirtuins in Neuroendocrine Regulation and Neurological Diseases
Yuki Fujitaら
さらに、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」は、脳の炎症応答を調節することによって、神経変性疾患の進行を遅らせる効果も示しています。
これにより、アルツハイマー病やパーキンソン病といった病態において、「海馬」の機能障害が進行するのを遅らせることができるかもしれないとも考えられています。
これらの知見は、「サーチュイン遺伝子」が「NAD+」を介して海馬の健康と機能をサポートする重要な因子(いんし)であることを示しています。
次に「睡眠障害」の側面(そくめん)から、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」発現の低下が起こり、これにより、海馬部分の炎症応答から、アルツハイマー認知症やパーキンソン病発症とトリガーになる可能性はあるか?・・・という問題です。
その答えは「Yes」となり、その可能性はある・・・ということになります。
その理由は、「睡眠障害」は、脳の代謝と神経炎症のパターンを変えることができ、これが「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の活性に影響を及ぼすことがあると考えられています。
「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」、NAD+依存型の脱アセチル化酵素であり、抗炎症作用や細胞保護作用を持っていることが知られています。、その活性が低下すると脳の「海馬」部分での炎症応答が増加し、神経保護機構が弱まることが示唆されています。
実際に「睡眠障害」による「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」発現低下が生じることも知られており、このことは「海馬」の炎症を促進し、「海馬」の機能を極端に低下させることが報告されています。
さらに別の研究によると、「睡眠障害」は長期的には記憶障害や認知機能の低下を引き起こす可能性も指摘されています。
参考)
2.Front. Endocrinol.15(9)2018
High Levels of SIRT1 Expression as a Protective Mechanism Against Disease-Related Conditions
Birsen Elidolら
最後に「海馬」の神経細胞を老化させてしまう原因には、どのようなものでしょうか?
これには、複数の要因が関与していると考えられています。
主な原因としては、以下のような要因が挙げられます。
1)酸化ストレス
「活性酸素」の増加により、細胞内のDNA、タンパク質、脂質が損傷し、これが細胞の機能低下や細胞死を招きます。
2)エネルギー代謝の低下
老化に伴い、細胞のエネルギー生成効率が低下します。特に脳細胞はエネルギー消費が高いため、エネルギー産生の低下は細胞の機能障害を引き起こす原因となります。
3)炎症反応の増加
長期間にわたる低レベルの炎症は、神経細胞を含む細胞の損傷に繋がります。特に、炎症性サイトカインの増加は、神経細胞の機能障害や細胞死を誘発することが知られています。
4)細胞自身の修復機構の低下
老化に伴い、DNA修復機構やプロテオスタシス(タンパク質の恒常性を維持する機能)が衰えます。これにより、細胞は損傷からの回復能力を失い、徐々に機能が低下していきます。
これらの要因が相互に影響を及ぼしあいながら、「海馬」の神経細胞の老化を進行させていると考えられています。
ちょっと、盛りだくさんであったのですが・・・
現時点においての「海馬」の細胞の機能低下をめぐる話題は「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド )」と、そこから活性化させる「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現が重要である可能性があり、これは(+)プラスの部分になります。
そして、「睡眠障害」は「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現を低下させ、これにより、「海馬」の炎症を促進し、「海馬」の機能を極端に低下させることが報告されていますので、これは(ー)マイナスの側面となりますよね。
なので・・「睡眠障害」は、どうすればよいか・・・はお分かりですよね。「睡眠剤」は、メリットとデメリットは確かに存在するのですが・・「睡眠障害」を我慢して(がまんして)服用しないデメリット
を考えますと・・・いったんは、服用する時期があってもよいのではないか・・・などと思ったりもします。
この瞬間の(しゅんかん)のステキな「記憶 :Memory」を永遠に残すために・・・ね
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました
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理事長、院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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