こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

お盆の期間を前にした休日の午後になっていますね。

すでに帰郷した方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

今朝は鳥の声ではなく、蝉(せみ)の鳴く声で目が覚めました。

 

中国・南北朝時代の詩人である王籍(おうせき)の詩に次のようなものがあります。

 

「蝉噪林逾静」

 

その意味は、蝉が騒がしく鳴いているのに、かえって林はいよいよ静かに感じられるとなります。

 

昨夜は近所で「盆踊り」の行事がありまして、賑やかな音楽と太鼓の音が聞こえていたこともあって、少し寂しい静寂(せいじゃく)を

蝉の声の中でも意識した次第です。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

今回は「サーチュイン3(SIRT3)の発現低下が「血管の老化」を進行させる可能性について、お話をしてみたいと思います。

 

少しだけ復習をしておきますと・・・「サーチュイン(SIRT1〜7)」の活性を示すためには、「NAD⁺」を「基質」として、これを消費することでが必要になります。

 

つまり「NAD⁺」が枯渇すればサーチュインは働けなくなってしまわけです。「NAD⁺」の細胞内レベルがサーチュイン活性の律速因子になっているということになっているというわけです。

 

しかしながら、加齢とともに組織の「NAD⁺」レベルは低下していきますね。

 

その原因として、「NAD⁺」合成のサルベージ経路の律速酵素「NAMPT(ニコチンアミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)の発現が低下することが第1の原因ですし、

 

第2の原因としては、「NAD⁺」を大量消費する酵素(炎症・老化に伴い増加するCD38、DNA損傷応答で活性化するPARP1など)による消費増大が挙げられますよね。

 

「NAD⁺」が減ればサーチュイン活性も低下し、これが加齢性の代謝機能低下や老化形質の一因になると考えられています。

 

では、「サーチュイン3遺伝子(SIRT3)」「血管老化」について、どのような考え方がされているのでしょうか?

 

その基本的な考え方には「血管老化」は全身疾患の共通基盤である」というものがあります。

例えば、加齢に伴う血管の変化、すなわち「血管老化」は、心筋梗塞、脳卒中、心不全、慢性腎臓病、認知機能低下など、多くの加齢関連疾患の重要な背景であるとされています。

 

「血管老化」の詳細を細かくみてみると、血管内皮細胞の機能障害、大動脈などの硬化、血管壁の炎症、平滑筋細胞の変化、微小血管の減少などが含まれます。これらは「動脈硬化」を促進することが知られています。

とくに「血管内腔」を覆う(おおう)「血管内皮細胞」は、血液と組織の境界として物質移動を調節するだけでなく、一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン、エンドセリンなどを介して血管径、血小板機能、炎症細胞の接着、血管新生を制御することが知られています。

 

十分な一酸化窒素(NO)を産生できなくなる「血管内皮細胞」

機能障害は、動脈硬化性疾患の早期変化の一つであるとされています。


image

(AIを用いて画像を作成) 

近年、「NAD⁺」依存性に産生される「サーチュイン」「血管老化」に関与する重要な分子群として注目されているわけです。

 

なかでも「サーチュイン3遺伝子(SIRT3)」は主に「ミトコンドリア」に存在し、酸化ストレスと代謝の制御を担い(にない)血管保護作用を持つことが分かってきたのですね。

 

ヒトには、7種類のサーチュイン(SIRT1からSIRT7)が存在します。多くはタンパク質のリジン残基に付いたアセチル基を外す脱アセチル化酵素として働くとして機能することが分かっています。


この中で、「サーチュイン3(SIRT3)は、「ミトコンドリア」における主要な脱アセチル化酵素であることが知られています。

 

「ミトコンドリア」はATP産生に必須である一方、電子伝達系から漏出する活性酸素種(ROS)の発生源にもなります。

活性酸素種(ROS)は生理的な情報伝達にも必要であるわけですが、過剰になるとDNA、脂質、タンパク質を傷害、「血管内皮細胞」の機能障害や炎症を促進することが分かっているのですね。

 

「サーチュイン3(SIRT3)「ミトコンドリア」のエネルギー代謝と酸化ストレス防御の中枢を担うことが知られています。

 

代表的な基質と経路は次のとおりです。

 

「酸化ストレス防御」では、抗酸化酵素マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD/SOD2)を脱アセチル化して活性化し、「ミトコンドリア」から発生するの活性酸素種(ROS)を消去します。

 

また「イソクエン酸脱水素酵素2(IDH2)」を介してNADPH/グルタチオン系の還元力を維持します。


ちょっと難しいのですが・・・「サーチュイン3(SIRT3)は、ミトコンドリア内の活性酸素種(ROS)を過酸化水素へ変換する重要な抗酸化酵素であるわけですね。

 

「サーチュイン3(SIRT3)の活性が低下すると、抗酸化能が低下して、ミトコンドリア内の活性酸素種(ROS)が増えやすくなるわけです(参考1,2)。

 

さらに「サーチュイン3(SIRT3)の活性の低下は、「血管老化」を促進させるわけですが・・・

その詳細なメカニズムは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>8月11日

 

話を続けますと・・・「サーチュイン3(SIRT3)の活性の低下は「血管内皮細胞」の機能障害馬砂利でなく、「動脈硬化」の全般に関与している可能性も浮かび上がってきます。

 

例えば、「血管内皮細胞」「サーチュイン3(SIRT3)が発現させないように遺伝子操作を行なったマウス(Sirt3EC-KOマウス)に高脂肪食をエサとして与えますと、通常のマウスと比較して「プラーク」の被覆面積の拡大、マクロファージ浸潤の増加、血管炎症の亢進が認められたと報告されています(参考3)。

 

この機序として、「サーチュイン3(SIRT3)の欠失がASS1(アルギニノコハク酸合成酵素1)という物質の過剰アセチル化と不活性化を引き起こし、L-アルギニン生合成を阻害して一酸化窒素(NO)産生を低下させることが特定されています(参考3)。

 

さらに驚くことに、L-アルギニンの経口補充は「血管内皮細胞」「サーチュイン3(SIRT3)が発現させないように遺伝子操作を行なったマウス(Sirt3EC-KOマウス)のプラークサイズと血管炎症を減弱し、アミノ酸代謝がこの経路の治療標標となりうることが示されています(参考3)。

 

ヒトの「血管内皮細胞」でも「サーチュイン3(SIRT3)の活性は、「活性酸素種(ROS)」の増加、「NO(一酸化窒素)」の産生低下、L-アルギニン減少、およびVCAM-1・ICAM-1・MCP1などの炎症因子発現亢進をもたらしたことも確認されています(参考3,4)。

 

「活性酸素種(ROS)」の増加、「NO(一酸化窒素)」の産生低下、L-アルギニン減少、およびVCAM-1・ICAM-1・MCP1などの炎症因子発現は、いずれも動脈硬化を進展させる因子として報告されているものに

なりますね。

 

また、ヒトにおいて、、「サーチュイン3(SIRT3)」遺伝子サイレンシングはIL-1β誘導性の内皮炎症を増幅し、ミトコンドリア呼吸能も障害したことも確認されています(参考4)。

 

遺伝子のサイレンシング(gene silencing)とは、特定の遺伝子の発現を抑制し、機能的なタンパク質が作られないようにすることなどを指しますね。

 

このように見てくると・・・「サーチュイン3(SIRT3)を標的とする治療は、とても魅力的であるが、現時点では前臨床段階にあると言えます。

「NMN」や「ニコチンアミドリボシド(NR」」は「NAD⁺」の前駆体であり、ヒトでも血中「NAD⁺」関連代謝物を増加させることが示されています(参考5)。

 

しかしながら・・・

これらが「血管内皮細胞」「サーチュイン3(SIRT3)を選択的に活性化し、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中を防ぐことは証明されていないのが現状となっています。

 

「高齢者」で血圧動脈硬化指標の改善を示唆する小規模研究はあるものの、追試を含む大規模臨床試験と心血管イベントによる評価が必要であると言えますね(参考5,6)。

 

これからも「NAD⁺」に関する話題もご紹介させていただきたいと思います。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Circ Res. 2017 Aug 18;121(5):564-574. 

Sirt3 Impairment and SOD2 Hyperacetylation in Vascular Oxidative Stress and Hypertension

Anna E Dikalovaら

 

2)Circ Res. . 2020 Feb 14;126(4):439-452. 

Mitochondrial Deacetylase Sirt3 Reduces Vascular Dysfunction and Hypertension While Sirt3 Depletion in Essential Hypertension Is Linked to Vascular Inflammation and Oxidative Stress

Anna E Dikalovaら

 

3)Adv Sci(Weinh). 2024 Mar;11(12):e2307256.

Role of Argininosuccinate Synthase 1 -Dependent L-Arginine Biosynthesis in the Protective Effect of Endothelial Sirtuin 3 Against Atherosclerosis

Xiaoyun Caoら

 

4)Antioxidants(Basal). 2022 Apr 2;11(4):706. 

Sirtuin 3 Dependent and Independent Effects of NAD+ to Suppress Vascular Inflammation and Improve Endothelial Function in Mice

Xiayaun Vaoら

 

5)Nat Commun. 2018 Mar 29;9(1):1286. 

Chronic nicotinamide riboside supplementation is well-tolerated and elevates NAD+ in healthy middle-aged and older adults

Christopher R Martensら

 

6)Aging Cell. 2016 Jun;15(3):522-30. 

Nicotinamide mononucleotide supplementation reverses vascular dysfunction and oxidative stress with aging in mice

Natalie E de Picciottoら

 

(丸の内北口 ドーム天井)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

このたびの令和8年熊本地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。  
一日も早く穏やかな日常が戻りますことを、お祈り致します。

 

全国で猛暑・酷暑が続いているわけですが・・・「熱中症」になる方が増加しているようです。

 

消防庁は7月28日(火)、2026年7月20日~26日の1週間における熱中症による救急搬送者数を発表しました。

期間中に全国で熱中症により救急搬送された人は18,591人となり、前週の10,857人から約7,700人増加したそうです。発生場所では「住居」が最も多かったというのは、ちょっと不思議な気も致します。

 

直近の2026年7月20日〜26日の1週間では、全国で45人の「熱中症」による死亡が確認されています。 

 

熱中症で死亡する人は65歳以上の高齢者が最も多く、全体の約75〜80%を占めており、その中でも80歳以上の高齢者が最多であるのだそうです。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

以前にも「高齢者」にとって、夜間「高温」の状況が続くことは

若い方よりも「リスク」が高い・・・というお話をさせていただきましたが・・・再度、高温な環境はなぜ「高齢者」にとって、致死的になるのか?・・・ということ話題にしてみたいと思います。

 

まず、高温の環境下におけるヒト正常な「生理応答」とは、どのようなものになるのでしょうか?

 

ヒトの「深部体温」は常に37℃ちょうどに固定されているわけではなく、概ね(おおむね)狭い範囲で日内変動することが分かっています。

 

「深部」および「皮膚」の温度受容系が体温上昇を検出すると、「視床下部視索前野」を中心とする神経回路が皮膚の「血管拡張』と「発汗」を開始することが知られています。

 

「環境温度(気温)」が「皮膚温」を超える状況では、放射や対流によってヒトの身体は外部から逆に熱を受け取るため、「発汗」による気化熱の利用が唯一の熱を逃す(にがす)経路となるわけですね。

 

ただし、高湿度や無風、厚い衣服などによって汗が蒸発しなければ冷却効果は得られないということになります。

 

「皮膚血流」が増加すると、体内の熱が表面へはこばれる一方で、「皮膚血管床」の拡張により、末梢血管抵抗と中心静脈圧が低下する。血圧を維持するため、ヒトの身体は「心拍数」「心臓の収縮力」を高めて対応しようとするわけです。

 

「皮膚血管床」とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが・・・皮膚の真皮層や皮下組織に張り巡ら(めぐら)された毛細血管や微小血管

のネットワーク構造ということになります。

 

外気温が高くなり、強い熱ストレスを受ける状況では、心拍出量が安静時の約2倍に達するわけですが、先に挙げたような「皮膚血管床」の拡張による血液貯留により、心臓への静脈還流は減少することになるとされています(参考1)。

 

心臓からは、通常よりも心拍数を多くして、多くの血液を出そうとしているわけですが・・・戻ってくる血液は少なくなって戻ってくる

という状況が生じるわけですね。

 

この状況により、心臓には大きな負荷がかかります。

 

また、「発汗」は効果的な冷却をもたらすわけですが、一方で体内の「水分」「電解質」を失っていくわけです。

 

この状況で飲水による水分補給が追いつかないと・・・「血漿(けっしょう)量」が減少し、静脈還流・心拍出量・臓器灌流がさらに低下する・・・ということになります。

 

「血漿」とは、血液の液体成分を指しますので、これが減ることは血液が濃縮され、ドロドロした状態になり、血管内で「血栓」を生じる

こともあるかもしれませんね。

 

この状況は単なる「脱水」にとどまらず、心臓にとっては、熱放散のための血液循環を増加させなければいけない一方で、心臓に戻ってくる血液が少なくなることにより、各臓器が必要な血流を維持できなくなるかもしれないという、心臓にとっては、ギリギリに追い込まれた危機的な状況になる・・・と言えるかもしれませんね。

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

先にあげたような状況でも、何とか「若年層」や「中年層」までは意識しなくても代償(だいしょう)は可能な場合が多いわけです。

しかしながら、「高齢者」ではそうはいきません。

 

では、なぜ「高齢者」では代償できなくなるのでしょうか?

 

その理由を考えてみたいと思います。

 

「高齢者」における熱に対する脆弱性(ぜいじゃくせい)は、単一の臓器の機能不全によるものではないてされています。

 

「加齢」に伴い、汗腺の刺激応答性、単位面積当たりの発汗量、および発汗開始反応が低下するとされています。

 

実際に70歳以上の「高齢者」を対象とした研究では、発汗量の減少と発汗開始体温の上昇が認められ、特に女性で低下が顕著(けんちょ)であったと報告されています(参考2)。

 

さらに「高齢者」では「皮膚血管拡張反応」も「血管内皮細胞」の機能低下や「自律神経性」の血管調節の低下、「心拍出量増加能」の減退(げんたい)することで、かなり制限される・・・ことが分かっています。

 

その結果、健康に見える高齢者であっても、「熱の収支バランス」を維持できなくなる温度・湿度の限界閾値は若年者より低いとされています。

また、日常生活程度の軽い活動であっても、その限界はさらに低下することが報告されています(参考3)。

 

「高齢者」は単に「暑さに弱い」のではなく、「熱放散」に使用できる生理的予備力が著しく小さいのである。

 

これに加えて、「脱水」や「血漿浸透圧」の上昇に対する口渇感と飲水行動の誘導が若年者より減弱しており、体液量の回復が遅れるともされています(参考4)。

 

また、腎臓においても「高齢者」は、腎血流量、糸球体濾過量、尿濃縮・希釈能が低下しています。

 

高温下では皮膚への血流再配分や交感神経系、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、バソプレシンの作動により腎血流と尿量が抑制されるが、脱水が進行するとこの代償応答が腎虚血へと転化するとも報告されています(参考5)

 

腎臓への血流が減りますと・・・「(腎前性)腎不全」の状態となります。

 

このように、「高齢者」では発汗、皮膚血管拡張、循環予備能、口渇感、腎機能、そして認知・行動性調節の低下が個人ごとに異なる割合で重なり合い、熱放散能全体が早期に限界を迎えることが多くなるわけです。

 

このように考えますと・・・現在のような「高温」下では、「高齢者」と「高齢者」以外では、そのリスクの大きさには相当な違いがあることに万全の注意が必要であると考えます。

 

とくに熊本の被災地では、「高齢者」の環境が気になるところですね。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>8月4日
 

このブログの本文を書いたのは8月2日でありましたが、この日の熊本地震の被災地は観測史上最高となる38.9度を記録するなど危険な暑さに見舞われたそうです。

 

そして、熱中症の症状で搬送された70代女性が7月30日に死亡したことも後にニュースで知りました。今後、同様のことが起こらないことを願っています。

本文の続きに戻りますと、繰り返しになりますが・・・
 

高温の環境下では、「高齢者」は熱関連疾患・死亡リスクが著しく高くなることが知られています。
 

この原因としては、加齢に伴う体温調節機能低下と慢性疾患などによる脆弱性が増幅されるためと考えられています。


実際にこれを裏づけるような多くの報告がされているので、ご紹介してみたいと思います。

高温環境下では、高齢者(一般に65歳以上)が熱関連疾患や死亡に対して特に高いリスクにさらされるとされています(参考6,7)

世界規模のシステマティックレビュー・メタ解析(578研究、6大陸・305地域)では, 1°Cの気温上昇につき高齢者の罹患リスクが1.6%、死亡リスクが2.2%増加することが確認された(参考8)

熱波時には罹患リスクが18.9%、死亡リスクが11.7%に上昇し、85歳以上で最も影響が大きいとされています(参考8)。

さらに具体的なものとして、 1°C上昇で高齢者の心血管死亡が3.4・呼吸器死亡が3.60%増加し、熱波時に死亡・罹患リスクが有意に上昇する とも報告されています(参考9,10)。

加齢に伴う発汗・皮膚血管拡張の低下により、高齢者は核心温度が若年者の約2倍上昇し、熱中症リスクが増大するという報告もあります(参考11)


その原因としては、体温調節機能の加齢変化とされており、次のような報告がされています・

高齢者では発汗量の減少と皮膚血管拡張の低下により熱放散能力が低下し、熱暴露時に核心温度がより速く上昇することが報告されています(参考12,13)

実験的研究では、47°C・湿度15%の乾燥熱暴露条件下で高齢者の核心温度上昇は1.37°Cであり、若年者の0.68°Cの約2倍であったことが報告されています(参考14)。

つまり、高温化において、高齢者では深部の体温が若い方と比較して上昇しやすいということになりますね。

高齢者では口渇感の低下により脱水が進行しやすく、血液粘稠度上昇と血栓性脳卒中リスクを招きやすくなることも知られています

(参考15)。

血液粘稠度の上昇とは、血液がドロドロして、血栓ができやすくなる状態のことを指しますね。

参考論文は示しませんが・・・2050年までに69歳以上の23%以上が日最高気温の95パーセンタイルが37.5°Cを超える気候に居住し、現在の14%から追加1.77--2.46億人が危険な高温にさらされるという報告もあります。

もちろん、この状態が続けば・・・ということになりますが・・・ね。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Compr Physiol. 2015 Jan;5(1):17-43. 

Human cardiovascular responses to passive heat stress

Craig G Crandallら

 

2)Age Ageing. 1976 May;5(2):91-101. 

Sweat responses in the aged

K G Fosterら

 

3)Commun Earth Environ. 2023;4(1):486. 

Heat stress vulnerability and critical environmental limits for older adults

 S Tony Wolfら

 

4)Med Sci Sports Exerc. 2001 Sep;33(9):1524-32. 

Influence of age on thirst and fluid intake

W L Kenneyら

 

5)Temperrature(Austin). 2020 Oct 13;8(2):108-159. 

Kidney physiology and pathophysiology during heat stress and the modification by exercise, dehydration, heat acclimation and aging

Christopher L Chapmanら

 

6)Environ Int. 2020 Nov:144:105909.
Physiological factors characterizing heat-vulnerable older adults: A narrative review
Robert D Meadeら

7)J Appl Physiol . 2023 Aug 1;135(2):445-455.
Age alters the thermoregulatory responses to extreme heat exposure with accompanying activities of daily living
Zachary J McKennaら

 

8)Environ Int. 2026 Feb:208:110129.
Mortality, morbidity and healthcare costs of short-term high temperatures and heatwaves exposure in older populations: a global systematic review and meta-analysis
Sabrina Günscheら

 

9)Wien Klin Wochenschr . 2024 Sep;136(17-18):507-514.
Heat vulnerability: health impacts of heat on older people in urban and rural areas in Europe
Christina Fastら

10)Environ Int . 2026 Feb:208:110129.
 Mortality, morbidity and healthcare costs of short-term high temperatures and heatwaves exposure in older populations: a global systematic review and meta-analysis
Sabrina Günscheら

 

11)J Appl Physiol (1985). 2023 Aug 1;135(2):445-455.
Age alters the thermoregulatory responses to extreme heat exposure with accompanying activities of daily living
Zachary J McKennaら

 

12)Healthcare (Basel). 2025 Nov 3;13(21):2785.
Heat Tolerance in Older Adults: A Systematic Review of Thermoregulation, Vulnerability, Environmental Change, and Health Outcomes
Sandra Núñez-Rodríguezら

13)Wien Klin Wochenschr. 2024 Sep;136(17-18):507-514.
Heat vulnerability: health impacts of heat on older people in urban and rural areas in Europe
Christina Fastら

 

14)J Appl Physiol (1985). 2023 Aug 1;135(2):445-455.
Age alters the thermoregulatory responses to extreme heat exposure with accompanying activities of daily living
Zachary J McKennaら

 

15)Geriatr Nurs . 2024 Jul-Aug:58:525-528.
Case discussion: The effect of extreme temperatures on an older adult
Dr Ann Kriebel-Gasparro

 

(ペニンシュラホテルで見かけたクラシック・カー)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

7月最後の休日の午後になっています。

暦では、二十四節気では「大暑(たいしょ)となっており、1年のうちで最も暑さの厳しい時期になっています。

 

同じ日常を過ごすにしても、夏の暑さは疲労感を倍増させますね。

 

18世紀のイギリスの劇作家・詩人であるトマス・デッカー(Thomas Dekkerは、次にような言葉を残しています。

 

'Sleep is that golden chain that ties health and our bodies together'

「眠りは、疲れた心をやさしくほどく黄金の鎖である」

 

眠りが浅くなりがちなこの季節は、心も疲れてくるような気さえもしますから、トマス・デッカーの言葉に納得してしまいます。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

蒸し暑い夜の続く、この時期は「睡眠」も乱れが血になりますね。

 

実際に「睡眠」状態が悪いと・・・「サーカディアンリズム(概日リズム)は乱れることが知られています。

 

実はこの逆に「サーカディアンリズム」は乱れると「睡眠」の状態も

よいものではなくなっていくとされています。

 

つまり、「睡眠が乱れる → リズムが乱れる」だけでなく「リズムが乱れる → 睡眠が乱れる」も同時に起こり、しばしば悪循環を形成します。

 

そこで今回は、「サーカディアンリズム」の乱れが「老化」を促進するというお話をしてみたいと思います。

 

「サーカディアンリズム」「老化」との関係で重要なのは、体内時計が単なる睡眠時計ではなく、細胞の修復時計でもあるという点が重要です。

 

紫外線、活性酸素、炎症、代謝ストレスによってDNAには日々傷んだり、壊れたりしています。これに対して、ヌクレオチド除去修復などのDNA修復機構が働くわけですが、その一部は「サーカディアンリズム」によって時間依存的に変動することが分かっています(参考1)。

 

皮膚では、「時計遺伝子」のひとつである「BMAL1」が表皮細胞の増殖リズムや紫外線によるDNA損傷への感受性を調節することも示されています(参考2)。

 

したがって、夜更かし、昼夜逆転、強い夜間光、不規則な食事が続くと、DNA損傷への応答や修復のタイミングが乱れ、「細胞老化」の蓄積につながる可能性があるわけですね。

 

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

また、「ミトコンドリア」「サーカディアンリズム」の影響を強く受けることが知られています。

 

「ミトコンドリア」は細胞内でATPというエネルギーを作る小器官であり、いわば細胞の発電所ともいえます。

 

しかし、この発電の過程では同時に「活性酸素」も生じることが知られていますよね。

 

「活性酸素」は少量であれば細胞の情報伝達に必要であるわけですが、過剰になるとDNA、タンパク質などを傷つけることが知られています。

「ミトコンドリア」の宿命として、ヒトの細胞が必要なエネルギーを産生する一方で、「ミトコンドリア」自身が産生する「活性酸素」により、DNAの損傷などを受け、機能不全状態に陥る(おちいる)わけです。

 

この「ミトコンドリア」のダメージを緩和しようとする働きが「サーカディアンリズム」にはあるわけですね。

 

「サーカディアンリズム」を作り出す「時計遺伝子」であるCLOCK・BMAL1のリズムは、「NAD+」という代謝補酵素のリズムを介して「ミトコンドリア」の酸化代謝を調節することで、これを保護しよう

と働くわけです(参考3)。

 

「NAD+」、エネルギー代謝とDNA修復に深く関わる分子で、加齢とともに低下しやすいことが知られていましたね(参考4)。

 

ここで重要になるのが・・・「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」となりますね。

 

この「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」は、「時計遺伝子」の振幅、すなわちリズムのメリハリを保つうえで重要であるとされています。

 

少し詳しくお話しますと・・・次のようになります。

 

まず、時計遺伝子には、CLOCK・BMAL1・PER1/2/3・CRY1/2の6因子で、これにNPAS2、REV-ERBα/β、RORα/β/γを加えたものが一般に「コア時計遺伝子」と呼ばれます。

 

「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」は、「NAD⁺」を補酵素として使う脱アセチル化酵素であり、上記に挙げた時計遺伝子のうち「PER2」「BMAL1」の周辺でヒストンなどのクロマチンの状態を調節することで、これらの時計遺伝子が「オン・オフ」を切り替えるリズムにメリハリをつけています(参考5.6)。

 

言い換えれば、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」が働くことで、「時計遺伝子」の発現が昼に高く夜に低い(あるいはその逆の)くっきりとした振動を保つことができます。

 

さらに興味深いのは、この、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の活性が「サーカディアンリズム」そのものから制御を受けている点です。

 

「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」が必要とする「NAD⁺」は、「NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)という酵素によって供給されます。

 

「NAMPT」NAD⁺合成(サルベージ経路)の律速酵素、すなわち反応速度を決める最も重要なステップを担う酵素です。

 

そしてこの「NAMPT」自身の発現もまた、「時計遺伝子」であるCLOCK・BMAL1によって制御されており、一日のなかで変動することが知られています(参考7)。

 

この結果、次のような一つの円環(フィードバックループ)が形成されます。すなわち、CLOCK・BMAL1が「NAMPT」の発現を促し、

個々の「NAMPT」が「NAD⁺」を作り、

その「NAD⁺」「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」を活性化し、

活性化した「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」が再びCLOCK・BMAL1周辺の「時計遺伝子」を調節する、という流れとなりますね。


とても難しく思えてくるのですが・・・この関係は、「老化」と「体内時計」を作り出す「サーカディアンリズム」の悪循環を理解する鍵になるのですね。

 

では、「サーカディアンリズム」の乱れが、なぜ「老化」のスピードを速めて(はやめて)しまうのか?・・・というお話になるわけですが・・・このお話の続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>7月28日
 

7月も残りが3日となっていますね。

「サーカディアンリズム」について、少しだけ復習をしておきたいと思います。

「サーカディアンリズム」とは、体内に備わった約24時間周期の生体リズムであり、「睡眠」と「覚醒(かくせい)だけでなく、体温、ホルモン分泌、血糖調節、脂質代謝、免疫応答、DNA修復、細胞分裂、ミトコンドリア機能まで幅広く制御していることが分かっています(参考8)。

「体内時計」は「仕組み・装置」であり、それが生み出す約24時間周期の生理・行動リズムが「サーカディアンリズム」ということになりますね。

この時計の中心(マスタークロック)は、脳の視床下部にある「視交叉上:suprachiasmatic nucleus(SCN)」となります。

 

SCNは網膜から入る光情報を受け取り、全身に「朝が来た」という信号を送る。これに対し、肝臓、筋肉、脂肪組織、皮膚、血管、免疫細胞などには末梢時計が存在することが分かっています。

 

SCNをオーケストラの指揮者とすれば、末梢時計は各臓器の演奏者でして、指揮者と演奏者のタイミングが合っていると、代謝、修復、休息、免疫が効率よく進むとされています(参考9)。

「体内時計」は、「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子群によって動いている。中心となるのはCLOCKとBMAL1で、これらは昼側の推進役として働き、Period、Cryptochromeなどの遺伝子を活性化する。

 

Period、Cryptochromeなどの遺伝子からのタンパク質は、時間をおいてCLOCK・BMAL1の働きを抑える。これにより「進める力」と「抑える力」が約24時間で一巡する。この仕組みは、転写翻訳フィードバックループと呼ばれる。難しく聞こえますが、

簡単に言えば、細胞の中にある自己調節型のタイマーということになりますね(参考8)。

時計遺伝子のフィードバックループの基本的なメカニズムは、以下のようなものになります。
    
    
         【朝〜昼】
      CLOCK  +  BMAL1  (アクセル)
            │
            ▼ 転写を促進
       Per / Cry 遺伝子
            │
            ▼ 翻訳・タンパク質化
       PER  +  CRY  (ブレーキ)
            │
            ▼ 核内へ移行して阻害(夜)
      CLOCK/BMAL1 の働きをストップ!
            │
            ▼ タンパク質の分解(明け方)
      ブレーキが消えて、再び最初へ戻る

「加齢」は、上記のような「サーカディアンリズム」の機能を広範に低下させ、睡眠・覚醒パターンの変化、ホルモン分泌リズムの減弱、体温リズムの変容をもたらされることが報告されています(参考9,10)。

この低下は中枢時計である視交叉上核(SCN)の出力減弱と、末梢時計との同期化不全として現れるとされています(参考11,12)

視交叉上核(SCN)の電気活動リズムの振幅は、加齢により有意に低下していくことが知られており、マウスでは中年齢期マウスでもすでに日較差が縮小することが知られています(参考13)。

「加齢」に伴い中枢時計と末梢時計の同期化がずれ、臓器間の時間的な整合性が失われることが分かっています(参加10)

この問題は「睡眠」にも影響します。視交叉上核(SCN)にあるマスター時計と末梢時計の位相がずれると、睡眠・覚醒制御に不整合が生じることが知られています。

視交叉上核(SCN)が「サーカディアンリズム」を維持していても、末梢(脳内局所)時計との位相がずれると睡眠サイクルは著しく断片化すると報告されています(参考14)

この睡眠の断片化は、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現を低下させ、DNA修復能力の低下をもたらすとされています。


実際にヒトでは急に睡眠を妨害しますと、DNA修復遺伝子の発現が低下しDNA鎖切断が増加することが確認されているという報告もあります(参考15)

「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」は、NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素として、ゲノム安定性を維持することが分かっています(参考16)

このような重要な働きを持つ「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現の低下は、「老化」に対して、どのように作用するのでしょうか?

答えは・・・「老化」を促進するということになります。

「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」が低下するとDNA二本鎖切断の修復効率が落ち、ゲノム不安定性が蓄積します。加齢に伴いDNA損傷が増えるとPARP1がNAD⁺を大量消費し、SIRT1が利用できるNAD⁺が枯渇することで、活性がさらに低下するという悪循環(NAD⁺-SIRT1-PARP1軸)が知られています。

細胞老化・SASPの促進作用としては、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の低下は、p53やNF-κBのアセチル化亢進を介して炎症性サイトカイン産生(SASP)を促進し、慢性炎症(inflammaging)も助長します。

さらに「幹細胞」についても「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現の低下は、造血幹細胞や神経幹細胞などで自己複製能・分化能の低下と枯渇に関与するともされています。

つまり、「加齢」に伴い、中枢時計と末梢時計の同期化がずれることにより、睡眠・覚醒制御に異常が生じることにより、睡眠サイクルは著しく断片化されるなどの「睡眠障害」が引き起こされることが多くなります。


このような睡眠障害を放置することで、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現を低下させ、DNA修復能力の低下が生じます。
 

DNA損傷が増えると「PARP1」がNAD⁺を大量消費し、「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」が利用できるNAD⁺が枯渇することで、さらに「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」が低下するという悪循環(NAD⁺-SIRT1-PARP1軸)が知られています。

こうした「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」の発現低下は、「サーカディアンリズム」と「テロメア」の双方の機能不全を招き、加齢関連疾患を促進することも報告されています(参考17)

不眠に対して、「サーカディアンリズム」を整えるために「規則正しい

生活」をすることは、もちろん重要です。


朝の光はSCNをリセットし、夜の「メラトニン」分泌のタイミングを整えることも重要ですね。


「メラトニン」は睡眠を促すホルモンであると同時に、夜が来たことを体に知らせる暗期シグナルでもあるからです。

 

実際にヒトでは、強い光が「サーカディアンリズム」をずらすことが古典的研究で示されており、夜間の発光電子機器の使用は「メラトニン」を抑え、入眠や概日位相を遅らせることが報告されている(参考18,19)

しかしながら、これで解決しない場合も多くあるわけですが・・・そのひとつの可能性として、「規則正しい生活でも睡眠障害が続く=SIRT1/NAD⁺低下が原因」である可能性もあります。

この根拠としては、以下のようになります。

「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」低下は概日時計遺伝子(PER、BMAL1)の発現を乱し、規則正しい光暴露下でもリズム破綻を持続させることが報告されています(参考20)

また、NAD+枯渇はSIRT1活性を直接制限し、PERの過アセチル化を通じて概日リズムを破壊するとも報告されています(参考20)

「加齢」に伴う振幅低下として、NAD⁺量と「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」活性がともに低下し、これが概日リズムの振幅減衰・位相の不安定化・睡眠分断と並行して進行することが動物実験で示されていますし、高齢者の「睡眠」が浅く分断されやすいことにも矛盾しないと考えられますね。

 

このような場合に「加齢」に伴う不眠に対して「NAD+」を補充することも重要であるとする論文も多いのですが、さらに詳細なお話は、またの機会にさせていただきたいと思います。

 

今回も最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)FEBS Lett. 2010 Jun 18;584(12):2618-25. 

Circadian clock control of the cellular response to DNA damage

Aziz Sancarら

 

2)Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Jul 17;109(29):11758-63. 

Brain and muscle Arnt-like protein-1 (BMAL1) controls circadian cell proliferation and susceptibility to UVB-induced DNA damage in the epidermis.                         

Milhail Geyfmanら

 

3)Science. 2013 Nov 1;342(6158):1243417. 

Circadian clock NAD+ cycle drives mitochondrial oxidative metabolism in mice

 Clara Bien Peekら

 

4)Trends Cell Biol. 2014 Aug;24(8):464-71. 

NAD+ and sirtuins in aging and disease

 Shin-ichiro Imaiら

 

5)Cell. 2008 Jul 25;134(2):317-28. 

SIRT1 regulates circadian clock gene expression through PER2 deacetylation

Gad Asherら

 

6)Cell. 2008 Jul 25;134(2):329-40. 

The NAD+-dependent deacetylase SIRT1 modulates CLOCK-mediated chromatin remodeling and circadian control

Yasukazu Nakaharaら

 

7)Science. 2009 May 1;324(5927):651-4. 

Circadian clock feedback cycle through NAMPT-mediated NAD+ biosynthesis

Kathryn Moynihan Ramseyら

 

8)Nat Rev Genet . 2017 Mar;18(3):164-179.
Transcriptional architecture of the mammalian circadian clock
Joseph S Takahashi

 

9)Annu Rev Physiol 2010:72:517-49.
The mammalian circadian timing system: organization and coordination of central and peripheral clocks
Charna Dibner

 

9)J Clin Invest 2017 Feb 1;127(2):437-446.
The aging clock: circadian rhythms and later life
Suzanne Hoodら

10)Front Aging. 2025 Oct 17:6:1646794.
Circadian system and aging: where both times interact
Claudia García Cobarroら

 

11)J Neurochem. 2021 Apr;157(1):73-94.
A multi-level assessment of the bidirectional relationship between aging and the circadian clock
M Renate Buijinkら

12)J Neurochem. 2021 Apr;157(1):73-94.
A multi-level assessment of the bidirectional relationship between aging and the circ​​​​​​adian clock
M Renate Buijinkら

 

13)J Neurosci. 2011 Jul 13;31(28):10201-5.
 Age-related decline in circadian output
Takahiro J Nakamuraら

 

14)Front Neurosci. 2021 Feb 19:15:639281.
Circadian Chimeric Mice Reveal an Interplay Between the Suprachiasmatic Nucleus and Local Brain Clocks in the Control of Sleep and Memory
Elizabeth Susan Maywoodら

 

15)Anaesthesia. 2019 Apr;74(4):434-440.
The effect of sleep deprivation and disruption on DNA damage and health of doctors
V Cheungら

 

16)Nucleic Acids Res. 2023 Jul 21;51(13):6754-6769.
SIRT1 regulates DNA damage signaling through the PP4 phosphatase complex
George Rastiら

 

17)DNA Repair (Amst). 2020 Dec:96:102993.
Impact of circadian disruption on health; SIRT1 and Telomeres
Meyrem Osumら

 

18)Science. 1989 Jun 16;244(4910):1328-33.
 Bright light induction of strong (type 0) resetting of the human circadian pacemaker
C A Czeislerら

19)Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jan 27;112(4):1232-7.
 Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness
Anne-Marie Changら

 

20)Biomedicines. 2024 Sep 11;12(9):2070.
Daytime Dysfunction: Symptoms Associated with Nervous System Disorders Mediated by SIRT1
Tianke Huangら

 

(フェアモントホテルロビーの向日葵)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

久しぶりの青空と強い陽射しから「梅雨」の季節は終わったものと思っていましたが・・・それはまだであり、本格的な夏の到来は「海の日」になるのだとか。35~40℃の気温になるそうです。

 

「熱中症」にならないように注意が必要ですね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

今回は「「iPS細胞由来エクソソーム」を投与すれば、「老化」の指標である「エピジェネティック時計」を巻き戻せる可能性があるのではないか?・・・というお話をしてみたいと思います。

 

この問いは、「再生医療」と「抗老化医療」の研究の交差点にあり、近年きわめて注目を集めていることなのですね。

 

「エピジェネティック時計」とは「DNAメチル化」という『遺伝子のスイッチのオン・オフ状態』という「遺伝子の働きを調節する化学的な標識」、つまり、年齢と相関する多数のCpG部位のメチル化値の割合を見ることにより、加齢速度などを測る検査となりますね。

 

この検査によって、「生物学的年齢」の可視化が可能になるので、同じ実年齢(暦年齢)であっても、生活習慣(食事、運動、睡眠、ストレスなど)によって細胞の老化速度は異なります。

 

このために・・・例えば、同じ40歳であっても、「生物学的年齢」

37歳の方もいれば、45歳という方も出てくるわけですね。

 

少し詳しくお話をしますと次のようになります。

 

 

 

上の図の横軸は「Chronological Age」は、自分の生年月日からの「暦年齢」であり、縦軸はDNAのメチル化部分の「エピジェネティック年齢=生物学的年齢」となりますね。通常の場合は

「暦年齢」=「生物学的年齢」になるとされていますが、実際に

「エピジェネティック時計」検査をしてみますと、以下の図のように

同じ48歳でも赤(🔴)で示した例では、60歳相当であったり、

青(🔵)で示したように34歳相当であったりするわけです。

 

「エピジェネティック時計」で推定される「生物学的年齢」は、暦年齢とは独立して疾患リスクや死亡リスクと関連することが多数の研究で示されています。

 

 

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

では、「iPS細胞由来エクソソーム」の投与は、「エピジェネティック時計」で推定される「生物学的年齢」を改善することができるのでしょうか?

 

正確に言えば、現段階では、この問いに直接答えたヒト臨床試験の報告は、現時点では存在しないという事実があります。

 

もちろん、この答えは近い将来に明らかにされると思います。

 

では、「iPS細胞由来エクソソーム」の投与が「生物学的年齢」を改善するとしたら・・・どのような機序が想定されるのでしょうか?

 

もちろん、直接のヒトデータが存在しないわけですから、動物・細胞実験の断片をつなぎ合わせ、『もしエピジェネティック時計が動くとすれば、どの経路を通じてか』を機序として推定しなければいけないということになりますね。

 

以下に確からしさの高い順に4つの経路を提示してみたいと思います。

いずれも仮説であり、独立して機能するわけではなく、むしろ複合的に作用すると考えるのが妥当と言えるかもしれませんね。

 

経路1.miRNAによるDNMT/TET系の直接制御とメチル化リバランス

 

エピジェネティック時計の実体は、DNA上に存在するCpG部位のメチル化パターンであり、

 

その書き込みを担うのがDNAメチル基転移酵素(DNMT1・DNMT3A・DNMT3B)、能動的な消去(脱メチル化)を主導するのがTETファミリー酵素(TET1〜3)である。

 

加齢に伴う変化は単なるメチル化の蓄積ではなく、特定のゲノム領域での高メチル化と、全体的な低メチル化の混在であることが分かっています。

 

したがって、時計を若返り方向へ動かすには、これらの酵素バランスの精密な再編(リバランス)が必要となります。

 

重要なのは、DNMTおよびTETの発現が特定のmiRNAによって直接制御される点であると言えます。

 

「iPS細胞由来エクソソーム」が運ぶmiRNA群(miRNAカーゴ)が、それを受ける細胞内でこれらエピジェネティック修飾酵素のバランスを最適化し、特にTET酵素の活性化を促すことで、加齢によって異常に高メチル化された領域の脱メチル化が進行する経路が考えられていますが、この部分的リプログラミングによる時計の巻き戻しにはTET1/TET2が必須であることが判明しているのですね(参考1)。

 

すなわち、「iPS細胞由来エクソソーム」のmiRNAカーゴ → 受け手細胞のDNMT/TETバランスの変化 → 特定CpG部位のメチル化再編 → エピジェネティック年齢の低下、という論理的な連携のメカニズムが浮かび上がってきます。

 

実際にこの推測を補強する要素として、「エピジェネティック時計」を構成するCpG部位が、ゲノム上にランダムに散らばっているのではなく、発生・分化に関与する標的遺伝子近傍など、もともとDNMT/TETによる制御を受けやすい『可塑性の高い領域』に濃縮している事実があるのですね。

 

この説は、最有力なのですが・・・ちょっと難しいですよね。

 

もし、このメカニズムが働いているとすると「生物学的年齢」を改善するだけでなく、自己免疫疾患の活動性を低下させることも可能であるように思えてきます。

 

残りの3つについては、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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< ブログ後記  >7月21日

昨日 20日に、関東甲信地方と東海地方が「梅雨明けしたとみられる」と発表されました。いずれも平年より1日遅い梅雨明けとなったようです。


やっと夏の陽射しが・・・と言いたいところですが、いきなり「猛暑(もうしょ)」がやってきたて、夏の季節が好きな私も、早くもゲンナリしています。
「熱中症」にならないように細心の注意が必要ですね。

今回は「iPS細胞由来エクソソーム」のお話をさせて頂きました。「iPS細胞」由来〜とは、「iPS細棒」から放出されたエクソソームということになります。

以前にもブログ内でお話をしましたが・・・2006年に京都大学の山中伸弥教授らの研究グループが、マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc:山中因子)を導入し、世界で初めて「iPS細胞」の作製に成功しました。今から20年前となります。

2007年には、ヒトの皮膚細胞からヒト「iPS細胞」の樹立に成功。受精卵を壊して作るES細胞(胚性幹細胞)のような倫理的課題をクリアし、再生医療の実用化へ大きく前進しています。

2012年には「成熟した細胞が分化多能性を獲得するようにリプログラミングされ得る事の発見」により、山中伸弥教授がジョン・ガードン卿とともにノーベル生理学・医学賞を受賞しました。発表からわずか6年での受賞は異例の速さであったと言えます。

世界初の臨床研究は、2014年 理化学研究所の高橋政代先生らにより、加齢黄斑変性(目の難病)の患者に対し、自家iPS細胞(患者自身の細胞)から作製した網膜色素上皮シートを移植する世界初の臨床研究が行われました。

そして、2017年からは、あらかじめ安全性が確認された他人の細胞で作る「iPS細胞ストック」を利用した移植研究がスタート。パーキンソン病、心不全、脊髄損傷、角膜上皮障害、がん免疫療法など、対象疾患が世界中で一気に広がりました。
 

2018年前後〜:パーキンソン病に対して、高橋淳先生らの医師主導の治験が行われ、他人のiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を患者の脳(被殻)へ移植する第I/II相試験。7例が安全性評価の対象となり、6例が有効性評価の対象 。移植後24か月の追跡で重篤な有害事象は報告されず、MRIでも移植細胞の腫瘍様の異常増大は確認されなかった とされています。

さらに同じ2018年前後には重症心不全(心筋)や虚血性心筋症に対して、iPS細胞由来心筋細胞をシート状にして心臓に貼る治療が大阪大学 澤芳樹先生らによる、iPS細胞由来心筋細胞をシート状にして心臓に貼る治療が開発されています。そして、2019年〜:脊髄損傷に対して、慶應義塾大学の岡野栄之先生・中村雅也先生ら)による、亜急性期脊髄損傷へのiPS細胞由来神経前駆細胞移植の臨床研究が開始されています。

2019年以降は、角膜上皮疾患(大阪大学)、血液疾患・血小板輸注(京都大学、再生不良性貧血や血小板減少症を対象とした自家iPS由来血小板)、がん免疫療法(NKT細胞など)、軟骨・関節疾患など。2023年4月時点で、日本国内では17件のプロジェクトで患者にiPS細胞由来細胞を移植する臨床試験が行われています。  

2025年4月には、「iPS細胞」などを使ったパーキンソン病の臨床試験結果2件が科学雑誌 Natureに同時発表 されました。


そして2026年2月19日、厚生労働省の専門部会で「iPS細胞」由来の再生医療製品2品目(パーキンソン病治療薬「アムシェプリ/ラグネプロセル」と重症心不全治療用シート「リハート」)の製造販売が了承 され、2026年3月6日に厚生労働省が条件・期限付きで製造販売を承認されています。

これに対して、「iPS細胞由来エクソソーム」の最初の報告は、2018年頃になります。
iPS細胞由来のエクソソームの持つ抗老化作用については、最初の代表的な報告は、韓国のOhらによる2018年6月の論文で、ヒトiPS細胞由来エクソソームがヒト皮膚線維芽細胞の老化を改善することを示しています(参考2)

その後、生体内での全身的な抗老化を示す研究へ発展し、たとえば2023年にはマウスiPS細胞由来エクソソームが自然老齢マウスで血管新生能を改善する ことが報告され、iPSC由来エクソソームが血管系の抗老化を通じて全身を若返らせうる と結論づけられています。

同じ2018年には、iPS細胞由来エクソソームに関する抗老化・組織保護的な報告が複数出ています。(Dingら2018)という報告や、 iPS由来間葉系幹細胞(iMSC)が分泌するエクソソームが皮膚細胞の増殖を促進する(Kimら2018)という報告がその例です(参考3)。

「iPS細胞由来エクソソーム」が生物学的年のを若返りを起こすのではないか?・・・という仮説が出てきたのは次の報告がきっかけとなります。

視神経の網膜神経節細胞にOct4・Sox2・Klf4の3因子を導入すると「加齢や損傷で失われた軸索再生能と視機能が回復し、それがDNAメチル化年齢の巻き戻しを伴うことをYuancheng Lu らが報告したのがきっかけになったとされています(参考4)。
 

この報告をきっかけに『エピジェネティック時計」は固定された記録ではなく、適切な指令によって可逆的に書き換えうる』という概念を確立したわけですね。

本文の続きに戻りまして、残り3つの経路をご紹介したいと思います。


経路2  SASP・慢性炎症の抑制を介した間接的な時計の減速

慢性炎症は加齢の中核的ドライバーであり、『インフラメイジング(炎症性老化)』と呼ばれる。持続的な炎症性シグナルは細胞の代謝恒常性やクロマチン構造を揺るがし、結果としてメチル化の無秩序な変化(時計の加速)を招くとされています。

実際に「iPS幹細胞由来エクソソーム」の投与は、「老化細胞」のSASPを軽減し、微小環境の炎症を鎮静することが報告されています(参考5,6)。

この経路はメチル化パターンを直接書き換える「エピジェネティック時計」の「巻き戻し」というより、時計が急速に進む環境要因を取り除くことにより「エピジェネティック時計」の進むスピードを「減速」させる作用に近いものであると言えます、


経路3 ―「 部分的リプログラミング様因子」の微弱な伝達

「iPS細胞由来のエクソソーム」は、多能性状態に関連する未分化特異的な転写因子や、それらを誘導する核酸(miRNAやmRNA)を含んでいる可能性がある。実際に「部分的リプログラミング」は、山中因子の強制発現によって「メチル化年齢」を劇的に巻き戻したわけですね。(参考7,8)

もし「iPS細胞由来のエクソソーム」の中に「山中因子」が極わずか残存していたとすると、受け手細胞内でこれらのネットワークをごく微弱に刺激するならば、部分的リプログラミングの『極めて希釈された安全版』として時計に触れる可能性は理論上は排除できない可能性があるとされているわけですね。

ただし、この経路には強い疑念が残ります「iPS細胞由来のエクソソーム」が実際に機能的な山中因子因子を有意量運搬し、受け手細胞の運命(アイデンティティ)を揺るがすことなく、DNAのメチル化機構に働きかけ、「のみを巻き戻したことを直接証明したデータは確立していません。また「iPS細胞エクソソーム」の内容物は、その中身はほぼ、明らかになっているわけですが、「山中因子」に該当するものは現時点では報告されていないのですね。


したがって、本経路は現時点では『理論的に想定しうるが、実証の裏づけが最も薄い仮説』と位置づけられています。

経路4 ― 「血管内皮細胞」の正常化を介した組織微小環境の改善

血管内投与という投与経路そのものに着目すると、外因性エクソソームが最初に、かつ最も高濃度で接触するのは「血管内皮細胞」であるとされています。
例えば、「幹細胞由来エクソソーム」には血管内皮の一酸化窒素(NO)産生能を高め、血管新生を促して血管内皮細胞の機能不全を改善する作用が報告されています(参考9)。

動物実験と培養細胞では、若い「幹細胞由来エクソソーム」が、老化表現型、フレイル、組織機能、エピゲノム年齢を改善した報告があります(参考10,11)

ただし、ヒトで全身の生物学的年齢を若返らせた直接証拠はまだなく、臨床的には有望だが、本命ではないという認識をされています(参考12,13)

「iPS細胞由来エクソソーム」の投与がヒトの「エピジェネティック時計」を動かし、生物学的年齢を若返りを実現させるのか?――この問いに対する現時点での最も正確な答えは

『直接の証拠はまだ無いが、基礎医学的な知見からは複数の作用機序が合理的に推定でき、検証に値する魅力的な仮説』が証明されることが必要です。


そのように考えますと・・・上記の4つの仮説が世界各国の研究者らによって想定されているわけですね。

私自身は、仮説1)が最有力と思うのですが・・・皆さんはどう思いますか?

 

今回も最後までお付き合い頂きまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Nature. 2020 Dec;588(7836):124-129. d

Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision

Yuancheng Luら

 

2)Int J Mol Sci.2018 Jun 9;19(6):1715.
Exosomes Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells Ameliorate the Aging of Skin Fibroblasts
Myeongsik Ohら

 

3)Aging(Albany NY). 2023 Jun 26;15(12):5854-5872. 

iPSC-derived exosomes promote angiogenesis in naturally aged mice

Xingyu Liら

 

4) Nature. 2020 Dec;588(7836):124-129. 

Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision

Yuancheng Luら

 

5)Int J Mol Sci. 2018
Exisome Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells Ameliorate the Aging of Skin Fibroblasts
Myeongsik Oh ら

6)Tissue Eng Regen Med. 2022 Oct.
Stem Cell-Derived Exosomes: A New Method for Reversing Skin Aging
Jin-Yan Wu ら

 

7)Cell. 2016 Dec 15;167(7):1719-1733.e12. 

In Vivo Amelioration of Age-Associated Hallmarks by Partial Reprogramming

Alejandro Ocampoら

 

8.Nature. 2020 Dec;588(7836):124-129. 

Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision

Yuencheng Luら

 

9)Tissue Eng Regen Med. 2022 Oct;19(5):961-968.

Stem Cell-Derived Exosomes: A New Method for Reversing Skin Aging

Jin-Yan Wuら

 

10)Aging Cell. 2021 Apr;20(4):e13337.
Mesenchymal stem cell-derived extracellular vesicles reduce senescence and extend health span in mouse models of aging
Akaitz Dorronsoroら

11)Sci Adv. 2022 Oct 21;8(42):eabq2226.
Small extracellular vesicles from young adipose-derived stem cells prevent frailty, improve health span, and decrease epigenetic age in old mice
Jorge Sanz-Rosら

 

12)Cell Biochem Funct . 2021 Jan;39(1):60-66.
Ageing and mesenchymal stem cells derived exosomes: Molecular insight and challenges
Mahdi Ahmadiら

13)Stem Cell Res Ther. 2025 Jul 26;16(1):401.
Advances in mesenchymal stem cell and exosome-based therapies for aging and age-related diseases
Hang Liら

 

(フェアモントホテルからの東京タワー)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

夏至(げし)は過ぎていますが、夜が明ける時間はまだまだ早いようです。

暦に目をやりますと、二十四節気の「小暑」の期間にあたり、季節は本格的な夏に向かっていくのだなあ〜なんて、思ったりもします。

 

世界や国内の情勢は相変わらず、混沌(こんとん)としているために

日々、ウンザリしている方も多いようですね。

 

17世紀ドイツバロック時代を代表する詩人 フリードリヒ・フォン・ローガウという人物は、次のような言葉を残しています。

 

"Though the mills of God grind slowly, yet they grind exceeding small." 

 

神の臼(うす)はゆっくりと挽く(ひく)が、それでも極めて

細かく挽き上げる」

 

という訳になるわけですが・・・

 

「正義」や「真理」は時間がかかっても、最終的には必ず貫徹(かんてつ)される、というニュアンスでして、「すべての事象は、あるべき姿への修正力がはたらく」というように解釈されてもいるようです。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

先日、ドイツのベルリン共同通信の記事で驚いたものがありました。

ニュースの記事は以下のようなものになります。

 

ドイツ政府の公衆衛生研究機関「ロベルト・コッホ研究所」は9日、6月下旬にドイツを襲った「熱波」の影響により約5100人の死者が出たとの推計を発表した。
6月26~28日に各地で猛暑となり、気象局によると、一部の地点では41度を超える気温が観測された

 

というのですね。日本国内では気温が低めで、多湿ながらも過ごしやすいなどとされていたのですが、ドイツでは猛暑(もうしょ)になっていたようです。

 

よくよく詳細を調べてみますと・・・2026年6月下旬、ドイツ各地は記録的な熱波に襲われ、一部地域では最高気温が41℃を超えた。ロベルト・コッホ研究所(RKI)は、4月6日から6月28日までの暑熱に関連した死亡者数を約5,120人と推計した。このうち約4,310人が、特に高温となった6月22~28日の1週間に死亡したと推定されている死亡者の80%以上は75歳以上であった・・・というのが正確なものになります。

 

ドイツでは住宅への「冷房設備」の普及が比較的少なく、「高温」となった室内で、ひょっとすると・・・扇風機(せんぷうき)だけに頼っていた高齢者が相当数存在した可能性はあるかもしれませんね。


これまでも、高温となった週に死亡者が増え、とりわけ「高齢者」で増加が大きいことは一貫して示されているわけです(参考1)。

 

なぜ、高温下で「高齢者」の死亡リスクが高くなるのでしょうか?

結論を先に言えば・・・「体温調節が破綻(はたん)しているから」となるわけですが、この破綻について、詳しくお話をしてみたいと思います。

 

まずは・・・ヒトはどのようなメカニズムにより、「体温」を一定に

保つのか?・・・を見てみたいと思います。

 

ヒトの深部体温(脳や内臓の温度)は通常、およそ36.5~37.5℃の狭い範囲に保たれています。

 

体内では安静にしていても、脳、肝臓、心臓、筋肉などの代謝活動から常に熱(代謝熱)が産生されています。

 

この熱を至適な速度で体外へ放散できなければ、深部体温は上昇してしまいます。
 

(AIを用いて画像を作成) 

 

ちょっと難しいのですが・・・ヒトの身体と環境の間の「熱移動(放熱と吸熱)」には、主に次の4つの過程があると考えられてます。

1)放射(Radiation)

皮膚表面から周囲の環境(壁や家具など)へ、電磁波(赤外線)として熱を逃がす。


2)対流(Convection)

皮膚に接する空気分子に熱が伝わり、その空気の移動(流体の流れ)によって熱が運ばれる。


3)伝導(Conduction)

皮膚が接触している固体や水に直接熱が移動する。
 

4)蒸発(Evaporation)

汗が液体から気体へと相転移するときに、皮膚表面から気化熱を奪う。

環境気温が皮膚温(平均約33~35℃)より低い場合、上記の「放射」「対流」によって身体から周囲へ熱を逃がすことができます。

 

しかしながら、「気温」が高くなり、「皮膚温」に近づくにつれて、

「放射」・「対流」による放熱効率は急速に低下していきます。

 

そして「気温」が「皮膚温」を超えると、逆に周囲の空気から身体へと熱が流れ込む(対流性熱流入)現象が起きるようになるわけです(参考2,3)。


このような状況下で、人体が熱を捨てる唯一の有効な手段は・・・

「汗の蒸発」となります。

 

汗 1 g が完全に蒸発すると、体温付近でおよそ 2.43 kJ(約 580 kcal/L)の気化熱を奪うとされています(参考2)。

 

しかし、汗をかくだけでは体温は下がらない・・・というのですね。

なんのこっちゃ?・・・汗をかくだけではダメとは?と思う方も多いと思います。

 

実は、汗が皮膚から滴り(したたり)落ちてしまった場合、また、その汗を拭き取ってしまった場合には、冷却に寄与しないのだそうです。

あくまでも、効率的な「放熱」には、汗が皮膚表面で「蒸発」することが不可欠であるのだそうです。

 

さらに周囲の「湿度(しつど)」が高いと、空気中の水蒸気圧が高いため汗は蒸発しにくくなり、「放熱」は著しく制限されるのですね。

 

反対に、乾燥していればいいのか?・・・と言いますと、乾燥下では汗は容易に蒸発するものの、自覚がないまま発汗量が増大し、「脱水症」が急速に進行しやすいのだそうです。

 

このように、人体への熱負荷は単純な気温だけでなく、湿度、風速、周囲からの放射熱、衣服、年齢、自律神経機能(発汗・皮膚血管拡張能力)を総合して評価する必要があるとされています(参考2)。

 

では、「扇風機(せんぷうき)」を使うというアイデアは、どうでしょうか?・・・良いアイデアのように思えますが、「扇風機」は「空気」を冷やしているわけではないということを理解しておく必要があります。

 

いったい、どのようなことなのでしょうか?
 

エアコンの冷房はヒートポンプ技術によって、室内から熱を直接奪い、空気そのものの「温度」と「湿度」を低下させます。

 

これに対して、一般的な「扇風機」は空気自体を冷却する機能を持たないといえます。羽根を回転させ、室内の空気を移動させているだけであるということを認識しておく必要があります。

「扇風機」で涼しさを感じるのは、風が皮膚表面に形成される「境界空気層(暖かく湿った空気の層)」を取り除き、

皮膚と空気の間の「水蒸気圧」の差を広げて汗の蒸発を促すためであるのですね。また、「気温」が「皮膚温」より低ければ、「対流」による放熱も増加するわけです。

したがって、「扇風機」の身体冷却効果は以下の条件によって劇的に変化するといえます。

- 室温が皮膚温(33~35℃)より低いか高いか
- 周囲の相対湿度が高いか低いか
- 脱水がなく、十分な発汗能力が維持されているか
- 年齢や基礎疾患(心血管疾患など)の有無
- 室内の壁や屋根からの放射熱(輻射熱)の強さ

室温が30℃前後で、脱水のない「健康な人」であれば、「扇風機」による「蒸発」の促進効果は有用であると言えますね。

 

しかしながら、室温が35℃を大きく超える環境では、「扇風機」は皮膚へ向かって「熱風」を送り続ける装置と化す可能性もあるわけです。


また、「発汗能力」が低下している場合や、すでに脱水によって「発汗量」が減少している場合には、風による「対流性の熱流入」が汗の「蒸発冷却効果」を上回り、むしろ体温上昇を加速させる危険性があるということになるのですね(参考4)。
 

高温下で「高齢者」の死亡リスクが高くなる理由、「体温調節の破綻(はたん)」とは、いったいどのようなことなのでしょうか?

 

このお話の続きは・・・

後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>7月14日


奇しくも(くしくも)、いきなり気温の高い日が続くようになってしまいました。
 

もちろん、「高齢者」ばかりがリスクが高いわけでなく、若い皆さまも「熱中症」にならないように充分に気をつけていく必要がありますね。

「高齢者」の体温調節メカニズムは破綻(はたん)しているなどというと・・・

なんと、無礼(ぶれい)な奴(やつ)だと怒られそうですね。

もちろん、これは一般論ですので・・・ご容赦(ようしゃ)頂ければと思います。

もっと正確に言えば、「高齢者」において体温調節が破綻しやすい病態生理学的な背景があるということになるでしょうか。
 

実際に「高齢者」は、若年者より暑さを弱く感じやすい・・・つまり、暑さを感じにくいという研究が多く報告されています。

さらに実験生理学とレビューでは、同じ熱負荷でも「高齢者」では、深部体温上昇、熱貯留、循環負荷が大きいとされています(参考5)

なので、体温調節が破綻している・・・というよりは、体温調節のメカニズムに衰え(おとろえ)があると言った方がよいのかもしれませんね。その詳細を以下にお話をしてみたいと思います。

1.発汗能力(汗腺機能)の低下

「高齢者」では、発汗を開始する深部体温の閾値(いきち)が高くなり(より体温が上がらないと汗が出ない)、同じ熱ストレスに対する発汗量自体も減少することが分かっています。

この原因として「高齢者」において、実際に発汗関連の深部体温閾値が高温側へずれていることが原因であることが分かっています(参考6)。

どの程度の発汗関連の深部体温がずれているのか?・・・と言いますと、ある研究では「高齢者」の発汗活性化閾値が 約1.5°C 高いと推定されています(参考7)

一方で、加齢に伴う衰え(おとろえ)は、深部体温閾値上昇だけでなく、「発汗量」そのものの低下としても観察されています。

 

加温や運動時の研究では、「高齢者」は局所・全身の発汗が低く、同じ熱負荷でも深部体温がより上がりやすいとも報告されています (参考8)。

2 皮膚血管拡張反応の減弱

体内の熱を体外へ捨てるには、コア(中心部)の血液をシェル(皮膚表面)へと大量に運ぶ必要があることが分かっています。

しかし、「高齢者」では血管内皮細胞の機能の低下や交感神経系機能の変化により、熱ストレスに対する皮膚血管の拡張反応が著しく低下しているとされています。


それらの結果として、身体中心部に熱がトラップされ、深部体温が上昇しやすくなるとされています(参考9)

3 渇中枢の感度低下と脱水の潜在化

視床下部にある「渇中枢」の感度が加齢によって低下するため、体内の水分が減少(血漿浸透圧が上昇)しても、強い口渇感を自覚しにくいとされています(参考10)。

また、認知症や運動機能障害を随伴している場合、自発的な水分摂取行動そのものが困難になります。

 

扇風機の風は皮膚表面を速やかに乾燥させるため、本人が気づかないうちに不感蒸泄や発汗で多量の水分を失っていても、「汗をかいていないから大丈夫」と誤認する温床となるとされています。

4 心血管系および腎臓の予備力の縮小

皮膚血流を劇的に増加させ、かつ発汗による血液濃縮(循環血液量減少)に対応するためには、心拍数と心収縮力を高めて心拍出量を維持しなければならないことが知られています。

健康な若年者であれば心拍出量を数倍に増加させて対応できるわけですが、潜在的あるいは顕在性の心不全、虚血性心疾患、不整脈を有する「高齢者」にとっては、この心血管系への要求は致命的な負荷(心筋酸素需給の破綻)となるとされています(参考11)。

 

また、腎機能(糸球体濾過量など)が低下しているため、脱水時の水・電解質バランスの微調整が効きにくいとされています。

このような高齢者の特徴から考えると、もし高齢者が暑い日に冷房などを使わず、扇風機によって、過ごしたとすると以下のようなことが生じる可能性が考えられます。

    [第1段階: 室内への熱蓄積]
       │ (夜間も室温・輻射熱が低下せず、身体の回復が追いつかない)
       ▼
    [第2段階: 持続的な皮膚血管拡張・発汗]
       │ (扇風機による一時的な清涼感の裏で、熱負荷と発汗が継続)
       ▼
    [第3段階: 脱水と循環血液量の低下]
       │ (血液濃縮、心拍出量維持の限界、放熱と血圧維持の両立破綻)
       ▼
    [第4段階: 主要臓器の虚血・障害]
       │ (心筋梗塞、急性心不全、脳卒中、急性腎障害の誘発)
       ▼
    [第5段階: 熱中症(多臓器不全など)] ───► [ 死亡 ]
         (高体温による細胞破壊、腸管バリア破綻、全身性凝固異常)
    
第4段階から詳しく解説しますと、以下のようになります。

第4段階:主要臓器(心・脳・腎)の急性障害
 

血液濃縮と著しい頻脈は、心筋の酸素需要を増大させる一方で、冠動脈の血流不全を招き、急性心筋梗塞や致死的不整脈、心不全の急性増悪を誘発する可能性が高くなります。脳

 

血流の低下や微小血栓形成は脳卒中を引き起こし、腎血流の低下は尿細管壊死を伴う急性腎障害(AKI)をもたらすとされています。

第5段階:熱中病への移行と多臓器不全の惹起)


 代償機構が完全に破綻すると、深部体温は40℃を超えて急上昇し、中枢神経障害(意識混濁、昏睡、けいれん)を呈する「熱中症」へと移行することが多いとされています。

「熱中症」の病態の本質は、高熱による直接的な細胞傷害(タンパク質の変性、アポトーシス)に留まりません。


高熱と虚血によって、腸管粘膜バリアが破綻すると、腸管内の細菌成分(エンドトキシンなど)が体内に流入し、激しい全身性炎症反応症候群や播種性血管内凝固症候群(DIC) を引き起こすとされています(参考12。

 

これにより、広範な血管内皮障害、微小血栓形成、多臓器不全が惹起(そうき)され、不可逆的な死に至ることが多いとされています。

もちろん、ドイツで推計された約5,120人の暑熱関連死において、個々の死亡者が「扇風機だけで生活していたこと」や「扇風機そのものが直接の死因となったこと」を証明する直接的な疫学データがあるわけではありません。

 

しかしながら、「寒さ」対策に重点を置いたドイツの家屋には、冷房などが存在しなかった可能性も指摘されています。

 

もし、室温が高温化した室内で、「扇風機」のみで暑さをしのいでいたとすると、このことが、なぜ致命的となり得るのかという機序は、上記のように明確に説明できるわけですね。

繰り返しになりますが・・・「扇風機」は空間の熱エネルギーを減少させず、皮膚表面の蒸発を加速させるだけであるのです。

 

室温が皮膚温を超えた場合には、「高齢者」ばかりでなく、脱水、発汗機能低下、あるいは心血管系疾患などの脆弱性がある場合

「扇風機」からの風じゃ、熱風となり「対流性熱流入」と「進行性脱水」が進行し、ヒトの身体が持つ限定的な「放熱能力」を容易に上回り、死に至る可能性があることを思い出してほしいと思いますウインク

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Disch Arzlebl int. 2022 Jul 1;119(26):451-457

Heat-Related Mortality in Germany From 1992 to 2021

 Claudia Winklmayrら

 

2)Lancet. 2021 Aug 21;398(10301):698-708. 

Hot weather and heat extremes: health risks

Kristie L Ebiら

 

3)CMAJ. 2010 Jul 13;182(10):1053-60. 

Heat stress in older individuals and patients with common chronic diseases

Glen P Kennyら

 

4)Lancet Planet Health. 2021 Jun;5(6)

Electric fan use for cooling during hot weather: a biophysical modelling study

Nathan B Morrisら

 

5) Healthcare (Basel). 2025 Nov 3;13(21):2785. 
Heat Tolerance in Older Adults: A Systematic Review of Thermoregulation, Vulnerability, Environmental Change, and Health Outcomes
Sandra Núñez-Rodríguez ら

 

6) Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1996;73(3-4):278-86. 
Passive temperature lability in the elderly
G S Anderson ら

 

7)Physiol Meas. 2012 Aug;33(8):51-60. 
Computational estimation of decline in sweating in the elderly from measured body temperatures and sweating for passive heat exposure
Akimasa Hirata ら

 

8)Eur J Appl Physiol. 2007 May;100(1):19-26. 

Ageing and thermal responses during passive heat exposure: sweating and sensory aspects
Andre Dufourら

 

9) Mayo Clin Proc. 2003 May;78(5):603-12. 
Skin blood flow in adult human thermoregulation: how it works, when it does not, and why
Nisha Charkoudian 

 

10) N Engl J Med. 1984 Sep 20;311(12):753-9. 
Reduced thirst after water deprivation in healthy elderly men
P A Phillipsら

 

11) Environ Int. 2020 Nov:144:105909. 
Physiological factors characterizing heat-vulnerable older adults: A narrative review
Robert D Meade ら


12) J Appl Physiol (1985). 2010 Dec;109(6):1980-8. 
Heat stroke: role of the systemic inflammatory response
Lisa R Leoraら

 

(以前のphoto;小笠原伯爵邸 中庭の風景)

(筆者撮影)

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