こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
お盆の期間を前にした休日の午後になっていますね。
すでに帰郷した方もいらっしゃるかもしれませんね。
今朝は鳥の声ではなく、蝉(せみ)の鳴く声で目が覚めました。
中国・南北朝時代の詩人である王籍(おうせき)の詩に次のようなものがあります。
「蝉噪林逾静」
その意味は、蝉が騒がしく鳴いているのに、かえって林はいよいよ静かに感じられるとなります。
昨夜は近所で「盆踊り」の行事がありまして、賑やかな音楽と太鼓の音が聞こえていたこともあって、少し寂しい静寂(せいじゃく)を
蝉の声の中でも意識した次第です。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は「サーチュイン3(SIRT3)」の発現低下が「血管の老化」を進行させる可能性について、お話をしてみたいと思います。
少しだけ復習をしておきますと・・・「サーチュイン(SIRT1〜7)」の活性を示すためには、「NAD⁺」を「基質」として、これを消費することでが必要になります。
つまり「NAD⁺」が枯渇すればサーチュインは働けなくなってしまわけです。。「NAD⁺」の細胞内レベルがサーチュイン活性の律速因子になっているということになっているというわけです。
しかしながら、加齢とともに組織の「NAD⁺」レベルは低下していきますね。
その原因として、「NAD⁺」合成のサルベージ経路の律速酵素「NAMPT(ニコチンアミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)」の発現が低下することが第1の原因ですし、
第2の原因としては、「NAD⁺」を大量消費する酵素(炎症・老化に伴い増加するCD38、DNA損傷応答で活性化するPARP1など)による消費増大が挙げられますよね。
「NAD⁺」が減ればサーチュイン活性も低下し、これが加齢性の代謝機能低下や老化形質の一因になると考えられています。
では、「サーチュイン3遺伝子(SIRT3)」と「血管老化」について、どのような考え方がされているのでしょうか?
その基本的な考え方には「血管老化」は全身疾患の共通基盤である」というものがあります。
例えば、加齢に伴う血管の変化、すなわち「血管老化」は、心筋梗塞、脳卒中、心不全、慢性腎臓病、認知機能低下など、多くの加齢関連疾患の重要な背景であるとされています。
「血管老化」の詳細を細かくみてみると、血管内皮細胞の機能障害、大動脈などの硬化、血管壁の炎症、平滑筋細胞の変化、微小血管の減少などが含まれます。これらは「動脈硬化」を促進することが知られています。
とくに「血管内腔」を覆う(おおう)「血管内皮細胞」は、血液と組織の境界として物質移動を調節するだけでなく、一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン、エンドセリンなどを介して血管径、血小板機能、炎症細胞の接着、血管新生を制御することが知られています。
十分な一酸化窒素(NO)を産生できなくなる「血管内皮細胞」の
機能障害は、動脈硬化性疾患の早期変化の一つであるとされています。
(AIを用いて画像を作成)
近年、「NAD⁺」依存性に産生される「サーチュイン」が「血管老化」に関与する重要な分子群として注目されているわけです。
なかでも「サーチュイン3遺伝子(SIRT3)」は主に「ミトコンドリア」に存在し、酸化ストレスと代謝の制御を担い(にない)血管保護作用を持つことが分かってきたのですね。
ヒトには、7種類のサーチュイン(SIRT1からSIRT7)が存在します。多くはタンパク質のリジン残基に付いたアセチル基を外す脱アセチル化酵素として働くとして機能することが分かっています。
この中で、「サーチュイン3(SIRT3)」は、「ミトコンドリア」における主要な脱アセチル化酵素であることが知られています。
「ミトコンドリア」はATP産生に必須である一方、電子伝達系から漏出する活性酸素種(ROS)の発生源にもなります。
活性酸素種(ROS)は生理的な情報伝達にも必要であるわけですが、過剰になるとDNA、脂質、タンパク質を傷害し、「血管内皮細胞」の機能障害や炎症を促進することが分かっているのですね。
「サーチュイン3(SIRT3)」は「ミトコンドリア」のエネルギー代謝と酸化ストレス防御の中枢を担うことが知られています。
代表的な基質と経路は次のとおりです。
「酸化ストレス防御」では、抗酸化酵素マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD/SOD2)を脱アセチル化して活性化し、「ミトコンドリア」から発生するの活性酸素種(ROS)を消去します。
また「イソクエン酸脱水素酵素2(IDH2)」を介してNADPH/グルタチオン系の還元力を維持します。
ちょっと難しいのですが・・・「サーチュイン3(SIRT3)」は、ミトコンドリア内の活性酸素種(ROS)を過酸化水素へ変換する重要な抗酸化酵素であるわけですね。
「サーチュイン3(SIRT3)」の活性が低下すると、抗酸化能が低下して、ミトコンドリア内の活性酸素種(ROS)が増えやすくなるわけです(参考1,2)。
さらに「サーチュイン3(SIRT3)」の活性の低下は、「血管老化」を促進させるわけですが・・・
その詳細なメカニズムは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>8月11日
話を続けますと・・・「サーチュイン3(SIRT3)」の活性の低下は「血管内皮細胞」の機能障害馬砂利でなく、「動脈硬化」の全般に関与している可能性も浮かび上がってきます。
例えば、「血管内皮細胞」に「サーチュイン3(SIRT3)」が発現させないように遺伝子操作を行なったマウス(Sirt3EC-KOマウス)に高脂肪食をエサとして与えますと、通常のマウスと比較して「プラーク」の被覆面積の拡大、マクロファージ浸潤の増加、血管炎症の亢進が認められたと報告されています(参考3)。
この機序として、「サーチュイン3(SIRT3)」の欠失がASS1(アルギニノコハク酸合成酵素1)という物質の過剰アセチル化と不活性化を引き起こし、L-アルギニン生合成を阻害して一酸化窒素(NO)産生を低下させることが特定されています(参考3)。
さらに驚くことに、L-アルギニンの経口補充は「血管内皮細胞」に「サーチュイン3(SIRT3)」が発現させないように遺伝子操作を行なったマウス(Sirt3EC-KOマウス)のプラークサイズと血管炎症を減弱し、アミノ酸代謝がこの経路の治療標標となりうることが示されています(参考3)。
ヒトの「血管内皮細胞」でも「サーチュイン3(SIRT3)」の活性は、「活性酸素種(ROS)」の増加、「NO(一酸化窒素)」の産生低下、L-アルギニン減少、およびVCAM-1・ICAM-1・MCP1などの炎症因子発現亢進をもたらしたことも確認されています(参考3,4)。
「活性酸素種(ROS)」の増加、「NO(一酸化窒素)」の産生低下、L-アルギニン減少、およびVCAM-1・ICAM-1・MCP1などの炎症因子発現は、いずれも動脈硬化を進展させる因子として報告されているものに
なりますね。
また、ヒトにおいて、、「サーチュイン3(SIRT3)」遺伝子のサイレンシングはIL-1β誘導性の内皮炎症を増幅し、ミトコンドリア呼吸能も障害したことも確認されています(参考4)。
遺伝子のサイレンシング(gene silencing)とは、特定の遺伝子の発現を抑制し、機能的なタンパク質が作られないようにすることなどを指しますね。
このように見てくると・・・「サーチュイン3(SIRT3)」を標的とする治療は、とても魅力的であるが、現時点では前臨床段階にあると言えます。
「NMN」や「ニコチンアミドリボシド(NR」」は「NAD⁺」の前駆体であり、ヒトでも血中「NAD⁺」関連代謝物を増加させることが示されています(参考5)。
しかしながら・・・
これらが「血管内皮細胞」の「サーチュイン3(SIRT3)」を選択的に活性化し、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中を防ぐことは証明されていないのが現状となっています。
「高齢者」で血圧や動脈硬化指標の改善を示唆する小規模研究はあるものの、追試を含む大規模臨床試験と心血管イベントによる評価が必要であると言えますね(参考5,6)。
これからも「NAD⁺」に関する話題もご紹介させていただきたいと思います。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Circ Res. 2017 Aug 18;121(5):564-574.
Sirt3 Impairment and SOD2 Hyperacetylation in Vascular Oxidative Stress and Hypertension
Anna E Dikalovaら
2)Circ Res. . 2020 Feb 14;126(4):439-452.
Mitochondrial Deacetylase Sirt3 Reduces Vascular Dysfunction and Hypertension While Sirt3 Depletion in Essential Hypertension Is Linked to Vascular Inflammation and Oxidative Stress
Anna E Dikalovaら
3)Adv Sci(Weinh). 2024 Mar;11(12):e2307256.
Role of Argininosuccinate Synthase 1 -Dependent L-Arginine Biosynthesis in the Protective Effect of Endothelial Sirtuin 3 Against Atherosclerosis
Xiaoyun Caoら
4)Antioxidants(Basal). 2022 Apr 2;11(4):706.
Sirtuin 3 Dependent and Independent Effects of NAD+ to Suppress Vascular Inflammation and Improve Endothelial Function in Mice
Xiayaun Vaoら
5)Nat Commun. 2018 Mar 29;9(1):1286.
Chronic nicotinamide riboside supplementation is well-tolerated and elevates NAD+ in healthy middle-aged and older adults
Christopher R Martensら
6)Aging Cell. 2016 Jun;15(3):522-30.
Nicotinamide mononucleotide supplementation reverses vascular dysfunction and oxidative stress with aging in mice
Natalie E de Picciottoら
(筆者撮影)
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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