~From.裕~ -45ページ目

帰郷~居場所~

『あの時…ヒロ君に何か言ったの?』

飲みかけた珈琲を思わずこぼし止まった
さりげなくそれを拭く千里
本当に覚えて無いのか…
嘘ではないらしい
なぜなら
嘘をついている千里の瞳(め)を見つめると潤んでくる
でも今は
しっかり見つめ返している

何を言ったのか思い出そうと
あの日を辿り始めるる千里

あの時の鼓動が甦ってくる…

『やっぱり思い出せない…
私、何を言ったの?
ヒロ君が困る事?
ねぇ教えてよ』

あの言葉は本当に零れ落ちた千里の想いだったんだと
ひとり噛み締め愛しくなった

教えないと諦めないだろう
でも
なぜか照れくさい
迷っている俺を見ながら
『…もしかして
あの頃のヒロ君が困るようなことって
さっき言い掛けた言葉だったりする?…』

『…たぶんな…』

千里の瞳が潤み出し
『ごめんね…』
言葉と一緒に零れ落ちた

『ば、ばか…泣くなよ…謝ることなんかねぇよ』
『だって…
告白しといて違う人と付き合ったんだよ…』
『噂だったんだろ?
俺こそ悪かったな、確認もしないで』

首を大きく横に振る姿が
幼い子供の頃を思いださせた

『ずーっと勘違いしてたんだ…
気付いていながら知らん顔で
彼氏出来て良かったな、なんて言われて勝手にショック受けて
ごめんね…
困らせてたんだよね…』

あの頃こんな風に話せていたら
避けることなく話せていたら
リュウ達に言わせれば
犠牲者が出なくて済んだかもな

『だから謝るなって…俺もあ頃の思ったよりガキだったしな』

子供の頃のように頭を撫でていた

近過ぎて
側に居ることが当たり前で
気を使うことなく話せた
それなのに
肝心な自分の気持ちになると話せなくて、聞けなくて
千里の事に関してはどんな事より気にして動揺してガキだった
んだよな

気持ちをハッキリすることが出来た千里はスッキリした顔になっている
それに比べ俺は
気持ちの方向はハッキリした
だけど
『彼女』として見ることも
その枠をはめることも
出来ずにいる

そんな顔で見つめないでくれ
ふと…視線を反らす

『年期が違うからね
私の中のヒロ君の居場所は
ずーっと変わらなかったから
いいよ今のままで
今までと違ってヒロ君がちゃんと見えるから
大丈夫』

さっきまでポロポロ零れ落ちていた顔とは思えないスッキリした笑顔

言葉も想いも
胸に詰まるようで
たけど今は愛しいと想う
俺が居る

新しい珈琲を入れて戻って来ると
たわいもない思い出話しを始めた
生まれた時からの付き合いの長さだ話しは尽きない
改めて振り返ると
本当に俺達は一緒だった
周りにはいつもあいつ等がいて
支えてくれていた
ここに運んでくれた


気付くと外はうっすらと明るくなって
一気に現実が押し寄せて来た
仕事だ
会議だ
しっかり切り替えろ
両手で軽く顔をパンパンと叩いた

二人で外に出ると
澄んだ空気と鳥の声に癒される思いで空を見上げた
大きく背伸びをするように両手を広げ深呼吸をした

いきなり背中に体当たりするような千里に思わず身体が支えきれず
一歩踏み出した

腰に回した腕に力が入る
そんな手に視線を落とすと

『いいんだよね
側に居て…
ヒロ君を好きでいて
いいんだよね…』

しがみつく千里が可愛いくて微笑んでたと思う

『ば~か…
「いいならづけ」なんだろ
俺達は』
『う…ん』
声にならないような声で
頷くのを感じた


慌ただしく数日が過ぎ
千里が報告しながら帰郷した
どんな風に話すのか心配はある
どう受け取るのかかなり心配だ

そして
留守電が入った
『もう、泣かせんじゃねぇぞ』
『ヒロ君、絶対幸せになってよ』
『もう、世話やかせんなよな』
『ヒロ君、千里をよろしくね』
『複雑だが認めるよ。千里を頼むよ』
『今度は二人で帰って来い』
『私は千里ちゃんの味方だからね』
『男は覚悟したら迷うな』

千里の父親以外やけに嬉し気というより
笑いを堪えたような言い方
特にじいちゃん…解り過ぎだろ

正かとは思うけど…

もしかして仕組まれてた?

やりかねないよな
そう思った時

『ヒロ君…だぁ~い好き』

あいつは
生まれた時から
俺の中に居たのかもな
妹として、彼女としての居場所ではなく

『俺の中で千里の居場所は
お前だけの場所だったのかもな』

何故か俺のベッドで寝ている
無邪気な寝顔の千里の頭を撫でた


それは昨夜24時を過ぎた時

『ただいまぁ~』
『泊まらずに来たのか?
…帰る家が誓うだろ』
『だって早くヒロ君に会いたかったんだもん』

解ったから落ち着け
そして離れろ


無防備で無邪気な
態度と仕草そして言葉
時に女全開なのを解ってんのか

戸惑う俺を楽しみやがって

『ヒロ君ソファーでいいの?
一緒にベッドで寝れば良いのに』
許婚で理想の彼氏像のヒロ君…
そんな居場所でなく
単なる男の俺にお前が気付いた時
たっぷり仕返ししてやるから覚悟しとけよ

『ち~さ~と~起きろ!
朝だぞ!』




お粗末でした
お付き合いありがとうございましたm(__)m

帰郷~居場所~

申し訳なさそうに言い出した

『…千里ちゃんの想い本当に気付いてなかったんですか?
見守るだけの兄貴でいるなら
俺なんかに気付かれるような覚悟じゃ甘いですよ…
ずるいですよ
だから…
俺の…未練を断ち切る為にも…
ヒロさん…殴らせてもらいます』

真剣な瞳は潤んでいた
言葉になったかどうか一言告げ覚悟すると

バシッ!
椅子に倒れ込んだ
その様子と物音に店の中は一瞬騒がしくなった
痛かった
あいつの想いが
胸に痛かった
千里を幸せにしろと全身で訴えるように店を出て行った

ゆっくり立ち上がる俺に
『使えっ』
店長がおしぼりを投げて来た
ちょっと怖面でどことなく、タケ兄に似ている

切れた口元を拭くと
『イテッ!』

俺の中からバンドラの箱が完全に消えていた


 ドアが開きお客なのか一人入って来た

その足音は足速に真っ直ぐ近づいて来る
そして

『ヒロ君、大丈夫?』

心配そうな顔の千里だった

(12時迄に来ないと魔法は解けないで妹のままだよ
伝えておいで)

そんなメールがあり駆け付けて
彼氏と鉢合わせにかり

『来たね。
良かった千里ちゃんの気持ちが本気だって分かって…
きっと大丈夫。伝わるから
いい人で別れようと思ったんだけど
ごめん…
君の大切な人…殴っちゃったよ
千里ちゃんに出会った事も
ヒロさんを殴った事も
後悔していないから
必ず幸せになってよ』

殴った右手を撫でながら、頑張って笑顔で話す彼氏に何も言えずただ
『ありがとう…』
笑顔で返すのが精一杯だったと申し訳なさそうに話した

二人で店を出ようとすると

『気付かせて貰ったんだ
その痛み忘れるなよ…
二人で笑ってまた食べに来い』
視線を合わす事なく話す店長に
ぎこちない笑顔で応え店を出た

今までに無いにぎこちない空気感に戸惑い言葉が出ない
何か話そうと口を開くと
『イテッ』
思わず声が出て傷口を押さえた
『明日、会議があるのに…まずいよな』
『痛そう…
そういえば、前にもあったよね大事な時に…
大学受験の前だ!リュウ君に殴られたんだよね?
理由は何だったの?』

そんな事があった
あの時にバンドラの箱をぶち壊し向き合っていたら…
リュウの想い知ってたのに
俺は…
2回とも千里絡みで殴られ…
理由は言えないな
隠し続けてたリュウの為にも

軽く聞き流すように答えると
俺の顔を覗き込み
『ふ~ん』
疑い深い顔で一言

一言だけというのがどこと無く怖さがあったりする



24時過ぎ
さすがに人が疎らだ
店のショーウィンドーの明かりが眩しい
とりあえず開いてる店に入った

テーブルを間に千里と向き合い座った
何度もこんな風に座り話した事はあるのに…落ち着かない
まるで初デート
俺は中学生かよ

そんな俺の前に珈琲を置くと
特に変わる事が無いまま座る千里
女性(おとな)に見え妙な感じだった

『どうかした?何か変だよ…
ヒロ君らしくないよ』

見透かされた

ごまかすようにどうにか話しをし始めたが
笑うのを我慢しているのが気になり話しを止めると
『ごめんなさい。
笑うつもりは無いんだけど
いつもと違って一生懸命に話すんだもん…
「なんか可愛いんだもん」』

調子が狂ってしまい
上手く話しが続けられない
どのくらいだろう静かに時間が過ぎ
ゆっくり千里が話し出した

『分かっていたんだよね
ヒロ君にとっては妹の粋を出ていないって
諦めなくちゃって思うたびに
思い出しちゃうんだよね
あの時の事…
ヒロ君は気付いていたんでしょ
私を止めることも
避けることも出来た
でも
しなかった…
受け止めてくれたのかもって
都合のいい思いが甦って
また
甘えちゃったんだよね…
諦めようって頑張ったんだよ
これでも』

頑張って笑う千里

「千里なりに切り替える努力をしてきたはずだ
向き合って話して、解放してやれ」
タケ兄の言う通りだ
中途半端な俺の態度で迷わせていた
話さないとな
あいつが一番知りたいはずのあの頃の俺の気持ち

『「俺のマンションに来るか」
ヒロ君にそう言われた時ハッキリしたんだ
やっぱり妹なんだって
だから本気で
彼と付き合ったんだけど…

ダメだったみたい
ヒロ君のことは忘れるとかそういうことじゃないみたいで
ヒロ君の中でどうんな場所に居ようと
私の中では一人の男性(ひと)だったから

もう隠さない
逃げない
彼が気づかせてくれたから
本当の気持ち

私…ずーっと前から
ヒロ君のこと…』

『ちょっと待て!』

真っ直ぐに見つめて話す千里
俺も同じ
千里の彼氏に
リュウ達に気づかせてもらった
千里にあの時のように言われたら
また同じになりそうで
慌てて止めた

あの時なぜ止めることも避けることもしなかったのは
俺の中に千里と同じ感情があったのかもしれない事
何より
千里の一言に気を取られて
その一言が思うよりも俺に影響をもたらし
悟られないようにしてた時
千里の彼氏騒ぎに
結構らしくないショック受けた事
自分の想いを封印する為に言った
「彼氏出来てよかったな…」
俺なりに精一杯話してみた

俺としてはちょっとした告白のような話しをしたはずなのに
反応が…

『あの時…ヒロ君に何か言ったの?』

飲みかけた珈琲を思わずこぼしたまま止まった

帰郷~心実(しんじつ)2~

携帯電話のメール受信ランプが点滅した

『話したい事があります
日にちと時間は合わせます。
連絡を下さい』

千里の彼氏からだった

タイミング良すぎだろ…

気付くとスケジュールを確認して
三日後21時と、連絡していた

約束の日までの3日間
何があったのか?
そういえば最近千里から連絡が無い…
嫁に出した父親ってこんな感じなのだろうか
そんなことをふと、思ったりした

やっぱり千里は
家族の枠の中なのだろうか?

思ったより
俺は優柔不断なのかもしれないな…


約束の日
仕事が押して遅くなった22時過ぎた街中は
平日ということもあり人は疎ら
ご機嫌なお父さん達を何人か避けながら店に急いだ

千里も一緒に何度か来たことのある
待ち合わせ場所の焼鳥屋に着いた
年期の入って色が黒ずんだ赤提灯
見た目と違い綺麗になっている暖簾
引き戸を開けると
いつもと違い空席が目立つ中
変わらない威勢のいい店員の掛け声に軽く応え
待ち人を探すと
店の隅でジョッキを見つめていた
注文してからテーブルに向かい
遅くなったことの挨拶をして上着を脱ぎ座るのと同時にビールが届いた

ほとんど反応が無く
想い詰めたような顔で相変わらずジョッキを見つめている
重い空気に
袖口のボタンを外しまくりあげ
第一ボタンを外しネクタイを緩め一息吐いた
気にしながらも一気に半分ほど飲みジョッキを置いた

違った意味でまた一息吐き
向き合った顔は思い詰めているようで、会話のキッカケを探そうとした時

『一ヶ月位前、千里ちゃんのマンションに居た時に和音ちゃんが来たんです…
いつもなら一緒に食事したり話すのに
その日は…
立ち聞きするつもりなんか無かったけど
ヒロさん田舎に帰ったんですね
何があったのかは知りませんが
「ヒロ君にみんな話しちゃった
ゴメン…」
それだけが聞こえて…
それから今日まで
話さないんですよ一言も
ヤキモチやくほどヒロさんの事話して名前を聞いていたのに
俺が名前出しても軽く流して
笑うんです
哀しいほどさりげなく笑うんです』

真っ直ぐに俺を見て話す
今までとは違う空気と真剣な想いが
俺をゆっくり押さえ付けるようで
テーブルに置いたジョッキから手を離すことすら出来なかった

温まってしまったであろうジョッキを手に取ると、残っていたビールを一気に飲み干し覚悟を決めたような顔でジョッキを置いた

『ヒロさんを紹介された時に気付いていたような気がします
こうなるだろうって
でも、どこかで期待してしまった、千里ちゃんの優しさに
出会う順番が違っていたら良かったのに
ヒロさんの彼女として会っていたら
このままでもいられたのに…
好きな人の為に身を引くなんてことありえないと思ってました
でも
彼女に出会って
好きになって
本気で好きになって
わかってんです
好きな人が本当の笑顔じゃ無いって辛いもんですよ
何より彼女自身が気付いていない事が一番辛いんです
後悔はしていません
こんな想いを知りること出来たし
ヒロさんとも出会えたし
本気で女性(ひと)を好きになれたし
ただ
ヒロさんが本気で家族の一人だと思っているだけで
男として人として最低だったら
俺だって…』

「その気が無いのに相手をさせられた奴がいい迷惑だよな
自分で気付いてないのが質が悪い」
言われたことを思い出した
悟られていた…って事か
俺自身が俺の想いに気付かず
気付かない振りをしていた
じんわりと締め付けられるように苦しくなった

『千里ちゃんのこと幸せにしてあげて下さい
ヒロさんなら仕方ないですからね』
軽く頭を下げ立ち上がった

思いも付かなかった展開に戸惑いながら
整理仕切れないでいた気持ちにハッキリと光を当てられた

精一杯の想いに応えなければ
巻き込んでしまったことに対してもきちんと応えなければ
焦るだけで言葉が出ないまま
一緒に立ち上がった

『ヒロさん…一つだけお願いがあるんですが』