認知的体験  -59ページ目

詐欺の心理学 「現代用語の基礎知識」より

詐欺被害の心理  現代用語の基礎知識2005年版より(海保執筆分)

● 第一印象
(first impression)
初対面で、相手がどんな人かを瞬時に判断し、それなりの印象(第一印象)を形成しなければならない。その際、名刺は非常に多くの情報を提供してくれるので助かる。その上でさらに、相手の外見的な特徴や言動から性格などの内面的な特性をも推論することになる。
こうして形成された第一印象は、以後の相手に対する印象形成の方向づけをすることになる。仮に、第一印象にふさわしくないことがあっても、それは無視されたり、適当に合理化されたりすることもある。
詐害被害などでは あえて誤った第一印象の形成をさせて、思い込みの世界に引き込む。
◆親密さ
(intimacy)
親密さは、接触頻度、情報や感情体験の共有、返礼的行為の相互などによって作り出される。
そこで、これらを意図的に操作して親密さを作り出して人を騙すことがある。主婦仲間などの詐欺被害で、「まさかあの人が」といった言説がなされることがあるのが、その例である。
◆ 説得的コミュニケーション
(persuasive communication)
人をその気にさせるために行うメッセージの提供である。広告やセールスではとりわけ重要である。
これを効果的なものにするには、四つの考えどころがある。(1)提供者側の専門性や信頼性、(2)コミュニケーションの内容のつくり方、例えば、長所のみ(1面提示)か長短あわせてか(両面提示)など、(3)受け手の何に訴えるか、例えば、不安や恐怖など、(4)メッセージの提示方法、対面しての話術や各種メディアの活用など。
● 説得への抵抗
(resistance to persuasion)
榊博文によると、説得への抵抗の高い人(説得されにくい人)とは、自分に自信のある人、不安傾向の低い人、攻撃性の高い人、そして女性より男性である。
しかし、説得の仕方や状況によってあっさりと説得されてしまうことも、また逆に、説得とは反対の方向に変わってしまうブーメラン効果も知られており、説得も一筋縄ではいかない。
● 段階的要請法
(foot-in-the-door technique)
セールスでは、ともかくドアの中に入れてもらえたら勝ちである。ささいなことを受け入れてもらたら、もっと大きなことも受け入れてもらえる可能性が高くなるからである。
少額の入会金を納めさせてから次第に高額の買い物をさせる商法がこの例である。
● 特典除去法
(low-ball technique)
最初に割引きなど客にとって優利な条件を提示して購入を決めさせてから、都合で割引き率を下げざるをえないと伝えて強引に購入させてしまう。
逆に、購入を迷っている人に特典を提示して購入を決断させてしまう特典付加法(thats not all technique)もある。
◆ 認知的不協和
(cognitive dissonance)
たとえば、高価な買物をした人は、その買物の価値を高めるような情報は無批判的に受け入れるが、価値をおとしめるような情報は受け入れない。認知的な不協和(判断の一貫性への脅威)の発生による不快を避けたいからである。
認知システムは、そのときどきで、全体としての一貫性を志向する方向に変化する。
◆アイドマ(AIDMA)の法則
広告宣伝を効果的なものにするには、「注意を引くこと(Attention)」「興味・関心・利益に訴える(Interest)」「欲求に訴える(Desire)」「記憶してもらう(Memory)」「買ってもらう(Action)」の五つの観点が大切となる。
この5つの観点は、広告宣伝以外の説得的コミュニケーションを効果的にするにも有効である。
◆ 精緻化(せいちか)見込みモデル
(elaboration-likelihood- model)
説得は受け手の態度を変えることをねらう。そのとき、態度の中核の変化をねらうなら、メッセージの内容が充分な認知処理がなされるように、わかりやすい情報を充分な量、提供する必要がある。
しかし、態度の周辺的な変化(好感、親しみなど)をねらうなら、内容よりも見かけを、たとえば、アイドマの法則に従って設計することになる。
◆ 不安
(anxiety)
現実のなかに、自分や近親者をおとしめる事態の発生を予兆させるものを見つけたときに生ずる感情的な不安定状態のこと。
不安時の主観的な体験としては、「どうしていいかわからない」「重苦しい雰囲気」「誰かに助けてもらいたい」「これから先のことがおぼつかない」「事態を変えて、緊張から解放されたい」などなどがある。
未来を志向して生きる人間にとって、不安は、よりよい未来へたどりつくための水先案内でもある。したがって、適度の不安は、人間を適切な行動に導く動因(drive)となる。たとえば、将来に備えて勉強する、貯をするといった行為は、将来への不安が、動因となっていることが多い。
問題は、過度の不安が喚起されると、一種のパニック状態が発生して、妥当な判断や行為ができなくなることである。「俺々詐欺」や「健康食品商法」などはそこをねらっている。
なお、別の問題として、過度の不安が長期間にわたり継続するとストレス状態になる。むやみに動き回ったり(行動化)、身体機能の部分的な異常をきたしたり(身体化)、自我崩壊を起こしたりすることになる。ストレス管理による不安の低減が必要になる。


朝倉心理学講座

05/4/11海保

朝倉心理学講座 全19巻
監修者のことば

 
 現代心理学の誕生以来、1世紀余が経過した。
 大きな流れとしては、20世紀前半の行動主義から、20世紀後半での認知主義へパラダイム・シフトがある。
 そして、ここ20年の日本の心理学における大きな動きとしては、世間からの心理学への過剰なまでの期待とそれにこたえるべく用意された心理学関連の急速な制度化がある。
 その一つは、臨床心理士に代表される各種の心理の資格の整備である。ここにきて、国家資格制定の動きさえ具体化されつつある。
 2つは、大学と大学院での心理学コースの整備である。心理学部がすでに3つの大学にできたし、臨床心理士対応の大学院修士課程もすでに100校(1種指定)を越えるまでになった。しかも、いずれにも受験生が殺到している。

 こうした動きを踏まえて、このたび、全20巻にも及ぶ心理学講座を刊行することの意義は3つある。
1)心理学の全分野を網羅することで、どの分野に興味を持っている人でも、この講座にアクセスすれば、自分の求める心理学の分野の定本があるようにできる。
2)学部生が卒論のテーマの背景知識や基礎知識を知りたいときや、大学院入試のための準備に活用してもらう。
2)大学院において増加している他分野からの入学者に心理学の体系的で最先端の知識を提供する。
 
 過去、本邦における心理学書の出版は量的にも豊富であり、内容も多彩であった。しかしながら、今回の企画のような心理学全体を網羅した講座はそれほど多くはない。
 今回の講座では、全19巻、しかも、執筆者は当該分野の第一線級に限定することで、日本の心理学会にとっても、21世紀心理学の里程標ともなる企画であると自負している。

平成17年6月




全19巻(仮)

伝統的な心理学の分野 編者名を入れて全巻に
●心理学方法論 
●発達心理学 
●脳神経心理学 
●認知心理学  
●言語心理学 
●感覚知覚心理学 
●社会心理学 
●教育心理学 
●臨床心理学 
●感情心理学  


最近注目される分野 

●文化心理学 
●環境心理学 
●産業・組織心理学 
●ジェンダー心理学 
●高齢者心理学  
●思春期臨床心理学 
●看護福祉心理学 
●健康心理学 小杉正太郎・早稲田大学
●犯罪・裁判心理学 
 
 




 




e-bankとの格闘に敗れる!!

5度目の挑戦。
問い合わせにすぐに回答があったのはよい。
しかし、インタフェースが悪くて
これでは、使い物にならない。
これで商売できているらしいのが
不思議??
そういえば、この親会社の製品は
すぐ故障する、使い勝手が悪い
との評判があるから当然か。
それにしても、頭にくる!!
金がうごいていない段階なので、
まだまし。
もうやめた!!
朝からこんなに腹をたてていては、
仕事に差し支える。

頭の良さを考えるーー知能を中心に

05/7/29評価大学 講演要旨  
         知能と知能検査
     100余年の歴史から見えてくることーーー

   筑波大学大学院人間総合科学研究科教授(心理学) 海保博之

概要*********************************
 知能と知能検査に関する研究は、1世紀余にわたる歴史がある。これは、現代心理学の歴史の長さとほぼ同じである。本講演では、その研究の歴史と時代思潮を踏まえながら、今日的な課題につながる4つのトピックスを考えてみる。
トピック1「頭の良さいろいろ」
トピック2「知能の一般因子gをめぐって」
トピック3「知能検査のねらい」
トピック4「知能検査の賢い使い方ーー”教研式サポート”を例にして」
****************************************************

●トピック1「”頭の良さ”いろいろ」

1ー1)”頭の良さ”についての世間的なイメージ(東洋ら)
               *マキャベリ的(生き残るための)知能
○67項目の頭の良さを整理してみると
*頭の良い人2人をイメージして、それぞれの項目について、あてはまるは3,
まーあてはまるは2,あてはまらないは1で

1)社交性、積極性
 例 リーダーシップがある 話がおもしろい
2)自己認識力/自己コントロール力(受け身の社会性)
 例 分を知っている 誤りを素直に認める
3)優等生型
 例 時間の使い方がうまい 事務能力がある
4)ひらめき性
 例 鋭い 判断が速い 決断力がある
5)物知り型
 例 よく本を読む 知識豊富 話題豊富

○最も多く選ばれたのは、いずれも「流動性知能」
1)頭の回転が速い
2)要点の把握が正確 
 

*ちなみに「結晶性知能」としては、「知識が豊富」「語彙が豊富」「常識がある」

1ー2)知能の定義さまざま
多彩な定義をまとめてみると(松原達哉による)
「高等な抽象的思考能力」 「学習能力」 「新しい環境への適応能力」


コラム1「なぜ多彩な定義が出てきて、また多彩な知能検査がでてくるのか」
 ・知能も含めて、心的なものの計測は、間接測定に頼らざるをえない。
 ・間接測定では、妥当性問題(計かりたいものを計っているか)をクリアで  きない。


1ー3)頭脳知、身体知、温かい知(図1)
少なくとも、知能検査は、頭脳知を測っていることは確か。
しかし、頭脳知だけでは世の中を生きていけないことも確か。

●トピック2「知能の一般因子(g因子)をめぐって」
*頭の良い人は、すべての領域で頭が良いか、という問題
 
2ー1)g因子(一般知能因子)の技術論的な問題
 スピアマンの「2因子説」対「サーストンの多(7)因子説」が意味することの一つに、因子分析的な解析技術の問題がある
  例 WISC-Rの因子構造(図2)
 検査問題すべての間に一定程度のプラスの相関があると、それを説明するために、g因子を仮定したくなる。
 しかし、因子の回転というテクニックを使うと、g因子が消失して(分散して)、独立したいくつかの因子しか出てこなくなる。
 さらに、斜交回転という因子回転のテクニックを使うと、相関のある一次因子、さらに、それをさらに因子分析した2次因子がきれいに出てくる。これが、群因子とよばれる物に相当する。キャッテルの結晶性知能(知識ベースの知能)、流動性知能(課題解決ベースの知能)がその例。
 現実的には、群因子あたりが知能を扱うのは有効。

2ー2)g因子の実在を想定すると発生する(観念的な)論争
「実在派」
・遺伝的な特性を反映したもの。2-3でさらに。
「反実在派;知的個性の存在を主張」
・違った能力を足し挙げて平均したものにどんな意味があるのか
 注) gは、平均を足し挙げたものではなく、関連した問題どうしの関連を    作り出している基盤にあるもの。
・なんでもできる人と、特定のことしかできない人とで、差別的な処遇がなさ れる
 ジェンセンの主張「黒人にはドリル中心の教育を!!」
  「得意なものをのばす」主張の中にある危険性

・ガ-ドナー
 測定よりも知的個性にあった教育を。トピック4さらに。

2ー3)gは遺伝特性か(知能の遺伝対環境問題)
 人種や性における心理的特性一般が遺伝によって規定されると考えるより、
知的領域によって(領域分け)、それぞれ遺伝規定性の程度も考え方も異なるとする考えが一番よさそう。領域によって、下の3つのいずれかが採用。
1)遺伝によって決定  
2)環境閾値を超えると発現(ジェンセン)
3)環境と交互作用することで変化する
 とりわけ、初期経験の影響を重視する研究が20世紀後半に続出。
  Hebb;視覚的体験の豊富さが知的能力を開発
**
コラム2「フリン(Flynn)効果」
先進諸国において、IQが30年間で平均15点も上昇した。
また、IQ140以上(天才)とされる割合でみると
    オランダ 1952年には0。38%
         1982年には9。12%にもなる!!
  フリン曰く。「これは、文化ルネッサンスだ!」
その理由は不明だが、考えられるのは、3つ。まだあるかも。
1)世代間の文化差
2)栄養状態の改善
3)問題解決能力の向上
知能も、文化的遺伝子(ミーム)によって世代間遺伝を起こしているようだ。
**

●トピック3「知能検査のねらい」
3-1)知能テスト問題のタキソノミー
○ギルホードによる立体モデル(4x5x6)
1)問題内容の提示の仕方(内容)
  図形的 記号的 言語的 行動的
2)テスト事態で要求される心的操作(操作)
  認知、記憶、集中思考、拡散思考、評価
3)心的操作の結果として達成されるもの(所産)
  単位;まとまりを作る
  類;共通したものをカテゴリー化
  関係;単位を結合する
  組織;関係の構造を作る
  変換;見直しや再解釈をする
  含意;予想や期待をする
○ジェンセンのタキソノミー(図3)

3-2)知能検査のねらいは、3つ
1)弁別する
1905年 ビネー 小学校入学段階での発達障害の弁別に
ビネーは知能を、可塑性と学習可能性に満ちた諸認知機能の集合と考えて、テスト得点の低い子供に心的能力の形を整える「精神整形論」を提唱、

2)ランクづけする
1917年 R。M。ヤーキーズの陸軍知能テストの開発と実施
・戦争が知能検査を大衆知能テストにし(グールドによる)一気に普及させた。
・集団式知能検査のひな形
  アルファ-式(言語式)、ベータ式(非言語式)
・ビネーとは別の発想の知能検査
 「普通の人々(陸軍新兵)を知能でランクづける」
   Aから Eレベルまで。D、Eレベルは、兵士として不適
***
コラム3「ヤーキーズは、知能は遺伝によって規定されると断固信じていた」
このデータを使って、人種間、職業別、学歴別、知能差をデータで示した。
 例 学校教育を受けた年数と知能との間に、0。75の相関を見出した
   ーー>ヤーキーズは、学校教育(環境)の影響とは解釈せず、「生得的      知能が優れた人ほど、学校教育に多くの時間を費やす」と結論
      注)データは、ものを語るための素材の一つにすぎない!!
***

3)知的プロセスの特性を発掘する
1983年になり、認知心理学の成果を踏まえて、もう一つの知能検査の開発KーABCが開発された。(図4)
 これによって、知能の認知プロセスにまで立ち入った診断ができることになた。

*****6/20 改訂****

●トピック4「知能検査の賢い使い方ーー”教研式サポート”
(高校生用)を例にして」

4-0)検査開発現場の一端参加して
 *大学で知能や知能検査の話しを講義はしていましたが、実際の検査開発の現場にふれて、教科書には記されていない、膨大なノウハウが蓄積されていることにびっくりしました。
「使えるデータはすべて使って、
診断したい学習適性を可能な限り診断してみる」
という基本方針で使ったものが、サポートです。

 たとえば、たった一回の検査で、工夫をすれば、ここまでいろいろのことがわかるのかを知ってびっくり。
 たとえば、診断帳票の一つに、「課題解決スタイル」というのがあります。
 これは、ケーガンという著名な発達心理学者が提案している
「熟慮型」vs「衝動型」という課題解決スタイルのタイプわけを想定したものです。ケーガンテストは、
  ターゲットの絵を数枚の絵の中から探させる課題です。

試行錯誤しながら解決をしている衝動型
じっくりと考えて解決が見つかったら答えをいう熟慮型

これを、教研式サポートでは、個人の課題解決スタイルという形でこんなデータから診断してみようというものです。
思いもよらない発想で、びっくりしました。

pptで  手引きより

そのほかにも、さまざまなデータをつかって、学習適性を診断する工夫をしています。

ppt

このすべてを紹介しますと、あと大学の講義なら1学期はゆうにかかりますので、ここでは、とりあえず、リストのみ示しておきます

4-1)サポート出力の活かし方の基本

診断と予測とがある。いずれも、子どもや保護者と一緒になっての学習、進路カウンセリングに活用するのがよい。
個人票を子どもに手渡して終わり、というのではなく、出力結果をはさんでの3者面談、2者面談的な活用である。
すべての出力結果を精査する必要はない。顕著な結果だけにとりあえず着眼しての話し合いでよい。
その際、次の点には、留意されたい。

ppt

●診断
○総合的な診断ーーー偏差値
 *偏差値(的な指標)は、「目標準拠評価」の導入によって、完璧に学校現場から追放されてしまった。むろん、そのメリットもあるが、一方では、子どもの一面が子ども自身も含めて見えなくなってしまったデメリットもある。
 比較することで見えてくるものがある。
 ・男を知るのに、女と比較してみる
 ・自己を知るのに、他者と比較してみる
 自分の学習適性を知るのに、自分がその一員である集団全体と比較してみることは、一つのわかり方としては、あってよい。

集団全体が見えないくらい大きいところでは、偏差値は、極めて有効なことは、認識しておく必要があります。

集団が40人くらいで偏差値は、測定論的にも無理。
また診断結果の活かし方も難しい。それを長年やってきたのですから、ひどいものです。
その意味では、
「教室から偏差値追放を」が正解
「学校から偏差値を追放してしまったのは、やや乱暴
「標準検査から偏差値追放は、暴挙

○個性診断

1)特徴的なところを摘出して、子ども自身に自分の知的個性のリフレクションする機会を与え、どうすればよいかを考えさせる
ポイントは、得意を伸ばすことと(特恵モデル)、
      不得意を克服すること(治療モデル)
ppt

の両面を考えさせる。とりわけ、低年齢ほど両面作戦がよい。高学年なら、特恵モデルに重点を置くほうがよいかも。
 例 「場依存」傾向が強い-->(+)状況への配慮ができる
             -->(-)余計なことに注意をとられないように                  する
   「言語領域」が得意ーー>(+)好きな作家を読み込む
            ーー>(-)映画やTVにも興味関心をもたせる
2)子ども、あるいは、教師が知りたいことをはっきりさせて、そのヒントになることだけをみる
 例 「自分はどんな方面に向いているのだろうか」
    「論理的思考力が高くて、課題解決が、慎重型で、進路予測が、理系     なら、理系への進路はかなら有望」
    「創造力が高くて、課題解決が性急型で、得意な領域は図形的なら、     進路予測た技術系なら、デザイン系、芸術系が有望」

3)組み合わせることで、こんな活かし方もある
 知能単独では見えてこないことが、他の知的特性と組み合わせてみると、見えてくるものがある。

●「相関的に」組み合わせることで
 標準学力検査と相関させることで
 オーバーアチーバー、アンダーアチーバーの検出が可能
ppt

●「直交的に」組み合わせることで
発散思考力(創造性)と収束的思考力(論理的思考力)とを組み合わせることで思考スタイルを同定できる

ppt 一部

終わりに

●20世紀後半、人工知能研究が盛んにおこなわれた
 汎用問題解決機ーー>エキスパートシステムーー>知識駆動型ロボット
 ーー>行動型ロボットーー>ヒューマノイドへと変遷を繰り返したきたが、鉄腕アトムのような「人間の知能」を実現するにはほど遠いものしか作られていない。
●その中で、人間の知能とは何かが絶えず問われ続けてきた
 ・ヒューリスティック(簡便思考)の発見とその有効性
 ・領域固有性 特定領域で有能。転移可能性への疑問
 ・身体性 頭の内部と状況とのやりとりの中で発揮され陶冶される知性

参考文献
グールド、S.J. 1996 (鈴木善次ら訳)「人間の測りまちがい」河出書 房新社
ディアリ、I.J. 2001 (繁桝算男訳 「知能」岩波書店)

無題

お母さん、宅急便の紐が年々ゆるく、
雑になっているのが心配です
(青柳直美)

自著を語る

4月30日締め切り 300文字 30文字 10行
心理学ワールド原稿
06/1/13/kaiho
朝倉心理学講座全19巻 海保博之監修

全19巻の刊行が、2005年の10月から「犯罪心理学」(越智編集)、「社会心理学」(唐澤編集)を皮切りに始まった。今年度中の全巻の発刊をめざしている。オーソドックスな心理学の領域に加えて、今後あらたな展開が期待できる領域も加えての全19巻である。日本の心理学者**名を総動員しての心理学全領域にわたる最先端知識を集大成したものである。ご期待いただきたい。すでに「認知心理学」(海保博之編集)は重版になるほどの好調さをみせている。

e-bankの口座開設したものの手続が複雑で挫折

これがやりたくて、個人メールアドレスを取得した
やっと口座番号やキャッシュカードが届いた
さて、とサイトを開いて、お金を振り込もうと
したが、そこまでの手順のあまりの
複雑さとわかりにくさにとうとう途中で挫折。
こりゃーだめだ。
大切なお金をこんなわけの
わからない手順で動かすのは危ないーー本当は
安全のためにそうしているのだがーーし、いざ動かす時に困る。
第1、暗唱番号やログイン番号やあなただけが答えられる3つの質問
なんて、おもしろいが忘れてしまったらどうするの!
年寄りはやはり対面、それがだめなら、電話だなー
あー疲れた。1時間の無駄をしてしまった!!

はじめて読者登録があった

第一号の読者登録があった。
あまりにうれしいので、サイン入り著書進呈を
したい、と思ったが、
よくよく考えたら、住所、氏名不明
だった。
うーん、これがブログのおもしろい
ところだな!!

今日の万歩計2532歩(学内散歩)
昨日のアクセル数81人

川柳

響く床
忍者歩きが
板につき
(NPO集合住宅管理組合センター)

振り込め詐欺の心理とその対策

06/1/12海保博之
30文字x27行x15p(図表を増やしたので、3p分になる)
培風館「心理学の切り口」
111112222233333444445555566666「なぜ大金を振り込んでしまうのかーー詐欺の心理学」

   海保博之  東京成徳大学教授  4月から

●はじめに
 警察庁によると平成17年の1~11月までの振り込め詐欺被害額は、226億円にもなる。
架空請求による振り込め詐欺は自分も一度、ひっかりそうになった。法律用語びっしりの請求メールをもらってびっくり仰天してしまった。すぐに学生にこんなものが来ているのだが、というと、さすがに学生はしたたかで、「自分にも来たことがあります。無視が一番です」と忠告してくれて、ほっとしたことを思い出す。
その後、こうした事件報道が多くなった頃、マスコミ関係で働いている娘宛に、葉書で同じような趣旨の請求手紙が来たこともある。娘に見せると、「思い当たるふしがある。電話してみる」と言う。「馬鹿なことをするな。無視が一番」と偉そうに忠告したやったことがある。これほどマスコミで騒がれるようになっても、事が自分に及ぶとあたふたとしてしまう。実に巧みな心理戦略が使われているからである。
本章では、まず一つの実例を追う形で、振り込め詐欺の心理戦略を解剖してみることにする、
以下、小活字ゴッシク体が事件の詳報である。その後に「解説」としたものが、筆者による心理学的なコメントである。なお、これは、朝日新聞朝刊生活欄2004年10月8日付け記事のための朝日新聞東京本社生活部・山田史比古氏による筆者へのメール取材原稿に基づくものである。
その後、振り込め詐欺にあわないための対策のいくつかを提言してみる。

●まずは、発端の電話から

 受話器を取ると、相手は、落ち着いた声の男性だった。
 「今野道代さん(仮名;64)のお宅ですか。品川警察署の者です」
「解説」
①警察という権威をよそおうことで、相手より心理的に優位に立つ。説得事態では、何より大事なことは、いかに相手より心理的に優位な立場に自分を置いておくかである。名刺も、もらうと、名前よりも先に肩書きのほうに目がいくのも、自分と相手との心理的優劣関係を確認しようとの気持ちがあるからである。
②ここで、電話というメディアが使われているところにも注目されたい。電話では相手が見えない。おまけに、耳からだけしか情報が入ってこない。情報伝達手段としては電話はかなり信頼度の低いメディアである。
「泣き声で話したので、本当に息子からの電話だったと思った」(ある被害者の証言)も、電話の信頼度の低さゆえである。
したがって、この信頼度の低さを受信者側は自分なりに補う必要がある。つまり、電話は、感情的、知的な心理的介入があって成り立つホットメディアである。クールメディアの代表であるTVと比較されたい。

●びっくり仰天、目が点、頭真っ白

 9月中旬の平日午前11時半ごろ。小平市の主婦今野陽子さんは、自宅にかかってきた警察の電話で突然、次女(28)の名前を聞かされ、驚いた。
「本日、板橋区大和町の10号線で、道代さんの車が接触事故にあいました」
「エッ、道代は?」
「解説」
①「娘の事故」と聞いただけで、母親は認知的にパニック状態になってしまう。頭真っ白、目が点。正常な思考、判断ができなくなる。これがねらいである。
 まっとうな判断ができる状態なら、簡単に話のおかしさに気がつくはずなのに、認知的パニック状態では、それができない。そういう状態にさせるのが、彼らのとりあえずのねらいである。
②心理学の問題ではないが、プライバシー情報の遺漏問題も深刻である。コンピュータを使えば、断片的な個人情報をいとも簡単に寄せ集めて、個人情報バンクを作ることができてしまう。それが詐欺師の手に渡れば、話(物語)の信憑性を作り出す一つの貴重なお膳立てとして使われてしまう。

コラム「説得にかかわる心理学用語」*****
ここで、説得にかかわる心理学用語のいくつかを、「現代用語の基礎知識」(自由国民社)より抜き出しておく。
○説得的コミュニケーション
人をその気にさせるために行うメッセージの提供である。広告やセールスではとりわけ重要である。これを効果的なものにするには、四つの考えどころがある。(1)提供者側の専門性や信頼性、(2)コミュニケーションの内容のつくり方、例えば、長所のみ(1面提示)か長短あわせてか(両面提示)など、(3)受け手の何に訴えるか、例えば、不安や恐怖など、(4)メッセージの提示方法、対面しての話術や各種メディアの活用など。
○説得への抵抗
榊博文によると、説得への抵抗の高い人(説得されにくい人)とは、自分に自信のある人、不安傾向の低い人、攻撃性の高い人、そして女性より男性である。しかし、説得の仕方や状況によってあっさりと説得されてしまうことも、また逆に、説得とは反対の方向に変わってしまうブーメラン効果も知られており、説得も一筋縄ではいかない。
○段階的要請法
セールスでは、ともかくドアの中に入れてもらえたら勝ちである。ささいなことを受け入れてもらたら、もっと大きなことも受け入れてもらえる可能性が高くなるからである。少額の入会金を納めさせてから次第に高額の買い物をさせる商法がこの例である。
○特典除去法
最初に割引きなど客にとって優利な条件を提示して購入を決めさせてから、都合で割引き率を下げざるをえないと伝えて強引に購入させてしまう。逆に、購入を迷っている人に特典を提示して購入を決断させてしまう特典付加法(もある。
******************************

●相手のペースに乗せられる

 「これから順序立ててお話します。お気持ちは分かりますが、落ち着いてよく聞いてください」
《道代はどうなっているのか、私はそれをまず知りたかったのですが、相手はたたみかけるように話を続けてきました》
「解説」
①「たたみかけて」一気に自分たちのペースにのせるのは、「バナナのたたき売り方略」である。説得方略の一つである。話のつじつまが合わないところや不審なところをどんどん新しい話を展開することで覆い隠して、自分のペースに巻き込んでしまう。疑問、質問を封じてしまう効果もある。
②「お気持ちはわかりますが」の一言も見逃せない。これも、「慰め方略」として知られている説得方略の一つなのである。
 過度に長時間、心理的に優位に立ったままだと拒否や反発や逃避をくらうこともあるので、その緩和をねらう。さらに、相手への共感を示すことで、説得事態を親和的な雰囲気にする効果もある。

●物語を作る

 「相手は自転車に乗っていて、ハラダカツヨさんという28歳の女性です」「道代さんは会社やお友達に連絡するより、まずは実家の連絡してくださいとのことでしたので、ご連絡しました。お母様ですね?」
 「はい」
《相手の説明に、はいはいと答えるしかありませんでした。ただ、道代は車の運転が好きではありません。話を聞きながら、半信半疑でした》
 「道代さんはムライアイコさんの白いバンに乗って運手していたそうです。アイコさんはお友達ですか、同僚の方ですか。アイちゃん、と呼んでいるそうですが」
 「アイコさんは同乗していたのですか?」
 「今は分かりません。道代さんは、アイコさんをかばっているのか、お話しません」
《聞いているうちに、本当に道代が運転していたのだと思い始め、だんだんドキドキしてきました》
「もう一度、詳しく話を聞かせてください」
「解説」
 詐欺は、いかにして相手に思いこませて、架空の物語の世界に相手を導くかが最大のポイントである。これに成功すれば、あとは、その思いこませの世界で、相手を自由自在に操れる。
この事例では、架空の物語を相手に作り出させる(思いこませる)ための仕掛けが巧みである。
個人情報に加えて、確認できない情報、一つは友人の車を運転、もう一つはその友人の名前を使って、物語の真実性を高めている。これなら、嘘がばれる心配はない。
 一般に、物語作りには、次のような心理的な効果がある。
1)全体に一貫性を与える
 ・事の真実性を高める
 ・細部のおかしさを覆い隠す
2)よくわかる話しで、相手の知識を活用する
 ・巻き込み効果を狙える
 ・細部を相手(被害者)が勝手に補ってくれる
3)感情を揺さぶる
 ・感情を揺さぶって、冷静な判断をさせない
 ・感情移入をさせる
・納得させることができる
②思い込みが起こるのは、目の前の状況がどうなっているかについての認識と解釈がすばやく求められる時に発生しがちだからある。たとえば、
・知らない土地でのドライブでどっちにまがったら目的地につけ
 るか
・火災報知器が鳴っている原因を知りたい
・名刺をもらえない初対面の人がどんな人を推測する
こんな場面に遭遇すると、その時その場での顕著な手がかりだけに基づいて、頭の中に状況の解釈のためのメンタルモデルを作り出し、それに基づいて自分なりの状況認識をしてしまう。これが思い込みである(図参照)。


それが、いつも不適切というわけではないが、誤ってしまうことも多い。なぜかというと、状況の中で目についた顕著な部分的な手がかりによって触発された頭の知識の一部を使った認識だからである。
振り込め詐欺では、自分たちに都合の良い思い込みの世界を強制的に作り出させる手がかりを物語の形で提示しているである。

●物語作りのだめを押す

「私は警察の者でお知らせをしています。今後は、検事からお聞きくださって、相談してください」
 「ちょっと待って。道代はどこにいますか」
 「品川の簡易裁判所の拘置されています。相手のハラダさんが東京海上火災の国選弁護人を雇われたので、電話を代わります」
 陽子さんの耳に、遠くの方で、「今野道代さんのお母さんです」と電話を代わる声が聞こえた。電話口に出てきたのは、警察官と同じ高めの声音で、やはり穏やかな口調の男だった。
「弁護士のナカヤママサシといいます。道代さんはとても優しく、まじめな方で、大変なショックを受けています。お気の毒です」

 道代さんは制限速度で走っていたが、自転車に乗ったハラダカツヨさんが横断歩道でないところを飛び出してしまった。幸い、車の正面ではなく横にぶつかったので、大けがではなかった。倒れただけだった。道代さんが車の窓を開けて「大丈夫ですか」と聞き、ハラダさんは「大丈夫」と答えた。道代さんは車から降りず、そのまま去った。
 しかし、実は女性は妊娠6カ月で、縁石におなかをぶつけたため、念のために病院へ行った。すると流産だった。本人には本当のことは知らせていないが、夫は大変ショックを受けている。結婚して4年目で待ちに待った赤ちゃんだったらしい。夫は、「妻も悪いが、心からの謝罪をやっていただかないと困る」と言っている」。
 《女性が妊娠、と聞いた瞬間に、私の頭は真っ白になってしまいました。相手が道代と同じ28歳、ということも、ますますひとごとでないと思わせました》
ナカヤマの話は続いた。
「道代さんに非はなかったとはいえ、車から降りず、走り去ってしまったのでひき逃げになります。過失致傷で6年の刑が執行されます」「裁判は第一審、第二審というのがありまして、今日が第一審です」
《ずいぶん急展開な話、とは思ったのですが、すでに気が動転していますので、問いただすこともしませんでした》
「解説」
①もはやこの段階になると、多少の疑問や不審も役に立たない。見事なまでの物語がこの主婦の頭の中に出来上がってしまっている。「相手が妊娠」の一言も物語に迫真性を加えている。
②法律用語は、法律の素人に対しては事態の真実を隠すめくらましの道具としては最適である。ある程度は意味がわかるが、かといって本当のところはわからない。何か大変なことが起こりそうとの予感を持たせるのに効果的である。さらに、そんな言葉をあやつる人は権威の象徴のように思えてしまう。これも心理的に優位に立つ仕掛けの一つである。

●さて、いかにお金を振り込ませるか

 「ただ、ハラダさんが、もし道代さんには過失はないと認めれば、***日間の拘留で済みます。けれども、道代さん側が保釈金を払えば、今日、出られます」
 《話を聞いてすぐ、道代が最近出張から帰ってきたばかりで、今仕事から手が離せないほど忙しいと言っていたのを思い出しました。また、会社に知られたら良くないとも思い、今日のうちに、と思いました》
「おいくらですか」
 「200万円です。出せますか?」
 「はい」
 「現金ですか、振り込みですか」
 「現金を直接、そちらへ持っていきます」
 「第一審は11時半にあります」
 「そちらへ向かうには、2時間近くかかります」
「お宅はどちらですか」 「小平駅です」
「解説」
①相手を思いのままに操る最終段階である。ここを失敗すると、なんのためのそれまでの苦労かということになる。
まず、娘の苦境が救うために解決策を示してやる。これが相手を動かすには必須である。
よくよく考えれば、世の中で発生している苦境の解決には、多彩な解決策があり、しかも時間がかかるのが普通である。しかし、ここでは、相手に考えさせるのではなく、こちからお金だけ払えば解決です、とずばり提示してやる。そうすれば、あれこれ考えたり迷ったりする必要がない。言うとおりに動きやすい。その程度で済むなら、かわいい娘のためにやってやろうという気持ちになる。
②もう一つここで使われている手法は、時間切迫、つまりあせらせる、というものである。「あと10分で」「できるだけ早く」とかいうセリフを使う。これによって、深く考えずに相手の言うとおりに動いてしまう。
これは、広告宣伝の手法として良く知られている「アイドマの法則」の一つを利用したものである。アイドマの法則とは、次の
5つの趣向の頭文字をとったものである。
・Attention 注意を引きつける
・Interest 利益に訴える
・Desire 欲求に訴える
・Memory 覚えてもらう
・Action 買いにきてもらう
時間切迫は、このうちactionを引き出す技法の一つなのである。「先着100名に豪華景品を差し上げます」という定型的な惹句はよく目にするはずである。あれと軌を一にする説得技法である。

●囲い込みをする
「それは無理ですね。それでは、電車に乗られる前に、こちらへ電話をしてください。私の連絡先は、(携帯電話の番号)。お金は、普通預金から出されるのですか?」
 「定期預金です」
 「普通預金ではだめですか」
 「お金がほとんど入っていません」
 「いくら残っているのですか?」
「……」
《このやり取りのあたりでさすがに、どうもおかしいな、と思い始めました》
 「では、お金を降ろしたら、連絡をください」
「解説」
 思い込みの世界に囲い込んだままにしておくことも必要である。このケースでは、お金を早く振り込ませたいために、詐欺師があせったようである。物語(思い込みの世界)の一貫性、必然性を疑わせるようなセリフを連発してしまう。さすがに、大切なお金の話になると、被害者のほうにも警戒心が沸いてくるようである。
 このケースのもう一つの失敗は、電話を無造作にを切ってしまったことである。これで、相手を思い込みの世界から一時的に離脱させるきっかけを作ってしまった。「心配ですので、携帯で逐一、そちらの状況をお知らせください。それに対応できるようにしておきますから」とでも言ってから電話を切るようにでもされたら、思い込みの世界に囲われたたままの状態だったかもしれない。

●土壇場で、詐欺に気がつく

 電話が切れた後、陽子さんは急いで道代さんの名刺を探し出し、道代さんの職場へ電話をした。
 あいにく、道代さんの姿は今見あたらない、とのことだった。道代さんの夫に連絡し、状況を話すと、そんな話はおかしいですよ、と笑われた。念のため、地元の警察署に電話をかけ、板橋区大和町に事故があったかどうか、品川の拘置所に道代さんがいるかどうか、調べてほしいと頼んだ。
 2階にいた夫が、1階で陽子さんがバタバタしているのを聞きつけて、「どうした?」と聞いてきた。
《けれども、すっかり私は慌てているので、「ちょっと待って」とこたえるので精いっぱいでした》
 すると、ナカヤマから、前の電話から5分を待たずに、次の電話がかかってきた。
「定期口座ですと、お金を降ろすときに銀行から理由を聞かれます。このように(内容覚えておらず)理由をこたえてください」
 その後、すぐに地元の警察から電話があり、板橋区の事故も拘置所の件も、実際にはない、とのことだった。
 5分後ほどに、再び電話があった。「ハラダというものです」。被害者の夫を名乗った。「待ちに待った子どもだったんです。謝罪をしていただきたい」。泣き声だった。
落ち着きを取り戻した陽子さんは初めて、その演技臭さを感じた
「解説」
 土壇場での解決である。ここで注意してほしいのは、解決は自分一人の力ではなかったところである。
詐欺師たちは、自分だけで解決しよう/しなければという気持ちにさせるような物語を作り出して、思い込みの世界への囲い込みをしようとする。アダルトサイトの接続料だとか、事故のもみ消しなどを持ち出す。このケースでも、事故が娘の会社に知られたら大変、200万円で片がつくなら夫にも内緒、自分の気持ちを娘にこんな形で示せるなら、という気持ちにさせる。したがって、夫が「どうした?」と聞いてくれても、事をつまびらかにしない気持ちを責めることはできない。
それでも、職場や警察や義理の息子への電話が詐欺被害から陽子さんを救ってくれた。
思い込みの世界からの脱出は、自分一人では無理である。ましてや、そこに閉じこめておく力が強力に働いている時には。そんな時の助けは、周囲の人々である。

●振り込め詐欺対策のいくつか
さて、こうした振り込め詐欺に引っかからないための対策を考えてみることにする。
やっかいな事には、思い込みには、「思いこんだら地獄まで」というところがある。ひとたび架空の物語の世界に入ってしまうと、そこから自力で脱出するのは極めて難しい。周囲の人々の助けが必要である。
 となると、詐欺に引っかからないためには、思い込みの世界への誘導される前に、そのおかしさに気がつくこと(水際対策)、最後のお金を出すところでの工夫(出口対策)しかない。
1)水際対策
①犯罪に関する知識を豊富にしておく
 マスコミが流すニュースは犯罪情報が実に多い。これを自分には関係ないよそ事として見る人もまた実に多い。安全性バイアスと呼ばれている現象の一つである。いろいろの危険情報を得ても、人は自分だけは安全という奇妙な状況認識を強く持つ。とことんまでいかないと危険との認識をしない。
それはさておくとしても、やはり犯罪に強くなるには、どんな犯罪がどのような手口でおこなわているかについて、できるだけ情報を収集し、知識としてもつに越したことない。なんといっても「知は力なり」である。その際、できるだけ自分に引きつけてそうした情報を収集するように心がけておくと、いざという時に役立つ。
②大所高所から状況を眺めるようにする
 思い込みの世界に入ってしまうのは、局所的な手がかりだけに強く依存してしまうからである。普段から、全体や一段高いところから状況を眺めるようにしておくと良い。
たとえば、一つの仕事をするにも、その仕事は全体のどの部分なのか、それは仕事全体にとってどんな意味があるのかなどを考えるよう習慣づけておくことである。
③多角的に見る
 一つだけの限定された見方をしてしまうことから、思い込みがはじまる。もっと別の見方はないかと自問自答してみるようにすると良い。懐疑精神、批判精神を持つことと言ってもよい。
④即断即決をしない
 とりわけ、感情が高ぶってしまっているような時には、それが治まるまで大事な決断はしないようにする。可能ならその事態から一時的に離脱する。トイレに行ってみる、人と相談してみるなどが有効である。
③考えていることを周囲の人が聞いてくれる環境を作る
 思い込みは頭の中で発生する。したがって、自分から話さなければ、誰も何が起こっているかわからない。自分の思いを普段から周囲の人に話せるようなコミュニケーション環境にしておく。話すことでみずから気がつくということもある。

2)出口対策
①間合いを入れる
「即断即決をしない」と軌を一にする対策だが、いざ行動に移す際に、一度、深呼吸でもして、さらには、これで大丈夫かの点検をしてから、行動に踏み切るようにする。
②大金の支払いはフールプルーフで
 ATMの利便性が、振り込み詐欺を支えているもう一つのIT技術である。簡単に100万、200万の大金が見知らぬ人に瞬時に送れるからこその犯罪である。
金融機関もようやく送付金額の上限設定の対策を取るようになったが、個人でもそれなりの対策を考えておいたほうが良い。
そのポイントは、フールプルーフ(fool-proof)である。大金を振り込む(動かす)際には、いつもよりやりにくくしておくことである。
フールプルーフとは、うっかりミスの防止策の一つである。無意識に何かをしてしまってついうっかりとなるのを防いだり、危ないことをしてもただちには事故につながらないようにする仕掛けである。
たとえば、ガスを使うには、ガス栓を押してから回す、ポットからお湯を出すには「解除」を押してからでないと出ないようにする仕掛けである。
我が家でも、10万円以上のお金の移動は、一言、その旨を相手に言う、という取り決めにしている。

●関連した余話を3つ
1)振り込め詐欺の被害者にみる日本人のメンタリティ(心性)
「その1;母/父子密着」
 アメリカで活躍していて20年ぶりに帰国したある教授によると、こういう詐欺事件はアメリカでは聞いたことはなかったし、起こり得ないのではないかという。
 その理由は、2つ。
 一つは、母子/夫子分離がきちんと出来ているので、成人した子供の尻拭いを親がすることはありえないというのが理由の一つ。
 もう一つは、金銭決済の方式が小切手なので、お金が決済されるまで時間がかかるというのがもう一つの理由。
後者についてはフールプルーフの話につきるのでさらなる話はないので、前者についてさらに一言。
北海道のある新聞の記者から、自分の母親が振り込め詐欺にあいそうになった。ついてはコメントを、と言われた。彼の母親いわく。「振り込め詐欺ではないかとは思った。でも、200万円で片が付くなら、安い授業料だと思って振り込むつもりだった」。
「その2;リスク感覚の欠如」
 関西人は、振り込め詐欺にあまり引っ掛らないらしい。また、もっぱら、専業主婦や高齢者が被害者になってしまう。
 そこには、リスクに対する感受性の欠如があるように思えてならない。商売をしている人なら、そんなことはまずありえない。金銭の移動に関しては最大限のリスク感覚を発揮するように習慣づけられているからである。
100万円単位のお金の振り込みには、崖から飛び下りるようなリスクがあると思うのだが、いかに大切な人のためとはいえ、いとも簡単に振り込んでしまう。

2)なぜ何度も振り込んでしまうのか
 セールスなどの技法の一つに、「段階的要請法」というのがある。小さいことをまず受け入れさせてから次第に大きなもの(本物)を買わせるのである。まず低い障壁を越えさせるのである。
 昨日の新聞には、28歳の女性が、12回にわたり、1200万円を振り込んだ詐欺が報道されていたが、そのテイクニックがまさに段階的要請法だった。最初から1200万円振り込めと言われれば、誰しもが逡巡してしまう。まずは、手付けとして10万円、と言われれば、それならとなる。

3)思い込みをしやすい人
思い込みをしやすい人とそうでない人とがいる。チェック欄でみずからの思い込み度をチェックしてみてほしい。
無論、詐欺被害にひっかるのは、その人にだけ責があるというつもりはまったくない。被害にひっかりそうな人と状況とをうまくかみあわせて、一人の人を追い込むのが詐欺犯罪である。蛇足であるが、付け加えておく。

チェック「自分の思い込み度をチェックする」*******
次のリストに従って、自分の思い込みやすさを判定してみよ。

1)直感的判断に頼ることが多い( )
2)理詰めで考えるのは嫌い( )
3)判断に迷うことはあまりない( )
4)人と相談することはあまりない( )
5)何ごとも自分なりに納得しないと我慢ならない( )
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