「 民族学者の発想 人間のいとなみを語る 」
梅棹忠夫 ( うめさお ただお 1920~2010 )
株式会社平凡社 1993年7月発行・より
いまうかがいながら、思い浮かべていたのは、
南アフリカとかアメリカ合衆国などの開拓時代には、
知と教養はすべて女性なのですね、記録を読むと。
男はとにかく力で木を切って土地をひらいて農地を開
拓したり、牧場を作ったりしていく。
そうすると、村に残って子どもを教えたりなんやらかん
やらというのは、みんな女のひとなのですね。
梅棹 ところが、にもかかわらず開拓時代に農書というものが、非常に発
達する。
農業雑誌です。
そして、アメリカの開拓地にまず出来るのは図書館です。
これはちょっと逆みたいだけれども、おもしろい。
すべて実用的なのです。
なんの種は何月何日にどういう地面に蒔くとか、そういう知識が要
求される。それが要るのです。
それでどこの村でも、まず小さい図書館ができる。
それはもちろん、女が子どもの教育の為ということもあったでしょう
けれども。
おなじようなことが、ブラジルにおける日本移民にもあって、日本
移民が農業移民として非常に成功したという裏には、日本人はみん
な字が読めるということがあった。
それで勉強して、雑誌でおたがいに農業の技術を錬磨した。
農業技術がほんとうの辺境まで伝播していく。
それで成功したということがある。
字が読めるというのは、教養なのかどうか知らないが。
9月30日の猿沢池付近