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川崎市アートセンターで上映中の特集「ソビエト時代のタルコフスキー」で「惑星ソラリス」を鑑賞。
初めて観たのは今から約30年前のリバイバル上映のとき。その時以来の再見。
日本初公開は1977年。その頃はアメリカで「スターウォーズ」が公開され空前の大ヒットを記録。日本の映画界でもSFブームが巻き起こりつつある時代の中での公開だったが、僕も含め非常に難解な内容に戸惑った観客は多かったはず。
それでもなぜか不思議な魅力があり、強烈な印象に残った作品だった。
SF映画の金字塔と評されるこの作品だが、今回久しぶりに見直してみて感じたのは、この映画はSFというよりは信仰についての物語だな、ということだ。
スタニスワフ・レムの原作小説は紛れもないSFだが、映画化にあたってタルコフスキーは、冒頭とラストに原作にはない地球での主人公の故郷のシーンを入れている。
実は僕がこの映画の中でいちばん好きなのは、冒頭で主人公が自宅の近くの水辺にたたずんでいるシーンだ。清流の中で揺らぐ水草と、水の流れる音。静かで何気ないシーンなのだが、見ていてとても心地よい。
この場所はエンディングでも出てくるのだが、主人公の故郷への郷愁や両親との思い出など、彼の人生の核心を表している場面なのだと思う。
映画の舞台となってい惑星ソラリスの海は、人間の思い実体化して宇宙ステーションに送り込んでくる。主人公の男は10年前に自殺した妻が現れたことに戸惑い、最初は彼女をステーション内にあるロケットに閉じ込め、宇宙へと飛び放ってしまう。しかしその後もソラリスの海は妻を実体化して送り込んでくる。
やがて主人公の男は、その妻を本当に愛するようになっていく。
ソラリスの海は、取り戻すことのできない人間の後悔や良心や郷愁を実体化する。
それはある意味その人にとっての懺悔なのではないだろうか。
映画の中では、しばしば宗教的なイメージが登場する。
そもそもテーマ曲として使われているのがバッハのコラール前奏曲 『イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ』だ。この曲が物語のポイントとなるシーンで象徴的に流れる。
映画の最後、故郷の自宅の前で、父親の前で膝まづく主人公の姿も、宗教的なものを感じさせる。
タルコフスキーの映画は「祈り」についての映画なのだな、と改めて強く感じたのでした。