帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

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問題作にして必見!「異端の鳥」

『異端の鳥』

 

 2時間のリハビリトレーニング後に、約3時間のこの映画は重くてかなりしんどかったけど、それでも見入ってしまった。

 自身もホロコーストの生き残りである、ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した「ペインティッド・バード」を、チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督が11年もの歳月をかけて映像化。

 群れの中の鳥の1羽に色を塗って群れの中に返すと、他の鳥たちは色を塗られた鳥(Painted bird)を異質なものとして攻撃し、排除しようとする。

 同じ人間なのに、人種が違うというだけで迫害され、虐待される少年。その姿はまさに“Painted bird”だ。

 第二次世界大戦中の東欧のどこかの国。ナチスのホロコーストから逃れるため、両親から離れ一人で疎開させられた少年。ところが疎開先で世話をしてくれていた老婆が突然死したため、一人で行く当てのない旅に出る。

 行く先々で受ける不条理な暴力と虐待。そして人間の性や欲の醜い側面を見せつけられ、少年は徐々に心を失っていく。

 物語の残酷さとは逆に、モノクロのシネマスコープの画面で映し出される映像は最後まで美しい。

 またエンドクレジットを除き、音楽は一切使用せず、自然の音だけにこだわっている。

 その映像と音の繊細な美しさへのこだわりが、少年の過酷な運命をより一層際立たせている。

 物語のベースになっているのはユダヤ人への迫害だが、これは歴史を語った物語ではなく、現代にも通じる普遍性を持っている。

 それは群衆が持つ異質な物を徹底的に排除しようとする姿勢だ。そう、まさにSNS全盛のこの時代で起きていることだ。

 特に明確な根拠も理由もなく、自分たちとは違うというだけで恐れ、拒絶し、排除しようとする心理。同調圧力もこうした心理から生じるものだと思う。

 そしてそれが現代ではネットを通じて、瞬時にして世界中に拡散する。

 “Painted bird”は今もあらゆる場所にいて、苦しみ、助けを求めている。

 心穏やかに見られる作品ではないが、こんな時代だからこそ観ておくべき意味のある映画。

「鬼滅の刃」が日本を躍らせる

 今日は「鬼滅の刃」23巻(最終巻)の発売日でした。
 今朝の全国紙5紙(朝日・読売・毎日・産経・日経)には、それぞれキャラクターが違う各4ページの全面広告が載っているということで、ファンが早朝から新聞を求めて駆けずり回ったそうな。
 我が家の購読紙は東京新聞なので、「鬼滅の刃」の広告はなし。
 「ちぇっ、つまんねぇなぁ」と思っていたのですが、すぐ近所に住む義父の購読紙が読売新聞だったことを思い出し、電話をかけて確認したら、持ってきてくれました。
 読売新聞は竈門炭治郎・栗花落カナヲ・悲鳴嶼行冥の3名と5紙共通の吾峠呼世晴さんのメッセージ。

 

 

 
 僕は悲鳴嶼さんの「誰が何と言おうと 私は君を認める」という台詞が好きです(笑)。
 それにしてもこれだけの規模の全面広告と話題性は、過去にあったでしょうか?
 
 出社してネットでニュースをチェックしていると、朝から全国の書店で「鬼滅の刃」の最終巻を求める人の行列ができているとのこと。
 ならば!と昼休みに三省堂書店神保町本店に行ってみました。入ってすぐのところには、最新刊が山積みになっていました。
 
image
 
 「お一人様1冊」という注意書付き。普通は1冊買えば十分なはずなのですが、転売目的で複数買いしようとする不届きものがいるんでしょうね。そんな奴は鬼に喰われてしまえ!
 同時発売のフィギュア付特装版はすでに売り切れ。
 見ていると、次から次へと入ってくるお客さんが取っていき、見る見るうちに本の山が小さくなっていきます。
 そしてレジの前には、今まで見たことがないような長い行列が!小池都知事が見たら卒倒しそうな光景です。今日は日本全国の書店で同じような光景が見られたんでしょうね。
 そんな日ではありましたが、僕は「鬼滅の刃」は手にとらず、同じく今日発売の「このミステリーがすごい!2021年版」を、「鬼滅の刃」行列のない東京堂書店で買いました。
 あ、もちろん23巻はちゃんと買いますよ。もっとも週刊少年ジャンプでの連載中に読んでいたので、ラストは知ってるけどね。

 

 

 

 

 

 

17歳の目に映るこの世界「浄土るる短編集 地獄色」

『浄土るる短編集 地獄色』

 

 今日紹介するマンガは、素直におススメとは言えない問題作。

 この作品を知ったのは、いつもこのブログを読んでいただいているあるブロガーさんのブログ。このマンガを読んだ衝撃がストレートに書かれていて、ものすごく気になり買って読んでみた。

 そのブロガーさんが書いていたように、これはとんでもない作品。作品自体は2年前に描かれSNSで話題になっていたそうだが、著者は当時17歳!なぜその歳でこんな物語が描けるのか!?

 内容を一言で述べると、一人の人間であろうとした人が、同調圧力の中で群衆に飲み込まれ、自我を失っていく物語。それはまさに今の社会を反映している。

 SNS社会の中にあっては、他と逸脱した行動を取ろうとした人は、その行為の良し悪しとは関係なく、炎上という形で徹底的に叩かれ、吊し上げられる。そんな現代社会がこのマンガには表現されていると感じた。

 全部で4つの作品が収録されているが、どれも後味は良くない。

 この作品を描いた著者が当時17歳ということにも驚かされるが、それよりも何よりも、そんな若者にこんな作品を描かせてしまう今の世の中って、一体どうなんだ!?と思ってしまう。今の若者の目に、この世の中はこんな風に見えているのだとしたら、この世の中を作ってきた僕たち年長者は大いに反省しなければいけない。

 特にこのコロナ禍の世界にあって、なんとしても未来に希望が見える世の中を作っていかなければならないね。

リンゴの美味しい本屋さん

 今日はすずらん通りにある書店「無用之用」へ。
 お目当てはリンゴ!
 なぜ本屋さんでリンゴ?
 7月にこの書店について書いたときに、このお店の店長の片山さんが、以前神保町でリンゴ屋さんをしていたと書きました。
 ご兄弟がリンゴ屋さんをやっていて、その関わりで期間限定でここでもリンゴを販売しているのでした。
 リンゴは青森直送の新鮮なもの。赤と黄色の2種類が売られていました。
 

 

 
 先週末から販売し始めたところ、すでに半分くらい売れてしまったとのこと。
 それぞれ試食させていただきました。どちらも甘くてみずみずしい、美味しいリンゴでした。
 3個ずつ買いました。
 片山さん曰く、冷やして食べると美味しいとのこと。
 帰宅後、早速冷蔵庫に入れました。
 明日のデザートとして楽しみに寝かせておきます。
 

 

 

おさんぽ神保町と新メニュー

12月になりました。
新型コロナウイルスの感染拡大は未だ収まる気配はありません。新しい日常を淡々と過ごすしかないですね。
昼休みに三省堂書店に行って「おさんぽ神保町」というフリーペーパーをもらってきました。
 
 
 例年は10月下旬から11月上旬にかけて神保町で開催される「ブックフェスティバル」の特集号なのですが、今年はコロナ禍により「ブックフェスティバル」が中止に。僕も30年以上の神保町生活の中で中止は初めてでした。
 そのためこの号では「ウィズコロナを生きる神保町の人たち」という特集で、神保町を代表する各業種の人たちが、このコロナ禍の中でどう商売を続けてきて、何を考えているのかを語ってくれています。
 取り上げられているのは三省堂書店、岩波ホール、サクラホテル神保町、ブックハウスカフェ、矢口書店、スマトラカレー共栄堂、さぼうる。皆さん苦労しながらも、独自のアイデアで経営を続けています。
 また皆さん、コロナ禍に対して一家言をお持ちで、さすが神保町の住人!と感心してしまいます。神保町のいろんなところに置かれていますので、機会があればぜひ手にとってみてください。
 
 ランチは久しぶりに三省堂書店の地下1階にある放心亭へ。表に写真付きで出ていた新メニューの神保町ハヤシ・カレーライスが気になって注文してみました。
 
 
 ご飯を真ん中に、両側それぞれにカツカレーとハヤシライスが盛り付けられていて、両方の味が楽しめます。元々肉料理は得意な店なので、カツはサクサク、ハヤシライスに入っているビーフは、香ばしく焼かれていてます。
 神保町に立ち寄りの際はぜひ!
 
 

 

来年の全国公開に向けて始動!「ある殺人、落葉のころに」

『ある殺人、落葉のころに』

 

先月観た映画なのだが、これはぜひ紹介しておきたい1本。

10月にイオンシネマ茅ヶ崎のみでひっそりと公開された。

この映画のことを知ったのは、よく通っている川崎市アートセンターに置かれていたこの映画の上映チラシ。読んでみると、神奈川県の大磯を舞台にしたミステリアスな作品とある。

大磯は僕の嫁さんの出身地で、僕自身も隣の平塚に大学を卒業するまで住んでいたので、馴染みのある場所。

直感で「この映画は観ておかないと!」と感じ、嫁さんにも教えてあげると、ぜひ観てみたい!というので、茅ヶ崎まで観に行ってきたのでした。

日曜の夜の上映だったので、観客は僕たちを含めて5名。でも初めて行ったイオンシネマ茅ヶ崎は、広くて綺麗でバリアフリーで、座席の配置も車椅子に都合がよく、良い劇場。

 

さて、映画はというと、これがなかなかセンスの良い出来。

大磯を地元とする4人の若者たちが主人公。高校時代から連れ合っている仲間たちだが、そのうちの一人、土建屋の息子が他の3人に仕事を工面してやっていることから、微妙な力関係が働き始めている。

徐々に狂い始めアンバランスになる人間関係と、やがて訪れる悲劇、かと思いきや・・・!

これ以上はネタバレになるので書けない。

ラストは正直もう一捻り欲しかったなあと思うが、それでも全編を通じて監督の才能を感じさせ、飽きさせない。

出演者たちも無名の若手俳優ばかりだが、それぞれが存在感があり、印象に残る。この手のインディーズ作品は、俳優で残念に思うことも多いのだが、この作品に関しては、出演者たちに魅力がある。いずれ他の映画やドラマなどで注目される人が出てくるのではないだろうか。

そして舞台となった大磯。僕自身も記憶にあるような風景がいくつか出てきたが、こうして映画の舞台になってみると、実にミステリーに合った場所なんだなあ、と見直した。

雰囲気としては、僕の大好きなエドワード・ヤンの「恐怖分子」を匂わせるようなところがある。

 

この作品、本日までクラウドファンディングを行なっていた。来年、全国公開に向けてのプロモーション費用を集めるためのものだ。最終日の今日、めでたく目標金額に達成し、いよいよ来年の全国公開に向けて動き出す。

僕も嫁さんと一緒にクラウドファンディングに協力した。

全国公開でどんな評価を受けるのか楽しみだ。

 

 

第3部が待てない!!「三体II 黒暗森林」

劉慈欣「三体II 黒暗森林」

 

 

 中国で3部作合計で2100万部以上を発行し、アジアのSFとしては初のヒューゴー賞を受賞した話題作の第2部。

 昨年邦訳され発売された第1部にも度肝を抜かれたが、この2作目はさらにスケールアップした面白さ!!

 中国人のエリート女性科学者が宇宙に向けて秘密裏に発信した電波を、惑星〈三体〉の異星人が受信。彼らの星は滅亡の危機に瀕していた。そこで三体の異星人は地球に向けての侵攻を開始する。

 ここまでが第1部なのだが、中国の文化大革命から始まり、謎のVRゲーム〈三体〉や、ナノテク、量子コンピューターなど、一見敷居の高そうな題材を用いつつ、SFが苦手という人でもハマりそうなエンターテインメント性の高さで、グイグイ読ませる。

 そして待望の第2部は、いよいよ異星人の艦隊が地球に向かってくる。彼らの科学力は地球のそれを遥かに凌駕していた。しかし、彼らの科学技術をもっても、地球到達までには約400年(!)かかる。

 その間に地球人は急いで科学技術を発達させ、彼らを迎え撃つ準備を整えようとする。ところが三体の異星人は、艦隊が地球に到達するのに先んじて、“智子(ソフォン)”というナノコンピューターを地球に送り込み、地球人の計画を監視し先読みし、地球の科学力の発達を抑え込もうとする。

 それに対し地球人は「面壁計画(wall fencer project)」を発動する。これは全人類の中から選ばれた軍人、政治家、科学者などの4名の「面壁者」が、三体人はもちろん、地球人にも悟られないように三体の侵攻を打ち破る作戦を立てるというもの。“智子(ソフォン)”は地球のあらゆるところにいて、人類の全てを監視しているが、人の思考までは読み取れない。

 面壁者と三体文明との究極の知恵比べが始まる。

 ところがところが、ここまでが上下巻のうちの上巻までの展開。下巻では予想だにしない展開が待っている!

 

 異星人による地球侵略というのは、SFにおいては定番のテーマで、これ自体には何の真新しさはない。でもこの「三体」は、地球侵略までに400年以上かかり、その時間的スケールのために人類が直面する政治的、倫理的、科学的問題がリアリティを持って描かれる。

 異星文明との対決であると同時に、人類が初めて経験する地球の存在意義を自ら問い直す戦いでもある。

 そのためSFエンターテインメントという形を取りながらも、現在地球が直面している世界的な問題ともつながるところもあり、示唆に富む内容となっている。そんなところもこの小説が多くの人々を惹きつけて離さない理由ではないだろうか。

 物語は驚愕のラストを迎えるが、さらに驚くべきは、まだ完結していないということ。

 来年の上半期には完結編となる第3部の邦訳が出版される予定だが、一体どんな展開になるのか全く想像ができない。

 とにかく待ち遠しくて仕方がない!

 

 

仲野太賀のダメっぷり、吉岡里帆の強さにやられる「泣く子はいねぇが」

『泣く子はいねぇが』

 

 予告編を観て、気になっていた作品。近所のシネコンで上映が始まったので、3連休中に観てきた。

 これが予想をはるかに上回る良さだった!

 

 たすく(仲野太賀)は、娘が生まれたばかり。でも父親としての自覚があまりなく、そんなたすくに妻のことね(吉岡里帆)は苛立ちを感じていた。

 大晦日の夜、たすくは毎年ボランティアで参加している地元の伝統行事「ナマハゲ」に例年通り参加しようとする。ことねはそのことに不満を募らせるが、「酒を飲まずに早く帰る」ことを条件に渋々承諾する。しかし実際には酒を断ることができずに泥酔したたすくは、「ナマハゲ」の面をつけたまま全裸で街中へ走り出し、その姿がナマハゲの取材に来ていたテレビで全国放送されてしまう。

 2年後、この事件がきっかけでことねからも地元の人々からも愛想を尽かされたたすくは、逃げるように東京で暮らしていた。しかしそこでも居心地の悪い、悶々とした日々を送っていた。

 そんなある日、故郷の親友の志波(寛一郎)からことねの父親が亡くなり、彼女は水商売で生活をしていることを知らされる。そのことを知ったたすくは、ようやく自らの過ちと向き合い、故郷に帰る決意をする。だが、故郷はそう簡単に彼を迎え入れてはくれなかった・・・。

 

 深刻な内容ではあるが、仲野太賀のとぼけたキャラクターとダメ男っぷりが、時折クスッとした笑いを誘う。

 そして大人になれない、父親になれない男を、リアリティのある演技で好演。

 これは決して特別な出来事ではなく、誰しもが経験する通らなければならない道。そしてみんながみんなうまく行っているわけではない。多かれ少なかれ、大半の人々はたすくのように苛立ち、悩んでいるのではないだろうか?だからこそ観ていて、共感できる場面も多いように感じる。

 ことねを演じる吉岡里帆もいい。結婚と子育ての現実に打ちのめされる陰のある女性を、これもリアルに演じている。これまでも多くのドラマや映画でその演技力を磨いてきているが、これは彼女の代表作になるのではないだろうか。

 彼らを取り巻く人たちも、存在感のある演技を見せ、印象に残る。

 これは一重に監督・脚本の佐藤快磨の力量によるもの。これまでいくつかの短編作品を発表してきているが、この作品が劇場デビュー作品になる。とにかく脚本が良い。会話にリアリティがあり、自然と物語の中に引き込まれていく。

 そして物語のモチーフとなるナマハゲ。タイトルにもあるように「泣く子はいねぇが!」と大声で叫びながら、大晦日の夜に子供のいる家に上がり込み、小さな子供達を怖がらせる。この「泣く子」は、そのまま主人公のたすくにも重なっている。そしてこのナマハゲが、彼が父親となる姿を象徴しており、それを描いたクライマックスが見事。

 秋田の風土を美しく映し出すカメラも素晴らしい。

 今年見逃したくない1本。

草彅くんのファンの熱量に感動!

 先日「ミッドナイトスワン」の感想をこのブログに書いたところ、何とブログ開始以来1日での最大アクセス数を更新しました!

 まあ、とは言っても人気ブロガーの方々のアクセス数と比べれば大した数ではないと思いますが、それでも普段のアクセス数の40倍くらいになったので、庶民ブロガーからすれば驚くべき数字です。

 Twitterにもこのブログを書いたことを投稿したのですが、こちらも僕にとっては過去最高のリツイート数になりました。

 実は2年前に草彅剛くんの舞台「バリートーク」の感想を書いたときも、今回ほどではありませんが、アクセス数が跳ね上がりました。

 草彅くんのファンの熱量にあらためて感動してしまいました。

 ブログにアクセスしてくださった方、Twitterをリツイートしてくださった方、ありがとうございました!

 僕は決して熱心な草彅くんのファンというわけではありませんが、新しい地図での活動を始めてからの彼は、明らかに俳優としての幅を広げてきている気がします。

 これからも草彅くんの活躍には注目していきたいと思います。

俳優・草彅剛の実力に魅せられる「ミッドナイトスワン」

『ミッドナイトスワン』

 

 周囲でこの映画を観た人たちがみんな絶賛していて、気になっていた作品。昨夜ようやく観に行けた。

 

 草彅演じる凪沙はトランスジェンダーで、新宿のニューハーフクラブで働いている。広島の実家にはそのことを隠している。

 ある日、広島に住む親戚の娘・一果を一時的に預かってくれと依頼される。彼女は実の母親に虐待されていた。

 凪沙は嫌々ながらも仕方なく一果を預かり、突き放した生活を始める。

 しかし一緒に暮らす中で、一果も自分と同じように居場所がなく、自分の存在の意味を見つけらずに傷付き、もがき苦しんでいることを知る。

 やがて凪沙は一果が内緒で通っていたバレエ教室で、彼女がバレエダンサーとして類まれな才能と可能性を持っていることを知らされる。

 凪沙は彼女の人生を後押しするために生きることを決める。

 

 凪沙を演じる草彅剛の圧巻の演技に魅せられる作品。

 一果との距離が縮まるにつれ、最初は彼女に大して冷たかった視線が、少しずつ母親の慈愛に満ちた眼差しに変化していく様子を繊細に演じ、観ているこちらも彼が男性であることを忘れてしまいそうになる。

 しかしありがちな感動物語にせず、現実にあるトランスジェンダーへの差別や、育児放棄といった現代社会が抱える問題から目を背けず、ストレートに、時に残酷に描いているところに、この映画を製作したスタッフの覚悟が感じられる。

 実際、この映画への評価は賛否両論で二分しているとも聞く。

 確かに実際のトランスジェンダーなどLGBTの当事者や関係者から見れば、納得できない場面もあるのかもしれない。僕自身もこの問題をちゃんと理解しているとは言えないので、安易なことは書けない。それでもこの映画からは、LGBTに限らず、一方的な常識で自分の生き方を理解してもらえず、道を探し求める人々の苦しみが伝わってくる。同時にそんな人たちに寄り添い、手を差し伸べる人たちの優しさにも満ちている。

 草彅剛に引けを取らない存在感を見せているのが一果を演じる服部樹咲だ。幼少の頃から数々の受賞歴を持つバレエの実力者だが、演技はこれが初めて。深い闇を抱えながらも、凪沙との出会いで心を開き、自分の可能性に賭け、未来に向かって前を向く姿を感動的に演じている。

 特に彼女のバレエを踊る姿は、様々な闇や問題を抱える新宿という舞台の中で、鮮やかな光を放っている。そしてその光が、草彅演じる凪沙を輝かせている。

 この二人の見事なタッグが、この映画を素晴らしいものにしている。

 それにしても草彅剛の俳優としての進化には目を見張るものがある。2018年に観た舞台「バリーターク」でも彼の演技力は強く印象に残ったが、この作品でさらに新たな扉を開けた感がある。

 これからも俳優・草彅剛からは目が離せない。

 

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