「骨と鎖」

永田修矢「骨と鎖」(『群像』2026年6月号所収)を読みました。
第69回群像新人文学賞当選作。
この小説には陸と汰月と言う二人の少年の小学校6年生から中学校2年生ぐらいまでの日々が描かれているのですが、小説の中盤までは汰月が陸よりも上の立場にいて一種同性愛的な雰囲気が文章のあちこちに漂っていたのに、ある日の夜に陸が同級生を殺した事により汰月は自分が壊れてしまい引きこもりになる(が後に学校に通うようになる)一方、陸は何かにつけて暴力的になると言う展開は(個人的には登場人物の性格設定の変更はないと思っていたので)意外で驚くと同時に、リカやユウマと言った他の登場人物達の性格設定や陸や汰月との関係についての描写等は読んでいる間首を縦に振らざるを得ないなと感じる場面が多かったです。
ただ、小説の中盤に出てくるバーでの陸と友人達の行動の描写も含め、全体的にもっと熱があればより良かったのではないかと感じました。
ああ、小説の終盤に出てくる汰月が描き終わり陸に見せた絵が(個人的に)気になるなあ…。
「敗北」
この小説は、「『渋谷区にある警察署の四人部屋に二十日ほどいた』(117頁)事がある主人公は、マンションの家賃収入で暮らしている母のいる北海道の町に戻り、折につけて自分自身の過去を思い出しながら行動パターンが一定の規則正しい無職の日々を送っていた。そんな中、『今季最強寒波』(138頁)が到来した日、マンションの前室でストーブが点かない状況になっている事が分かったにもかかわらず、ダウンを着て家賃を掴んで外に出た主人公は新千歳空港行きのバスに乗り込むが…。」と言った内容なのですが、かつては髪をピンクに染めていたのに(小説状の現在は)毛を染めていなかったり、(「Russian Hardbass」(128頁)が流れる)渋谷区のパーティーに参加した過去を持ち、「国際コミュニケーション英語能力テストで満点の半分以下のわたし」(135頁)と(小説の中で)表明する私の存在や、大学ができたからか変な人が増えたと話したり差別について気にしたりしている母親の存在があるのに加え、通常の小説に比べて“罫線”や“升”と言うの登場頻度が高いからでしょうか、小説全体に不穏な感じが漂っているように感じ、読み進めるのが若干苦痛な瞬間がありました。
とは言え、個人的には小説の中にしばしば登場する「渋谷区にある警察署の四人部屋に二十日ほどいた」事に関する事項のあれこれが強烈で印象に残りました。
母が示談金を払ったから警察署から出られるようになったと(小説には)書かれていますが、一体どんな事件で、どのぐらいの金額だったのでしょうか。
小説の本筋とはほぼ関係なく、個人的興味が満載で本当に申し訳ないですが…。
「悪い血」

鈴木涼美「悪い血」(『文學界』2026年6月号所収)を読みました。
この小説には、最近妊娠が分かった主人公・茜が、検査をされた日の夜中、産院の処置室に残してきた(と彼女が考えている)管四本分の血を取り返そうと産院に向かい、建物の中を歩く際に浮かんだ過去の思い出が主に書かれているのですが、主人公の高校中退から風俗店で働いた後、モデル事務所に所属すると言った過去の内容に「この作家ならこの程度は書くかもな。」と思いながらも、その中に登場する主人公と関係を持った男性達の性格や行動にまずげんなりしました。
そして、最後まで読みきるのは正直苦しかったこの小説の内容を(自分の中で)十二分に消化できたかは自信ないのですが、様々な風俗店のサービスの違いや折につけ連絡はしていたものの若くして死んだ美玖や幼い頃に仲が良かったせい子との思い出の描写等は読んでいて色々と思い浮かび、心が乱されてしまう事が多かったです。
…とまあ、読書中はあれこれ考えざるを得なかったのですが、生きている間は積極的には喋らなかったと主人公が語る(明らかに主人公自身が作り出したであろう、自分を責めるなと言う)父親と、朝主人公を無理やり歩かせたりしつつも主人公のことを気にしている麻子の存在が個人的には印象に残りました。
