F9の雑記帳 -8ページ目

「ごみのはての」



 佐々木陸「ごみのはての」(『文藝』(2025年秋号所収)を読みました。
 この小説の大まかな内容は、“便利屋として独立して五年、主人公の佐竹扶(タスク)はゴミ屋敷と化している天原家の清掃を依頼された。その日、不運が重なり人には簡単に明かせない秘密を抱えることとなった彼は、手管を使って集めてきた四人の男(馬場、江田島、韮崎、浜松)とともに作業を進めていく。彼らがそれぞれのやり方で作業を進めていく中、午後皆が昼食を摂り終え作業を進めるうちに想定外の事態が突きつけられる。そして何の因果か、闇バイトの三人の強盗もやって来てしまい…。彼らは果たしてどうなるのか。”と言ったものだと思うのですが、登場人物の一人の名字(や名前あるいは呼ばれているあだ名)が各章の題名となっている上、各章で登場人物の考えや思いもかなり細かく描写されているのは個人的には結構斬新だと思う一方、小説の本来の筋立てとは別に、一息つく暇もなく次から次に新たな展開が待っているのは(個人的には)少しやりすぎなのではないかと感じました。
 そして、舞台が舞台だから若干気持ち悪い描写があるのは仕方がないのでしょうが、最後までその濃度が変わらず、最後に凄惨な状況と可笑しい状況が並置されているのは勘弁してほしいなと思いました。

「一、ニ景」/「モヤとチアーズ」



 井戸川射子「一、ニ景」、金原ひとみ「モヤとチアーズ」(『群像』(2025年10月号所収)を読みました。
 どちらの小説も長くなく、あまり時間をかけずに読み終える事ができました。
 以下、二つの小説の感想(めいたもの)を書いておきます

・「一、ニ景」:この小説は、交換留学生として来日中のロブ(※少年の家でホームステイしていない)と少年の日本での交流の様子を描く前半部、少年が交換留学生としてロブの家でホームステイをすることになってからの交流を描く後半部で構成されているのですが、少年が住んでいるのが渡し船が観光の目玉になっている地域、ロブが親の再婚が原因で妹二人弟二人を世話しないといけない等と言った割に自身を投影して読みやすい(と個人的には感じる)設定にも関わらず、内容がなかなか頭に入ってこずガッカリしました。日本では少年とロブの2人でカラオケしたり、少年の父と祖父の間の意外な話をロブが聞いていて少年が驚く、アメリカではロブの家で少年がゲームや洗濯をしたり、少年がお土産を渡すタイミングを計り損ねていたり、ロブの父親との買い物や買い物の途中で見知らぬ少年に出会う等々、内容的にはかなりボリュームがあり読めば面白いはずなのに読んでいて頭に入りづらかったのは、もしかすると文章のリズムが原因のひとつなのかもしれません…。

・「モヤとチアーズ」:この小説は、“主人公である作家の青島は、彼女への密着取材を担当する記者(スクミン)が打ち合わせの際に発言した言葉に対して嫌悪感を抱くが、彼女の夫や(青島に心の中で“シルコ”と呼ばれるまでになってしまった)母親に対する感情を思い出したり、女性四人での飲み会で彼(スクミン)を話のネタにしたり、密着取材の打ち合わせの際の発言を彼女たちに向けて言う等の行為により彼(スクミン)に対する感情が変化していくが…。”と言う内容で、小説の序盤は金原ひとみらしくない表現があるなと感じたものの、読み進めるうちに面白くなると同時に人を傷つける事の強さを考えさせられました。しかし、終盤の自分の弱さに気づいた青島の心象風景の描写に寂しくなりました。ああ、タイトルはそういう意味だったんですね…。

「はくしむるち」



 豊永浩平「はくしむるち」(『群像』(2025年10月号所収)を読みました。
 この小説には、「生まれも育ちも生粋の沖縄人(ウチナーンチュ)」(15頁)である中村行生と、(小学生の時に転校してきた)漆間瑞人の小学生から高校卒業前までが、(桑江)円鹿や未祐ら友人達をはじめとした周囲の人々との関係も含めて細かく描写されている一方で、喫茶店の「赤インコ」を経営する(中村行生の大伯父である)中村修仁の経験と、戦中戦後の沖縄の様子も(暴力的な要素も含め)描写されていて、読書中小説の持つ熱に煽られてなのか、何度か息が詰まりそうになりました。
 しっかりした下調べに支えられた登場人物の個性の強さの描写、桑江円鹿が主役をやったこともある「朝薫五番のうちの『執心鐘入』」(28頁)と言う組踊、この小説の中での重要な構成要素の一つである(「☓☓小学校女子偏差値全集」の略称だと小説には書かれている)「全集」の存在…、こういったものたちが上記のように感じた原因なのかもしれません。
 もっとも、(徐々にではありましたが)読み進めるにつれて、小説の中に頻繁に現れるオタクな部分も含めて面白さと迫力は増したので、結果オーライなのかもしれませんが。
 また、読んでいる間タイトルの意味が分からず、読み終えた後でページを行きつ戻りつして発見した時、物凄く恥ずかしい気分になりました
 ああ、”はくしむるち“は「白紙もどき」(45頁)と言う事だったんだ…。
 そして、この小説は単行本になった時、小説の存在感と与える衝撃は大きいかもしれないと思いました。