『マンスフィールド・パーク(上)』

ジェイン・オースティン『マンスフィールド・パーク(上)』(新井潤美・宮丸裕二訳、岩波文庫)を読みました。
この本には、第1巻(全18章)と第2巻(全13章)が収録されています。
各巻の感想(めいたもの)を以下に書いておきます。
◯
第1巻には、貧しい生家のプライス家からマンスフィールド・パークにあるバートラム家に引き取られた主人公ファニー・プライスが、(「史上稀にみる、〈地味〉なヒロイン」と帯に書かれている通りに)周囲の人々に対してビクビクしたりする場面が多く出てきて、「本当に帯の通りなんだ!」と読んでいる間かなり驚いたのですが、主人公ファニーの冷静な判断力と人々に対する優しさの描写、バートラム家の次男エドマンドのファニーに対する優しい態度や心情(と小説が進むにつれて多くなるエドモンドが彼女に頼る場面)の描写が個人的には印象に残りました。
また、サザトンにあるラッシュワス邸の訪問や第13章以降に描かれる演劇(『恋人たちの誓い』)の配役を巡るゴタゴタ等々、読んでいて何だかクスリとさせられる内容や細かい描写が多くて、読んでいて若干疲れは感じたものの総じて面白かったです。
◯
第2巻には、バートラム家の当主であるサー・トマス・バートラムが仕事を終えて帰宅した後のドタバタ、その後のバートラム家における主人公ファニー・プライスの注目度の上昇具合、(第1巻の終盤から登場のクローフォド家の)ヘンリー・クローフォドのファニーへの愛の告白と彼女の戸惑い等、読んでいて知らない間に何度も頷いたり思わず声を上げそうになったりする場面及び箇所が多かったですが、主人公ファニーが兄ウィリアムに会った時の気持ちの高まり、エドマンドとメアリー・ヘンリー・クローフォドの関係や心理描写、ファニーがヘンリーに告白され戸惑う箇所の描写が個人的には印象に残りました。
しかし、最後の最後で、まさかファニーがあんな状況に陥るとは、僕は思いもしませんでした。
ヘンリーがファニーに対してあれ程の感情を抱いているとは想像もしていなかったのは間違いないでしょうし、小説の中では「どれだけ手紙や態度で自分の気持ちを伝えても彼は諦めないんだろうな、きっと」という感じですし…、ああ面倒くさいな。
◯
最後になりましたが、巻末の30頁程がこの小説が書かれた時代の状況の解説になっています。
とても面白かったですし、場面の理解に役立ちました。
『わたしがナチスに首をはねられるまで』

ミリアム・ルロワ『わたしがナチスに首をはねられるまで』(村松潔訳、新潮社)を読みました。
この小説には、ナチス占領下のベルギーでナチスの将校を襲い斬首された(ロシア人女性の)マリーナ・シャフロフ=マルターエフの生涯について書かれているのですが、作者のマリーナの気持ちを汲み取ろうとする思いや著者自身の思いが文章のあちこちに溢れていて、読んでいて圧が強くて「何だか乱暴だな」と感じました。
もっとも、彼女の斬首刑が当時ベルギーの新聞では報道されなかった上、資料らしい資料もなく、ベルギーのロシア文化センターが開催した彼女を称える夕べにおいて、彼女の次男のヴァディム(当時83歳)が彼女のイメージを否定する発言をしたり等の出来事があった事に加え、著者がジャーナリストでインターネット上での女性に対する嫌がらせを告発するドキュメンタリーを製作したり、個人としてもハラスメント被害を告発して裁判で争う(3年間の裁判の末、被告に執行猶予付き十カ月の禁固刑が言い渡されたとの事です。)フェミニストとして知られている人物との事なので、感想(めいたもの)が先に書いた内容になってしまったのは仕方ないと言えばそうなのかもしれないですが。
ただ、マリーナの生涯(特に彼女が警察に自首し、留置所に収容されて以降)に関する記述は読んでいて胸がスーッとしましたし、(この小説にしばしば登場する)著者の二人称で自身に語りかける姿勢あるいは女性だからといって忘れられてはいけないという思いには身体が熱くなる部分も多々あり、読み終えた後になって「良い小説を読んだな」と思いました。
しかし、マリーナの死後、夫ユーリがマリーナとの間に生まれた息子達に取った態度には腹が立ちました…。
「目立った傷や汚れなし」
この小説は、“主人公・翠は東京都内に住む会社員。夫・拓実が休職中のため、少しでも収入を増やそうと夫の古着等をフリマアプリに出品する生活を送っている。ある日、ドンキでせどり作業中にあるフリマアプリせどりのサークルに勧誘され、そのメンバーのウェンディやツチヤ、リーダーたちと行動を共にするようになる。すると、翠の心情にもにも変化が…。”と言った内容の小説で非常に読みやすく、読んでいるとつい翠の立場で考えてしまう事が多かったからでしょうか、夫・拓実の思考や態度に対して腹が立つ事が多かったですが、読み終えて時間が経つにつれて「拓実と僕はほぼ同類、ある意味自意識過剰な人間なんだな」と感じるようになり、些か惨めで寂しい気持ちになりました。
まあ、拓実(や僕)のような人間がそばにいたら、そばにいる人間はいくら心根は優しくとも、この小説の主人公・翠のような感情の変化の過程を辿る可能性は高いのでしょうね…。
また、(この小説では本名が明かされない)ウェンディがコマツのために思い取った行動とサークル内の変化、リーダーの娘・りんかの妙に子供子供しておらず一歩引いた感じがしてならない態度が個人的に印象に残るとともに、(比較的読みやすく、僕自身が「コント?」と感じたからかもしれませんが)映像的でやや教訓めいた結末に驚きました。

