F9の雑記帳 -50ページ目

「明日、ここは静か」




 高瀬隼子「明日、ここは静か」(『文學界』2023年8月号所収)を読みました。
 まず、読み始めてすぐ、「うるさいこの音の全部」(『文學界』2023年2月号所収)に続いて作家早見有日(本名長井朝陽)が登場し、芥川賞を受賞していて驚きました。
 そして、読み進めるうちに明らかになり興奮してしまいましたが、雑誌の取材等で嘘をついてしまう自分と本当の自分について考えを巡らせていく様は、(小説家である彼女と僕の置かれた状況はまるで違うにせよ)読んでいて「何だか分かるな」と言う箇所が多く、読んでいて面白かったです。
 更に、小説の終盤で彼女が受けた取材を契機として自分の本音に気がついていく展開は、読んでいて身につまされると同時に妙に納得してしまいました。
 ああ、タイトルはそういう意味だったんだ…。
 しかし、中盤で出てくる彼女の地元の関係者に関する二つの出来事は、彼女の嘘が原因なので仕方ないのかもしれませんが、個人的には読んでいて腹が立ちました(特に高校生の時の数学の教師だった須崎先生は…!)。
 …この終わり方では、個人的には作家早見有日についての物語はまだまだ続くのだろうなと思いました。
 できれば、早く続きを読みたい…。 

『遺失物管理所』


 ジークフリート・レンツ『遺失物管理所』(松永美穂訳、新潮社)を読みました。
 僕はこの本の作者についてまるで知らなかったのに、何故か近所の図書館に行くたびに前々からこの本が何故か気になっていました。
 しかし、読みたい気持ちは抑えられず先日思い切って借りてきて読んだのですが、同僚思いで正義感の強い主人公のヘンリー・ネフが勤務するドイツ鉄道の遺失物管理所で起きる日々の出来事を中心にした物語は、職場の同僚であるパウラ・ブルームやベテランのアルベルト・ブスマン、所長のハネス・ハルムス、ヘンリーの姉のバーバラ・ネフだけだとそれなりに面白いで終わったでしょうが、サマラ出身の数学者フェードル・ラグーティン博士が物語に加わり多くの場面に登場し活躍したり傷ついたりする(最後あのような形でヘンリー達と分かれるとは正直意外でした…。)事で、面白さは俄然増したような気がしました。
 あと、個人的には日本とドイツの遺失物管理所の違いなんてそれ程感じつつ読んでしまったのは若干損だったのかもしれないな、最終盤で主人公ヘンリー・ネフが出世のチャンスを蹴ったのは凄いなと思いました。
 もっとも、その行為自体は彼の性格を考えたらさもありなんと思いますが…。

「それは誠」



 乗代雄介「それは誠」(『文學界』2023年6月号所収)を読みました。
 この小説には、主人公(である佐田誠)の「高校二年の東京修学旅行の思い出」(10頁)が修学旅行前の日々の出来事も含めて描かれているのですが、序盤は学校をすぐに休んだりするというやや捻くれた彼の性格のせいでしょうか、読んでいて「この小説は一体どうなってしまうのだろう?」と思い、若干微妙な気持ちになりました。
 ですが、中盤以降の修学旅行中のある一日の(日野に住んでいる主人公のおじさんに会いに行くと言う)“冒険”(目次より)の過程や、おじさんになかなか会えないので仕方なく時間潰しを色々する中で主人公と共に行動している友人達との距離が縮まっていくのが何だか嬉しく、読んでいて楽しくなりました。
 もしかすると、過去のこの作者の小説ではなかった事物に対する細かい描写が、先に書いたような気持ちにさせたのかもしれませんが。
 あと、最後は“ザ・青春小説”のような終わり方で感じで良かったです。
 ああ、僕の高校生の時の修学旅行はこの小説に書かれているような感じではなかったな。
 しかし、最後にあの子もあの子に好意を持っていたと教えられるとは思いませんでした…。