「我が手の太陽」

20年以上経験を積み、職場にいる溶接工の腕は確かだと自負する主人公の伊東が、彼自身の関わる仕事の現場で起きる出来事により、自身の現状が突きつけられていくという展開は読んでいて身につまされる思いがしました。
そして、彼の現状をはっきりと突きつけるのが、主人公の勤務先の中小企業のカワダ工業や、職場での先輩の牧野や同僚の村上等の実態のある登場人物でなく、何度か伊東の目の前に現れる検査員であるというのが、(最後の)伊東の溶接工の技術すら持っていってしまったかのような描写も含めて、個人的にはとても印象に残りました。
ああ、自分にもいつかはこの小説に書かれたような事態がやってくるのでしょうね…。
あと、建築や溶接等について、これだけの細かな内容を盛り込んであるこの小説がどのぐらいの時間で書き上げられたかを考えた時、目の前が一瞬暗くなりました。
『あなたも私も』

(以前からもそうでしたが、今年に入ってから特に)最近は図書館で本を借りても読み切れず途中で逃亡したり(ルッツ・ザイラー『クルーゾー』(金志成訳、白水社)は3週間かけて200頁ぐらいまで読んだのですが…。)、題名や表紙に惹かれて購入した本も積ん読状態にしてばかりの日々で、「これではいかん!」と購入日からそれ程時間が経っていないこの本を読みました。
ですが、途中まで場面切り替えと展開の速さに戸惑い、内容がなかなか頭に入ってきませんでしたが、中盤の「仮装人物」の章を読んだあたりから(個人的には)小説の内容が分かり始め、ある鉱山と遺産をめぐる騒動に巻き込まれたファッション・モデルの水上サト子の姿や展開を追うのが俄然楽しくなり、(そこから最後まで)ほぼ一気読み状態で突っ走ってしまいました。
また、巻末の町田康の解説には、僕の疑問に対する回答が全て書かれていて痺れました。
そして、最後になりましたが、単行本の刊行が1955年であるこの本の中で“ウラニウム”や”グラス・ファイバー“の文字を見る不思議さときたらなかったです…。
「トゥデイズ」

長嶋有「トゥデイズ」(『群像』2023年8月号所収)を読みました。
今回、久し振りに長嶋有の小説を読みましたが、描かれている立花美春と立花恵示、もうすぐ6歳のコースケの日常は、彼らの住んでいるマンションで飛び降り事故が起きたり、中庭の公園の桜の伐採問題と言った事柄が幾つか登場するにも関わらず、登場人物の設定が分かりやすいからでしょうか、読んでいてニヤリとする場面もかなり多くて面白かったです。
でも、何だかんだ言って、小説全体の中でコースケ君がいい味出している様な気がしました。
何だか可愛げがあるし、よくダジャレを口にするし…。
とは言っても、「お尻のことを『お知り』なさい(68頁)ぐらいのダジャレですが…。


