F9の雑記帳 -14ページ目

『秋の雪』


 イレーヌ・ネミロフスキー『秋の雪 イレーヌ・ネミロフスキー短篇集』(芝盛行訳、未知谷)を読みました。
 以前から、この作家については、近所の図書館のフランス文学の棚に何冊か本が置いてあるので、名前だけは知ってはいましたが、文学的事項に関して無知なため、彼女の小説を収めた本を手に取り読む勇気(?)は出てきませんでした。
 ですが、どうした心情の変化か(←自分の事なのに…。)、先日近所の図書館に行った際に気が変わって本を借りて読んだのですが、「秋の雪」(フランス語原題:「秋の蝿」)を筆頭に、この本に収められているどの小説も僕には衝撃的で、読んでいて怖くなる事が何度もありました。
 以下、感想(めいたもの)を書いておきます。
・「舞踏会」:株で一財産築き舞踏会を開く両親、家庭教師の恋愛を知り舞踏会の招待状を破り捨てセーヌ川に流してしまう娘…。彼女たちを含む登場人物達の行動や心理は理解し十分に納得できたのですが、最後の場面の作者の筆致に人間(特に女性)の怖さと非情さを感じました。
・「秋の雪」:この小説は、ロシア革命の勃発に伴ってロシア出国・パリ移住となってしまったカリン家の人々と、カリン家に長年仕えているタチアナ・イワノーヴナ(ニアニュチカ)について、タチアナ・イワノーヴナの視点から書かれているのですが、タチアナの故郷への思いが悲しい結末を導いてしまったのかと悲しくなり納得させられました。また、カリン家の人々の有り様の変化については仕方がないなと感じたものの、若くして亡くなるユーリと比べて何だか残念な気がしました。
・「九月の午餐」:この小説は、明日で四十歳を迎える主人公の女性が(後の夫となる男性とは別の)二十年前に思いを寄せていた男性と出会い食事を共にすると言う内容で、主人公の彼へ期待する心情やそれがもたらす失望等について細かく描かれていたのですが、読み終えて(小説だから当たり前とは言え)彼女に同情するしかできない自分をもどかしく感じました。あと、男性も同じ心情だったんじゃないかなと思いました。
・「幸福な岸辺」:婚約直前の高慢な顔をした金髪の主人公クリスチャーヌと、彼女が彼氏と待ち合わせしているバーで客を待っているジネット。この小説の中でに主に描かれている2人の女性の対比が、ジネットのかつての夫だったモーリスにまつわる記述も加わる事で(個人的に)より鮮明に感じられて、読み終えた後に十分寂しい気持ちになりました。
・「腹心の友」:この小説は、高名な音楽家である主人公ロジュが、亡くなった妻フローラについて、彼女の友人であるカミーユと話すうちに妻に関する事実を知っていくうちに、彼自身ある事実をはっきりと理解すると言う内容なのですが、男性が主人公というのもあるのでしょうか、個人的にはこの小説が一番胸にきました。ああ、寂しすぎる。「癒せそうにないのは、その痛みだった」(193頁)…。

『割れたグラス』


 アラン・マバンク『割れたグラス』(桑田光平訳、国書刊行会)を読みました。
 この小説は、コンゴ共和国の港湾都市ポワント=ノワールのトロワ=サン地区にあるバー“ツケ払いお断り”で、《割れたグラス》と呼ばれる男がバーの客達について書きつけていくと言う粗筋なのですが、正直な所を書くと、僕はバーの主人《頑固なカタツムリ》が相当いい人だったり、最初に登場した際は元妻を悪様に言っていたのに、次に登場した際は元妻を愛している、ノートに書かれている内容はデタラメだと騒ぐ《パンパース男》に幻滅したり、“フランス行き”をやった事を人に何度も繰り返し自慢する《印刷屋》等の登場人物の多彩さや書かれている内容の部分部分は面白かったものの、この小説が訳者あとがきにあるように「とにかく心底面白い」(273頁)とまでは思えませんでした。
 もっとも、ノートの書き手である《割れたグラス》と呼ばれる男が酩酊しているので、この小説の文章が酩酊気味だったり、現在のアフリカ文学を始めとする世界の文学のタイトルや名言が散りばめられているのは刺激的でした(もし、訳者の注がなければ恐らく「変な比喩だな」と思いつつ、僕は読み進めたに違いないとは思います)が…。
 ただ、呪術師という言葉や彼らの仕事内容や、グリルしたチキン料理であるプーレ・ビシクレットに関する記述に出食わした際は、コンゴ共和国について何も知らなかった(ですし、この小説を読み終えた現在も殆ど知りません。)ので、かなり驚きました…。

「アザミ」


 綾木朱美「アザミ」(『群像』2025年6月号所収)を読みました。
 第68回群像新人文学賞当選作。
 まず、新聞の校閲を生業としている主人公のアザミ(生明)のニュースサイトのコメント欄やXの引用リポストを読み漁る時間が多い日常の描写が細かいので、読んでいて身につまされる思いがしました。
 もっとも、日々の事件・事故やニュース、主人公のアザミが見る夢の描写があり、幾度となく(小説の上での)現実に戻されてしまうので、余計に上記の様な感想を持ったのかもしれませんが。
 次に、アイドルグループの一員で、ソロアルバム発売前に女性問題が発覚したミカエル楓をはじめとして、登場人物の人物設定が強めで分かりやすく良いなと思いました。
 そして、小説の終盤の大きな地震の後の主人公のアザミが足を痛めた後の展開が個人的には強く印象に残りました。