『天使も踏むを畏れるところ 下』

松家仁之『天使も踏むを畏れるところ 下』(新潮社)を読みました。
まず、村井俊輔が設計を進め、”新宮殿“の姿が明らかになるにつれて、設計者である村井に相談せずに采配を振るいはじめる牧野の描写が(個人的には)やや鼻につき、読み進めるのが途中で少ししんどくなりました。
ただ、途中に置かれた牧野の学歴・職歴等の記述から彼の人となりがある程度理解できた(であろう)時に、段々と増えていく彼の無茶な采配の描写の印象も変わり、この小説の(本当の意味での)面白さに気づけたような気がします。
もっとも、上記のように感じたからこそ、村井が作成した宮内庁長官宛の“新宮殿”に関する質問書が引き起こした様々な事柄の描写を読んだ時に胸のつかえが取れた感じがしたのでしょうが…。
次に、私がまるで知らない事ばかりだというのもあるのでしょうが、侍従の西尾の日々の記録の描写がとても興味深い上に面白く、物語の本筋を補強する以上の役割を担っているなと感じました。
そうか、西尾のモデルって…。
あと、村井と藤沢衣子のそっと支え合う関係性が、個人的には読んでいて素敵だなと思いました。
ああ、上巻を読み終えるまでに掛かった時間に比べて、下巻を早く読み終えられて、本当に良かった…。
『天使も踏むを畏れるところ 上』

松家仁之『天使も踏むを畏れるところ 上』(新潮社)を読みました。
この小説は、(戦前フランク・ロイド・ライトの下で働き、日本の伝統建築と欧米のモダニズム建築の双方に精通しており、その結果新宮殿のチーフアーキテクトを委嘱される事になる)村井俊輔が、建設省から宮内庁に出向となった杉浦とともに、空襲で焼失した明治宮殿の跡地に建設予定の“新宮殿”に関係していく様子を書いているのですが、専門的な知識が必要であろう部分が所々潜んでいたにも関わらず面白く、本の厚さに腰が引けてしまい読み出すまでに時間が掛かってしまった自分が恥ずかしくなると同時に、松家仁之と言う作家が書く(『火山のふもとで』のように)建築関係がテーマの小説の面白さは他を圧倒しているなと感じました。
もっとも、上記の様に僕が感じたのは、巻末に置かれた一文(「*本書は史実に基づいて書かれたフィクションです。」)の中の“事実”の力が影響しているのかもしれませんが。
しかし、上巻読み終わるのにこれだけ時間が掛かっていては、下巻を読み終わるのは一体いつになることやら…。
「親切な殺人」

浅田優真「親切な殺人」(『文學界』2025年5月号所収)を読みました。
第130回文學界新人賞受賞作。
この小説の主人公はプロの総合格闘家であり、障害者介護施設の生活指導員のアルバイトもしている水島龍介。
彼のジムでの練習や試合、介護施設での仕事等と言った彼の日常がこの小説には書かれているのですが、社会における判断基準がテーマだと思われる内容だ(と思われる)からでしょうか、読み進めるにつれて暗い気持ちの比重が増していき、最後の最後で置き去りにされたように感じました。
個人的には、力が強く小説の終盤には状態がやや悪いために別の施設に移される事になる鈴木星哉、介護施設での仕事を(ある意味)淡々とこなしつつも他人へ視線を向ける事を忘れない花井、ジムでの練習に打ち込み時には先輩を助けもするが小説の終盤に個人的な問題が判明してジムを辞めざるを得なくなる遊矢、施設にボランティア研修でやってきて(途中)インスタグラムに鈴木と2人で写った写真をアップしてしまう上神(洋子)をはじめとした登場人物達は設定も明確な上に印象に残る場面も多いので、もう少しだけ小説全体に明るい展開を与えられならテーマもより分かりやすくなり読みやすくなったのではないかと思いました。
そして、ジムの先輩である穐山京滋の試合後の描写、(44頁)と、鈴木が移送される日に花井が水島に鈴木に謝っておかないと「後悔するわよ!」と大声で叫ぶ場面(45頁)が強く印象に残りました。