まさか最高とされる学問の府でこ
んな「妄言」がまかり通るとは思
わなかった。東京大の入学式に来
賓に招かれた映画監督の河瀨直美
氏が暴虐な戦争犯罪が絶えないク
ライナ侵攻に「ロシアという国を
悪者にするのは簡単である」と見
解を述べた。まるで隣国に侵攻し
た側にも理があるとでも受け取ら
れても仕方ない物言いだった。こ
の国を集団的自衛権による「戦争
をできる国」にした安倍晋三元首
相は安全保障論議の高まりに乗じ
て「相手国の中枢攻撃」を提起し
た。憲法が制約する専守防衛を無
視した「暴言」だった。いずれも
、好戦的な言説をまき散らす振る
舞いで、メディアはもっと批判的
に伝えるべきである。
河瀨発言は今回の侵攻を「正義と
正義のぶつかりあい」と見立て、
一方に組みするなという警鐘を込
めたつもりだったかもしれないが
どう見ても一方的に主権を侵害し
て無辜の市民を殺戮するロシア軍
の非道な行為も正当化すると受け
止められる。「悪を存在させるこ
とで安心していないだろうか」と
新入生に問いかけた河瀨発言は自
分が対話した奈良・金峯山寺管長
の引用だった。一方的意見に左右
されないことの教え説いたつもり
だろうが、東京大の教授や他の国
際政治学者らから一斉に批判がわ
き起こったのは当然だろう。
「ハフポスト日本版」によれば東
京大の池内恵教授は「侵略戦争を
悪と言えない大学なんて必要ない
でしょう」と至極当たり前の反論
をしている。慶応大の細谷雄一教
授は河瀨発言の根本的誤りを突い
ている。ロシア軍が一般市民を殺
戮している点を重視、「(侵略軍)
との違いを見分けられない人は、
人間としての重要な感性の何かが
欠けているか、ウクライナ戦争に
無知か、そのどちらかでは」と強
烈に批判している。
また東京外国語大の篠田英朗教授
も「『どっちもどっち』論を、超
越的な正義として押しつけようと
している人々が、この社会で力を
っている」とツイッター上で述べ
て、同じ思いになってうなづいた。
東京五輪公式映画監督に起用され
た河瀨監督にはこれまでに何度も
その資質に疑問の声が出ていた。
NHKの五輪抗議デモの参加者の
声をねつ造したドキュメンタリー
番組も河瀨監督の了解がなかった
とみるには不自然である。自身が
中心の番組内容を「まったく知ら
なかった」と釈明しても、にわか
に信じがたい。ねつ造したスタッ
フが河瀨監督の翼賛的価値観を忖
度した結果ではなかったか。河瀨
監督を来賓に呼んだ東京大の責任
者の声を聞きたい。
秀作「あん」を制作した河瀨監督
には一時期待したことことはあっ
たが、その後の変貌ぶりには心底
がっかりさせられた。東大での「
妄言」も自身の「知」への底浅さ
が招いたと推察する。夏に公開さ
れる東京五輪公式記録映画が一面
的な価値観による映像表現になっ
ていないか危惧する。
プーチン大統領と「ウラジミール
」「シンゾ-」と呼び合って27回
も会談、「君と僕は同じ未来を見
ている」と二人で約束した安倍元
首相の最近の「暴言」はもっとた
ちが悪い。G7の首脳中、最も親
しかったと自慢した仲であったの
なら、特使としてロシアに行って
、「戦争を止めて」と諫める立場
なのに知らぬ顔をして、自民党の
会合で火事場泥棒のような発言を
繰り返している。
自民党の会合で使われていた「敵
基地攻撃能力」が誤解されやすい
として「自衛反撃能力」などに言
い換える意見が出されたという。
そんな時に飛び出した「中核攻撃」
という安倍元首相の好戦的な言葉。
為政者なら戦争に至らない道を探
るのが本来の務めなのに、まるで
幼児のように「戦争ごっこ」に興
じているように映る。
【2022・4・14】



