「ならず者・プーチン」増長させた愚 | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

「すべての戦争は自衛の名の下に

行われる」。今世紀最大の愚行とも

いえるロシアのウクライナ侵攻はこ

の古今の歴史の教訓があてはまる

。プーチン大統領は「これしかとる

べき道はなかった」と演説したが、

選択する道はまだ多くあったはず

で、何の説得力もない。一国の主

権を踏みにじり罪のない多数の市

民を死傷させる事態を招いたプー

チンをここまで増長させたのは何

か。「ならず者の所業」と断じるべ

き事態だが、国内ではいたずらに

危機感をあおり、国防意識を高揚

させたい輩が早くもうごめき出した。

増長というフレーズから真っ先に思

い浮かんだのは、あの安倍晋三元

首相である。北方領土交渉を手柄

話にしようとしてプーチンのファース

トネームを使って「ウラジミール」と

親しげに語りかけた。そんな媚びる

ような姿をみせてもプーチンは歯牙

にもかけないようだった。結局、合わ

せて24回もの日ロ首脳会談は何の

成果も得られなかった。それどころ

か「日ロ平和条約締結」をちらつか

されて、日本側にメリットが少ない経

済協力まで約束してしまった。後日

「まるで赤子の手をひねるようだった

」と外交通から酷評されたのである

。領土交渉は当初目論んでいた「2

島返還」どころか、北方領土にロシ

アのミサイル基地まで建設されたの

に、十分な抗議もできなかったので

ある。

プーチンをここまで増長させた非

難の矛先が自分に向かわないよ

うに、安倍元首相は今回の侵攻

について、友達呼ばわりから一転

して「断じて許すわけにはいかな

い」と非難したが、プーチン個人を

責める言葉は発しなかった。20

14年のクリミア併合時、欧米の経

済制裁に比べ、日本の制裁は限

定的で有名無実の内容にとどめた

。その後の日ロ首脳会談ではプー

チンからそれを見透かされ、主導

権を握られ通しだった。

今回の侵攻を国内で国防意識を

高める好機として、政治利用する

動きが目立ち始めた。安倍政権で

防衛相を務めた小野寺五典・自民

党安保調査会長は中国の台湾侵

攻を想定、「実はもうすでに東アジ

ア、台湾周辺ではハイブリット戦が

行われていると考えるべきだ」と述

べ、「自国は自国で守るというスタ

ンスがなければ、日本はウクライナ

と同じようになる」と危機感をあおっ

た。

安倍元首相は先日「台湾有事は

日本有事」と演説しており、小野寺

発言はそれに呼応するような中身

だった。警戒すべきは、日本が台

湾有事の場合、日米安保条約に

よって自動的に戦争に組みするの

が当たり前のような雰囲気が強ま

ることである。2015年、安倍政権

は憲法で制約された専守防衛を骨

抜きにするため集団的自衛権を容

認する安保法制を施行させた。安

倍発言は台湾侵攻が実際にあっ

て米中戦争が始まった場合、日本

は出兵を求められ中国の敵国とな

る。国内の米軍基地などを攻撃さ

れても仕方ない状況にされた。

「ならず者国家ロシア」と同じ専制

国家の指導者・習近平主席にも警

戒を怠ることはできないが、声高

に中国を敵視する発言を繰り返す

のは愚かな振る舞いである。仮に

台湾侵攻があっても、日本人の血

が一滴たりとも流れるような防衛政

策は回避するのが、政治の最重要

な使命である。相手が強権的な国

家であっても、目指すべきはしたた

かな知恵を駆使して、良好な外交

関係を構築することではないか。

ウクライナの首都キエフにロシア軍

が近づく中、頭に浮かぶのは映画

「ひまわり」の一シーンにあった大

地のひまわり畑だ。ヒロインを演じ

たソフィア・ローレンが出征して帰

還しない夫を探しまわるあの悲しい

場面は、戦争のむごさを鮮烈に伝

えてくれた。今回国外に避難した50

万人の姿と重なって悲痛な思いに

なる。こんな時だからこそ、敵を想

定させる勇ましい言葉には耳を塞

ぎたい。
               【2022・2・26】