伊勢寺の古代瓦は松阪牛の夢を見るか? | 日出ヅル處ノ廃寺

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古代寺院跡を訪ねて

三重県中勢部の中心都市の松阪―――松阪牛や伊勢商人、本居宣長にゆかりのある街として知られています。

 

この松阪市、以前ご紹介した旧嬉野町の古代寺院が知られていますが、合併する前の市域にも古代寺院が点在していて、『松阪市史』によると伊勢寺跡をはじめ5カ所、さらに近年判明したヒタキ廃寺を含めると6つの寺院跡が確認されています。

 

 

これらのほとんどは瓦などの出土のみで、伽藍配置はもとより礎石などの遺構に乏しく、ネットでリサーチした範囲では、現地に行っても何もなさそうな感じでした。

 

そのような中にあって唯一古代寺院跡らしさが残っているのが伊勢寺跡。今回は伊勢寺関連の遺構や遺物のご紹介です。ではレッツラゴー!

 

 

まずは「はにわ館」に立ち寄り

 

今回は松阪駅のすぐ西にある観光情報センターでレンタサイクルを利用。変速付きママチャリで基本料金は4時間400円。追加料金で延長も可能です。伊勢寺跡へは駅前から三重交通バスを利用する手もありますが、本数はあまりなく、寄り道もしたかったので自転車で行くことにしました。

 

はじめに向かったのは松阪市文化財センター「はにわ館」。古代の松阪市といえば、古墳時代の古代船の埴輪がほぼ完全な形で出土した宝塚1号墳が全国的に有名ですが、これに関連する出土品や模型を展示しているのがここ「はにわ館」。当然古墳関連の展示がメインですが、ひょっとしておこぼれで古代寺院の展示もあるかも....と思っての寄り道です。

 

はにわ館の展示室

 

入館してみると残念ながら古代寺院関連の展示はなし。まあ予想どおりでしたが、古代船の埴輪はなかなか魅力的でした。ちなみにですが、宝塚1号墳の前方部が斜めになっている特徴的な墳丘の形状は、海を隔てた愛知県西尾市の正法寺古墳と相似形なんだそうです。

 

重要文化財の船形埴輪の威容

 

これは海を挟んだ双方に交流があったことをうかがわせるものとなっています。この地を支配した王が乗船して伊勢湾を行き来していたのでしょうか。その古代船を埴輪にして、威光を偲んだのかもしれませんね。

 

ひととおり見学して本命の伊勢寺跡に向かいます。雲行きが少々怪しくなってきた中をひたすら西に向かってペダルを踏んでいく。駅前では感じられなかった西の山並みが近くに感じられるようになったところで伊勢寺跡に到着


伊勢寺跡(国分寺)の全景

 

 

  伊勢寺跡(いせでらあと)

三重県松阪市伊勢寺町

訪問オススメ度 ★★

 

現在の国分寺を中心とした一帯が古代寺院の寺域となっています。この国分寺は聖武天皇とは関係なく、近世になって付けられた名称とのこと。国分寺南側の道路わきに伊勢寺跡の案内板がありますが、これがなければ古代寺院跡とはなかなか気付かないかも。

 

国分寺本堂は地元住民の皆さんが積立てをして近年修復したのだそう

 

道路わきの案内板

 

しかし境内を念入りにチェックしていくと、ん! この石には明らかに円形の柱座が彫り出されていますね。特に説明はありませんが、おそらく古代寺院の礎石だったものでしょう。そのほかにも境内には礎石らしきものがちらほらと。

 

周囲を縁石で囲われて展示を意識されているっぽい

 

この礎石の近くに、はにわのような色のカタマリを発見。さっそく必殺奥義「瓦めくり」をやってみると....ありましたよ布目がバッチリと! さらに境内を観察してみると、あちこちに様々な色、布目の瓦片が落ちていました。

 

さきほどの礎石の写真の手前にあった瓦片

 

これはちょっと変わった布目。目の粗い布だったのでしょうか?

 

探し出したらあちこちに散布

 

伊勢寺跡の本格的な発掘調査は行われていないようですが、国分寺の北側での圃場整備の際に発掘が行われ、寺院の北限を示す痕跡が見つかっているとのこと。その場所に行ってみる。現在は埋め戻されて何も残っていませんが...。ここで通り雨襲来。結構な降り方だったので、北限探索はやめて国分寺境内に戻って雨宿りです。

 

雨の中、北西方面から国分寺を望む

 

ほどなくして雨は止み、今度は前面道路の反対側へ。国分寺のはす向かいにあたるT字路の一角に「井乃本井戸」がありました。光明皇后の病を治したという霊水とされ、案内板も設置されています。

 

井乃本井戸コーナー

 

さて、伊勢寺跡からの出土品としては、特筆すべきものとして奈良三彩の須弥山の破片があります。これはどこに展示されているかというと、津市にある三重県立博物館。県立博物館の展示は、自然や中近世の人々の暮らしに関わるものがメインで、常設展示で古代寺院関連のものはこの伊勢寺跡出土の須弥山片のみ。

 

伊勢寺出土の須弥山の三彩陶器

 

「須弥山」と言われても素人目にはよくわかりませんが、色彩の施されたものはかなり珍しいようで、三重県内の古代寺院からの出土品としてはトップクラスの貴重品といえるでしょう。ちなみに伊勢寺出土の瓦は奈良国立博物館に収蔵されているようです。伊勢寺跡のご紹介はこれでおしまい。

 

 

  ヒタキ廃寺

三重県松阪市阿形町

訪問オススメ度 

 

松阪駅に戻る前にヒタキ廃寺に寄ってみます。この古代寺院跡に行っても何もないことは知っていましたが、伊勢寺跡からは近いこともあって寄り道です。圃場整備に伴って行われた発掘調査で、3間×3間の掘立式建物に瓦屋根が載るという変わった遺構が発見されました。ネット情報では鬼瓦も出土したとのことですが所在は未確認。

 

現地には阿形町の案内表示があるのみ

 

ヒタキ廃寺の北にある寶蔵寺に寄ってみると、案内板にかつては七堂伽藍があつたとの言い伝えがあると書かれていていました。ヒタキ廃寺と何か関連があったのかもしれませんね。

 

寶蔵寺の境内。ここに祀られる「苦抜観音」(くぬきかんのん)は毎年法要が営まれているそう

 

 

人気をほこる「あら竹」の牛肉弁当

 

さて松阪のおいしいものと言えば松阪牛。和田金のような名店ですき焼きなどを優雅に食すのは庶民にはいささかハードルが高いので、ここはひとつ、駅弁にトライしてみましょう。

 

松阪駅に戻って構内の「あら竹」で有名な「特選元祖牛肉弁当」1, 700円ナリを購入。牛肉はスーパーで海外産の安いものしか買わない身からすると思い切った贅沢です。

 

ポリゴンの牛さんがなんかいい感じ

 

ふたを開けてみると、見た目にはちょっと物足りないような感じもしましたが、高級食材である黒毛和牛を使ってこの価格に抑えるために製造者さんも苦労しているようです。もちろん価格だけでなく、冷めると硬くなってしまう牛肉を弁当でおいしく食べるためのいろいろな工夫も....というような、フタの裏書きを読みながら食べてみる。うん、うまい! 

網焼きにされた黒毛和牛の内もも肉を秘伝のたれで食す

 

この弁当で使われている牛肉ですが、松阪市の個体識別管理システムの導入により「松阪牛」の名称は使えなくなってしまったのだとか。発売当初から使っている地元松阪の黒毛和牛であることは変わらないとのことですよ。

 

ところで、このお肉をよく見ると、表面に細かいマス状の切り込みがありますね。食感が固くなってしまわないような工夫でしょうか。これを見て、自称ハイジストの私は別のモノを連想してしまいました。

 

これ

 

いやあ、似てませんか? 似てますよね!(迫真) どうでしょう、「特選布目瓦牛肉弁当」と銘打って売り出してみれば!?笑

 

 

[訪問日]2023.11.5