奈良県が公開している「奈良県文化財ウォーキングマップ」。
(前編)に引き続き、その6の「奈良の古寺院 平城京右京の寺院跡と遺跡」のマップをベースに、平城京右京の古代寺院めぐりをしてみます。ではレッツラゴー!
七条廃寺(しちじょうはいじ)
奈良県奈良市七条2丁目
訪問オススメ度 ★
近鉄橿原線九条駅を通り過ぎて、線路の西側を北上。ウォーキングマップには『「曹洞宗三松禅寺」石標のある三叉路を西に折れて』とありますが、 この石標がどこにあるのかはよくわからず。スマホの地図を頼りに西方向の道を行き、丘陵上に見えてきたのが三松寺(さんしょうじ)。このお寺と北東の天武神社にかけての一帯にあったとされるのが七条廃寺です。
丘の上にある三松寺
三松寺の本堂
ここは(前篇)の殖槻寺跡や観世音寺と違って寺院名は不明なので、地名に「廃寺」を付けて「七条廃寺」という名称になっています。この古代寺院跡も案内板はなく、それとわかる遺構も見当たらず。出土品には飛鳥時代のものもあるようで、平城遷都以前から何らかの施設が存在していたとされます。
天武神社。境内には立ち入りできない模様
神社の門の格子戸から内側を隙見ング
七条廃寺の本格的な発掘調査は行われておらず、伽藍配置などは不明。平城京模型ではこんな感じで再現されていました。
解体修理が完了した薬師寺東塔
七条廃寺の北には有名な大池(勝間田池)があります。ウォーキングマップのルートではありませんが、せっかくなので寄っていきましょうか。この池越しの薬師寺の遠望は観光ポスターなどでおなじみの構図。奈良県の「まほろば眺望スポット百選」にも選定されている有名撮影ポットです。私もマネしてトライ。
朝晩はカメラを持った人が大勢来るのだとか
大池の南端部を通って薬師寺へ。薬師寺は2009年から行っていた東塔の解体修理がちょうど終わって、境内で落慶法要(2023年4月21日開催)の準備が進められているようでした。
南門前から広角レンズで両塔を収める
解体修理用の素屋根が外れてよみがえった東塔
紅白の花も修理の完成を祝っているかのよう
落慶法要の準備が進められる東塔周辺
ウォーキングマップのルートでは次に唐招提寺となりますが、私は唐招提寺には行かず、薬師寺以降はルートを外れてマップに載っていない平松廃寺に向かうことにしました。
平城京模型で北西から見た様子。右に薬師寺、左の垂仁陵の上が唐招提寺。右下が七条廃寺です。
平松廃寺(ひらまつはいじ)
奈良県奈良市平松3丁目
訪問オススメ度 ─
平松廃寺は垂仁天皇陵の西の丘陵上に位置し、現在は住宅地になっています。平松廃寺からは飛鳥の田中廃寺と同箔の瓦が出土したことで、ニュースになったようですね。平城京遷都により田中廃寺も移転したのではないかとの考え方もできるようです。
田中廃寺の出土瓦(歴史に憩う橿原市博物館)
現地に行ってみると、ここも案内板はなく、しかも神社の境内などの目印になるような場所でもないので、廃寺捜索に難航(廃寺めぐりあるある)。
道路の左側のあたりが平松廃寺の寺域だったようです
つきあたりの平松町三丁目街区公園の手前辺りで限定的な発掘が行われたようです
平城京模型での平松廃寺
コースにない平松廃寺を回ったところで当日はここで切り上げ。今回ブッチした唐招提寺と尼ヶ辻駅周辺の3つの遺跡については、後日訪れて回収しました。自分が実際に回った順番とは違いますが、ウォーキングマップの記載順にご紹介しておきましょう。
唐招提寺の東塔跡
まずは唐招提寺。薬師寺と同じく今さら記事を書くまでもない超有名寺院ですね。
唐招提寺金堂。これもおなじみの構図
ここではあまり知られていない、古代寺院の痕跡である東塔跡に行ってみましょうか。薬師寺の東塔が解体修理が完了したところですが、実は唐招提寺にも東塔があったのです。しかも1802年に焼失するまでは創建時のものが存在していたというのです!
その遺構は境内からは行けず(たまたま工事中だったからかも)、東側の秋篠川の方からぐるっと回って水鏡天神社に向かうことになります。
唐招提寺の東にある水鏡天神社。写真の右側に東塔跡があります
東塔跡のようす
社殿の南側に土盛りがあって、位置的にはどうやらこれが東塔跡のようです。案内板もなく、基壇上面には礎石もすべて持ち去られてしまったとかで見当たりません。
唐招提寺の塔は五重だったらしく、平城京模型でその姿が再現されていました。ちなみに西塔は当初から無かったとの説が有力とのこと。
平城京模型でも東塔のみ再現
済恩院跡(さいおんいんあと)
奈良県奈良市尼辻中町
訪問オススメ度 ★
次は唐招提寺の北に位置する天神社へ。ここが済恩院跡とされている所で、「唐で客死した遣唐使の藤原清河の家を寺とした伝承」があるとのこと。
天神社。境内はきれいに掃き清められていました
境内の周囲に「垂仁天皇陵飛地に号」なる塚へつながる林があって、多少の古代寺院跡感はありますが、礎石や瓦片などは見当たりませんでした。もっとも瓦片は落ち葉に埋もれていてわからなかっただけかもしれません。
天神社境内南側の林に差し込む夕陽
天神社のはずれから眺める夕日は昔ながらの西ノ京の雰囲気を残していました。
矢田丘陵に沈みゆく夕日。左の林が天神社
弘文院跡(こうぶんいんあと)
奈良県奈良市尼辻北町
訪問オススメ度 ★
尼ヶ辻駅のすぐ北の暗越奈良街道を東に向かって歩いて行くと、交通量の多いバイパスと合流しますが、このY字部分にあるのが弘文院跡。現在は「古跡伏見之崗」(こせきふしみのおか)と呼ばれているようです。
西側から見た古跡伏見之崗
東大寺大仏建立の折、伏見翁なる人物がここで造営地を鎮めていたという伝承のある霊地なんだとか。石像の阿弥陀さんと地蔵さんを祀るお堂に由来が掲げられていますが、古代寺院との関連は今一つわからず。ここはバイパス整備に伴って、かつての阿弥陀堂と地蔵堂が移設整備されたようで、古代寺院の痕跡はありません。
右側に阿弥陀像、左側に地蔵尊を祀っています
禅院寺跡(ぜんいんじあと)
奈良県奈良市三条大路5丁目
訪問オススメ度 ─
古跡伏見向からさらに東に向かって行くと、三条大路5丁目の交差点に出ます。この付近が禅院寺跡です。飛鳥寺の東南禅院がここに移転してきたとかで、飛鳥の地のものと同じ型の瓦が出土しているとのこと。
交差点南の歩道橋から望む
ここも案内板はなく、周辺には沿道型店舗なども立地して古代寺院跡らしさは皆無。いにしえを偲ぶのはわずかに尼ヶ辻地蔵石仏の小さなお堂が残るのみです。
尼ヶ辻地蔵石仏の小堂
ウォーキングマップめぐりはこれで終了です。まあ正直な感想ですが、コースとしては唐招提寺までにして、最後の3つは省略していいかも。ルートから少々外れる途中の七条廃寺もカットして良いでしょう。
その代わり、唐招提寺まで回ったら「唐招提寺東口」からバス利用で「朱雀門ひろば前」で下車、休憩がてら朱雀門ひろばで過ごすのも良いかと思います。私もつい最近知ったのですが、「平城宮いざない館」は展示内容が今風の見栄えのするもので、古代寺院関連の展示もあって一見の価値はありますよ。
平城京での寺院の所在地に出土瓦を展示
ウォーキングマップめぐりは近鉄尼ケ辻駅に戻って終了。コンプしたところで反省会をしに気軽に利用できる大和西大寺駅構内の「Time's Place 西大寺」に行きますか。まずは「YAMATO Craft Beer Table」で、フィッシュ&チップスをつまみに奈良の地ビールでセルフ乾杯。
クラフトビール醸造所「大和醸造」の直営店だそうです
次にお隣の「道頓堀くくる」に行って明石焼きで一杯。
久しぶりの明石焼き
すっかり気分が良くなったところで、最後に「粋麺あみ乃や」で〆の三角きつねそば。美味かった~
ジューシーででかいキツネが◎
「奈良の古寺院 平城京右京の寺院跡と遺跡」めぐりいかがでしたでしょうか? 「奈良県文化財ウォーキングマップ」に「左京」版もあるのかと思いきやそれは無し。左京にも同様に小規模な無名の古代寺院がありますので、今度は自力で計画してみることにしましょうか。
[訪問日]2023.4.16(平松廃寺まで)、2023.12.23(唐招提寺以降)