「月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言」倉知淳 | ひいくんの読書日記

ひいくんの読書日記

ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

日頃ふらふらしているのに、なにやら事件を見つけては猫のごとき目聡さで首をつっこむ猫丸という風変わりな名前の“先輩”が、どうにも理屈の通らない謎を得意の饒舌をふるいながら解き明かす連作ミステリです。

5編の短編が収録された連作短編ミステリです。
ねこちゃんパズル
恐怖の一枚
ついているきみへ
海の勇者
月下美人を待つ庭で

各編は、
出版社に勤務する八木沢行寿区民ホールの前のスタンド式電光看板で見つけた暗号らしきものとそれに関連して不思議な行動をする外国人をめぐる謎を猫丸先輩推理する「ねこちゃんパズル」、オカルト系雑誌オカルト月報』の編集部に送られてきた心霊写真特集への投稿と思われるものの担当の藤田譲にはその投稿の意図がわからない1人の男性が写った1枚の写真の真の意味を編集部でバイト中の猫丸先輩推理する「恐怖の一枚」、バイト先の憧れの先輩平尾彩音と初のお出かけでラジオ番組の公開収録に出かけた柿原悟が、番組の収録の開始を待つ間にお互いが最近出くわした不思議な出来事について話していると、前の席でその話を聞いていた猫丸先輩がその出来事の意味を推理する「ついているきみへ」、大型台風が接近中なのにケチなオーナーの意向で開店した海の家に取材で訪れた猫丸先輩が、その海の家バイトリーダー貝塚尚洋が遭遇した事件のを解く「海の勇者」、亡くなった園芸好きの母親に代わり、蕾をつけた庭の月下美人の開花を見届けようとする今野克也が、その庭で遭遇した不可思議な出来事について猫丸先輩推理する「月下美人を待つ庭で」とバラエティに富んでいます。

私のお気に入りは、最終話「月下美人を待つ庭で」です。
を病気で亡くしたばかりの今野克也が語り手となって進行します。
が亡くなる直前まで病床で気にしていた月下美人に蕾がつき、克也は新しい庭園灯をホームセンターで買ってきて、月下美人の鉢のそばに設置します。
ところが月下美人の開花が近づいたここ数日、毎日、真夜中に若い男が庭に侵入します。
3日目の夜に玄関先までその闖入者を追いかけていったものの逃げられてしまった克也の前に猫丸先輩がひょっこり現れます。
そして、見知らぬ若者たち克也の庭にやってくる理由を解き明かします。
猫丸先輩の理路整然とした鮮やか推理が見事な秀作です。
この作品の収録作の中では、最もコミカルな味わいが控えめで、読み終えた後にちょっと素敵な気分になれる1編でした。


まさに副題(‟猫丸先輩の妄言”)どおりの妄言ともいえる猫丸先輩の推理の面白さを堪能できる1冊でした。
15年ぶりの短編集で、復活した猫丸先輩の今後の活躍が楽しみになりました。

 

 

表紙のイラストは、絵本作家でイラストレイターの早川世詩男さんです。
表題作「月下美人を待つ庭で」をイメージしたもののようで、月下美人の蕾とそれを見る黒猫が描かれています。
早川世詩男さんのウェブサイトページはこちらです。→https://www.gallery-h-maya.com/artists/hayakawayoshio/

 [2023年4月5日読了]

猫丸先輩シリーズ”のこれまでの作品を紹介したページは、次のとおりです。
第1作『日曜の夜は出たくない』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12443943350.html) 
第2作『過ぎ行く風はみどり色』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12486181627.html
第3作『幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12501131415.html
第4作『夜届く 猫丸先輩の推測』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12496815525.html
第5作『とむらい自動車 猫丸先輩の空論』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12503552168.html