「過ぎ行く風はみどり色」倉知淳 | ひいくんの読書日記

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ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

亡きに謝罪したいという引退した不動産業者方城兵馬の願いを叶えるため、長男直嗣が連れてきたのは霊媒でした。
インチキを暴こうとする超常現象研究者までが方城家を訪れて騒然とする中、密室状況下で兵馬が撲殺されてしまいます。
霊媒悪霊の仕業と主張、かくて行なわれた調伏のための降霊会で第二の惨劇が勃発します。
名探偵猫丸先輩が全ての謎を解き明かす、“猫丸先輩シリーズ”第2弾で、シリーズ唯一の長編です。 

物語は、語り手を務める方城成一が10年ぶりに家に帰るところからスタートします。
進路を巡って祖父兵馬と争い、家を飛び出して10年、成一は普通のサラリーマンになっていました。
祖父兵馬不動産業者で、一代で財産を気づき、世田谷の大きな屋敷に、成一兵馬長女多喜枝とその勝行成一美亜兵馬次女佐枝子住み込みの家政婦清里フミと共に暮らしていました。
ところが、成一のところに多喜枝から、最近、兵馬の様子がおかしいので帰ってきてほしいとの電話があります。
亡きに謝罪したいという兵馬の願いを兼ねえるために、直嗣が連れてきた霊能者兵馬が心酔し、それを胡散臭く思った多喜枝超心理学研究者を呼び、騒ぎとなっているとのことでした。

成一が実家に戻ってみると、2組の客がいました。
一組は叔父直嗣霊媒師穴山慈雲斎、もう一組は超心理学研究研究者正径大学心理学科助手神代知也大内山渉でした。
その夕刻、まず慈雲斎が帰り、その後に神代大内山も帰った後で、兵馬が隠居生活を送っていた離れで殺されます。
事件発生当時、離れ離れの入り口以外からの出入りはできず、離れの入り口の出入りは成一直嗣によって偶然にも見張られていたので、事件は密室状態での殺人ということになります。

その数日後、警察の捜査が進展を見せない中、祖父が死んだばかりというのに、叔父直嗣の音頭で降霊会が開かれることになり、慈雲斎直嗣多喜枝勝行成一美亜佐枝子神代大内山が参加します。
そして、密室状態かつ参加者の行動が制限された降霊会の場で、再び殺人が発生してしまいます。

成一が、学生時代の先輩で、30歳過ぎにもかかわらず何の仕事をしているのかもわからず、面白そうなことになら何でも首を突っ込みたがる猫丸先輩にこの話をすると、案の定、遺族である成一の気持ちを気にすることもなく、面白がって推理を始めます。

物語は、成一が語り手を務めるパートと佐枝子が語り手を務めるパートが交互に登場する形で進行します。
この佐枝子が語り手を務めるパートは、佐枝子神代に対するほのかな恋心を語る部分と、自分自身、そして方城家と、フミの過去を語る部分の大きく二つの分けられます。
物語の背景を描いているものと思って読んでいましたが、ここに大きな作者の企みが潜んでいました。
この企みトリックの融合が見事で、このことがこの作品を上質なミステリにしています。

事件は、衝撃的ともいえる結末を迎えますが、その後の方城家の人たちの様子や、猫丸先輩成一の会話などが描かれる後日譚の「終章」は、タイトルどおり“みどり色の風”が吹き抜けたかのような爽やかさが感じられました。
読み終わった後に優しい気持ちになれる素敵な物語でした。

 


表紙のイラストは、創元推理文庫の新版で作者の作品のイラストを描いているイラストレイター伊藤彰剛さんです。
描かれているのは猫丸先輩でしょうか???
伊藤彰剛さんのツィッターはこちらです。→http://www.akitakaito.com/

[2019年6月22日読了]

現在までに刊行されている“猫丸先輩シリーズ”は、次のとおりです。
第1作『日曜の夜は出たくない』(1994年)〔http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190302.html〕 
第2作『過ぎ行く風はみどり色』(1995年)
第3作『幻獣遁走曲』(1999年)
第4作『猫丸先輩の推測』[改題『夜届く』](2002年)
第5作『猫丸先輩の空論』(2005年)