副題は、“猫丸先輩のアルバイト探偵ノート”。
いっぷう変わったアルバイトに明け暮れる名探偵・猫丸先輩が遭遇した5つの事件を、持ち前の観察力で解き明かす“猫丸先輩シリーズ”第3弾です。
5編の短編が収録された連作短編集です。
「猫の日の事件」
「寝ていてください」
「幻獣遁走曲」
「たたかえ、よりきり仮面」
「トレジャーハント・トラップ・トリック」
この作品で、すっかり中年フリーターという感じになった猫丸先輩は、猫コンテスト会場の警備員(「猫の日の事件」)、臨床試験の被験者(「寝ていてください」)、珍獣アカマダラタガマモドキの捜索隊員(「幻獣遁走曲」)、戦隊ショーの怪人役(「たたかえ、よりきり仮面」)、松茸狩りの案内人(「トレジャーハント・トラップ・トリック」)と、各話でバラエティに富んだというか、かなり変わったアルバイトに従事しています。
そして、それぞれのアルバイト現場でちょっとした事件に巻き込まれた猫丸先輩は、卓越した洞察力と観察力で事件の謎を鮮やかに(?)解き明かします。
謎自体は“日常の謎”に分類されると思いますが、猫丸先輩の一風変わったアルバイト現場という非日常空間が事件発生の舞台なので、作者は巻末の「新版刊行に寄せて」の中で“非日常の謎”と呼んでいます。
私のお気に入りは、「たたかえ、よりきり仮面」です。
猫丸先輩は、スーパーマルエー北船橋店の屋上で夏休みに開催されている観客のほとんどいないキャラクターショーでアルバイトをしています。
主演者は、主人公のヒーロー・よりきり仮面と、敵役の怪人・ビートデビル、その手下の2人の戦闘クローン人間、怪人に捕まるヒロインの5人です。
よりきり仮面を演じる二ノ宮と戦闘クローン人間を演じる横田と馬場の3人はアクションスター専門のプロダクションの若手、ヒロイン役でこのショーの司会も担当する夏樹は短大を出たばかりの司会者の卵、そして、怪人役が猫丸先輩です。
和気あいあいの5人は暑さに負けそうになりながらも、楽しくショーの仕事をしていますが、ショーの休憩中にヒーロー役への悪質ないたずらが発生します。
キャラクターショーの舞台裏と、ヒーローの存在を信じる子どものヒーローへの思いが見事に描かれます。
猫丸先輩の優しい謎解きが明らかにした意外な真相がさわやか余韻を残します。
このシリーズでは、猫丸先輩の謎解きの根拠は読者にも同じように提示されます。
したがって、読者は猫丸先輩と同じ結論を導き出すことも可能なはずですが、猫丸先輩の発想があまりに独創的なため、読者は猫丸先輩の語る意外な真相に唖然とさせられてしまいます。
猫丸先輩の魅力満載の一冊でした。
幻獣遁走曲【新版】 (創元推理文庫)
907円
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表紙のイラストは、創元推理文庫の新版で作者の作品のイラストを描いているイラストレイターの伊藤彰剛さんです。
今回も、なぜミミズクなのか、私にはわかりません!
伊藤彰剛さんのツィッターはこちらです。→http://www.akitakaito.com/
[2019年7月26日読了]
現在までに刊行されている“猫丸先輩シリーズ”は、次のとおりです。
第1作『日曜の夜は出たくない』(1994年)〔http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190302.html〕
第2作『過ぎ行く風はみどり色』(1995年)〔http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190625.html〕
第3作『幻獣遁走曲』(1999年)
第4作『夜届く』[『猫丸先輩の推測』から改題](2002年)〔http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20190722.html〕
第5作『猫丸先輩の空論』(2005年)